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「あら? アタシの軍勢がやられるなんて、大した奴もいたもんね」
軍勢のうちの1つの気配がなくなるのを察知する。それはリーフの方角だった。街中であれと戦って生還するとはかなりの手練だろう。アタシは今街から出て、各々の魔女の拠点へと向かう革命派達を次々となぎ倒している最中だから、時間稼ぎになったとでも思っておこう。
「くそっ、なんで南の魔女がこんなところに!」
「アタシはどこにでもいるわよ」
下っ端であろう革命派の連中のヤワな攻撃を打ち消して、倍にして返してやる。大抵の奴はこれで一撃だ。
「ぐあっ!」
「あっはは、いい顔するじゃない! けど、あんたらに構ってる暇はないのよ」
ひとまず目の前の奴らを一層しながら、私は森の方へと向かう。それは今まで、フリルやメルが拠点としていた方角だ。あの場所はもしかすると、既に革命派やその親玉やらが拠点として目星を付けているかもしれない。もしそうなら、そいつらを叩けばアタシの目標は一気にゴールへと近付く。
しかし、連続で軍勢を出し続けているせいで魔力切れを起こしそうなのも事実だ。それぞれの軍勢は自立しているから、出してしまえばそれ以降維持するのに魔力消費はない。だが、無論自分とほぼ同じ魔力量の分身を数十数百と作り出すのは莫大な魔力を消費する。下っ端程度を相手取るには今の状態でも十分だが、親玉の素性も分からない今、無闇に突っ込んでも返り討ちに合うかもしれない。普通ならば、休息を取り魔力を回復してから行くのが妥当だろう。
だがそうも言っていられない。せっかく掴みかけた尻尾、このチャンスを逃せば次こいつらが固まって行動するタイミングは予測できない。つまり、このまま突撃するのがアタシにとっては得策!
「そうと決まれば、ブッ飛ばすわよ!」
森の奥まで来ると、さすがに人気が少なくなってきた。魔力の反応も、さらに奥の方から数人のそれを感じる程度だ。そこそこ大きめの反応を見るに、そいつらが親玉の可能性が高い。おそらくメルが拠点としていた場所もこの近くのはずだから、やはり予測通り拠点は革命派の連中がいると見てほぼ間違いないだろう。
「問題は…どうやって行くかよね」
所詮魔法使いとはいえ、あれだけの人数を束ねる者となれば、それなりの魔力は持ち合わせているはず。となれば、大して魔力の制限すらしていないアタシの存在にも既に気付いているだろう。だが、そんなことを考えている暇すらなかったようだった。魔力の反応があちらから近付いて来ることを確認し、身構える。
「そっちからお出ましとは、度胸あるわね」
魔力の反応がある方へを真っ直ぐ見据える。しばらくすると、ホウキに跨ってこちらへ飛んでくる人影を2つほど確認した。が、それはアタシが思っているヤツらではなかった。
「うわっ、南の魔女!?」
「ちょっと、フリル様じゃないじゃない!」
飛んできたのは2人の魔女だった。会話の内容を聞くに、恐らくフリルやメルの元に仕えてきた下っ端魔女。…まあ、下っ端とはいえこいつらは相当強い方だろう。恐らく、西の魔女の席が空いている今だと、その実力はトップだと言えるだろうし、アタシが感知した強い反応もこいつらのものだと思えば納得がいく。
「どうも、南の魔女よ。…そんな、おばけを見るような目で見るのをやめてもらえる?」
アタシのことを隅から隅まで舐め回すように見回してくるそいつらは、警戒は解かないままホウキから降り、杖を片手にこちらへと近付いてきた。
「アタシは革命派のバカどもの匂いを嗅ぎつけてここまで来ただけよ。あんたらの反応を見て、そのバカどもかと思ったから来てみたのに…がっかりだわ」
アタシが言うと、目の前の魔女達は顔を見合わせて何やら話したかと思うと、またこちらへと向き直る。
「そうでしたか。先程は、失礼な態度を取ってすみません。実は、フリル様が死んだという情報が既に出回っているらしく。私どもも、急遽元拠点周辺で見回りをしていたところなんです」
(ああ、この子達にとってはフリルが死んだことになってんのね。まぁ、メルは支配の魔法で自身についての記憶は残してないだろうから、当然といえば当然か。今それを伝えても面倒になるだけだし、アタシ面倒事キライだから黙っとくけど…その情報流したのアタシだってバレても困るし)
「ええ、アタシも見たわ。だからここまで来たの。ちなみに言っとくと、もう森の外までヤツらは来てるわよ。アイツら、行動だけは早いから」
アタシが言い終わるとほぼ同時に、2人の魔女はホウキに跨り森の外の方角へとその先端を既に向けていた。
「では、今すぐ阻止しなければ!」
「まあまあ、待ちなさいよ」
気が急いている2人を宥める。アタシがこんな役に回ることなどあまりないが、この際だからちょうどいい。人数は多いに越したことはない…がアタシのモットーだ。
「アタシも手伝うわ。それに、わざわざ行くより、ここに残って迎撃した方が、確実でしょ」
「そんな、ですが…」
「いいの。目的は一緒でしょ? 人数は、多ければ多いほどいいのよ」
狼狽える2人をよそに、魔力を集中させ、探知する。既に森の中まで入ってきている者もいる。そしてその後ろにも続々と反応は続く。
「防衛戦よ。第1ウェーブ、ってとこね」
緊張した面持ちの2人とは違って、これから始まるド派手な戦いを想像して、アタシはこれ以上なくワクワクしていた。
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「今頃、アルタは革命派とバチバチぶつかってる頃かな」
西日の差し込む窓際、優雅に香り立つ紅茶を、なるべく音を立てないよう啜りながらプロトを見る。プロトも同じようにティーカップを傾け(中に注がれているのはジュースだが)、クッキーを1つつまんだ後で私の問いに答えた。
「そうだね。まあ、アルタの"軍勢"なら目でもないと思うけど」
「けどさ」
私もプロトに倣ってクッキーをつまんでみると、あまりの美味しさに一瞬言葉を失った。後でどこで買ったのか聞こう、などと思いながらも続ける。
「あの子、魔力切れ起こさない? 魔力が切れると、魔女って…」
プロトは変わらずこちらを見つめている。まるで、その先を早く言ってみろとでも言わんばかりの眼光だった。
「…まあ、基本的には良くないとされてるじゃん?」
「またそうやって言葉を選ぶ」
プロトがちくりと刺してくる。
魔女…及び魔法使いの魔力切れ。これは稀に起こりうる出来事であり、できる限り起こしてはいけないとされることでもある。それ自体が即座に死に直結する、という訳でもないのだが、通常魔力というのは普段の食事や睡眠などで養うものであり、多く魔力を消費した分だけ休息を必要とするのが基本だ。アルタほどの魔力量や魔法練度のある魔女であれば、回復するのにはそれだけでかなり苦労するはずだ。自分のコピーを数百体と作り出す"軍勢"を使おうものなら、尚更。
そうして魔力切れに陥った魔女は、その魔力を回復しようとする反応が真っ先に起こる。まず並の魔女であれば、耐え難いほどの眠気に襲われたり、空腹で1歩も動けなくなったり。もし帰還できたとしても、睡眠を取ろうと眠りに就き、そのまま数日…最悪数ヶ月もの間昏睡してしまう例などもある。とにかく限界まで魔法を使うことには、それなりのリスクが付き纏う。
「最悪、あの子死ぬのよ」
「そ、それは最悪の話でしょ!」
「でも事実だよ」
そもそも、敵対関係である南の魔女の心配を私がしているのもおかしい話だ。だけど西に続き、南の魔女の席まで空いてしまったら。そうなると、恐らく私達も無害では済まないはずだ。魔女自体の体制が崩れ去り、魔女が居なくなるか、もしくは私とプロトが各方面を治めなければならないかの2択だ。後者は最悪の自体こそ逃れるものの、私達に掛かる負担は非常に大きくなる。次に西や南を治める魔女が出てくる保証もない…恐らく、今私たちの後ろでちょこんと座って話を聞いているミラやロイズなど、四権直属の見習い達、もしくは今一度フリルがその席に着くことになるだろうが。
「…ふん。まあ、別にアルタのことを心配してる訳でもないけどさ。短期決戦型だから、比較的人数不利に弱いってだけで、れっきとした四権の魔女なんだし」
「ふ。…そうだね。心配には及ばないと思うよ」
プロトは何故か私のことを鼻で笑うと、ジュースを飲み干し席を立つ。
「私は元より心配なんかしていない」
プロトはそのままロイズの元へと歩いて行き、何か話した後にロイズはドアから外へと出て行き、プロトは部屋の掃除を始めた。
「ここ数日、来客が多いから埃が舞うんだ」
要するに、早く帰れというプロトからの言葉を受け取り、私とミラは顔を見合わせた後に転移の準備を始めた。