天秤の魔女   作:うにちゃん

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第十五話 西部拠点防衛戦

 

 魔力反応がどんどん近付いてくる。数にして10…いや、20人弱程といったところ。とても3人で相手をするような人数ではなかった。

 

「本当に、大丈夫でしょうか」

 

 アタシの隣に居る2人の魔女は、心配そうに辺りを見回している。恐らくこの2人も、迫り来る魔力反応を探知し、そのあまりの数に戦々恐々としていた。

 

「実戦は初めてじゃないでしょ?」

 

「えぇ、まあ…。ですが、数える程くらいしか」

 

「なら大丈夫よ」

 

 この2人から感じる魔力もそれなりに大きい。恐らく下っ端魔女の中では、フリルやメルに次いで第一線で戦ってきた実力くらいはあるはずだ。いくら人数不利とはいえ、抑え込むことくらいは出来ると踏んでいた。

 

「さ、そろそろ来るわよ」

 

 魔力探知に集中するのをやめて、前を見据える。杖を構えて臨戦態勢を取り、魔法を唱える準備をした。隣にいた2人の魔女のうちの1人も、既に結界を展開する準備を始めている。もう1人はその前に位置取り、結界を貼る魔女の護衛をする形で杖を構えていた。

 

(なるほど…だから2人行動なのね)

 

 魔女の戦い方としては一般的である、サポートをする魔女と、攻撃を基本戦法とする魔女とのコンビ。アタシも基本は攻撃専門だから、この結界は正直ありがたい。本当はフリルほどの結界に長けた魔女がいれば、もう少し好きなように動けるんだけど、それは望みすぎか。

 

「おい! こっちに魔女がいるぞ!」

 

「…っておい、あれ、南の魔女じゃないか?」

 

 男の声が聞こえるや否や、片割れの魔女が結界を展開した。薄暗い森の中はさらに薄暗く視認性が悪くなる。だが、魔力を探知できるアタシ達には特に関係なかった。

 

「さぁ、叩きまくるわよ!」

 

 アタシが先陣を切って、初めに声を上げた先頭2人の魔法使いに炎の魔法を放つ。それに倣って、その後続へと向けてアタシのすぐ横から魔法が放たれた。後ろでは、結界を展開しつつ適切なタイミングで防護魔法を展開する魔女の姿がある。

 

 あっという間に5人ほどの魔法使いをなぎ倒す。だが、後続からどんどんと湧き出るそいつらの勢いは留まることを知らない。初めに探知したよりも遥かに数が多いそれは、40人はゆうに超えるだろうという程の規模だった。

 

「くそっ、なんで南の魔女がこんなところに…」

 

「そのセリフ、聞き飽きたってのっ!」

 

 どいつもこいつも、口を揃えてどうしてどうしてと、人のことをなんだと思ってんの。腹が立ったアタシは、広範囲に細かな氷の粒を飛ばすと、その粒は魔法使い達の顔面目掛けて飛んでいき、視界を失った魔法使い達は次々と墜落して行く。

 

「あーあー。ホウキから落ちちゃうなんて、初心者かしら」

 

「アルタさん、後ろからも来ています!」

 

 後ろで結界を張りながら待機している魔女から声が掛かる。正に四方八方、アタシ達は囲まれていることになる。だけど、そろそろ。

 

「ったく、時間稼ぎってのもラクじゃないわね」

 

「アルタさん、まさか手抜きしてないでしょうね」

 

「うっさいわね、疲れてんのよ。それに、もうそろそろ終わらせるから」

 

 多方面からぞろぞろと集まる革命派達を見ながら、アタシはあえて攻撃の手を止める。隣の魔女はアタシを見て絶望したような顔をしつつ文句を言いながらも、攻撃するのを止めていた。

 

「あの、本当に大丈夫なんですよね」

 

「大丈夫じゃない? 演出があった方が、あいつらも楽しめるでしょ」

 

「南の魔女が攻撃を止めたぞ! 畳み掛けろ!」

 

 数を増した革命派達は、凄まじい団結力で野太い雄叫びを上げながらこちらへ猛進してくる。革命派達との距離はおよそ人1人分、まさに四面楚歌。隣に居る魔女が堪らず杖を振り翳そうとした時、それは現れた。

 

 革命派達と、アタシ達との距離はそれ以上縮まることはなかった。革命派達は、現れた"何か"に襟元を捕まれ、ホウキを手放し宙ぶらりんになっていた。

 

「遅いじゃない、アタシの可愛い子達」

 

 目の前にいるのは、革命派よりも遥かに数が多い、自分の写し。『車輪の如き軍勢』によって作り出した、アタシ自身のコピーだった。

 

「お、おい! なんなんだ、これ!? 南の魔女がが1、2、3…一体何人いるんだ!?」

 

「落ち着け! 魔法で対処するんだ!」

 

 革命派達は、アタシ達が直接手を下さなくとも既に混乱に陥っていた。ある者は杖を落とし戦意喪失、ある者は「南の魔女が1000人いる!」とかほざきながら失神。まともに戦えるヤツはもう1人たりとも残っていなかった。

 

「ほら、何とかなったでしょ」

 

「ああ、ハイ…。そうですね」

 

 隣に居た魔女は、感心しているような、呆れたような、半ば放心状態で答えた。軍勢を見た瞬間そいつも杖を仕舞って、後ろに居た魔女は結界を解いた。

 

 アタシ達は1番先頭に居た魔法使いに声を掛ける。そいつは、"軍勢"に捕まれもがきながらも魔法を放とうとしていたが、杖を奪ってやるとそれ以上は抵抗しなかった。

 

「教えなさい。アンタらの親玉はどこにいるの」

 

「…教えろと言われて教える訳が無いだろう。もっとも、教えたところでボスに勝てるとは思えないが」

 

「フーン…ま、いいわ」

 

 目の前の男は、真っ黒なローブの目深に被ったフードの中から怪訝そうな目でこちらを見ている。アタシは杖を取り出して、その男の鼻先に突きつけた。

 

「1人ひとり、順番に潰すだけだから」

 

 杖の先に魔力を込める。杖の先は光り、男は声にならない悲鳴を上げながら命乞いをする。だが、いざ魔法を放とうと思ったその時、隣の魔女がアタシの腕を掴んで詠唱を阻止した。

 

「あまり犠牲を出さない方が…」

 

「………そう」

 

 そう言われて杖を下ろすと、男は安堵した様子を見せたと同時に、これ以上の抵抗は無駄だと感じたのか、こいつらがここに来た理由とその目的、更にはボスについての情報をも事細かに話し始めた。

 

 

 

「それじゃ、アタシは帰るわよ。アンタらなら何とかなると思うわ」

 

 何十人といた革命派達を拠点の外へと見送り、メルとかいうヤツがろくに掃除していなかったせいで埃まみれだった拠点内部を軽く清掃した後に、2人の魔女へと別れを告げる。

 

「あの、ありがとうございました。だけどなぜ、南の魔女であるあなたが、私達に加勢してくれたんですか?」

 

 片割れの魔女…アタシと共に革命派への攻撃に加担していた魔女は、不思議そうにアタシを見つめながら問う。

 

「んー。まあそうねえ」

 

 別に答えは決まっているんだけど、こいつらに言う義理もないし。 それにまだ、伝えても混乱を生む事柄もある。ひとまず革命派との一件が終わるまでは、こいつらには引き続きこの拠点を守ってもらえればそれでいい。

 

「めんどくさいからよ。西の席が空くのも困ることがいろいろあんの。アンタらだって、いきなり西の魔女がいなくなって大変だろうし」

 

 適当にお茶を濁したつもりだけど、そいつらはまた怪訝そうな目でアタシをジロジロ見てきた。経験上、多分こいつらはアタシの話を信じていないだろう。だけど、現状アタシから言えることもこれ以上はない。

 

「ま、そういうことだから。頑張ってね〜」

 

 ここから自分の拠点まではまあまあの距離がある。魔力も相当使って疲労困憊だし、早いとこ家に帰って休みたいのも本音だ。

 

 ホウキに乗って飛び立つ間際、ありがとうございましたと改めて2人の魔女から声が掛かった。適当に手を振り返しながら、拠点の方角へと飛び立つ。革命派のボスについての情報も聞き出せたし、まあ今日はこんなところだろう。収穫は多かった。

 

「…転移魔法、覚えようかしら」

 

 そう思うくらいには、移動が億劫だった。

 

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