働き盛りの労働人口は軍にとられ、少年と年寄りが社会インフラを支える歪な社会構造。
そんな中にあって、「画期的な解決策」をある企業が自由惑星同盟上層部に持ち込んだというニュースが広まると、注目の的となった…。
「初めまして。私はオムニ社のリチャード・ジョーンズと申します。邪悪で暴虐な銀河帝国の横暴に対抗するために、多くの若者が戦地に駆り出され、結果として人手不足に陥った警察機構は大きく弱体化しています。今の警察力では治安維持には到底、力不足、役不足というしかありません。」
ジョーンズ社長の誤用に、皮肉屋のヤン・ウェンリーは反応してしまう。
「役不足とは能力があるのにふさわしい役を与えて貰えない、という意味で誉め言葉だけどね。」
「これは失礼しました。ヤン・ウェンリー様。話を戻します。我らオムニ社は警察には強力な助っ人が必要と判断しました。24時間フルタイムで働き、食事も、睡眠も必要ない。強力な火器で武装し、それを自在に操れる警官。自由惑星同盟の諸君!誇りをもって紹介させて頂きます。私の、わが社の開発した未来の警官、ED209!」
そう言うと、二足歩行の大型ロボットが扉から入ってくる。
駆動音を立て、威圧的な前傾姿勢を取り、両腕には火器が装着されている。
「今ご覧になっているED209シリーズは治安ロボットとして研究開発しました。現在は市街地用にプラグラムされていますが、これはほんの序の口。エル・ファシルでその能力を実証した後、次の世代を担う軍用ロボットとして209の改造を考えております。それでは実際にご覧いただきましょう。どなたか、犯人役をお願いできませんか?そう、そこの貴方。」
「わ。ワタシですか?!」
ジョーンズが指名したのは、アンドリュー・フォークだ。
たまたま目が合っただけなのだが、大勢の中から選ばれたと思い込んだフォークは、席を立つとジョーンズの傍まで歩く。
「それではこれより、ブラスターを持った犯人逮捕のデモンストレーションを行います。こちらを強盗らしく構えてください。」
手渡されたブラスターを、フォークはジョーンズに向ける。
「私に向けてどうするんですか。あちらです。」
この時点で、自由惑星同盟の軍人たちは「おや?」と疑念を抱く。
「警察補助のロボットでありながら、人にブラスターを向けた時点で反応しないのか?」
「キャゼルヌ先輩、もう少し様子を見ましょう。」
アレックス・キャゼルヌが思わず声を漏らすが、他の軍人も同意見だ。
果たしてこの時点で大丈夫なのか?と心配になる中。
フォークはブラスターをED209に向ける。
次の瞬間、ED209が反応する!
『武器を捨てなさい。20秒だけ猶予を与える。』
「言うとおりにした方が良いかと。」
ジョーンズ社長からそう言われ、フォークは顔を青ざめながらブラスターを放り投げる。
『グォオオオオッ。』
「ヒィッ!」
だがED209は肉食獣の咆哮を上げ、フォークは悲鳴を上げる。
ここにきて、後ろの技術者たちが慌てて機器の操作を開始する。ジョーンズ社長が信じられない、という反応をする。
『残り時間、15秒。君は刑法113条第九項に違反している。』
明らかに慌てている様子から、軍人だけでなく政治家たちも異常を察知し席から離れる。
そんな中、フォークは周囲を見渡し、助けを求めてロイヤル・サンフォード議長の方に向かうが、ED209の銃口がフォークの動きに合わせて動いたことを察知した二人のセキュリティは、問答無用でフォークをデモンストレーションの場へ突き飛ばす。
転倒し、完全におびえるフォークにED209が無慈悲にカウントダウンを宣告する。
『残り時間5秒。4秒、3秒、2秒、1秒。これより実力で脅威を排除する。』
とはいえ、これはデモンストレーション。実弾は入っていない。そう、そのはずだ。
そう思い込むアンドリュー・フォークに。
容赦なく実弾が撃ち込まれる!
一発だけでは無い。連続で実弾を撃ち込まれ、フォークの肉体が肉片へと変わっていく!
一通り銃撃を終えると、技術陣に配線を切られたED209は煙を上げ、ようやく動きを停止する。
「だ、誰か救急車を!」
「何故止まらなかったんだ!」
「おそらく、銃を捨てたのがコイツにはわからなかったかと…。」
「ああ、そんな…」
「見るな、見るんじゃない!」
地獄絵図の中、ロイヤル・サンフォードはジョーンズに顔を向ける。その顔は怒りと失望に染まっている。
「君には、君には失望したぞ。ジョーンズ社長!」
「お待ちください、ちょっとした故障です。すぐに直せます。」
「何…?ちょっとした、ちょっとした故障だと!死んだんだぞ!一人の未来ある軍人が!何故デモンストレーションで実弾を使った!説明しろ!」
もはやここに居ても出来ることはない。そう判断した他の政治家と軍人は次々と退出する。
ある者はトイレへ、ある者は外の空気を吸いに。
数日後。ヤン・ウェンリーはキャゼルヌ先輩に呼ばれ、会議室へ向かう。
「どうしたんですか?キャゼルヌ先輩?」
「…先日の、ED209の件だが。軍が購入する事になった。」
ヤン・ウェンリーは言葉を失った。理解が追いつかない。
「…理由を聞いても?」
「すでにスペアパーツを20年分作っており、軍が買わねば他の所に売り込むことを示唆してきた。憂国騎士団を始めとしたテロリストの手に渡ってしまうぐらいなら、軍で買い上げて管理した方がいいという事になった。」
「そんな予算があるなら、別の事に回せばいいのに。」
「全くだ。この後、デモンストレーションを行う事になっている。」
「では、実弾を抜く事をお勧めします。」
「もう抜いておいた。」
デモンストレーションの為に用意された市街地戦用のステージ。
そこで、シドニー・シトレ元帥はため息をついていた。
「シトレ元帥?!」
「キャゼルヌ中将。悪いが既に始めさせてもらった。」
「それは構いませんが…あれは?」
キャゼルヌとヤンが注目するのは、転倒してギィギィ言っている2体のED209だ。
「あれは段差で転んだ。」
「…は?だ、段差で?」
「こっちは、マンホールの穴に嵌って転倒した。」
ビュコックは大きくため息をついてぼやく。
「こんな物を帝国軍の前に出すわけにはいかんて。こんなものを軍が正式配備しているという事を知ったら帝国軍の連中、大喜びしてしまうだろうて。」
「この導入で、艦隊の新規建造予算が1.5%も削減されるのか…。」
ウランフが納得いかないという表情でそれに追従する中。
「なぁ、ヤン。お前ならこれをどうやって運用する?」
「…治安維持としてではなく、軍用にするべきかと。拠点防衛なら活用できます。火力は評価できるのであらかじめ配置しておき、そこへ敵を誘い込んで集中砲火するのが最適かと」
周りから視線を向けられながら、ヤン・ウェンリーは運用方法を考える。
こういうハードウェアに頼り切った兵器は嫌いだが、使えというなら使わざるを得ない。
少なくとも、艦隊の1.5%分の活躍はしてもらわねば。
というわけで、もしも銀英伝世界の自由惑星同盟にオムニ社があり、ED209を売り込んだら?というIFストーリーでした。
銀河をまたにかけた戦争が起きている時代に、ED209の居場所は余りない気もしますが…。
…ED209君を使わざるを得ない自由惑星同盟の未来はどっちだ?