僕らは意を決してオークの巣へと足を踏み入れた。普段ならこの時点で大量のオークが襲ってきてもおかしくないらしいが、そんな気配はまったくしない。オークは知能が高く利口なため、巣の中には罠が巣掛けられている場合もあるらしい、僕らはその罠に細心の注意を払いながら奥へと向かって行った。
10分くらい歩いただろうか、オークの巣の奥へ行けば行くほど空気が薄くなってくる。しかしいまだにオークの気配は感じられなかった。
「おい、いくらなんでもおかしくねーか?」
「そうですね、ここまで来てまだ一体もオークと出会っていないなんて」
アラン達は奥に行くにつれて警戒心を上げていた。僕なんかは何もないことに少し安心していたというのに、彼らはそれだけ戦いなれているのだろう。
そしてその言葉が合図になったかのようにオーガストの足に一本の綱が結ばれた。どうやら罠を踏んでしまったようだ。
「うお!?」
あの巨体がいとも簡単に天井に吊るされてしまった。そしてそれに真っ先に反応したのがベネットだった。ベネットは手に持っていた短剣を、オーガストの足に絡み付いている綱に向って投げつけた。
オーガストは天井に吊るされ一瞬で地面に叩きつけられたのだ。
「痛ってぇ!?」
一瞬のことだったので反応できなかったのだろう、見事に頭から地面に落下していた。しかしそれで「痛い」だけなのがまた感心する。
「ベネット助けてくれるのはうれしいが、合図くらい欲しかったぜ・・・」
「合図出してる暇なんてなかったと思うが?」
ベネットが指を指した先には数本の矢が壁に刺さっていた。もしオーガストが吊るされたままだったらあの矢はオーガストに刺さっていただろう。
「あ、ありがとうな・・・・」
「分かればいいさ」
ベネットは鼻で笑い懐から新しい短剣を出した、どうやら短剣をいくつも持っているようだ。しかしこれで罠が存在することが確認できた。僕達はまた警戒を強め奥へと進んでいった。
巣の奥へと進んでいくと、広間のような空間に出た。天井は数十メートルあるのではないかと思うくらい高く、人が大の字で寝ても7・80人は入れるんじゃないかと思うくらい広かった。そしてその広間の中央に人が倒れているのが見えた、間違いないシーザーだ。僕らは周囲を警戒しつつ、シーザーの元へと向った。
「シーザー!大丈夫か!!」
どうやら息はしているようだ、アランが気絶しているシーザーに話しかける。
「・・・・ア・・ラン・・・?」
気がついたようだがまだ少し意識が朦朧としているようだ、体を見てみるといたるところに傷がありあまり動くことのできない状態なのだろう。
「シーザーしっかりしな!応急処置しかできないけどあたしが手当てしてやる!」
クレアが鞄の中から薬草を取り出し、シーザーに手当てをしようとしていた。おそらくあの薬草もこの森で採れる物なのだろう。
シーザーを見つけて安心していた彼らは脱出の手段を話し合っていた。ここに来るまでオークの姿がなかったため帰り際巣の外で待ち伏せしているのではないか、またはオークはここよりもさらに奥に潜んでいるのではないかなど、様々な考えをお互いに言い合っていた。
僕は彼らの会話には参加せずシーザーの様子を見ていた、あれだけ傷を負っていたのだ容態が悪化してもおかしくはないだろう。そう思っていたらシーザーの口が小さく動いていた。今はクレアも彼らと話しているため、何か言いたいことがあるのなら僕が伝えようと思い彼の元へと近づいた。
「どうかしましたか?」
僕は膝をつき横になっている彼の声が聞こえる距離まで近づいた。しかし彼の声は小さすぎて何を言っているのか僕には聞き取れなかった。僕は彼の口元へ耳を近づけ何を伝えたいのかもう一度確認することにした。
すると彼は本当に小さな声でこうつぶやいた。
「・・・わなだ・・・に・・・げろ!」
本当に微かな声で、それでも力強く、僕に向ってそう言った。
その言葉を早くアラン達に伝えなくてはならないと思い、振り向こうとした瞬間、僕の頭上を無数の矢が通過していった。そしてその矢はアラン達に刺さったのだ。
彼らは何も言わずに倒れてしまった。そして周囲を見渡すと無数の矢同様、無数のオークが巣の奥から出てきていたのだ。
僕はすぐさまデルフを抜き、周囲を警戒した。しかし数が多すぎた、どこを向いてもオークがいるため警戒のしようがなかったのだ。
「相棒!こいつはマジでやばいぜ!!」
「見れば分かる!!」
デルフと話をしていても始まらない、どうにかして打開策を考えなければならないのだが、僕は神様でもなければ魔法使いでもない、剣一本でこれだけの数を相手にすることは不可能だ。
そして後方から一本の矢が僕に向かって飛んできた。後方はがら空きだと思われたのだろう、周囲を警戒していた僕は矢が放たれる音を聞くことができ、飛んでくる矢を避けることができた。
「ぐおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
一匹のオークが叫び声を上げた、その声が合図なのだろう、無数オークが僕に向かって走ってきたのだ。
矢を回避されたことは予想外だったのだろう、おそらくあの矢で仕留めるつもりだったが避けられてしまったため、接近戦と数で仕留めにきたのだ。
「構えろ相棒!!こうなりゃやるしかねー!!」
「くそっ!!」
死ぬのは怖い、なぜかって聞かれたら詳しくは答えられないけれど、どうしようもなく死ぬのが怖い。
それでも戦うしかない、戦わなければ死ぬ以外ないのだから、そう思いデルフを強く握り目の前にいるオークの群れに突っ込もうとしたとき、後方から二人の人物が僕の横を通りすぎ、目の前のオーク達を次々となぎ倒していった。
その一人は両手に短剣を持ち、驚異的な速さでオーク達を倒していた。
もう一人は手に持った多きな斧で豪快にオーク達をなぎ払っていた。
「坊主!!まさか諦めちゃいねーよなぁ!?」
間違いないベネットとオーガストだ。
後ろを振り返るとアランとクレアも立ち上がり、後方を守っていてくれた。
「相棒!!勝てると決まったわけじゃねーが!!まだ希望はあるみてーだぞ!!」
「そうだね、僕らも行こう!!」
四人とも体には矢が刺さっているため万全の状態ではない、それでもなお立ち上がりこの状況をどうにかしようとしているのだ。僕が休んでいるわけにはいかない、僕はオークの群れへと走って行き、目の前にいるオークに向ってデルフリンガーを水平に振った。しかし前回オークと戦ったときと同様、オークの棍棒にいとも簡単に防がれてしまった。
「くそ!?なんで斬れないんだ!?」
「敵の武器を斬ろうと思うな!!隙を突いて敵自体を斬るんだ!!」
アランが僕の方を見ていたのか、自分だって余裕があるわけではないのに僕にアドバイスをしてくれた。
僕は一度オークから距離をとり腰のナイフに手をかけた。そして再びオークの近くまで行きデルフリンガーを右腕だけで先ほど同様水平に振った、それにあわせてオークも棍棒で防いできたので空いた左腕で喉元にナイフを刺したのだ。
「いいぜ相棒!その調子だ!!」
いままで人間はもちろん動物だって殺したことがなかったため、生き物の喉にナイフを刺す感触が実に気持ち悪かった。だが今はそんなことを行っている場合ではない、皆生き残るために頑張っているのだ。
僕は使い魔の能力を使い次々とオークを倒していった。どうやらこの能力は自分の感情によって効果が変わってしまうようだ、先ほどまで死ぬことを恐れていたため力を引き出すことができなかったが、今は皆で生きて帰るという強い思いがある。その思いに反応するかのように手の紋章も光、自然と力がわいてくるのだ。
僕らが次々とオークを倒したことにより、オークの士気が下がったのだろう、先ほどまでこちらに向ってきていたオーク達だったが、次々と後ろのほうへ下がっていった。
「いいぞ!!この調子でどんどん攻めろ!!」
「おっしゃ!!前衛はまかせな!!!」
オークとは逆にこちらは士気が上がっていた、最初は勝つことが不可能とされていた無数のオークに対し、死と隣り合わせになることで各々が自分の力を最大限に引き出したのだろう。
あれほどいたオークが今では最初の五分の一ほどになっていた。ほとんどのオークが巣の奥へと逃げていったのだ。
「これだけやれれば十分だろう、隙を見て入り口まで下がるぞ!」
アランがシーザーを担ぎタイミングを見計らっていた、最初はオークの群れで塞がれていた入り口だったが、今では数対いるだけだった。これならば全員で力を合わせれば突破できるだろう。
「今だ!!」
アランの掛け声で全員が出口に向って走りだした、クレアが入り口付近にいるオークを弓で狙い、僕とベネットとオーガストが周囲のオークを倒していた。
出口まであと少し無事とまでは行かないが、なんとか全員生きて帰ることができる。そう思わせることが奴らの狙いだったのだろう、そこらに転がっているオークの死体の中から、棍棒ではなく剣を持ったオークがアランに向って突進してきたのだ。アランはシーザーを担いでおり剣を持つことができなかった。
すると大きな影がアランを突き飛ばし、アランと僕が衝突する形になった。
「オー・・・・ガスト・・・?」
アランは目の前の光景が信じられない様子だった。僕もそうだ、先ほどまで周囲のオークを倒していたオーガストがアランを庇い、腹に深く剣を刺されているのだから。
「がはっ!?」
オーガストの口から大量の血が吹き出していた。
「てめぇ!?」
ベネットがオーガストを刺したオークを蹴り倒し、短剣で喉元を斬りつけた。
「オーガスト!!しっかりしなさい!!」
「クレア!!なんとかならないか!?」
「やってるけど、傷口が深すぎる!」
僕も何かしてあげたかったけれど、これを好機と見たオーク達が次々と押し寄せていた。
「相棒今は耐えろ!!」
「言われなくても!!オーガストの容態は!?」
「ダメ!血が止まらないわ!」
あっという間にオークの集団に囲まれてしまった。
「くそ!!こっちももう耐えられない!!」
ベネットとアランと僕の三人でオークを抑え、クレアがオーガストの治療とシーザーを守っていたが、もう完全に八方塞だった。
すると少し意識が戻ってきたのか、シーザーが僕に向かって話しかけてきた。
「・・・君・・・その足元にあるものは・・・?」
僕はシーザーの声に気づき足元を確認してみた、そこには先ほどアランと衝突した際に落としたであろう、オールドオスマンからもらった紙切れが落ちていた。
「そういえば、お守りって言ってたけど・・・」
「簡易・・・召喚だ・・・それに・・血を付けろ・・!」
魔法使いからもらったものだったので僕にはこれが何なのかさっぱり分からなかったが、同じ魔法使いの彼だから分かったのだろうか、とにかく言われたとおりに紙に血をつけたみた。すると先ほどまで単なる紙切れだったものから突風が吹いてきたのだ。
「なんだ!?」
急な突風に目を閉じてしまった。
「やれやれ、ジジイに言われたから来てみたけど、これは一体どういう状況だい?」
聞き覚えのある声だった、しかしそんなはずはないだって彼女は今外に出られるはずがないのだから、何かの間違いだと思い目をあけてみると、そこには案の定彼女の姿があった。
そう「土くれのフーケ」だ。
次回あたりでオリジナルストーリーは終わる・・・と思う・・・