そしてシエスタ・タバサ・ギーシュ登場
ルイズに散歩していろといわれたため、今僕はトリステイン魔法学院の校庭を歩き回っている。この学院は本当に広いため、今後のために探索も兼ねて色々と回ってみようと思ったのだ。しかしこの学院、校庭だけでどれほどの広さがあるのだろう。結構な時間歩いたと思うけれど、元いた場所にまだ着かない。学院の中(僕が入れる範囲までだけれど)も見て回りたいのに、これでは時間が足りない可能性がある。
少し歩いたら水のみ場のようなものが校庭の片隅に置かれていた。歩き回って喉乾いたし、どうせなら飲んで行こう。水のみ場の蛇口をひねり水を飲もうとしたその時。
「あ!そこの水はあまり飲まないほうがいいですよ!?」
後ろのほうから声が聞こえてきた。周りに人なんていないし、水を飲もうとしてるのは僕なのだから、間違いなく僕に声を掛けてきたのだろう。
振り返ってみるとそこにはたくさんの洗濯物を持った黒髪ショートヘアーのメイドさんが立っていた。
「あなたはミス・ヴァリエールに召喚されたって言う使い魔の方ですよね?」
生徒だけではなくメイドさんにも噂が広がっているらしい。
「えっと、風間 勇人です」
とりあえず自己紹介しておいた。
「私はシエスタっていいます。ここは洗濯物を洗う場所なので、ここのお水はあまり飲まないほうがいいですよ?」
シエスタはそういうと手に持っていた洗濯物を洗い場の横に置いた。今思い出したが、僕もルイズの洗濯物などを洗わないといけないんだっけ。日本では一人暮らしをしていたため洗濯をしたことはあるのだが、こっちに洗濯機なんてないことくらい僕にも分かる。
「今から洗濯するなら、僕にもやり方を教えてもらえるかな?」
何分手洗いなんて今までしたことがない、祖母くらいの年齢なら昔はやっていたのかもしれないが、洗濯機が存在する現在では手洗いする必要があまりないから教わったことが無い。
「ええ、いいですよ」
シエスタはニコっと笑って応えてくれた。
今思えばここに来てようやくまともな人と会話したのかもしれない。まぁ、最初に校庭にいたコルベールと呼ばれていた男性と錬金術の担任であったシュヴルーズは上から目線ではなくきちんとした対応をしていたけれど、同年代近い人に敬語で話されたのは初めてだった。
それからシエスタに洗濯物の洗い方を一から教えてもらった。今の季節はまだ暖かいため、水を常温で洗い易いが冬になると手がかじかんでしまいきついという。
まぁ季節が冬になるまでここに留まっている気はさらさらないのだけれど。
ある程度洗濯物の洗い方を教わり、シエスタが持っていた洗濯物を全て洗ってしまったため、シエスタは次の仕事をしにどこかへ行ってしまった。最後に「また分からないことがあれば、私でよければ教えます」と言ってくれた。本当にいい子だ。
校庭は一通り見終わったため、次は学院内を見て回ることにした。何度も言うがこの学院はとにかく広い。考えなしに歩き回ったらすぐ迷子になってしまうため、僕が行ったことのある食堂を中心として、そこから色々と見て回ることにした。
見て回るといってもここは勉強をする場所のため、僕には関係の無い部屋ばかりだった。教室・音楽室・体育館などなど、中には魔法実習室っぽいものも存在した。まぁ、僕にはこっちの文字が読めないので部屋の名前は適当なんだけれど。
色々回っていると図書室のようなところにたどり着いた。他に僕が見ても面白そうな部屋もなかったし、字は読めなくても絵を見れば理解できる本もあるかもしれないと思ったため、僕は図書室に入ることにした。
オーストラリアにある図書館の名前なんていったかな?
そうそう「ビクトリア州立図書館」だ。図書館自体が円形になっており、一階だけでなく二階三階と本が収納されている。ここの図書室もそんな感じだ。一階に本棚と机があり、二階三階にも本がぎっしり詰まっている。僕の世界の図書館はデータベースで本を管理しているけれど、ここはそんなもの存在しない。
「一冊の本を探すだけでも2・3日はかかるだろうなぁ・・・」
魔法を使える人は魔法で探すことができるのかもしれないけれど、魔法の使えない一般人には実に不便だろう。
僕でも分かるような本を探そうと図書室を回ってみたところ、一人の生徒が本を読んでいた。
青い髪に眼鏡をかけ、その子の身長ほどあるのではないかと思うくらいの大きな杖を持っていた。そういえば錬金術の授業のときもあの子を見かけた気がする。ずっと本を読んでいたけれど。
今も真剣そうな表情で本を読み進めている。とりあえず邪魔しちゃ悪いと思い、静かにその場から立ち去ろうとした。しかし余所見をしながら立ち誘うとしたため、本棚に肩をぶつけてしまい数冊の本を床に落としてしまった。
その音に気づいたのか青髪の少女は杖を持ちこちらに向けてきた。
「誰!?」
すごい形相でこちらを見てきた。
「ご、ごめん!邪魔する気はなかったのだけど」
どんな魔法を使えるのかは知らないが、魔法なんか掛けられたら下手したら死んでしまう。魔法以前にあんな杖で殴られるだけでも死ぬかもしれないけれど。
「あなたは・・・」
「僕は風間 勇人、一応ルイズの使い魔です」
クラスメイトの名前を出すことで、警戒心を解いてもらおうと試みた。
「あなたが平民の使い魔の・・・」
そういうと何かを考えだした。
無言の時間が続いた。空気が重過ぎる。この状況で立ち去るのも感じが悪いし、どうにか話題を提供したい。
「え~っと・・・君の名前は?差し支えなければ教えて欲しいな」
「・・・・タバサ」
シエスタもそうだったけど、この子の名前も短い。単純にフルネームを名乗っていないだけかもしれないけど。とりあえず無言の時間を壊すことには成功した。
「邪魔しちゃ悪いし、そろそろ行くね?」
そういって立ち去ろうとした。無言で立ち去るよりはいいだろう。
「待って」
立ち去れなかった。何か気分を害すようなことをしてしまっただろうか。
「あなた、おかしな服装をしている」
そして僕のファッションに文句をつけてきた。いや、単純にこっちでは見かけない服だったからそう問いかけてきただけだろうか?ちなみに今の僕の服装は学ランだ。まぁここは僕の学校ではないため上着のボタンを全てあけて動きやすくしているけど。
「あぁ、僕はここの国の人じゃないからね」
そう応えるとタバサはまた少し考えだした。
せっかく壊したというのにまた無言の時間ができてしまった。
「あなたの国はどこにあるの?」
そう思ったらすぐにタバサが質問をしてきた。一から説明するとなると長くなってしまうため、必要な部分を掻い摘んで説明した。
「・・・・そう、あなたの国では魔法ではなくその科学というものが利用されているのね」
「うん」
科学に興味を持ったのか。科学ではどんなことができるのかと色々な質問をされた。当然僕は科学者ではなく、ただの学生なので教えられることは少ないけど。それでも僕が教えられる範囲のことは教えた。
「最後に一つ質問いいかしら?」
「なんだい?」
タバサは言葉を選んでいるのか、少し間が空いてから質問してきた。
「その科学というもので、病気を治せたりはするのかしら?」
科学で病気を治せるか。完全に医療の話だ。こればかりは専門知識が無いためなんともいえない。
「ごめん、それは分からないな。直せるものもあるだろうし、当然直せないものもあると思う」
「・・・そう」
すごく残念そうな顔をされた。何か病気にかかっているのか、それとも誰かが病気にかかっているのか。その辺はプライベートなことなので聞こうとはしなかった。
「でも科学は日々進化しているし、病気だって昔じゃ治せなかったものも、今では簡単に直せるようになってたりするよ」
慰めになるかは分からないけれど、一応事実を告げておく。
「本当に!?」
驚いたような表情でこちらを見てきた。
「う、うん。まぁその病気にもよるけどね。直せるかどうかは僕じゃ分からないから、僕の国に戻る必要があるけれど」
あまりの食いつきに少し驚いてしまった。
「あなたの国にはどうしたらいけるの?」
そう、それが一番の問題だ。
「僕にも分からないんだ。突然こっちに召喚されて、ルイズには戻す方法がないって言われたし。帰り方はこれから探していく予定だけれど」
「なら私も協力するわ」
まさかの協力者ができた。
「それはすごくありがたいけど。いいの?」
「ええ、その変わり帰り方が分かったら私も連れて行って欲しい」
またすごいことを言ってきた。それだけ科学に興味があるのだろうか。
「分かった、約束するよ」
「ありがとう」
そういうとタバサは杖と本を持ちどこかへ行ってしまった。ずっと読んでたあの本はここ(図書室)のものではなかったようだ。
タバサとずいぶん話をしていたのか、外に出てみたら授業を受けているはずの生徒たちが校庭でお茶をしていた。
てか僕は授業まで散歩してろといわれたのに、すっかり忘れて話込んでしまっていた。後で怒られそうだ。そして僕と一緒にいたタバサもまた、授業をサボったことになるのか。
そんなことを考えていたら、ペコペコと頭を下げているシエスタの姿が見えた。
「君のせいで二人の女性を悲しませてしまったではないか!」
「申し訳ございません!」
何かよく分からないけど、助けたほうがよさそうだ。
「シエスタ、どうしたの?」
「ユウトさん!?」
シエスタの顔色は悪く、今にも泣き出しそうだった。
「おや?誰かと思えばルイズの使い魔君じゃないか」
嫌味ったらしく金髪の少年がそう言って来た。理由を聞いてみると、この金髪が落とした香水をシエスタが拾い渡そうとしたところ、その香水はある女性からもらったもので、そのことを近くにいた金髪に好意を寄せている後輩の女の子に知られてしまい、泣かせてしまったのだとか。そしてそれをシエスタの所為にしているらしい。
そしてこの金髪は香水をくれた女性と、後輩の女の子二人に言い寄っていたらしい。
「・・・完全に八つ当たりじゃん」
心の底からそう思った。
「な、何をいっているんだい!そこのメイドがこれ(香水)を拾わなければ、こんなことは起きなかったんだよ!」
「いや、まず二股してる時点でどうかと思うけれど・・・」
僕がそんなことを言うと騒ぎを見に来ていた他の生徒達が笑いだした。
「平民の言うとおりだぞギーシュ!」
「確かに!二股してるお前が悪い!」
周りの生徒にいじられた所為か、ギーシュと呼ばれていたこの金髪の顔が少し赤くなり肩を震わせていた。
「僕に恥じをかかせるとはいい度胸だ。平民」
金髪は懐から杖を抜くと僕の方に向けこう言い放った。
「決闘だ!平民の立場というものを思い知らせてやる!」
よく分からないまま決闘を申し込まれてしまった。
僕は喧嘩すらしたことがないためまず勝てるはずがないが、金髪は決闘しないと怒りが収まらない様子だった。まぁ2・3発殴られて適当に倒れれば丸く収まるだろうと考えた僕は、言われるがままに決闘場所である広場まで着いていくことにした。
広場に着く頃には野次馬の数が倍以上に増えていた。そしてその中にルイズの姿もあった。
「ちょっとあんた!何やってるのよ!」
ルイズが僕に近づいてきてそういった。
「いや、何か決闘申し込まれちゃって」
ことの重大性をあまり理解していない僕は頭をかきながらそういった。
「今すぐギーシュに誤って!まだ許してもらえるかもしれないわ!」
「僕は平民ごときに侮辱されたんだよ?頭を下げるだけじゃ許す気になれないなぁ」
すかさず金髪が反論してきた。
「ギーシュ!決闘は禁止されているはずよ!」
「それは貴族同士の決闘の場合だろう?これは貴族と平民の決闘さ」
何を言おうと決闘するまで許しちゃくれないらしい。
「僕が決闘すれば済む話なんだろう?」
僕がルイズに向かってそういうと何も分かってないというような顔をされた。
「あんたね!平民と貴族の決闘なんて勝ち目はないのよ!」
「元々勝つ気はないさ、数発殴られて倒れるつもりだよ」
僕がこっそりそう告げる。金髪に聞こえてこの作戦がばれでもしたら本当にボコボコにされそうだからだ。
「やっぱり分かってない!勝つか負けるかなんてもんじゃないわ!下手したら殺されるのよ!」
「・・・・・・・・・・・・マジ?」
訂正しようどうあがいてもボコボコにされるらしい。
ていうか僕今日死ぬかもしれない。
本当は決闘の終わりくらいまで書こうと思ってたんですけどタバサとのやり取りが想像以上に長くなってしまいました。