ルイズに衝撃の事実を告げられ、もはや僕は人生を諦めていた。当初の計画では数発殴られ気絶したフリをして、金髪がどこかへ行くのをやり過ごすつもりだったのだが。
どうやらこの決闘はどっちかが死ぬまで続けられるらしい。
「さぁ平民!さっそく始めようじゃないか!」
向こうは殺る気満々のようだ。仕方が無い、喧嘩をしたことが無いがとりあえず拳を握り相手の出方を伺おう。見たところ腕っ節に自信があるようなタイプではないし、もしかしたら勝てるかもしれない。
「腹を決めたみたいだね。逃げなかったことは褒めてあげよう。僕の名はギーシュ・ド・グラモン。冥土の土産に覚えておきたまえ」
そういうとギーシュは杖を振り三体の人形を作り出した。
前言撤回そうだよね向こうは貴族だもんね。魔法使ってくるよね。後ろの方でルイズが何か言っているが、もう僕にはその言葉は届かない。今は目の前の人形から目を放してはいけないからだ。
腕に自信があるわけでもないし、反射神経だって人並み程度だ。僕がこの人形に勝つ方法は一つ。相手の先を読むことだ。
人形が動きだした。ギーシュは余裕なのだろう。人形を3体召喚したにも関わらず、動かしているのは一体だけだ。
まぁ僕としてはありがたい。最初から三体同時にかかってこられたら正直先読みも何もあったもんじゃない。
そしてついに人形が僕の目の前までやってきた。僕は全神経を研ぎ澄ます。
人形の左足と左肩が前に出ている。つまり右腕で攻撃してくる可能性が高いってことだ。僕は人形の右腕が動くよりも先に左前方へと移動する。すると案の定人形は右腕で攻撃を仕掛けてきた。少しかすったが人形の攻撃をかわすことには成功した。しかし避けるだけでは絶対に勝てはしない。攻撃をはずし体制が崩れている人形の頭を掴み、全体重を掛けて地面へと叩きつける。
ここの地面が硬くて助かった。なんとか一体の人形の頭を潰すことに成功したのだ。そして頭を潰したことにより制御できなくなったのか、人形はぴくりとも動かなくなった。
それにしても周りが騒がしい、おそらく僕が人形を一体倒したことで盛り上がっているのだろう。だが今の僕はその歓声を聞く余裕なんてどこにもない。次はおそらく二体同時にかかってくるだろう。そうなれば先読みをできる自信がない。でもやるしかないのだ。僕はまだ死にたくないからね。
なんだあの平民は!?僕のワルキューレを意図も簡単に倒してしまった。最初まったく動かなかったので怖気づいたとばかり思っていたが、まさか攻撃を誘っていたなんて。
「おいおい!あの平民一体倒したぞ!?」
「マジかよ!ギーシュ負けるんじゃねーの?」
周りの野次馬が騒がしくなってきた。くそ、どこまでも僕をコケにしてくれるなあの平民。しかし次はそうはいかない。そっちのやり方はわかった。
もう一体の人形が動きだし、僕の背後へと回ってきた。二体同時に攻撃してくると思ったが、一体づつしか操れないのかも知れない。しかし今度の人形は剣を持っている。しかもおもちゃなんかではない。斬られれば間違いなく右脳と左脳が真っ二つになってしまうだろう。
人形は剣を両手で持ちこちらに近づいてくる。そしてその剣を頭上に構えそのまま振りかざしてきた。一気にかたをつけるためにあせったのか、先ほどよりも動きが単調で、剣を持っている分遅かった。これならば先読みせずとも避けられる。
僕は先ほどと同様人形の攻撃を避け、人形の頭を掴み地面に叩きつけた。これで残りは一体だ。
そう思った矢先後頭部に激痛がはしった。
「がぁ!?」
僕は思わず声を上げ、その場に倒れこんでしまった。何が起こったかわからなかった。意識が朦朧としている。ふと上を見上げるともう一体の人形がそこに立っていた。
やられた、さっきの倒した一体は囮だったのだ。さっきの人形をわざわざ僕の背後へ回すことで、僕の視界からもう一体の人形を見えなくしたのだろう。そしてわざと攻撃を遅らせて人形を倒させる。そこへ待機していた人形が僕の背後から攻撃したのだ。
「はっはっは!無様だな平民!わかったかい!?平民が貴族に勝てるはずがないんだよ!!」
後ろのほうでギーシュが笑っている。その声も僕にはもう聞き取れないくらいだ。
「もういいでしょ!やめなさい!」
近くでルイズの声が聞こえる。
「退きたまえ、まだ止めを刺していないだろう?」
「相手は平民なのよ!?ここまですれば十分でしょ!?」
「まだ僕の気は済んでいないよ?退かないというのなら、君ごとワルキューレの餌食になってもらうよ」
「やってみなさいよ!」
どうやらルイズが人形の前に立ち僕を守っているようだ。これは僕が引き起こしたことなのだから、君がそこまでする必要はないのに。どうにかしたいけど、体が思うように動かない。
「なんだいルイズ?それに情でもわいたのかい?」
「それじゃないわ!ユウトよ!!」
ルイズが僕の名前を呼んでいる。そういえば名前で呼んでもらったのは初めてじゃないかな。あぁくそ、助けたいのに僕は何もできないなんて、朦朧とする意識の中頑張って腕を前に伸ばす。すると手に何が当たった、さっき倒した人形が持っていた剣のようだ。僕は無意識のうちにその剣を握っていた。
「仕方ない、ならそこの平民と一緒に眠るといいさ、僕は一応確認はとったよ?退かなかったのは君のほうだからね!?ワルキューレ!!」
ギーシュがワルキューレと呼ばれる人形に命令をする。ワルキューレは腰につけていた剣を抜き、ルイズもろとも斬ろうとした。
ルイズは思わず目を瞑る。情けない自分の使い魔すら守ることができないなんて、私がちゃんと魔法を使えていたら、決闘なんてさせないで止められていたかもしれないのに、死を覚悟したその瞬間、剣が何かを斬る音が聞こえた。
私は斬られてしまったのだろうか。そんなことを思ったが何処も痛くない、閉じていた目を開けてみると、そこには後頭部から血を流しているユウトの姿があった。
「あ、あんた!?大丈夫なの!?」
さっきまで息を切らし、今にも死にそうだったはずのユウトが私の前に立っていたのだ。
自分でも何がなんだか分からなかった。剣を握ったその瞬間、さっきまで見えてなかった視界が一気に回復し体が自由に動いたのだ。そして朦朧とする意識の中ルイズとギーシュの会話をかろうじて聞いていたため、ルイズを守らないといけないと思いルイズの前に立っていた人形に斬りかかったのだ。
「大丈夫・・・みたいだね」
といっても完全に回復したわけではない、まだ後頭部が痛いけどそれでも今までにないくらい体が軽く感じだ。持っている剣もまるで羽のように軽いのだ。
「そ、そんな馬鹿な!?」
ギーシュは慌てているようだった。完全に僕を倒したと思っていたのだろう。
「くそ!?」
ギーシュはまた杖を振り今度は今までの倍の六体もの人形を作り出した。
「いけ!ワルキューレ!!」
声を荒げている。かなり動揺しているようだ。そして六体もの人形が今度は一斉に僕に襲い掛かってきた。
「ユウト!?」
後ろでルイズが呼んでいる。
「大丈夫」
僕はそれだけ言ってルイズに人形の攻撃が当たらないところまで移動した。なんだろうこの感じは、ただ軽く走っただけなのに一瞬で人形の目の前まで来ていたのだ。だが今は深いことは考えないことにする。僕が今考えることは目の前の人形を全て倒すことだ。
さっきまで全体重を掛けて頭を壊すのがやっとだった人形が、この剣で斬るとまるで豆腐の用に簡単に切れてしまったのだ。まずは一体、そしてまた一体と、見る見るうちに人形を倒してしまった。
「後は君だけだよ」
僕はついにギーシュの前に立ち、剣を向けてそういった。
「ひ、ひいいいい!?」
ギーシュは怖気づいたのか、腰を抜かしその場に倒れこんでしまった。
なぜこんなことになった?僕はただ平民を懲らしめてやろうと思っただけなのに。さっきだってルイズを斬るつもりなんて当然なかった。寸止めして「使い魔の教育はちゃんとすることだね」といいそのまま立ち去るつもりだったのに、今僕の目の前にはその使い魔が剣を向けて立っている。
あぁ斬られる。僕はまだ死にたくない。やりたいことだってたくさんあるのに、こんなとこで死ぬなんて、そう思っていたが僕の目の前にいた使い魔は予想外の行動に出た。
そう剣を下ろしたのだ。
「な、なぜ?」
僕にはその行動の意味が分からなかった。僕の彼を殺そうとした。まぁ本当に殺すつもりはなったけど。
「僕は殺すつもりなんてないからね。君が二股をやめて、シエスタに謝ってくれさえすればそれでいいよ」
「で、でも僕は!君の主も斬ろうとしたんだよ!?」
彼は僕を斬らないと言っているのに、自分が不利になるようなことを言ってしまった。それだけ彼の行動が理解できなかったのだ。
「本当は斬るつもりなんてなかったんでしょ?」
「な、なぜそれを!?」
僕はそんな素振り一度も見せなかった。最後まで悪役を演じ、貴族というものの恐ろしさを思いしらせてやるつもりだったのに。
「自分でも分からないけれど、ルイズを斬ろうとしていたあの人形、寸前のところで剣を振るのをやめたのが見えたからね」
見えた?あの一瞬で?僕が剣を止めろと命令した瞬間に彼がワルキューレを斬ったというのに、その一瞬に見えたというのか。
「それでどうかな?さっき僕が言ったこと守ってくれなら、これで終わりにしたいのだけれど」
願ってもいない提案だ。それくらいで僕の寿命が延びるというのならいくらでもその提案に乗ろうではないか。
「約束しよう!もう二股なんてしないし、あのメイドにだって誤りにいく!!」
「そう、よかった」
彼はそういって笑うと、スイッチが切れたかのようにその場に倒れ込んだ。
「ユウト!?」
ルイズが彼のところまで駆け寄ってきた。どうやら相当無理をしていたようだ、僕がしたことなだけに罪悪感が生まれた。
「僕が運ぼう」
ボロボロになった彼の体をレビテーションという浮遊魔法で浮かせ、ルイズの部屋まで送り届けることにした。
一体僕はどれほどの時間眠っていたのだろう。まだ体に痛みはあるけど、それでも日常生活に支障がでることはないだろう。ふかふかのベットから体を起こすと、ドアがノックされシエスタが部屋に入ってきた。
「ユウトさん!?目が覚めたんですね!」
そういうと僕のすぐ近くまで近寄ってきて、急に頭を下げられた。
「え!?どうしたの!?」
いきなりそんなことされても僕には何のことなのか分からなかった。
「私のせいでこんなことになってしまって、本当に申し訳ありませんでした!」
どうやら僕とギーシュが決闘したのは自分の所為だと思っていたらしい、きっかけはそうかもしれないけど、直接の原因はシエスタではない。
「シエスタの所為じゃないよ、元々はギーシュが悪かったんだし、彼にも君に謝るように言っておいたからさ」
「はい!びっくりしました!ユウトさんが倒れたって聞いてお部屋に様子を見に来たら、貴族の方にいきなり頭を下げられたのですから!!」
どうやら彼はちゃんと約束を守ってくれたらしい、それだけ聞ければもう十分だ。
「そうか、ところでルイズは?」
僕が倒れた直後ルイズの声が聞こえた気がしたけど、彼女は今どこにいるのだろう。
「ミス・ヴァリエールならそこで眠っています」
ルイズは自分の腕を枕変わりにし、部屋にあるテーブルで眠っていた。
「三日三晩寝ずに看病してたようですよ。さすがに疲れが貯まって寝てしまってますけど」
そうか僕は三日も眠っていたのか。ルイズが起きたらお礼を言わないといけないな。
「では私は仕事がありますので」
「うん、ありがとう」
シエスタも看病の手伝いをしてくれていたのだろう。忘れずに御礼を言った。
「いえ、私にできることがあれば何でも言ってください!」
そう言ってシエスタは部屋から出て行った。
さてどうしよう。たっぷり睡眠をとったから今はもう眠くないし、これといってやりたいこともない。
すると先ほどまでテーブルで寝ていたルイズが目を覚ました。
「・・・・う~ん・・・あ!あんた!?」
「やぁおはよう」
よだれが垂れてるよと教えてあげたら、ルイズは顔を赤くして口元を拭いた。
そして怒っているのか、僕を睨みながらこちらに近寄ってきた。
「それで?私の言うことも聞かずに勝手に決闘なんてして、いい訳があるなら聞いてあげるわ?」
言い方は易しいが手には杖を持っていた、絶対許す気ないよね。
とりあえず僕は決闘にいたるまでの経緯を簡単に説明することにした。
「へぇ、あんたはそのメイドのために私の指示を無視して決闘したっていうの?」
主よりもメイドを優先した所為か、先ほどよりも怒っているように見える。これは何か言えば言うほど悪い方向に進みそうだ。
「えっと・・・その・・・ごめん」
素直に謝ることにした。一方的に受けた決闘とはいえ、僕も断ろうとはしなかったからだ。
「・・・・まぁいいわ、それよりユウトに聞きたいことがあったのよ」
聞きたいこと、まぁなんとなく想像はつくけど。でもその前に。
「そういえば、僕のこと名前で呼んでくれるようになったんだね」
さっきまで「あんた」だったのに、決闘の最中もそうだったけど僕のことを「勇人」と呼んでくれることが素直にうれしかった。
「は、話の腰を折らないで!それよりも!!剣を使えるなら使えるっていいなさいよ!!」
そう決闘の最中は気にしないようにしてたけど、それが一番の謎だ。
「それが、僕は剣なんて使ったことないんだよ、今まで一回もね」
「はぁ!?何よそれ?決闘のときはギーシュのワルキューレを一気に六体も倒してたじゃない!?」
僕は自分の身に起こったことをルイズに告げた。剣を握ると体力が回復したこと、剣が羽のように軽かったこと。
それを話すとルイズは少し考えこんだ。
「・・・・もしかしたら使い魔の特殊能力かも知れないわね」
どうやら使い魔によっては契約をした際に特殊能力を持つ者がいるらしい、主の考えが分かったり、主と会話できるようになったりなど。
僕は人間なため剣を扱うことのできる能力が付いたのではないかとのことだ。
しかし剣を扱える能力ってだけで、体力が回復するのだろうか。またあの剣を握ったとき様々な情報が頭の中に流れ込んできた。剣を構える姿勢、筋肉の使い方、周囲の確認の仕方などだ。まるで自分が剣を扱う達人になった気分だった。
まぁ今は何も考えずにご飯を食べよう。三日三晩何も食べてないわけだし。
次回は買い物あたりです。