天秤の魔女   作:うにちゃん

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第十一話 新たな始まり

 

 フリルを筆頭とした西の魔女達の体制は一夜にして崩れ去った。純粋にフリルを慕っていた者、フリルと同じくメルに操られ、魔女のみならず村や街を襲わされていた者。その全員が平穏を取り戻した訳では無い。善悪はどうあれ、今まで自分達を導いていた存在が思わぬ形で去れば、混乱が訪れるのは当然だった。

 

「あたし、ホントにこんなことしてていいの…?」

 

 当のフリルは至れり尽くせりだった。ミラと一緒に作ったプラムの砂糖煮を頬張り、プロトからの差し入れである高級ジュースを瓶ごと飲みながら、あながち満更でもなさそうにフリルは言う。

 

「いいんですよー! フリル様の作った砂糖煮、すっごく美味しいです!」

 

「え、えへへ…ありがとぉ、ミラちゃん」

 

 ミラの太陽のような底抜けの明るさに当てられたフリルは、ここ数日間で顔の筋肉が攣るくらい笑ったらしい。私はそんな2人の様子を見ながら、ひとまずフリルのことはミラに任せていた。

 

 西の魔女達にはプロトと共に説明しに行かなければならない。プロトを連れていくのは保険だ。何かあった時、やはり一番冷静で頼りになるのはプロトだろう。自分達をまとめる魔女が死にました(しかも私達が殺しました)なんて言って、そうですかと素直に受け取る人の方が少ないはずだ。恨みを買ったって何らおかしくない。

 

「フリル、私にも一口」

 

「はい、おねぇちゃん…あーん」

 

「あちょっと、ずるいです! 私が魔女様にあーんを…」

 

「…誰も食べさせろなんて言ってない。自分で食べれるよ」

 

 しかし、錠前の魔女が死んだとなると、今のフリルは何の魔女になるのだろうか。実際四権の魔女のうちの1人はフリルではなくメルだった訳で、今はその席が1つ空いてしまっている。かと言って、フリルとて決して弱い魔女ではない。結界や防護魔法においては随一の精度を誇るし、知識も多い。いつまでも私の元でだらだらと過ごし続ける訳でもないだろう。そのうち本当の西の魔女としてまた西の地へ戻る日も来るかもしれない。本人にはまだこの先の展望について聞いていないから、実際の所はわからないけど。

 

 ガタン、と玄関の方から音がして振り向くと、新聞が一部、郵便受けから滑り落ちて床へと叩きつけられていた。私はそれを拾い上げると、間に挟まっている広告チラシをかなぐり捨て、さっそく本誌へと目を通す。

 

「アルタが新聞に載ってる…まだ革命派叩きとかやってたんだ…」

 

 あれからというもの、アルタは一時的に結んだプロトとの協定から脱し、また1人で各地を暴れ回り好き勝手しているようだった。プロトはアルタを利用して革命派を誘導しようとしていたようだが、アルタはメルの件に巻き込まれたことで、プロトと行動しても面白みがないと判断したようだ。

 

「やっぱ鈍感女について行っても面白くないわ。アタシやーめた! ま、機会があればまた会いましょ」

 

 アルタがメルの元を去る時に発した言葉が何故かフラッシュバックした。本当にあの人は竹を割ったような性格をしている。アルタの中の基準は、面白いか面白くないかの2つだけだ。

 

「(もぐもぐ…)アルタ様は、よくわからないお方ですからね。この間お会いした時も、私てっきり攻撃されちゃうかと思いました」

 

「(もぐもぐ…)…うん。アルタちゃんはさ、ホントは優しい子なんだよねぇ。…あっこのドーナツおいしい」

 

「ミラ、フリル。あんたたち、ちょっと食べ過ぎじゃない? 私のお金で買ったんだから、ちょっとは遠慮してよね」

 

 ミラとフリルは何か食べていないと落ち着かないとでも言いたげに、もりもりと食材を消費しながら延々と駄弁っている。フリルはメルの元にいた際、ろくな食事すら摂っていなかったと言っていたからまだ許せるが、ミラは毎日私の元で十分な量の食事をしているはずだから、無性に腹が立ってくる。

 

 そんな時、ふとある記事が目に留まった。私はその記事に隅から隅までくまなく目を通し、読み終わるとすぐに、いつまでももくもくと食事を続けるミラとアルタの頭を一発ずつ軽く叩いた。

 

「ちょっと出かけるよ」

 

 私が言うとミラとフリルは慌てて支度を初めた。机に広げていたジュースやドーナツを物凄い勢いで片付け、部屋着から急いでローブへと着替えると、私の後を追って家を出た。

 

 

 

———————————————————————

 

 

 

「くそっ、なんだこいつは!」

 

「き、気持ちわりぃ! まるで分裂したように…」

 

「あっはは! やっぱこれよこれ、アタシはこれが好きで魔女やってるってもんよ!」

 

 革命派の奴らを固有魔法で驚かせ、動揺しているところを叩く。アタシの好きな魔女の権威を脅かす奴らは、やっぱこうでもしとかないと。

 

 それに、何も楽しいだけでやっているわけではない。アタシがこいつらを叩くことには、ちゃんとアタシなりに理由がある。

 

 革命派は、元を辿れば『男魔連』という男性魔法使い達のコミュニティが派生したものだ。そいつらは、生まれつきの魔力量が多い魔女達の存在をいつからか疎み始め、無差別に魔女達を攻撃したり、あることないことを街中で吹聴し、魔女の社会的権限を貶めようとし始めた。

 

 魔女達も決して黙ってはいない。いないのだが、魔法使いを過剰に敵視し、警戒している魔女というのは少ないのが実情だ。魔法使いは、魔女に比べて魔力総量が少ない者が多い。その為使用できる魔法も限られるし、単純な力比べで魔女に勝てる者はほとんどいないからだ。だからこそ、革命派は放っておいても大丈夫と考える魔女がほとんどだった。

 

 が、アタシは違う。アタシの考えはこうだ。

 

 まず、革命派にも必ずそいつらを束ねるトップがいるはずだ。そいつを探し出して叩けば、一時的に革命派の動きは止まる。革命派の内部には混乱が生じるだろう。今回、メルとかいう奴が死んだ時、西側の魔女達の混乱した様子を見ていると、それは明らかだ。いくらアタシだって、革命派を全員殺すとか、そんな野暮なことはしたくない。あくまで機能停止にして、そのまま自然と解体させたいのだ。

 

 東西南北の魔女達は、本来争いを経て領土を拡大していった。そもそも四方に魔女が散らばった理由は、大昔に4人の魔女達が凌ぎを削り合った結果の妥協案だ。その領土が今まで引き継がれているに過ぎない。今のこの状況、言うなれば、東西南北の魔女達(今は西の魔女は不在なワケだけど)が仲良くしていることこそが異常なだけである。

 

 アタシとて、今更プロトやセーラと戦ってまで領土を広げたいかと言うと別にそうじゃない。西の魔女が陥落したとなれば、もしかするともう今後西の魔女は現れずに、その土地を今居る私達で分け合うことになるかもしれない。だけど歴史は繰り返すだろう。恐らく新たな勢力が現れて、西の地を奪いに来ると私は予想している。

 

「…ま、それはそれとして、弱いヤツらをこてんぱんにするのは楽しいけどね」

 

 だからあくまで革命派を解体させてはいけない。アタシのストレス発散でもあるし、こいつらを上手いことけしかけて、触発された魔女達が上手いこと西の魔女として成り上がってくれれば、アタシはそれだけでいい。

 

「ま、上手く行くかどうかは知らないけど」

 

 アタシの魔法でくたばった数十人ほどの魔法使い共を横目に、アタシは西の街へとホウキを飛ばし始めた。

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