とりあえずプロローグってことで
今になって思えば案外楽しめていたのかもしれない。最初は嫌な奴としか思わなかった。君だけじゃなく、周りの人全て。だってそうだろう?人のことを人として見ない奴らばかりで、生まれの違いってだけで目上の人相手でも威張ってばかりいる。自分が偉いわけではなく、親が偉いってだけなのにさ。こんな奴らとは絶対に分かり合えないって思った・・・最初はね。
僕の名前は「風間 勇人」両親が「勇」気のある「人」になって欲しいという思いを込めてつけた名前らしい。らしいというのは、今ではもう本人達に確認が取れないからである。両親は僕が5歳くらいのときに交通事故で亡くなった。そのため僕は両親の顔をはっきりとは覚えていない。
唯一覚えていることはその事故の直前であろう記憶をたまに夢で見ることである。僕は両親とともに歩いていて両親が笑っている記憶。夢だからなのか両親の顔には霧のようなものがかかっており、はっきりと見ることができない。すぐ近くにいるのに両親の顔がまるで遠くにあるかのように思えてしまう。笑っているのは確認できるのに、その声を聞くこともできない。
そして少し歩いたところで周囲がざわつき始める。それに気づいた両親は振り返り「何か」を発見する。僕の夢だというのに、その「何か」を僕はいつも確認ことができない。なぜならば慌てた母親がその「何か」から僕を守るために僕を突き飛ばすのである。突き飛ばされならが僕は両親のほうを見ようとする。ほんの一瞬でしかないが僕の目に映るのは、僕を突き飛ばすために右腕を伸ばしている母親の姿と、母親と僕を守ろうとして「何か」の正面に立ち両腕を上げている父親の姿だった。
その直後まるで懐中電灯を目に当てられたかのような眩しい光が両親を襲い、その時だけ微かに母親の声が聞こえる。
「・・・うと・・・て・・・」
その声を聞くと決まって目が覚める。まるでこれ以上先は見てはならないと、神様にでも言われてるかのように。まぁ、僕は神様なんて信じていないのだけれど。
「・・・最近はこの夢をよく見る気がするなぁ・・・」
今月に入ってもう5回くらい同じ夢を見た気がする。そしてこの夢を見るたびに、母親は最後になんて言っていたのかを考えさせられる。
微かに聞こえる声から察するに、「勇人逃げて」か「勇人生きて」のどちらかではないかと僕は考えている。
「まぁ今更そんなこと考えてもしょうがないんだけどね・・・」
自分に言い聞かせるかのように独り言をつぶやき、もう少しで騒がしい音を鳴らしそうな目覚まし時計のスイッチを切る。起きる時間にはまだ少し早いのだが、起きてしまったのだから仕方がない。朝食を食べシャワーを浴び、まだ着慣れない高校の制服を着る。これが僕の朝の一連の作業だ。
去年までは父親の祖父母の家に住み、周りのことを色々とお世話してもらっていた。僕の名前の由来を教えてくれたのも、他ならぬ祖父母である。高校生になり世間的にもアルバイトをしても許される年齢になったことで、これ以上迷惑を掛けたくないがために今年から一人暮らしをし始めたのである。といっても暮らしているアパートの家賃は出してもらっているのだけれど・・・
「仕事にもなれてきたし、シフト増やしてもらおうかな」
ちょっとした決心をしたところで、そろそろ家を出なければ遅刻してしまいそうな時間になっていた。僕は部屋の片隅に置かれている両親の写真に手を合わせる。
「いってきます」
携帯電話にイヤホンをさし最近のマイブームであるアーティストの曲を、周りの音が聞こえないくらいの音量で聞きながら学校へと向かう。家を出て大通りを直進し、家から徒歩5分ほどの距離にあるバス停まで行く。いつも乗っている時間に乗れば少なくとも遅刻することはない。
しかし、今日はいつもと違っていた。
「嘘だろ!?」
バス停まできたところで、普段この時間で並んでいる人は10人くらいなのだが今日はその倍以上の人が並んでいた。イヤホンをはずしバス停に並んでいる人に話しを聞いたところ、なんでもバスの通り道で事故があり通行止めになっているらしい。いつ復旧するかも分からないためバスを待っている人達の中には少し苛立ちを隠せない人もいた。
「バスが来たとしても、この人数じゃ一回待たないといけなくなるな・・・」
バスに乗り学校近くのバス停まで行ったとしても15分くらいかかってしまう。現在時刻8時10分、一時間目開始時刻が8時30分、バスを一本見送ることで遅刻せずに学校に行けるかと聞かれると厳しいと応えるだろう。このままバスを待っていては高確率で遅刻が確定してしまう。
しかし、まだ遅刻せずにすむ道が存在する。バスは決められたルートを通って乗客を目的地に運ぶため、自分が行きたい場所に最短ルートで行くことは難しい。そのため少し時間がかかってしまうのである。
ならば、バスでは通れない学校までの最短ルートを通ればよいのだ。
「走ればギリギリ間に合うかな」
僕はあまり運動が得意なほうではないのだが、前に一度だけ遅刻して体育教師に20分ほど説教をくらったことがあるため、その日以来もう二度と遅刻はしないと誓ったのである。
「教師が竹刀持って生徒を正座させるって、いつの時代だっての・・・」
そんな愚痴をこぼしつつ再びイヤホンを耳に付け、僕は学校へ向かうために走りだした。
基本的に通る道は人気の少ない裏通りを通る。公園を直進し、民家と民家の間を通り、時にはフェンスを乗り越える。こうすることで普段と大して変わらない時間で学校に行くことができるのである。
「はぁ・・・はぁ・・・そろそろ歩いてもいいかな・・・」
さすがに普段から運動をしていないため息が上がってしまった。だが、ここまでくれば学校までは歩いても間に合う距離である。
そう思ったのが間違えだったのかもしれない。
「宇宙・・・・・神聖で美しく・・・」
「ん?」
どこからともなく声が聞こえた。
「演劇かなんかのお芝居かな?」
そんなことを思っていたが、ひとつだけ違和感を感じた。何かがおかしい、まぁ僕は裏道を通ってきたわけだからこんなところでお芝居の練習をしているのが違和感なのか。
いや、お芝居の練習だからこそ一目に付かない場所でやるものじゃないのか?では、僕が感じた違和感というのは一体何なのか・・・
「・・・い魔よ・・・求め・・・我が導きに応えなさい」
そんなことを考えていると再びあの声が聞こえてきた、それもさっきよりもはっきりと。
あぁそうだ、違和感の正体が分かった。僕は今周りの声が聞こえるはずがないのだ。なぜならばイヤホンを耳につけ結構な音量で音楽を聴いているのだから。普通はその声が聞こえるはずがない。つまり、この声は普通ではないということなのだろう。
そんなことを考えていたら、目の前が急に眩しくなった。
「うわ!?」
僕は思わず目を閉じてしまった。すると急に体が軽くなるのを感じだ。いや違う。僕の足元に穴が開いたのか?どちらにしろ今は目を開けられない。こんなことなら走るのをやめずにあのまま学校まで走って向かえばよかったと後悔している。
そういえばあの光、どこかでみたことがあるような気がした。どこだったかな・・・
文書の間隔狭いでしょうか?