自由惑星同盟のオムニ社   作:交響魔人

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イゼルローン奪取から帝国との講和をヤン達は考えていましたが、そもそも「今まで散々侵攻してきた帝国に侵攻出来る」という状況で和平を訴えた所で同盟市民を説得するのは難しいでしょうし、帝国側が飲むかと言うと疑問です。



デトロイト攻防戦と二大貴族襲来

 和平交渉を行う自由惑星同盟に対し、銀河帝国は門閥貴族の反対もあって拒否。大艦隊を派遣する動きを見せた為、自由惑星同盟側は選択を迫られた。

 すなわち、イゼルローンで迎え討つか、あるいは回廊の先にある星系を抑えるか。

 

 

 シトレ元帥は帝国領侵攻作戦の事前準備として集めた情報をもとに、防衛ラインを構築。

 これならば敗北してもイゼルローンへ撤退。追撃するようならトールハンマーを打ち込める。

 

 出撃艦隊は、第5、8、10、13艦隊。

 余力を残した状態での侵攻計画が立案された。

 

 

 ロボス派でフォークの為に情報収集してきた佐官以上の将校は、それぞれ担当星系へ真っ先に赴き占領を開始する。

 帝国軍が到着するまでに可能な限り制圧する任務を与えられる中。惑星デトロイトでは攻防戦が繰り広げられていた。

 

 

 

 

「Kグループはそのまま前進。Nグループはその場で待機。流石はヤン中将、予測通りに進んでいる。」

「いやはや、実に見事な采配ですな。」

 

 マーフィーは自軍に配備されたED209シリーズを見つめる。

 ポンコツとしか言いようのない欠陥兵器だが、地形データを読み込み、そこからED209をどのように配置すれば作戦宙域をカバーできるのかをヤンはあらかじめ計算。

 

 

 陸戦部隊の仕事は予定地点の敵部隊を排除し、しかる後にED209を配備する事だった。

 

 

 

 

 一方、帝国軍は新型の兵器に苦戦を強いられていた。

 

「マグダゲット子爵!前線から増援要請!敵の新型は火力と射線で勝り、携行火器では歯が立ちません!!」

「反徒共めが…!」

 

 

 デトロイトを支配し、これからは我が世の春と思っていた矢先。

 イゼルローンから自由惑星同盟軍が侵攻。

 当初、マグダゲットはこれを喜んだ。イゼルローンを再奪取するならともかく、出てきた反徒を逆に蹴散らせば手柄になる。

 

 その結果がこの惨状だ。

 役立たずの部下は、反徒の進撃一つ止められない体たらく。

 

 

「…市街地の防衛は放棄!政庁の防衛に注力!援軍が来るまで持ちこたえろ!」

 

 

 この命令を受け、帝国軍は前線を放棄。順次撤退を開始する。

 撤退する敵軍を追うより、予定地点の制圧をマーフィーは優先させる。

 

 

「今追撃すれば、甚大な損害を与えられます!許可を!」

「帝国軍が市街地を放棄したら、亡命希望者を後方へ輸送させる作戦を実行するよう指示を受けている。そもそも、政庁への道は階段だらけだ。そこにED209を進撃させたら転倒し、帝国軍は逆襲してくる。そうさせないために、ここで進撃を停止するわけだ。それに」

 

 

 アラート音が鳴り響く。

 

「敵増援!やはり実戦は違うな。だが、これなら対処できる。Dグループ、敵が射程に入ったら順次攻撃開始。」

 

 

 ED209には統制射撃プログラムが組み込まれている。これは地球歴の大戦時代に用いられていた戦術であり、一点に対し、複数の射撃を同時に打ち込む事で命中率を高める物だ。

 宇宙歴でありながら、いまだこんな古典的な戦術を使わねばならない事に思う所はあるが…。やむを得ない。

 

 

 

「Dグループの反応途絶!」

「?!Bグループはそのまま待機!CグループとAグループは後退!Bグループが撃破されるまでに敵部隊を挟撃!小型ミサイルの一斉掃射で片付けろ!」

 

 マーフィーの誤算は帝国軍きっての猛将、ミンチメーカーが精鋭を率いて突貫してきた事だった。

 

 

 

 

 

 

「脆い、脆いぞ!」

 

 ハルバードが振り下ろされると、ED209が大破。

 右に控えていたED209が後退しようと足を持ち上げたタイミングで、オフレッサーは軸足を蹴り飛ばして転倒。

 隙だらけのED209のボディを蹴飛ばし、中央の駆動部を踏みにじられると機能を停止する。

 

 

「オフレッサー閣下!マグダゲット子爵は政庁で防衛ラインを構築しています。合流しますか?」

「反徒相手に市街地を放棄するような無能など放っておけ!このまま進軍し、反徒共を一掃!狙いは敵司令部!続けっ!」

 

 向かってくる装甲擲弾兵に対し、ED209のAグループとCグループはそれぞれ小型のミサイルを発射するも、弾道を予想され回避。

 そのまま接近したオフレッサーの部下により大破させられる。

 

 

 

「マーフィー大佐!敵増援部隊、まもなく到着します!」

「防衛ラインの構築は完了済みだ。ここで食い止める。」

 

 

 ED209を横一列で配置。そのやや高みに別のED209を横一列で配備。さらにその上にED209を配備。

 命令さえすれば自力で目標地点まで移動できるED209は、簡易的な陣地を短時間で構築できる強みがあった。

 

 

 

 

「むっ、これは…。」

 

 これまでと打って変わって物量で一斉掃射してきたED209の大部隊を前に、オフレッサーと直属の部下は後退し、物陰へ隠れる。

 

 

「オフレッサー閣下、ここは迂回を」

「…そうだな。この守り具合、どうやら本陣は近いな。よし、こっちなら」

 

 

 オフレッサーはそのセリフを最後まで言い切れなかった。

 

 

「うおおおっ?!」

「お、落とし穴だと!ロープを持ってこい!急げ!」

「大佐!敵が逃げていきます!」

「馬鹿者!閣下の救出が最優先だ!」

 

 

 慌てる帝国軍をしり目に、配備していたED209は順次退却を開始する。

 防衛ラインは深さ3mで油を仕込んだ落とし穴へ誘導するための罠。罠にかかって動きが取れない間に退却。

 負けて撤退するのではなく、勝って撤退。

 

 

 

「…落とし穴とは随分と古典的な。」

「罠というのは、ばれないように仕掛けてこそ効果がある…。撤退!」

 

 

 政庁は攻略出来なかったが、貴族の私兵及び火事場泥棒をしていた犯罪者を壊滅させ、亡命希望者の救助を達成。

 まともな統治者がくれば、デトロイトは立て直せるだろう。

 

 

「大佐、後は我々だけです!」

「よし。引き上」

 

 

 次の瞬間、マーフィーは咄嗟に跳躍する。

 数秒前に彼が居た所にハルバードが刺さる!

 

「これ、は」

「お前が指揮官だな!」

 

 

 油まみれで怒り狂ったオフレッサーが、部下から新たなハルバードを手に突っ込んでくる!

 即座にブラスターを連射するマーフィーだが、手の向きから射線をオフレッサーは予測し、ことごとく回避する!

 

 あわや、という場面でオフレッサーの前方に影が落ちる。

 

 

「うぉおっ!」

 

 即座に足を止め、大きく下がるオフレッサーの目の前に、ED209が落ちてきてそのまま轟音を立てて大破する!

 

 

 

「マーフィー大佐、今です!」

 

 チーモンド中佐が投げてきた縄梯子をマーフィーは掴み、それと同時に兵員輸送シャトルは急上昇を開始。

 その有様をオフレッサーは睨む。

 

 

 

 

「おのれ…小癪な真似を。」

「よくぞ来てくださいました。危うく反徒に星を乗っ取られる所で」

 

 

 マグダゲットは最後まで言い切る事が出来なかった。

 後ろから呼びかけられ、大きく振り返ったオフレッサーのハルバードが顔面に直撃。そのままヴァルハラへ旅立ってしまった。

 

 

「…戦死扱いにしてやれ。」

「は、ははっ」

 

 

 取り逃がしたとはいえ敵を撃退した以上、勝利と言える。

 さて、他はどうなっているのやら。

 

 

「閣下。反徒の兵器ですが…。」

「鹵獲して、技術開発部へ送れ。逃げた連中と敵艦隊はリッテンハイム侯が処理するだろう。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 同時刻。

 デトロイト星系では、リッテンハイム伯が指揮する5万隻の大艦隊と、アップルトン中将が率いる第8艦隊の2万5千隻がぶつかろうとしていた。

 

 

「敵軍はこちらの半分か。大軍に兵法なし。反徒の小細工もろとも、正面から数で押しつぶせ!」

 

 

 勝利を確信するリッテンハイムに対し、第8艦隊司令官アップルトン中将は敵軍の意図を測りかねていた。

 

 

「どういうことだ?あの雑多な編成は。」

「敵軍が帝国軍の正規艦隊では無く貴族の私兵であれば説明がつきます。こちらを」

「門閥貴族は対立が激しく、同じ陣営であっても力関係によって意思疎通が出来ず、統一された戦略に基づいた純軍事学的な戦いが出来ない…?何故だ?目の前に敵がいるのだぞ。」

「勝利よりもいかに邪魔者を始末させて自分が手柄を上げるか、を重視しているとすればあの編成になるかと。勝利を確信しているとすればなおさらです。」

「ふむ。総兵力ではこちらの二倍…。それで勝利を確信して内輪揉めをして居る訳か。なら。」

 

 

 

 リッテンハイム侯の部隊が前進してくる。

 折角の大軍でも、それぞれが好き勝手に行動しては数の利が生かせない。

 

 彼らはリッテンハイム侯を盟主として仰いでいる。これは盟主の前で手柄を立て、お覚え目出度くする絶好の好機。

 彼らにとって、これはハイキング、否、鹿狩りも同然。

 

 相手が鹿では無く猛獣であることを、彼らはまだ知らない。

 

 

 

 

 

 

 7万隻の艦隊がぶつかる艦隊戦を、マーフィーはデトロイトの大気圏外から見つめる。

 

 門閥貴族が金に物を言わせて作り上げたレールキャノンの艦隊が、瞬時に粉砕される。

 壮麗な戦艦が美しい陣形を保ったままアップルトン艦隊の集中砲火を受けて爆砕し、後には何も残らない。

 

 一種の「芸術」がそこでは繰り広げられていた。ただ芸術を愛するメックリンガー提督は、これを「芸術」とは断じて認めないだろう。

 

 

 勝敗はもはやだれの目にも明らか。

 狩人気取りの貴族艦隊は逃げ惑い、単なる獲物、否、実弾演習の標的に成り下がっていた。

 

 

 ひときわ大きな敵戦艦に砲撃が加えられ、盾艦が爆砕する。

 巨体がよろめきながら逃亡を図るも、容赦なく追撃が続く。

 

 

「あれは戦艦オストマルク?!旗艦が落ちれば指揮系統は瓦解するぞ!」

 

 

 喜ぶマーフィーとは対照的に、オストマルクでは一人の大貴族が逃げ惑っていた。

 

 

 

 

「ひ、ひぃいいいいいっ!!」

 

 

 倒れた柱に、側近が押しつぶされて死亡する。

 周りは死体だらけ。アラーム音が響き渡り、煙が蔓延し、消火装置が懸命に作動するオストマルク司令部で生き残っているのは彼だけだ。

 

 どうして、どうしてこうなった?おかしい、何かがおかしい。

 

 正面から打ち合いしているのに、何故こちら側の前線艦隊ばかり爆散し、轟沈していく?

 敵艦隊の戦線へ突入した味方の艦隊は一瞬で蒸発するのに、突入してきた敵艦隊は一方的に戦果を挙げ、戦列を崩してくる。

 

 

 脱出、脱出しなければ!シャトルで…。

 

 シャトルは何処だ?そもそも、脱出用のシャトルを沢山付けているのは「戦う前から敗北を想定する」、と見栄えが悪いから全て外したような。

 

 それが、大貴族リッテンハイム侯が最後に考えた光景だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 二時間後。アップルトン艦隊と合流したマーフィーは目を白黒させる。

 

 

「…降伏及び鹵獲した戦艦が9999隻、ですか?」

「その通りだ、マーフィー大佐。」

「ご命令を!あと一隻、あと一隻鹵獲すれば10000隻になります!追撃許可を!」

「ただでさえ多いのに、これ以上増やされても困る。」

 

 

 憮然とした表情でアップルトンは告げつつも、内心ではキリの良い数字が欲しいという想いはあった。

 だが、既に過剰な鹵獲量になっている。

 

 それに戦艦を大量に鹵獲、降伏させてはいるが…。先ほど散々撃滅した事もあり、その性能は非常に疑わしい。少なくとも自分はあんな戦艦に命を預けたくない。

 おまけに華美な装飾が施されている事もあり、帝国軍の正規艦隊に偽装するのも困難。

 

 これを持ち帰ったところで、キャゼルヌは喜ばないだろう、という確信がアップルトンにはあった。

 だがそれでも戦利品である以上持ち帰らねばならない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ブラウンシュヴァイク公は自由惑星同盟軍を前に笑みを浮かべる。

 

「なんだ、たったあれだけか。一個艦隊では勝負にもならんな。」

「情報によれば、ビュコック艦隊です。平民からたたき上げで中将に上り詰めた老将が指揮官です。」

「そんな男を重用せねばならぬのか。よほど人材不足のようだな。数の差で押しつぶしてしまえ!」

 

 

 

 直後、旗艦ベルリンが大きく揺れる!

 

 

「何事だっ!」

「て、敵襲!背後から敵艦隊!ウランフ艦隊ですっ!」

 

 

 

 大艦隊が向かってきた事で、ビュコックとウランフは示し合わせ、挟撃作戦を立案。

 そんな中にまんまと飛び込んでしまったブラウンシュヴァイク艦隊は、壊滅しつつあった。

 

 

 

「恐れながら申し上げます!全艦、最大船速で離脱。リッテンハイム侯と合流し、しかる後に反転攻勢をするべきです!」

 

 若い提督がそう発言する有様を、周りの軍人達は「黙っていればいいのに余計なことを」と睨む。

 

「こ、このワシに!リッテンハイムに頭を下げろというのか!たかが反徒風情に!平民ごときに!」

「生き延びるのが先決かと、このままではっ」

 

 

 彼は最後まで言い切る事が出来なかった。

 怒りに任せてブラウンシュヴァイクがブラスターを撃ったからだ。

 肩を撃ちぬかれ、青年はその場に崩れ落ちる。

 

「ぐっ…」

「踏みとどまって戦え!逃げるなど許さぬ!」

 

 

 挟撃が何だ、数はこちらが上だし、自分は大貴族だ。

 平民如きに、反徒風情に、負けるわけがない、退却など許されるわけがない。

 ゆがんだプライドを抱え、ブラウンシュヴァイクは吠える。

 

 

 

 損耗率40%を超えているにも関わらず逃げようとしないブラウンシュヴァイク艦隊を前に、ビュコックとウランフは困惑する。

 

「何故逃げぬ?ここから打つ手があるとでもいうのか?」

「解せぬ、が。ここで叩けるだけ叩いておかねば、陽動をやっているヤン中将に合わせる顔がない。」

 

 ヤン中将が敵艦隊の中でも特に統率の取れて居るメックリンガーとファーレンハイトの二艦隊相手に陽動作戦を展開。

 その間に功績を上げようと突貫してきた貴族艦隊を撃滅。

 

 

 

 旗艦ベルリンが直撃弾によって轟沈した事で、ブラウンシュヴァイク艦隊はようやく降伏。

 降伏した艦隊を裏切り者呼ばわりしながらフレーゲル男爵は逃亡を開始するが、ビュコックは追わなかった。

 

 撃ち続けた結果エネルギーの残量が心もとなく、おまけに降伏した戦艦が多すぎたため、追撃するだけの余裕が第5、第10艦隊には残っていなかった。

 彼らが降伏したからこそフレーゲル男爵は何とか逃げおおせる時間が稼げたのであり、言ってみれば命の恩人でもあったのだが。

 

 その事にフレーゲルが感謝する事は生涯無かったという。

 

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