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門閥貴族は片付いた。残った者達はフレーゲル男爵を盟主として仰いでいるようだが、もはや勢いはない。
「これで、反徒に取り掛かれます。」
「卿の方針は、反徒共に内輪揉めをさせるようだが。」
「はい。捕虜交換式でアーサー・リンチを帰国させます。彼にグリーンヒル大将を扇動させてクーデターを起こし、それに合わせて出兵すればイゼルローン奪還も可能かと。」
この時、オーベルシュタインは謀略の成功を確信していた。
だが、彼はある事を一つだけ見落としていた。
捕虜交換に紛れ、かつてエル・ファシルにて失態を犯したアーサー・リンチ少将。
彼を送り込み、宇宙艦隊総参謀長ドワイト・グリーンヒル大将に接触させてクーデター計画を起こさせ、内部から瓦解させる。
これが、金髪の小僧の思惑通りであることを、アーサー・リンチは理解していた。
理解した上で、実行に移す決意を固めていた。同盟へ帰還した所で居場所などない、なら、自分を追い詰めた同盟政府に、ヤン・ウェンリーに恥をかかせてやる。
グリーンヒル大将なら、うまく誘導できる。そのはずだった。
「…一つ聞きたい。リンチ少将。」
「何でしょうか?」
「君は、エル・ファシルの民間人300万の中に。私の妻と娘がいた事を知っているかね?」
「?!」
絶対零度よりも冷たい眼を向けられている事に、今更ながらリンチは気づいた。
「彼は帝国の間者だ。尋問を」
なだれ込んでくる軍人を見て、リンチは決意する。
奥歯に仕込んだ毒薬を飲み、彼は倒れこむ。
「くっ!軍医を呼べ!まだ死なせるな!」
だが、治療は間に合わず。アーサー・リンチ少将の心臓は機能を停止。
それを受け、軍医は死亡と診断。その事を報告するべく軍司令部へ向かった。
残ったのは、医学部卒業から半年の若い新米医師だけ。
「遺体の引き取りに来ました。」
「ああ、持って行ってくれ。」
故に。リンチの遺体を見慣れない一団が持って行った事を指摘するのが遅れてしまった。
…アーサー・リンチは周囲を見渡す。
自分は、毒を飲んだはず。もしや、治療が間に合ってしまったのか?
となれば、苛烈な尋問が待っている。逃げなければ。
だが、彼の身体はピクリとも動かない。
「…あら、お目覚め?今、自分がどんな状況か分かっていないみたいね。」
知らない女性が笑みを浮かべながら、やや大きめの鏡を持って来る。
それを見てしまったリンチは悲鳴を上げたかったが、それは不可能だった。
すでに、脳と脊髄と眼しか残っていない男は、叫ぶために必要な声帯すら残されていなかったからだ。
「貴方は今から生まれ変わるわ。」
「大丈夫かね?彼はエル・ファシルで民間人を見捨てて逃げた男だろう?」
「だからこそです。民主共和制の軍人でありながら、民間人を見捨てても生き延びたいという生存本能。帝国の捕虜になってもなお自殺しない精神。これなら精神面は十分です。」
ロボコップ開発チームとファックス博士は今度こそうまくいくと確信していた。
二週間後。
右肩に二連装散弾銃とプラズマトーチ、左腕にはガトリングガンにアームパンチ。
かろうじて人型は残っているが、大型戦闘兵器を開発チームは完成させた。
「調整は完了しました。」
「よろしい。実弾は装填していないわね?」
「もちろんです。」
これで、ロボコップ計画を再始動出来る。ED209とて治安維持用に開発したが、結局は軍が購入した。
ならサイボーグ計画もまた軍に売り込めばいい。
何より、軍人なら素体の確保に事欠かない。
そうなれば、またオムニ社は儲かる。利益を出せば当然ながらその分は自分にも回ってくる。
その妄想や夢に浸りながら報告書を打ち込む彼らは気づかなかった。
ロボコップが何やらサーバーにアクセスし情報収集を行っている事と、何か企んでいる事を。
停電が発生し、その対処に向かっている間に「火器」の予備がいくつか紛失している事を。
彼らはこの時点で気づけなかった。
「オムニ社が新製品の売り込み?」
「鹵獲した貴族艦隊の処分も終わっていないのに、ここにきて追加か。キャゼルヌ先輩は大丈夫かな?」
「前回のデモンストレーションから、実弾は抜いてあるそうだが。」
ハードウェアを嫌うヤンだが、それでも軍人である以上上からの命令には従わねばならない。
会場に到着し、件の新商品を見たヤンはすさまじい殺気を感じ、思わず硬直する。
「ヤン?」
「…いやな予感がする。」
後ずさったヤンの目の前で、「ロボコップ」が起動する。
「何をしているの?」
「わかりません!まだ何も指示を入れていないのに。」
「一時停止しなさい!リモコンは」
ファックス博士の目の前で、リモコンを持っていた技術者から「ロボコップ」はリモコンを奪って破壊する。
左腕のガトリング式機関銃が駆動し、弾幕を関係者に向けてばらまく!
悲鳴を上げる者、咄嗟に物陰に隠れる者。
騒動の最中、「ロボコップ」はヤンとキャゼルヌに向かって突進する!
回れ右して逃亡するヤンとキャゼルヌを、「ロボコップ」は追う。
分かれ道で別々の方向へ向かってしまうヤン。「ロボコップ」はキャゼルヌには目もくれず、ただヤンを追う。
「な、何故ヤンを?一体どうなっている?」
キャゼルヌはヤンがあのデカブツを身体能力でどうにか出来るとは微塵も思っていない。
それでも連絡を入れることは出来る。
「ん?あれは…オムニ社の新作か?暴走したようだが、残念だったな。」
ヤンの目の前に同盟軍人が数名現れる。
「クリスチアン大佐、どうにもあのED209とは一味違うようですが…。」
「機械は所詮機械。駆動部を狙え!」
そんなクリスチアン達に対し、「ロボコップ」はガトリングガンを掃射する!
「ぐああああっ!」
「があっ!」
彼らが肉盾になってくれたことで、ヤンは無傷だがクリスチアン大佐達はその場で息を引き取る。
少しでも距離と時間を稼ぐべく走るヤンと、追う「ロボコップ」
そんなヤンを追う「ロボコップ」にブラスターが数発撃ち込まれる!
「マーフィー大佐?」
「知り合いですか、ヤン中将!」
「友人じゃあない。」
軽口を叩きながら、ブラスターを連射するマーフィー。
「ロボコップ」は後ろに下がってブラスターから距離を取る。こうなると、互いに命中精度が落ちる。
しびれを切らしたのか、「ロボコップ」から音声が漏れる。
『…ン、ヤン・ウェンリーィ…!』
ノイズ交じりの電子音声ではあったが、そこには憎悪と妄執が入り混じっている。
「ロボコップ計画は、殉職した警官を素体にする計画だったが。まさか、帝国軍人を素体にしたのか!」
「捕虜は先日交換したはず。まさか帰される前に誘拐したのか?」
だとしたら大問題だ。先日、捕虜交換式に出席したキルヒアイス中将の事をヤンは思い出す。
温和そうな赤毛の男だが『捕虜を切り刻んでサイボーグにして兵器として使おうとしたら暴走したので処分しました』という話をしよう物なら怒り狂うだろう。
『ヤン!そいつの正体がわかった!』
放送機からキャゼルヌ先輩の声が響き渡る。
『アーサー・リンチ少将だ!グリーンヒル大将にクーデターを唆したが拘束されそうになって服毒自決。心肺停止した後に改造した!』
信じられない、という想いで目の前の兵器を見つめるヤン。
それに対し、「ロボコップ」の動きが停止する。その反応が、キャゼルヌ先輩の言葉が正しい事を示していた。
「お久しぶりです、リンチ少将。こんな形で再会するとは夢にも思っていませんでした。」
相変わらず動きを見せない「ロボコップ」に油断なくブラスターを向けながら、マーフィーは「そりゃあそうだろう」と内心同意する。
これを予想できる者がいたなら、そいつはこの状況になるよう策略を練った黒幕だ。
「当時の同盟政府と私は貴方を追い込んだ。ですが、そもそも私に300万人の市民を預からせたのは貴方だ。貴方と警備艦隊から恨まれようと、私は脱出させる責任がありました。それが、民主共和制の軍隊である、同盟軍人の成すべきことだからです。」
エル・ファシルの英雄は過剰に報道された事もあり、マーフィーはヤンの事を「英雄」だと思っていた。
だが違った。彼もまた、悩みながらも懸命に使命を果たそうとしていた。
『ダマレ、オマエサエ、オマエサエイナケレバァアアアッ!』
ノイズ交じりの機械音声が流れ、「リンチ」が動き始める。
真っ先にマーフィーが反応し、ブラスターを連射する。
数発当たるが、オムニ社が威信を注ぎ込んだ機体は頑強で持ちこたえる。
ヤンの殺害を主目的にしていた「リンチ」だが、妨害するマーフィーへの敵意が増大。マシンガンを乱射する!
とりあえずターゲットを自分に向けられた事でマーフィーは物陰へ退避。ヤンがその間に逃げていくのを目視で確認する。
「増援が到着するまで持ちこたえれば」
「ろ、ろ、ローゼンリッターだ!」
誰かの叫びが響き渡ると、白い鎧兜に身を包み、戦斧と突撃銃で武装した連隊が駆けつける!
自由惑星同盟軍でも精鋭と名高い陸戦部隊が来たことで、「リンチ」は先手必勝とばかりに乱射で応戦する。
だが、誰一人倒れない。
回避、当たったにしても銃弾にたいし角度をつけて威力を減衰させる、といった方法で対処。
突撃銃がオーケストラのように銃撃を浴びせ、「リンチ」の主要火器をつぎつぎと大破させる。
戦斧を振り上げて突っ込んでくるシェーンコップに「リンチ」は背中の防弾盾を展開し、守りを固める。
これでしのぎ、胸部の小型ミサイルを発射する。
そう考えた「リンチ」に対しシェーンコップの戦斧は防弾盾を叩き割り、そのまま本体を大破させる!
見ていたヤンとマーフィーも、対峙する「リンチ」も驚愕する中、シェーンコップは突撃銃を至近距離で連射!
そのまま、後方へ下がるシェーンコップ。
他の薔薇連隊も容赦無く連射を続ける。
弾丸の一つが、「リンチ」の小型ミサイルに誘爆し、大爆発を起こす!
それと同時に、「リンチ」は体勢を崩して倒れこむ。
カバーが破損し、「リンチ」の脳と脊髄が収まったカプセルが飛び出し。地面に落ちて割れて中身が飛び散る。
「…終わったか。」
こうして、「アーサー・リンチ」を巡る騒動は終わった。
それと同時に、「オムニ社」も終焉を迎えることとなる。
軍人を切り刻んで兵器に用いるという非道な行い。
再び政治力と莫大な資金で凌ごうとしたオムニ社だが、この立て続けの不祥事から倒産を回避するだけの資金は既に残されておらず、政治家もオムニ社を擁護する事はしなかった。
…ジョーンズ元社長は、目を開ける。
もはや目覚めたくは無かった。オムニ社は倒産に追い込まれ、社員は逮捕。各地の研究施設も工場も接収され、もはや彼には何一つ残されていなかった。
どこだ?一体、どこで間違えた?
ED209は同盟軍との契約を結んで莫大な利益をもたらした。だが、契約の継続をキャゼルヌ中将は突っぱねてきた。
故に、サブプランであったロボコップ計画に賭けねばならなかった。そもそも、既に9000万ディナールつぎ込んだ計画。
素体さえ、素体さえ確保できれば成功するはずだった。その資金を元にED209の改良機を作り、軍へ売り込めば会社は大きくなる。
はずだったのに。
「お目覚めですか、ジョーンズさん。」
「…君は?軍人ではないようだが。」
「私は、地球教徒です。貴方達を、地球教団へお連れするよう指示を受けました。」
「何?一体、何をさせようというのだ?」
「ED209に、サイボーグ技術であるロボコップ計画。それらに大主教様はいたく感心をお持ちです。貴方は、選ばれたのですよ!」
狂信者特有の瞳を見て、ジョーンズは全てを諦めた。
「…喜んで協力させてもらう。」
「おお!ありがとうございます!」
彼は知らない。この後、サイオキシン麻薬中毒になり、自分が中止しなかった「ロボコップ」の素体にされてしまう事を。
今は、まだ。
ロボケインならぬ、ロボリンチはマーフィーが苦戦しながらどうにかする流れで考えていましたが、シェーンコップが持って行ってしまいました。
少しシェーンコップが強すぎますかね?まぁ、ヤンの前で張りきったという事でよろしくお願いします。