天秤の魔女   作:うにちゃん

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第四話 錠前の魔女

 

「ひい、ふう、みい…と。杖を買って、ローブも買って、それからそれから…」

 

 ミラを地下の練習場に閉じ込め魔法の特訓をさせている間、私は魔法薬を売ったお金を数え、これから買うものをリストアップしていた。それはミラに与えるための、"いかにも強そうな魔女に見せかけるための装備一式"のことだ。私達は基本2人で行動する。だが、ミラの見た目が今のままでは、まずミラの方が弱いと見られ集中的に狙われてしまう可能性がある。万が一だが、備えておいて損は無い。余ったお金は食糧にでも充てるつもりだった。

 

 そして私は、昨日の件をまた思い出していた。今私がいる家には、先代の東の魔女…つまり私の師匠がかけた、強力な結界があったはずだ。だが侵入していた革命派達が、私の魔法に為す術もなく飲み込まれて行った奴らが、とてもその結界を破れるような実力を持っているとも到底考えられない。革命派にも必ず、裏で手を引き全良な市民をも丸め込み、革命派へと引きずり込んでいる黒幕がいるに違いないと、私は踏んでいた。

 

 アルタはああ見えて賢い魔女だ。魔女達は本来、お互いの領土を奪い、争い合うことで権力を示してきた。だが時代は変わり情勢も変わった。アルタはその情勢をも鑑みて、まずは革命派を叩くことで自分の権力を示し、そして本来の領土争いに集中することを選んだのだろう。アルタの場合、恐らく後者の方が重要度が高いのだろうが、戦闘好きの彼女のことだ、その大好きな戦闘を行い事態が自分にとって好転するのであれば、彼女は迷うことなくその杖を振るう。そういう魔女だからだ。

 

 であれば私は…私達はどうする? ミラも実力を伸ばしてきているが、まだ1人で放置するには未熟だ。戦闘経験も少なく、内気でプレッシャーに弱い。それに、私も魔女の中では脅威的な存在とはとても言い難い。四権の魔女の中では間違いなく最下位ともいえる実力だ。ミラも私を信じ敬い、特訓にも付いてきてくれているが、私の元にいても、行き着く先はたかが知れている。となるとやはり、ミラはいっそ他の魔女の弟子になった方が…。

 

「魔女様?」

 

 頭を抱えていたところに後ろから不意に声が掛かり、私は咄嗟に振り返り、何を思ったのか反射的に魔法でその対象を攻撃してしまった。瞬間、自分が何をしてしまったのかを理解し、慌てて声の主であるミラのもとへ駆け寄る。

 

「…っと、びっくりした。魔女様、また考え事ですか?」

 

「あ、ああ…そう、そうなんだ。お金のことを考えていてね。それより、大丈夫だった? つい驚いて攻撃を…」

 

 私が言いかけると、ミラはん? と首を傾げて、ぱっと笑ったと思うと私の元へ近付いてきた。

 

「はい、大丈夫ですよ! この通り、咄嗟に防護魔法を展開することが出来たんです」

 

 ミラに言われて目を凝らしてみると、確かに薄いがしっかりとした魔力の膜のようなものが、ミラの周りを覆っている。私が驚いたのはその練度だ。基本的に防護魔法というのは、薄く、そして頑丈なことが大前提となる。そうすると、常時展開する際に魔力の消費を抑えられるし、あたかも展開していないように見せかけることで、敵を欺くこともできるからだ。私がここまで近付かなければ気が付かない程のものは、まさに完璧と言って差し支えない。

 

「…驚いた」

 

「驚いたのはこっちですよ! いきなり攻撃だなんて…どうせ変なこと考えてたんでしょ!」

 

「あはは、ごめんごめん。だけど、ミラの為にもなることなんだよ」

 

「違います」

 

 ミラは真剣な目で私を見つめると、そのまままっすぐ私を見据えて続ける。その刺してくるような視線に、私は一瞬たじろぐ。

 

「魔女様は、ホントは私が他の魔女様の所の弟子になった方がいいって思ってること、私は知ってるんです」

 

 核心を突かれて、思わず黙り込んでしまう。まさにミラの言う通りのことを考えていて、それ以上言うことがなかったからだ。

 

「私は自分で選択して、魔女様の…セーラ様の弟子になったんです。あなたに憧れて、あなたに付いて行くことを自ら決意して、ここまで来たんです。だから、私を信じてください」

 

 ミラがここまで自分の意思をはっきりと伝えて来たのは、弟子になったその日以来だった。その顔を見ると、その決意が決して嘘ではないことが分かる。

 

「…ごめん。ミラにそんなことを言わせてしまうなんて、やっぱり私はダメな師匠だね」

 

 私は椅子から立ち上がり、数えていたお金を乱雑に机から取り上げて麻袋へと詰め込む。ローブを羽織り杖を懐に仕舞うと、ミラの肩を叩いた。

 

「私もミラの期待に応えられるよう、師匠として頑張るよ。ひとまず、今日は久々に街へと繰り出そう、たくさん買うものがあるんだ」

 

「はい、魔女様!」

 

 ミラはいつものように元気よく返事をすると、先陣を切って入口から飛び出していく。私は慌てて着いて行く形で、街へと繰り出した。

 

 

———————————————————————

 

 

 取り急ぎ新しいローブと杖を買い、人気のない路地まで行くとそれをセーラに着せてやる。顔付きはイマイチパッとしないが、格好は私とほぼ変わらない。これでまず、見かけ次第襲われるということは無くなるだろう。

 

「このローブ、なんだかホコリ臭いです…」

 

「帰るまでの辛抱だよ。まだまだやることがあるんだ、あと数日でこの街をまた出るからね」

 

 この街には魔道具を売る商店がたくさんある。無論探せば良いものはいくらでもあったのだが、予算の都合上、私達は安いものを買うしかなかったのだ。その結果、あまり綺麗とは言えない、古臭い店でローブを買ってしまったので、ミラはそれが不服のようだった。

 

 エクナブで買い物を済ませある程度荷物を纏めたら、また次は別の街へと行かなければならない。そうして私達は街を点々としながら、北へ北へと移動をしていく予定になっている。私の使う転移魔法で移動出来る距離はたかが知れている。エクナブの裏手の森から今の家へと移動することくらいは可能だが、東の領土から北の領土へ一度に移動することは不可能だ。行ったことのない場所、もしくは行ったことがあっても、はっきりと想像出来ない場所への移動も出来ない為、こうしてこつこつと移動するしかないのだ。

 

 まずは北へ向かい、プロトに合わなければならない。アルタや革命派のことを伝え、説得して行動を共に出来れば、それほど心強いものもない。少なくとも、私が天秤の魔女として魔女達の均衡を保つ為には、それが最適だと私は考えるからだ。

 

 空が真っ赤に染まり、太陽が山の影へと隠れようとしている。余ったお金で保存食を買い込んだ私達は、家への帰路に着いていた。家に着く頃には既に周りは暗くなっており、私は気付かぬうちに日が短くなったことで季節の移り変わりを感じていた。

 

「よし、じゃあミラは先に入ってローブを洗濯してきな。私は結界を少し確認してくるから」

 

「わかりました!」

 

 ミラは元気良く返事をすると、ぱたぱたと忙しなく中へ入っていく。扉が閉まって空をもう一度見上げた。エクナブは夜でも明るい街だから、大通りでは星はほとんど見られない。だが、この薄暗い路地には街灯の光が届かず、綺麗な星空が一望出来るのだ。

 

 だが、妙なことに、今日は星が見えない。1つもだ。遠くの空まで見渡してみるが、見る限りでは雲すらも見当たらない。それどころか、空の色がどこまで行っても均一なことに、私は胸騒ぎにも似た違和感を覚えていた。何かがおかしい。

 

「ねぇねぇ、セーラちゃんっ」

 

 その時、私のちょうど直上の辺りから声が掛かる。それは、私が昔よく聞いた懐かしい声。そして、今は決して聞きたくもない、忌わしい声。見上げると、そこには想像していた通りの顔がある。柔らかくカールした鮮やかな金髪を、腰の辺りまで伸ばしっぱなしにした痩身の女性。西の魔女、『錠前』の名を持つ、フリルの姿がそこにはあった。

 

「やっぱり、セーラちゃんだぁ! 何してるの? こんな所でぇ」

 

「お前こそ、何しに来た」

 

 フリルは甲高い声でアハハ! と笑い飛ばすと、小馬鹿にしたようなにやけ顔で私のことを見つめてくる。

 

「怖い顔しないでよぉ。わたし、せっかくセーラちゃんと遊びに来たのにぃ」

 

 私は先程の空を思い出し、目の前にいるフリルと見比べて、ようやく合点が行った。この空は本当の空ではない。フリルが作り出した、空を模した精巧な結界だ。

 

「何が目的かは知らないが、力ずくでもここを去ってもらうぞ」

 

「えぇ〜。イジワルなこと言わないでよぉ」

 

 フリルはわざとらしく可愛子ぶってみせると、その眼光を更に鋭く光らせて、私を突き刺すような気迫で見つめながら、杖を取り出した。

 

「ね? おねぇちゃんっ」

 

 言いながらフリルが杖を振りかざす。話が通じないと理解した瞬間、私も懐から杖を取り出していた。

 

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