マーフィーは自由惑星同盟に居ますが、オムニ社は素体にできませんでした。何故できなかったのかを今回明らかにします。
ヤン・ウェンリーがユリアンと共に過ごしていると、緊急ニュースが入ってくる。
「提督~!緊急記者会見があるみたいですよ!」
「となると、シトレ校長がやってくれたか。」
帝国領侵攻作戦の実情は、自分をライバル視したフォーク准将が私的ルートを使って押し通そうとした私利私欲による物。
もしもフォークが生きていたら裏工作を駆使して成立させたのだろう。
あのデモンストレーションでED209がフォークを殺害したのは、もしかしたら歴史の転換点だったのかもしれない。
ヤンはそんな風に感じていた。
「…トリューニヒト?」
現れた政治家は、ヤンが毛嫌いしている人物。
『国防委員長、ヨブ・トリューニヒトです。私は今日、ある人物を告発します!その人物は…ロイヤル・サンフォード最高評議会議長です!』
その発言で、ヤンは理解した。してしまった。
この男、十中八九シトレ校長がサンフォードに詰め寄っている間に緊急記者会見を開いている。
『議長は、イゼルローンから大軍を帝国本土へ侵攻する作戦を立案し、その調査を軍に対し秘密裏に進めました!これは明らかな越権行為です!』
「しかし、それは愛国心からの行動では無いでしょうか?」
『はい。議長が愛国者である事は認めましょう…。しかし、法を犯しても良い理由にはなりません!さらにもう一つあります!それは、オムニ社との癒着です!』
「オムニ社というと、最近は軍にED209シリーズを納品した大企業ですが。」
『彼らは、ED209シリーズだけなく、治安維持の為にロボコップの開発計画を進めていました。ロボコップとは、殉職した警官の生体組織と機械を結合させることで誕生するサイボーグです。強力な警官を作り出せる画期的な技術であり、警察の予算を抑えられるとオムニ社は述べていましたが。殉職した警官を切り刻んで弄ぶなど、人として許されざる行為です!』
これはヤンにとって初耳だ。
「やってくれたね。帝国領侵攻作戦の裏事情を暴いたのはチーモンド中佐で、そこからサンフォード議長を締め上げたのはシトレ校長だ。トリューニヒトは何もしていない癖に、今や正義と良心を持った政治家として脚光を浴びている。」
「本来なら称えられるべきはシトレ校長なのに…。」
「それで、帝国への攻撃はどうされるおつもりですか?」
『帝国領への侵攻ですか?確かに、自由惑星同盟は暴虐な銀河帝国を倒す事を国是としております。しかし、イゼルローン要塞を攻略した事で危機的状況は脱しました。故に、ここで一度帝国に対し講和を打診しようと思っています。』
心にもない事を、とヤンは画面のトリューニヒトを睨む。
サンフォード議長は帝国領侵攻作戦を企み、しかもオムニ社が推し進めていた非道な計画に加担していた。これはサンフォードとは違うとアピールする事が目的だ。
だからこんな事を言いだした。
まぁ、講和が成立するなら目的は達した。ただ、生理的嫌悪感だけは拭い去れない。
トリューニヒトが暴露した事で、オムニ社の社会的信用は地に落ち、大混乱に陥った。
「駄目です!株価の暴落が止まりません!」
「対策チームは何をやっている!」
「社長!対策チームのリーダーが逃亡!机には辞表が!」
「サブリーダーを昇格させ」
そのセリフをジョーンズ社長は最後まで言い切れなかった。
目の前でサブリーダーに任命した男が窓の外を高速で通っていく。飛び降りだ。
「社長、ここは誰かに責任をかぶせては?その者が勝手にしたことであり、オムニ社は関係ないという事にすれば。」
「よし、それでいけ。」
ジョンソン副社長の発言をジョーンズ社長は受け入れる。
ここはオムニ社。倫理観を捨て去り、功利主義に走った者だけが出世できる大企業。
その執念は、素体確保のために殉職させられた警官の遺族と、復讐に燃える警察の激しい追及を『倒産と辞任だけが責任の取り方ではない』と凌ぎ切った。
有罪判決を下される中、オムニ社の金蔵を揺らがせるほどの金を政界、財界、マスメディアにつぎ込み、ジョーンズ社長は社長の地位とオムニ社を守り切った。
ここに腐敗した民主主義の弊害が現れてしまった。これが銀河帝国であればフリードリヒ4世は厳格な態度で臨み、オムニ社は物理的に消されていただろう。
この一連の騒動について、トリューニヒトは注視していたが…裁判の後でもオムニ社が存続するという知らせを聞いたときは大いに驚き。
「…辞任しないだと?」
と呆然としながら呟いた。最も、この事実をヤン・ウェンリーは生涯知る事は無かった。
裁判を乗り切ったジョーンズは、オフィスで大きくため息をつく。
そんな彼に話しかける女性社員がいた。
「ジョーンズ社長。ロボコップ開発部顧問の心理学者、ファックスです。開発計画についてお話が。」
「ロボコップ開発計画は中止だ。今は素体の確保が難しい。」
「そもそも素体に自由惑星同盟の警官を選んだのが間違いの元です。表沙汰になれば、この様に世間が騒ぎます。成功例を積み重ねるためには、サイボーグ手術を行っても問題ない者達を使うべきです。」
「麻薬中毒や、犯罪者か?」
「それも良いでしょうが、失敗しても問題ない方々がいますわ。あちらの方に。」
そういうと、ファックスは窓の外から空に目を向ける。
それで、ジョーンズ社長は理解した。
「そうか。帝国軍人なら成功しようと失敗しようと…よし、進めたまえ。」
この後、オムニ社はロボコップ開発計画を地下で進める事となる…。
オムニ社が存続する、というニュースを聞いたヤン・ウェンリーはラウンジで紅茶を飲む。
「まさか、あそこから切り抜けるとはなぁ…。」
「ヤン中将、少しいいかな?」
「アップルトン中将…。はい、大丈夫です。」
第8艦隊司令官に話しかけられ、ヤンは快諾すると同時にアップルトンの隣にいる男性に目を向ける。
「お会いできて光栄です、ヤン中将。アレックス・マーフィ大佐です。」
「どうも。」
別室へ案内され、改めて話がなされる。
「ヤン中将。オムニ社を民事、刑事の両方で訴訟した訳だが。」
「耐えきりましたね。これは想定外でした。」
「私達はそうではない。相手はやり手で名を馳せたあのジョーンズ社長、一筋縄ではいかないと思っていた。故にもう一手用意していた。」
「と言いますと?」
アレックス・マーフィーが口を開く。
「ハイネセンの警察に大規模なストライキを起こさせる事で、人道的見地からオムニ社を追及するという計画です。ホアン・ルイ人的資源委員長も手を回して下さったのですが。」
「その様子だと、うまくいかなかったみたいだね。」
「はい。リード巡査部長が『我々は警官だ!普通の労働者とは違う!警官はストライキなどしない』と猛反対しました。」
「それは…。」
現場の人間からすれば耐えられないだろう。だが、ストライキの狙いは現場の人間を守るための手段でもあった。
「ヤン中将。確かにハイネセンの警察がストライキを起こせば一体だれがハイネセンの治安を守る?という問題が生じるだろう。」
「このままではオムニ社が存続してしまいます。良い案はありませんか?」
「うーん…。巡査部長の発言はごもっともだし、オムニ社を残すのも問題。こうなってしまうと、監視の目を厳しくするぐらいしかないかな…。」
「やはりそれしかない、か。」
「…ところで、マーフィー大佐。随分と辛そうだけど大丈夫かい?」
「私は、警官になりたかったんです。でも。」
「士官学校首席卒業しておいて警官になりたいは通らんぞ。手を抜くべきだったな。」
「そういう性分ではないので。」
なるほど、責任感が強い。警官になりたがっていたから、今回の警察説得の任務を与えられたのだろう。結果は芳しい物では無かったが。
一方。銀河帝国では。
「…ローエングラム公。反徒の動きに変化がありました。議長を国防委員長が告発、それにより政治的な混乱が生じました。」
「という事は大規模な侵攻は無いか。厄介な。」
ラインハルトからすれば、同盟軍がイゼルローン要塞から出てきたところを完膚なきまでに叩きつぶすつもりだったのだが。
政治的混乱となると、その可能性は薄まる。
「告発内容は?」
「帝国領侵攻作戦を軍に無断で行った越権行為。それと非人道的な計画に加担していた事です。」
「非人道的?」
「殉職した警官をサイボーグ手術により、ロボット警察。通称ロボコップに作り替えることで優秀な人材を確保しつつ、経費を抑える計画です。」
オーベルシュタインの発言にキルヒアイスは露骨に顔を歪める。
汚泥にさえ美点を見出す、という穏やかな彼でも「殉職した警官を機械化させて働かせよう」という倫理観が欠如した行いはただただ嫌悪感しか沸かない。
一方でオーベルシュタインはその計画に感心していた。
実に合理的だ。とはいえ、『人間の感情を軽視する』やり方がまずい。殉職した警官では無く、志願制にして「本人同意のうえで行う」べきだ。
「こうなると、焦土戦は使えぬな。」
「はい。ここは門閥貴族を反徒にぶつけるべきです。」
「政敵を敵の手で始末させる、か。それでいくとしよう。」
ラインハルトのところに、自由惑星同盟から講和の打診が届いたのは、それから数日後の事だった。
それを口実に、オーベルシュタインによる謀略が張り巡らされる。
「反徒共が和平だと!何たる無礼な!」
「今すぐ攻め込み、イゼルローンを取り戻し、ハイネセンを征服しろ!」
「和平交渉をしてくるという事は、相当疲弊しているはず。受けるべきではない!」
門閥貴族達はこの知らせを受けて大いに騒ぎ立てる。
中には自由惑星同盟の内情を洞察する人物も居たが、話は和平などもってのほか、という方向にまとまっていく。
この流れをラインハルトはあえて否定する。
「敵はイゼルローンを奪って士気が高く、烏合の衆とはいえ艦隊は健在。時間をおいて士気が低下するのを待つべき。」
もちろんそんなことは微塵も思っていない。
すべては好戦的な門閥貴族を自由惑星同盟にぶつける為。案の定、ブラウンシュバイクとリッテンハイムは激怒し、貴族軍を派遣する方向で動いた。
門閥貴族はおそらく負けるだろう。なるべくなら、有能な人材には生き残ってもらいたい。
故に、眼をかけている人物に対しては集めた情報を提供した。
貴族に足を引っ張られた状態で反徒と戦い、その上で生き延びた人材を部下に迎える。
ラインハルトが考えを巡らせている同時刻。
「メルカッツ提督、それは?」
「ローエングラム公が送って下さった情報だ。」
「敵軍は回廊周辺の星系を狙う、予想通りですな。」
副官のシュナイダーは、上司と共に情報を分析する。
そんな中、一人の大男が足音を立てながら歩いて来る。
「メルカッツ大将、金髪の小僧が反徒の動きについて送って来たそうだな!」
「オフレッサー大将。こちらが反徒の工作員が調べた形跡のある星系だとか。」
「ふむ。予想通り…んん?ここだけ調べていないだと?」
ポツン、と色が違う星系は非常に目立ち、真っ先にオフレッサーは疑念を抱く。
「デトロイトにもおそらく調査の手が伸びている。ただ、その痕跡を我々が見いだせていないだけかと。」
「…治安も乱れているのか。よし、俺がデトロイトへ直接向かう。敵が来るならミンチに出来るし、来なければ治安維持活動を執行するまで。」
オフレッサーには他の星系を担当してもらいたかったメルカッツだが、本人がやる気なら水を差すのは良くない。
という訳で、3話でした。
マーフィーは第8艦隊アップルトン中将直属で重用されているため、オムニ社はロボコップの素材に出来かったという設定で行きます。
クロスオーバーならそれぞれの主人公が接触するべきだと思うので。
アレックスは作中で「アカデミアをトップで卒業」した設定があるので、士官学校首席卒という設定です。
普通にエリートなんですよね、彼。だからこそロボコップになっても耐えられたのでしょうが。
プロット考えているうちにトリューニヒトが全部持って行きました…。最高議長が元帥に詰め寄られている最中に記者会見開いて手柄全部持って行くとか、妖怪かコイツ。
この状況で会社存続&辞任しないジョーンズ社長の方が妖怪かもしれませんが。