フリルの転移魔法で移動した私達は、優雅にティータイムを嗜んでいるプロトの元へと、いきなりお邪魔してしまう形となった。
「あなたたちは、本当に毎日こんな感じなの? 何かにつけてバタバタバタバタと…忙しい人達だね」
「いやあ、面目ない。というか、急ぎの件なんだ。この新聞見てよ」
プロトはいきなり押しかけてきた私達をあしらいつつも、私が新聞を広げるとこちらへと近付いてくる。
「アルタのこと? あの子はもう放っておいても…」
「そうじゃなくて、ここ」
私は今朝の新聞を広げて、とある記事に指を差しプロトに説明する。プロトははじめ静かに記された文字を目で追っていたが、読み終えると目を見開きゆっくりとこちらを向いた。
「…どうしてこのことが?」
「わからないけど、ともかく私達は急いで行動しなきゃならないことだけは確かだね」
新聞に記されていたのは、西の魔女の死を伝えるものだった。無論各地の魔女の元にいる者達にとっては当たり前のことだ。だが、これが一般人にも広く読まれる新聞に記載されるにはいささか早すぎる。あの場には私達しかいなかったはずだし、魔女達は基本俗世との接触を好まないから、それを知った者がその事実を記者に伝えたとも考えられない。
「…内通者?」
「まさか」
プロトはしばらく唸りながら考え込んでいた。プロトの言う通り、内通者がいるという線も確かにある。だとすればそれはアルタの線が濃いだろう。だからと言って私達に不利益があるわけでもないし、アルタがわざわざそんなことをするとも考えられない。だが一般人に広く事実が知れ渡るとなれば、革命派の耳にもその情報は入る。その隙を突いて革命派の動きは激しくなるだろう。
革命派?
「…ねぇ。そのまさかかな」
「うん…そのまさかかもね」
1つの結論に辿り着いた私とプロトは、顔を見合わせて大きく溜め息をついた。
「やれやれ…また私達はアルタに踊らされなきゃいけないんだね」
プロトはグラスに注いだジュースを飲み干すと、いつもより少し強めにグラスを机に置いた。アルタと組んだ協定を早々に破棄されたこともあり、プロトはアルタという名前を聞くだけで鳥肌が立つほど嫌気が差すらしい。
私とプロトは立ち上がると、プロトが転移魔法の準備をする。ミラとフリルもプロトの元へ近寄ると、私達は西の街へと転移を始めた。
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「やっぱり思った通りね」
西の街リーフに来てみると、そこら中を革命派と思われる奴らがうろついていた。粗方西の魔女の死を知った奴らが、その混乱に乗じて西側へと攻撃をしに来たといったところだろう。まあもちろんその情報もアタシが流したワケだから、大方予想通りと言えば予想通り。こいつらは所詮アタシの手のひらで踊らされているに過ぎない。
こいつらにとって魔女は邪悪な存在だ。こいつらが今始めようとしているのは正に魔女狩り。だがその前に、こいつらを全員叩いてしまえばいい話。自分が始めたからには自分で収拾を付けるのが筋。誰にも頼らないのがアタシ、車輪の魔女流のやり方だ。
「しっかし、こんな街中で大暴れってわけにもいかないわね」
リーフの街並みは入り組んでいる。そのどこに革命派の連中がいるかもわからないし、もしかしたら既にこの街を抜け、魔女達の本拠地へと向かった奴らもいるかもしれない。全員を1人ずつ叩いていくのは私1人じゃとても困難だし、広範囲への攻撃も憚られる。
ともすれば、やはりこの魔法を使うしかない。こういう時にこそ使えるアタシの固有魔法。昨日も使ってしまったからかなり魔力を消耗してしまうが、だからと言って使わなければ埒が明かない。
「はぁ〜。帰ったら1日睡眠コースね」
しばらく目を閉じて、体内に魔力を集中させる。そうしてアタシは杖の先に思いっきり力を込めて、固有魔法を展開した。
『車輪の如き軍勢〈イコール・ホイール・アーミー〉』
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「うわあ、やっぱりここにも革命派が…」
「みんな情報が早いね、今朝のことだと言うのに」
西の街、リーフへ来た私達は、そこら中をうろついている革命派達を見ながら溜め息をついていた。魔女だとバレないよう変装し、しばらく街中を歩く。革命派だと思われる人物とすれ違う度に冷や汗が出て、心臓が高鳴る。実力としては大した相手ではないが数が数だ。私達4人で相手するには少々荷が重い。
リーフは、西の魔女達御用達の場所だ。身分を隠し、買い物や食事をしに来る魔女達もたくさんいる。おそらく今ここにいる革命派達は、そういう魔女を狙って攻撃を仕掛けようとしているのだろう。西の地を統括する魔女がいない今、それは絶好のチャンスだった。
「私達も、迂闊に店には入れないね」
「そうだね。それに私はもう、どんな店にも入りたくない」
プロトは北の街でメルに捕まった時のことが余程トラウマらしい。身震いしながらその細い腕を必死にさすっていた。プロトほどの魔女ともなればそこまでの警戒は不要だろうが、目当ての本を手に入れられなかった(しかも後々聞けば、その本は私が持っていたものだったらしい)ことのショックも大きかったようだ。プロトの弟子であるロイズが、最近プロトが宅配ばかりに頼って家から出ないということを嘆いていたのを思い出す。
そうして入り組んだ街並みをしばらく歩いていた時、ふと見慣れた人物に出会った。それは私達の探していた人物でもあり、そして今回の問題を引き起こした張本人だった。
「あ! アルタ!」
「アルタ。あなたが情報を流して革命派を西に集めたんでしょ。勝手な行動をするのもいい加減にして」
だが、アルタはどこか上の空だった。視線は私達を真っ直ぐと見つめているのだが、真一文字に結んだ口をぴくりとも動かさず、その表情筋は凍ったように固まっている。普段のアルタからは想像出来ないほど静かだった。
「アルタ様…なんだか様子が変?」
「ア、アルタちゃん? みんなの迷惑になることは、辞めた方がいいよぉ」
「………」
ミラとフリルが声を掛けても、アルタは黙りこくったままこちらを見つめてくる。ミラの言う通り、アルタの様子がおかしいことは一目瞭然だ。アルタが一言も喋らないことなど、大地がひっくり返っても起こらないことだろう。
「アルタちゃん、どうしたのぉ〜」
フリルが泣きそうになりながら、めげずにアルタに話しかける。だがアルタは何を思ったのか、いきなり杖を取り出して私達へ向かって攻撃を仕掛けてきた。
「魔女様、危ない!」
後ろからミラが咄嗟に出てきて、私達全員に防護魔法を展開する。私の方へと一直線に向かってきたアルタの魔法は、ミラの魔法に吸収されて消えていった。
「アルタ、お前何を考えてる!」
「………」
アルタは相変わらず気持ち悪いほど黙ったまま、私達を見据えている。一体アルタの身に何が起こっているかは分からないが、今は話が通じる状態ではなさそうなことは確かだった。
「…頭を思いっきりぶつければ、治るのかな?」
珍しくプロトが感情を露わにして杖を取り出した。その溢れ出る魔力は凄まじい気迫となり空気を震わせる。
『不動の石版』
マズい、と思った瞬間には既にアルタは私達共々、プロトの魔法によって身動きが封じられていた。