天秤の魔女   作:うにちゃん

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第三話 魔法都市エクナブ

 

「ちょっとちょっと、そんなに警戒しないでくれる? …アタシ、なんか酷いことしたかしら」

 

 目の前にいる赤髪の魔女、『車輪』のアルタは、その口角を上げ、獣のようにギザギザとした歯をあらわにしながら私達に問いかけてくる。そう、不敵な笑みに見えるこの彼女の表情は、生まれつきのものだった。

 

「別に私には関係ないけど、プロトはあんたが暴れてるって言ってたから、こっちも警戒するってもんでしょ」

 

「はは、なるほどね」

 

 アルタはやれやれ、とわざとらしくジェスチャーをする。ひとまず先の着地で家を1つ壊してしまったことを謝りつつも、アルタは続ける。

 

「アタシだって、出来ることならしたくないわよ。けど世界情勢は魔女の存在を疎ましく思ってる。私達魔女の尊厳が奪われるのは勘弁よ」

 

 アルタはその長いローブに付いた土埃を叩き落とすと、またホウキに跨り飛び立とうとしていた。

 

「アタシからはそんだけ。戦ってあげたっていいけど、今はアタシ達が争ってる場合じゃないわ。アタシはただ、村や街の革命派達を潰して回ってるだけよ」

 

 アルタの言う通り、昨今の情勢は魔女を排除しようとする動きが強い。人には生まれつき微量ながらも魔力が備わっている。これは個人差であり、ほぼゼロの人もいるし、元から多くの魔力を持つ者もいる。そしてその魔力は当然、訓練をすることである程度は増強できる。

 

 だが、問題はその性差だった。近年の研究でも解明されていないのだが、なぜか女性の方が、生まれつきの魔力も、訓練によって増強できる魔力総量も、多い傾向にあるのだ。

 

 その為村や街に点在する『革命派』なる者達(そのメンバーのほとんどは、男性の魔法使いである)が現在勢力を拡大し、魔女達の勢力を削ろうと躍起になっているのである。アルタは、それを危惧していたからこそ、村や街を襲ったのだと言う。

 

「アルタ、私はあまり乱暴なやり方は歓迎しない。やりすぎると目をつけられるばかりだぞ」

 

 アルタは私に背を向けたまま、聞く耳を持たないといった風だった。彼女はホウキに跨り、そのままどこかへ飛び立とうとしている。

 

「だけど忠告ありがとう! くれぐれも気をつけて!」

 

 言い終わる頃にはアルタは飛び立っていた。だが私の声は聞こえていたらしい。背を向けたまま、手をひらひらと振りそのまま空の彼方へと消えていった。

 

「び、びっくりしたぁ…」

 

 アルタの姿が見えなくなると、ミラはその場にへたりこんでしまった。足はがくがくと震え立つこともままならず、仕方が無いので肩を貸してやる。

 

「驚かせちゃったね。アルタは掴みどころのない奴なんだ。とりあえず私達に敵意がなくてよかったよ」

 

 ミラを連れて小屋へと戻る。ミラの手足はまだ震えていて、初めて出会うアルタの気迫に余程驚いていたのだろう。だがそれは私とて同じだ。立てなくなるほどではないが、それでもアルタが何もせず立ち去ったことに、酷く安堵していた。私はアルタの魔法の特性を知っているからなんとか対処できるが、問題はミラだ。2対1の状況でも、正面から戦えば確実にやられてしまうだろう。

 

「ミラ、アルタの言っていたことは覚えてる?」

 

「はい、えっと…革命派のことですか?」

 

「そう。私達のいる東の地はまだ、革命派の勢力は比較的少ないと言える。だから危険視していなかった。だが、南の魔女アルタともあろうものが、たかが魔法使いの集団程度にあれほど怯えているのも、妙だと思うんだ」

 

 事実、アルタは四権の魔女の中でも、プロトに次ぐ実力者だ。ただし、彼女が得意とする魔法のほとんどは攻撃魔法。転移や防護の魔法の練度は低く、移動もホウキで行うし、防御に至っては攻撃で打ち消すといった脳筋っぷりだ。

 

 だからこそ、アルタがそこまで革命派へ執着していることが私には不可解だ。アルタほどの実力があれば、そこまでの脅威でもないはずだろう。

 

「うーん。アルタ様は、魔女の尊厳が奪われるという話をしてましたね。もしかすると武力ではなくて、他の問題があるのかもしれません」

 

 ミラは顎に手を当て、うーんと考え込む様子を見せる。確かにミラの言う通りでもある。尊厳が失われるということは、この情勢に乗っかり武力で行使するのではなく、魔女の印象を悪くさせる何かが画策されているのかもしれない。ともかく、この目で確認しないとわからないことだということは確実だ。

 

「ともかく、一旦エクナブへ行こう。話はそれからだね」

 

 エクナブ…東の街ではかなり大きい街で、多くの魔法使いや魔女を排出する魔法都市だ。私がたまに赴く"王裁"も、このエクナブにある。私はミラの肩を叩いて、ホウキを手渡した。

 

「じゃ、運転よろしく」

 

「え、え? 私まだ乗ったことないですよ!」

 

 半ば強引にミラをホウキに跨らせ、私はその後ろへと座る。

 

「大丈夫、落ちないようにだけしてあげるから」

 

 かくして、ミラのスリル満点初飛行は唐突に始まった。

 

 

———————————————————————

 

 

 茂みに散々突っ込み、ボロボロになりながらもエクナブに着いた私とミラは、服に付いてしまった葉っぱや木の枝を入口ではたき落とし、街へと足を踏み入れる。

 

 エクナブは東のほぼ中心地。魔法都市というだけあって、魔法薬や魔法の杖の店などが立ち並ぶ商店街は多くの人で賑わっている。その商店会の近くにある魔法学校の前を通りすぎ、細い路地へと入ると、段々と人気がなくなってくる。細い十字路の一角に、目的地はあった。

 

「よし、ここで間違いない」

 

 地図と見比べて位置を確認する。そこは、私も昔使ったことのある小さな家だった。

 

「この家…ですか? なんか、普通の家ですけど」

 

「そうだね、家自体は普通の家だよ。だけどその昔、先輩魔女がかけてくれた強力な結界が貼ってあるんだ」

 

 私は過去のことを思い出し、半ば自慢げにミラにそう説明していた。だが扉を開けた瞬間待ち受けていた光景は、私の想像しているものとは全く違っていた。

 

 見知らぬ男性が3人ほど、椅子に座ってこちらを驚いた表情で見つめている。3人ともローブ姿であるところを見るに、そいつらは魔法使いのようで、しかも…。

 

「…革命派」

 

 私がそう呟くと、あちらも正気に戻ったらしく、こちらに杖を差し牽制してきた。

 

「お前、何者だ! どうやって結界を破った」

 

「何者って…私の名を知らんとは、魔法使いの風上にも置けないわね」

 

 なるほど、こいつらがアルタの言っていた革命派とかいう奴らか。私の名すら知らないくせに魔法使いを名乗り、魔女の権威や尊厳を脅かそうとするなんて、確かにめんどくさそうな奴らだ。そう認識した時には、私は反射的に彼らに向けて杖を構えていた。

 

「とりあえず、どっかいけ!」

 

 叫んで、杖の先に力を込める。3人の男は何やらもごもごと叫びながらも、私が生み出した次元の裂け目へと吸い込まれて行った。

 

「あわわわ…人が死んじゃった…」

 

「殺してないわよ、人聞きの悪い」

 

 口を抑えて慌てふためくミラを横目に、誰も居なくなった部屋を一通り見渡してみる。戸棚に飾ってあった写真などは処分されていたようだったが、家具やその配置などはそこまで変わらない。まだ入って日が経ってないようだ。

 

「はぁ…ほんと幸先悪いわね」

 

 ともかく、この街では精製した魔法薬を売り、お金を手に入れることから始めないといけない。私達はひとまず部屋を片付け、窓という窓を開け換気をして、椅子に座り今後の計画について話し合うことにした。

 

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