夢を見ていた。それもいつもと少し違う夢を。僕がいつも見る夢とは友人と遊んでいたり、車に轢かれそうになり車と激突するまであと少しってところで目を覚ます夢だ。少なくとも誰もが一度は見たことがあるような夢ばかりだと思う。しかし今見ているこの夢はいつもと違い妙に現実感あふれる夢だった。広い荒野に男が剣を女が杖を構え、大勢の大人を相手にしている夢だ。何が現実感あふれているのかと言うと、その荒野に漂う草の匂いや、風が頬に当たる感触がものすごくリアルなのだ。まるで僕がそこにいるような感じだった。
そしてその男女は何の掛け声も無く同時に攻撃を開始したのだ。目を合わせることも無く、肩を叩いて合図をするでもなく、お互いを完全に理解しているかのように。
そしてその後はあっという間だった。女性がゲームやアニメで言う支援系の魔法を男性にかけ、その男性がものすごいスピードで大人たちを蹴散らしていった。そして・・・
目が覚めた。僕は見知らぬ天井を見上げている。そしてものすごく体が痛い。それもそのはずだ隣には豪華なベットがあるというのに、僕は敷布団すら敷かずに床に寝ているのだから。
「・・・・ここ何処だっけ?」
昨日あったことを思い出す。
そうだ、確かここはトリステインという国だったはずだ。日本ではない、僕のまったく知らない国。いやまず国がどうこう以前に地球ではないんだったっけ?昨日は色々ありすぎてすぐ寝てしまったけど、僕は日本に戻ることができるのだろうか?
そんなことを考えていたら、ベットのほうから「う~ん」という声が聞こえてきた。そういえば僕は彼女、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールの使い魔になったんだっけ。一応ルイズにあれこれ聞きはしたけれど、まだ実感が湧かない。いやいや、実感が湧かないっていうかそもそも使い魔になったなんて納得すらしていない。
しかしこの現状をどうにかできるのは彼女しかいない。僕は彼女に従うしか今のところここで生きていくすべはないのだ。
とりあえず朝は僕がルイズをおこすことになってた気がする。従いたくはないけれど、従うしかないので仕方なくルイズをおこすことにした。
「ほら、もう朝だよ」
そういって僕はルイズの肩を叩いた。
「・・・う~~~ん」
まだ少し寝ぼけているようだ。ルイズは目を擦りながら体を起こした。
「・・・あんた・・・誰?」
勝手に僕を召喚しておいてこの言い草か・・・
「君の使い魔だよ・・・ほら、授業に間に合わなくなるよ?」
「言われなくても分かってるわよ・・・」
ならさっさと起きて欲しいものだ。僕は呆れながらそう思っていたら、彼女が驚きの行動をおこした。僕の目の前で服を脱ぎ始めたのだ。
「って?何してるの!?」
昨日いきなり口付けをしてきたことは儀式だったと言われたが間違えない、彼女は完全に痴女だ。
僕は慌てて部屋から出ようとした。
「ちょっと、何処行くつもりよ」
ドアに手を掛けたところでルイズに呼び止められた。
「何処って、着替え終わるまで外にいるよ!」
「あんたが服を持ってこないでどうするのよ」
ルイズは僕に着替えを手伝わせるつもりなのか!?確か自分のこと・・・というか、ここにいる人達は全員貴族って言ってたな。確かに階級社会の上流階級に位置する人達は、メイドとか召使を雇って家のことや身の回りのことをさせるらしいけれど、僕はそのどちらでもない!まぁ使い魔だけど・・・
「今は君に従うしか」
「ルイズよ」
「・・・今はルイズに従うしかないから従うつもりだけれど、自分でできることは自分でやらないとダメだよ」
話の腰を折られたがすぐ建て直しそう言い返してやった。僕が嫌だからそう言ったって訳ではなく、自分でできることは自分でやらないと、大人になったとき他人にまかせっぱなしの人間になってしまうと僕は思っている。
「あんたは私の使い魔なんだから、着替えを手伝うくらい当然じゃない」
「今はいいかもしれないけれど、大人になってもこんなことを続けてたら、自分じゃ着替えもできない貴族なんだって周りの人に思われてしまうよ?」
「むぅ・・・」
ルイズはどうも貴族ということを誇りに思っているらしい。昨日の夜もルイズの家計について聞かせてもらった。ラ・ヴァリエール公爵家といえばずいぶん有名な家計らいし。自分の家計に誇りを持っているからこそ、自分の家計に泥を塗るわけにはいかないのだろう。
ルイズは僕が着替えを手伝わないということを渋々了承してくれた。まぁ他の仕事で頑張ってもらうと言われたけれど、おそらく他の仕事にこのツケが回ってくるだろう。
僕が部屋を出て数分たった頃ルイズが部屋から出てきた。服装は昨日と一緒のようだ。一緒といっても昨日の服を使いまわしてるって訳ではなく、同じ服を何着も持っているのだろう。シワのない白いワイシャツに学生を連想させるような黒いスカート、それと自分は魔法使いだぞと主張しているかのようなローブを羽織っている。
「ほら、さっさと食堂へ行くわよ」
そういって移動しようとした矢先、すぐ近くの部屋のドアが開きルイズとはタイプの違う赤髪の女性が出てきた。
「げっ」
ルイズはものすごく嫌そうな顔をしていた。てか貴族でもそんな言葉遣いをするのか。
「あら、誰かと思えば平民を召喚したルイズじゃない?」
その女性はものすごく嫌味たっぷりにルイズに向かってそう言った。なるほど、要するにルイズとこの赤髪の彼女は敬遠の仲ってことか。
「おはようキュルケ、さようなら」
ルイズは関わりたくないのか早々にこの場から立ち去ろうとした。だが赤髪の彼女はそれを引き止める。
「まだ合ったばかりじゃないの、それにどうせ食堂へ行くんでしょ?一緒に行きましょうよ」
「何であんたと一緒に行かなきゃ行けないのよ!」
二人は廊下で言い争いを始めてしまった。正直言って勘弁して欲しい、僕ら以外にもまだ部屋から出てきていない人がいるため、二人の声を聞きつけ数人が部屋から顔を出しこちらを見ているのだ。
僕は関係ないですって雰囲気で立っていたけれど。
「あれが召喚された平民かしら?」
「あぁ、あの噂の・・・」
後ろの方から喧嘩している二人ではなく僕の話題が聞こえてくるのだ。はやく喧嘩をやめて移動して欲しい。そう思っていたら足元に何かがあった。僕はただ立っていただけなので物にあたるはずはない。そう思い足元を確認してみると。
そこにはみたこともない大きなトカゲがいた。
「うわあ!?」
僕はびっくりして声を出してしまった。
僕の叫び声に気が付いたのか言い争いをしていた二人がこちらを振り返った。
「あら、あなたフレイムに気に入られたようね」
「ふれいむ・・・?」
この大きなトカゲのことだろうか。ていうかまずそもそもこれはトカゲなのか?
「キュルケそれって・・・もしかしてサラマンダー!?」
ルイズは驚いた様子で問いかけた。
「ええそうよ、しかもあの火竜山脈出身のね」
赤髪の彼女は自慢げにそう応えた。そして今更なが僕のほうを振り返りじ~っと観察された。
「な、なにかな・・・?」
実際この赤髪の彼女もかなり綺麗な人だ。背中を押されたら頭をぶつけてしまうくらいの距離感なため、すこし顔が赤くなってしまう。
「いえ、まだ自己紹介してなかったわよね、私はキュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストーよ、長いからキュルケでいいわ」
ここの人達はみんな名前が長いのだろうか。
「僕は風間 勇人です」
自ら先に名乗った分少なくともルイズよりは礼儀正しいのかもしれない。
「今腹立たしいこと考えなかった?」
ルイズがそう聞いてきた。笑顔だけれど声は笑っていない、てか心を読まないでもらいたい。
そんなことを言っていたら本当に時間がなくなってきたので、急いで食堂へ向かうことにした。
僕の学校にも食堂は存在した。昼休みには学生が多く利用するため、4時限目が終わったらすぐに食堂へ行かないと席が埋まってしまう。決して狭いわけではない、おそらく100人くらいは利用できるんじゃんないかと思う。
それに比べてここの食堂は1000人くらい入るのではないかと思うくらいに広い。そしてテーブルの上にすでに料理が置かれている。しかも僕なんかじゃ一生かかっても食べられないようなものばかりだ。
「これが朝ごはん・・・?」
念のために聞いてみる。もしかしたら今日は特別なお客さんが来ていて、お客さん用に用意されたものかもしれないし。
「ええそうよ、本当は貴族しか入れないけど、あんたは特別に入れてあげてるの」
まるで自分がここの支配人のように言うな。でも昨日は眠くて何も食べてなかったし、朝ご飯が食べられるのはうれしい。
でも現実はそんなに甘くはなかった。僕は今ルイズの後ろに立っている、もちろん食事をするのだからルイズは座っている。そう完全に召使のポジションだ。なんでも用意されている食事は生徒によって違うもので、ルイズが座っている席の食事はルイズ専用のものらしい。つまり僕がどこか席に座ろうとしても、そこは別の貴族の人の食事のため僕なんかが食べてはいけないらいしい。
といっても食事が抜きってわけではない、一応ルイズからパンとシチューが渡された。ここで出されている食事のためおいしいのだけれど、やはり高級店のご飯というのは量が足りなかった。
食事を終えたら次は授業がある。はっきり言って僕が授業を受ける必要はないのだけれど、一般人を野放しにはしておけないというルイズの心配から一緒に授業を受けることになった。なんでも今日の授業は錬金術らしい。僕の知ってる錬金術は科学によるものなのだが、この国に・・・というかこの世界には科学というものがあまりないらしい、ほとんどが魔法で解決できるため科学を必要としていないのだろう。
「皆さんは無事召喚の儀式を終わらせたようですね」
授業の担当教師であろう人が教室の生徒と使い魔を見渡し満足そうな表情でそういった。
「私の名はシュヴルーズ、二つ名は赤土、主に錬金の授業を担当させていただきます」
僕はここで気になったことをルイズに質問した。
「ねぇ、二つ名って何?」
ルイズは授業中に話しかけたせいか少し嫌そうな顔をしながらも質問に答えてくれた。
「要するに通り名みたいなものよ、本名以外の呼ばれ方ってこと」
今朝あったキュルケにも二つ名は存在するらしい、なんでも「微熱」だとか。
「じゃあルイズの二つ名は?」
僕がそれを質問すると何も答えようとはしなかった。授業に集中しているのか、いや単純に無視したようだ。二つ名って響はかっこいいのに、あまり好きじゃないのかな?
小声で話していたのに、ジュヴルーズは声に気がつきこちらを見てきた。
「あらミス・ヴァリエールあなたはずいぶん変わった使い魔を召喚したようですね」
別に嫌味を言ったとかではない、単純に興味があったのだろう。僕を見る目がいかにも興味深いといわんばかりに輝いていた。
「どうせその辺の平民を連れてきたんだろう!」
そんななか一人の生徒が心無い言葉を言ってきた。その言葉に対し我慢ができなかったのかルイズは立ちあがり反論した。
「違うわよ!ちゃんと召喚したもの!」
ルイズと嫌味を言ってきた生徒が言い争いを始めてしまう。
今朝もこんなことあったような・・・あまりクラスの人とうまくやれていないのだろうか。とりあえずこのままでは授業が進まないだろうからどうにかして上げたいのだけれど。僕が間に入ってもなんの意味もないだろう。むしろ悪化する気がする。
「そこまでです。今は授業中ですよ。二人とも席につきなさい」
シュヴルーズが二人の言い争いを止め、授業を再開させようとした。
「しかし先生!私は侮辱されたんですよ!?」
ルイズはこのままでは納得がいかないのか、シュヴルーズに抗議をし始めた。
「それならばあなたの実力を見せてあげなさい。ここにある石を錬金して、好きなものに変えてみせてください」
そういうとシュヴルーズは手に持っていた石を教卓の上に置き、ルイズに教卓の前まで来るように指示をした。しかしその指示に対してクラス中の人達が反論し始めた。
「ルイズやめろ!」
「ゼロのルイズに魔法を使わせるなんて!?」
「先生止めてください!」
何やら皆慌てたいた。そして僕は一つだけ気になるセリフがあった。「ゼロのルイズ」これは考える必要なくルイズのことだろう。だが「ゼロ」とは一体なんのことだろう?そして皆がルイズに魔法を使わせたくなり理由も分からない。そんなことを考えているとルイズが「やるわ!」と言い出した。それを聞いた生徒達はさらに慌てだした。大半の生徒が机の下に隠れるように身を縮めていた。僕は何がなんだか分からずに周りを見ているとキュルケが近くに寄ってきた。
「ほら、あなたも机の下に隠れて」
あたかもそれが当たり前のように言われた。
「え?錬金術ってそんなに危ないものなの?」
「錬金術は危なくないわよ。危ないのはあの子」
そう言ってキュルケはルイズを指差した。
ルイズが危ない?どういうことなのだろう。状況が飲み込めないままキュルケに言われたとおり机の下に隠れることにした。
そしてルイズが詠唱を終え杖を振ったその瞬間。
爆発が起こった。
結果は魔法の失敗だったらしい。魔法の成功確率が0%だから皆はルイズのことを「ゼロのルイズ」と呼ぶのだとか。
ルイズが起こした爆発によりシュヴルーズが気絶し、教室もめちゃくちゃになったため、授業は中断され現在教室の片付けをしている。
「・・・呆れてるでしょ?あんたを召喚した貴族がこんなのじゃ」
幼い頃から魔法を使うと失敗するらしい。勉強熱心なのだがそれが実らず、学院に入り本格的に魔法の勉強をすることで自分も魔法を使えるようになると信じていたが、今のところ成果は出ていないという。
ルイズは常にクラスメイトに馬鹿にされ、自分が魔法を使えないことを使い魔にも知られてしまったことを本気で落ち込んでいた。
でも。
「僕は呆れてなんていないよ」
慰めとかではなく本気でそう思っている。
「なんでよ!?貴族は魔法を使えてあたりまえなのよ!?それなのに私は魔法が使えない!呆れて当然でしょう!?」
ルイズは少し涙目になりながら僕にそう言ってきた。
「僕からしてみれば、爆発を起こせること自体すごいことだからさ」
「・・・何よそれ」
ルイズは驚いた表情で問いかけてきた。
「僕の世界には魔法なんて存在しない。人間にそんな力が無いから僕の世界では科学を利用し、色々なものを作ったり壊したりしてる。だから爆発を起こせることがすごいことだって思うんだ」
「そんなのあんたの世界だからでしょ・・・あんたがこっちの世界で生まれていたら、絶対呆れているわ!魔法も使えない貴族なんて・・・・」
「こっちの人はそうなのかも知れない。けれど僕はこっちの人じゃない。だから呆れたりなんたしないよ」
僕がそういったら、ルイズは少し呆然とした顔をしてすぐそっぽを向いた。
正直言って驚いた。
今まで公爵家の人間だからいい関係を築きたいとか、すごい魔法も使えるのだろうと期待されてきた。そして魔法が使えないってことに気づくと、この程度かと言わんばかりに私に媚を売っていた人間はすぐにどこかへ行ってしまった。実際媚を売って来る人間は嫌いだったので、どこかへ行くことについては全然どうでもよかったのだが、私が自分の家計に泥を塗っているが一番嫌だった。誰もがラ・ヴァリエール公爵家の面汚し、出来損ないと思っていたに違いない。
しかし彼はこう言った。
『こっちの人はそうなのかも知れない。けれど僕はこっちの人じゃない。だから呆れたりなんたしないよ』
もし彼が自分の国ではなく、トリステインに生まれ育っていたら、彼の意見は違ったのかもしれない、それでも私にはその言葉がすごくうれしかった。私の魔法・・・爆発させるだけのただの失敗魔法にも関わらず、すごい魔法と言ってくれたことが何よりもうれしかったのだ。
教室の後片付けも終わり、次の授業まで時間があったため、私は彼に適当に外をぶらついているように命令した。そして私はその辺にいたメイドを捕まえて、私の部屋に敷布団を一組用意しておくようにと告げた。
使い魔が風邪なんて引いたら面倒だかね。
たった一話書くのにすごく時間掛かります。
誤字脱字もあるかもしれません。