やはりゴーレムとの戦いで力を使った所為か、体中が筋肉痛だ。ギーシュのときは六体の人形を相手に走ったり斬ったりしたことから、体がボロボロになってしまったが、今回はゴーレムの足を斬ったり少し走ってロングビルにボディーブローを決めたくらいだったため、まだ筋肉痛程度で済んだようだ。
舞踏会が終わった翌日、僕はまたしてもオールドオスマンのいる学院長室に来ていた。昨日教えてもらった遺品の場所を教えてくれるとのことだ。
「本当は先にミスター・コルベールに君の紋章を調べてもらいたかったのじゃが、彼は冒険が好きでね、休暇をとってはすぐどこかへ行ってしまうのじゃよ」
要するに今学院にいないってことか。
「場所はこの紙に記しておる、君の主には申し訳ないが自分で許可を取ってきてくれんかのう、ワシもこれから行くところがあるのじゃ」
「わかりました、ありがとうございます!」
御礼を言って学院長室から出て行こうとすると、何かを思い出したかのようにオールドオスマンに呼び止められてしまった。
「おっとそうじゃ!これをもっていきなさい」
渡されたのは小さな紙切れだった。
「えっと・・・これは・・・?」
「たんなるお守りじゃよ、肌身離さず持っていなさい」
「はい、ありがとうございます」
お守りといわれたそれをポケットに入れ、少し離れることを説明するためにルイズが現在授業を受けている教室へと向かった。
オールドオスマンは城下町へと向かっていた、通常貴族というものは平民や貴族落ちを見下す。貴族落ちとは、元々貴族だった者がなんらかの原因で階級が平民に落ちることだ。しかしオールドオスマンは階級などに興味はなく、誰にでも平等に接していた。そしてその中にはもちろんミス・ロングビルだって例外ではなかった。
ロングビルは衛兵に捕まり、牢獄に入れられていた。
私はどこで選択を誤ったのか、途中までは順調だった、学院から破壊の杖を盗むことにだって成功した。だが破壊の杖を売り飛ばす前にどれほどの力なのかを確かめようとしたのが運のつきだった、いやあの少年の存在がそもそも私の計画をダメにしたのだ。
私は元は貴族だった、しかしある人達を匿ったことで国に家名を潰されてしまった。それ以来私は貴族を嫌い、貴族を狙って盗賊をしてきた。魔法だけでなく体術だって身につけた。しかしあの少年に敵わなかった、完敗したと言ってもいい。
「まだあの子達だっているのに・・・こんなところで・・・・・!!」
自分の不甲斐なさに嫌気がさしていた、貴族でなくなったら私は何もすることはできない、真面目に働くなんて私にはできない、学院で働いていたのだって獲物がそこにあったから頑張れたのだ。今の私から盗みを取ったら、もう何も残らない。
そんなことを考えていたら階段から誰かが降りてくる音が聞こえた。
「あら?ご飯の時間には少し早いんじゃないの?」
苛立っていた私は少し嫌味っぽく降りてくるであろう看守に向かってそういった。
「残念ながらワシは看守じゃないのでな、ご飯までは持ってきてないんじゃよ」
「オールドオスマン!?」
なぜ彼がここにいる!?しかも今は捕まっているため杖だって手元にない、ダメだ逃げ道がどこにもない。
「そんなに警戒せんでも、取って食おうなんておもっとらんよ」
オールドオスマンはいつもと変わらぬ口調で私に話しかけてきた、敵意や殺意なんてまったくない。
「・・・なんであんたがここにいるんだい」
「君と話がしたくてのう」
彼の腹の中は前から読めない、考えてることが顔に出ずたまに子供のようにふざけた行動をとる。
「なんの用だい・・・って、決まっているか」
どうせ破壊の杖の話だろう、彼が私に問いかけることなんてそれしかない。
「君が匿っている子達のことじゃよ」
「な、なぜそれを!?」
私はこのことを誰にも口外していなかった、どれだけ信頼できる人物にもだ。
「長生きしていると情報を集めるのが趣味になったりするのじゃよ」
「・・・・それで、私をどうしようって言うんだい」
あの子達の話を持ちかけられてしまっては、今の私にはどうすることもできない。この男に従うしか道はないのだ。
「実はのう、ワシの友人が君の匿っている子供達を安全なところに匿ってくれるというのじゃ」
「・・・・はぁ!?」
訳が分からない、いきなり来てあの子達を匿ってくれるだって?当然信用できる話じゃない、第一に彼が私の悩みを解決して何の得があるというのだ。
「一体何を考えているんだい!?」
「ワシが考えておることは、また君と仕事がしたいということだけじゃ」
あまりにも変な応えに呆然としてしまった、私とまた仕事がしたい?私は彼を裏切ったというのに、そんな私をまたそばに置いておくだと?
「ワシももう歳じゃ、後どのくらい生きていけるか分からん。美人の秘書が近くにいると何かと元気がでるのじゃよ」
「・・・・なんでそこまでして、私を庇うということはあんたも世間で何言われるかわかったもんじゃないんだよ!!」
貴族からお宝を盗みを続けてきた私は、貴族からしたら許せない存在だ。
「まだ土くれのフーケの正体は世間に知られておらん、ワシが口止めをしておるからのう、老い先短い年寄りのわがまま聞いてもらえぬかのう?」
「・・・本当にあの子達を匿ってくれるのかい?」
「ああ、約束しよう」
今ままで彼の考えていることが分からなかったが、このときだけは彼の言葉が嘘ではないと感じることができた。
「・・・わかったよ、あんたが死ぬまでは秘書としてあの学院にいてやるさ」
いつ以来だろうこれだけ安心した気分になれるのは、あの子達も安全な場所に移動でき、そしてあの子達を養うための安定した収入ももらえる。まぁこの牢獄から出られるまで時間はかかりそうだけど。
「さて、そうと決まればさっそく働いてもらはなくてはのう」
オールドオスマンは袖から牢の鍵と思わしきものを取り出して、私とオスマンの間にあった鉄格子の扉をすんなりと開けてしまった。
「ちょっと待て!?なんで鍵を持っているんだい!?」
「細かいことは気にしないことじゃ、強いて言えばワシのコネというやつじゃ」
このジジイ底知れない・・・そんなことを考えながら私はまた学院へと戻って行った。
ルイズの説得に随分と時間が掛かってしまった。まだこっちの世界に来て慣れないことだらけだというのに、僕一人だ旅をさせるなんて絶対にさせられないとのことだった。
しかし僕だって自分の国に帰るために必要なことなのだとルイズに言うと、ルイズは少し暗い表情を見せた後に渋々了解してくれたのだ。
僕は背中にデルフリンガーを背負い、腰にナイフをつけ、オールドオスマンから少しだけ頂いたこちらのお金を懐に入れ数日の間旅立つことにした。
目的地まではそれなりに距離があるため、特別に馬を借りる許可をもらいまずは城下町まで行くことにした。
「やっぱり乗りなれてないから腰にくるなぁ・・・」
「それで、最初の目的地はどこなんだい相棒?」
「まずは必要なものを買いに城下町まで行こうと思ってるよ」
不慣れに馬を操る僕にデルフリンガーが質問してきた。
「必要なものって何だ?」
「まぁ食材とか火をつけるものとかかな、城下町から目的地まで一日くらい掛かるから、途中でキャンプすることになると思うし」
「なるほどな」
こういうときデルフリンガーがいてよかったと思う、数日の旅とはいえ話相手がいるのといないのでは全然違っただろう。
先日城下町に行ったときは、ルイズが馬を操っていたため2・3時間で到着したが、やはり自分で馬を走らせるとまったく思うように進んでくれない、馬が途中で止まったり道の草を食べたりなどして、結局城下町に辿りついたのは学院を出発して4時間くらい後のことだった。
「・・・・疲れた」
「なぁ相棒、このペースだと予定より旅が長引くんじゃねーか?」
デルフにもっともなことを突っ込まれてしまった。
「ま・・・まぁ・・・大丈夫だよ!」
ルイズには三日くらいで帰ると言ってあるので、予定が遅れてしまうと全然大丈夫ではなかった。
とりあえず旅に必要のものを一通り買い揃え、すぐに出発することにした。すでに日が暮れてきていたが、ここで宿に泊まってしまっては本当に予定が遅れてしまうため、恐怖心と戦いながら暗い森の中を突き進むことにした。
日が完全に落ちてはいないとはいえ、背の高い木々の葉が日光を遮っているため、まったく周りが見えなかった。
「これって下手したら遭難するよね・・・」
「まだ道があるからなんとかなるがな」
馬も走り続けて疲れてしまったのか、走る速度が遅くなって来ている。
「仕方ない、少し休憩しようか」
僕は馬を降り城下町で買った水を飲ませて上げた。
「うわああああああ!?」
森の中から悲鳴が聞こえてきた、距離はそれほど遠くないようだ。
「相棒!!」
「わかってる!!」
僕はデルフリンガーを抜き、声のする方へと走って行った。
悲鳴が聞こえたところまで来てみると、そこには男性が腰を抜かして倒れているのが見えた。
「大丈夫ですか!?」
「き、君は・・・!?」
「通りすがりの者です、何があったんですか?」
この男性を見つけることができたのは、この男性が手にランタンを持っていたからだった。ランタンは僕らを中心に半径10メートルくらいを薄く照らしており、それより先はまったく見えない、この男性が何に怯えていたのかまったく分からない状態だった。
「オ・・・オーク・・・・が・・・」
オーク?オークって確かファンタジーの物語に出てくる豚みたいな生物だったかな。
「おいおい!!この近くにオークがいるってことか!?」
デルフリンガーがあせったように男性に問いかけていた。
「オークってそんなに危険な生物なの?」
「普通ならそんな危ない奴らでもないが、今のこの状況が最悪だ!!奴らは鼻がいい、気を抜いてるとすぐに殺されちまうぞ!!」
デルフの言葉に気を引き締め、僕はあたりの気配を探ることにした。
木の枝が折れる音が聞こえ、そちらを振り向いてみると、顔が豚で巨大な体に二足歩行の生物がこちらに向かって突進してきた。
「ぐおおおおおおおおおお!!!!!」
その叫び声だけでも足が震えてしまう、そしてこの男性を守りながら戦う必要があるため、むやみに移動することができない。
「でもやるしかないよね!!」
僕は突進してくるオークに向かいデルフを構え、距離をつめてきたところで水平に斬りかかった。
するとオークはその攻撃を読んでいたのか、手に持っていた棍棒のようなもので防がれてしまった。
「あの棍棒硬い!?」
あの巨大なゴーレムでさえ簡単に斬ってしまったこの能力を持ってしても、このオークが持っている棍棒を斬ることができなかったのだ。
そしてオークは僕から距離をとり、また暗い森の中へと姿を隠してしまった。
「今ので殺れなかったのが痛いな!完全に警戒されちまってるぜ!!」
オークは知能が高いのか、完全に息を潜めているようで先ほどのように気配で探ろうとしても見つけることができなかった。
すると暗い森の中から一本の矢が僕に向かって放たれたのだ。
「危なっ!?」
間一髪のところで避けることができた、男性が持っているランタンのおかげで飛んでくる矢をギリギリ見ることができたのだ。
「さっきの奴棍棒だったよね・・・?」
「誰も敵が一人だなんて言ってないぜ!!オークってのは元々集団で行動する種族なのよ!!」
「それ先に言ってよ!!!」
予想外の言葉に今僕は絶体絶命だということを改めて実感した。
森の奥から複数の気配を感じた、3体・・・いや5体はいるだろうか、どちらにしてもこれ以上オークの増援が来てしまっては万事休すだ。
一瞬生きることを諦めかけたその瞬間、森の奥から一体のオークが出てきた。
「なんのつもりだ!?」
「待て相棒!!様子がおかしい!!」
出てきたオークは膝から崩れ地面に倒れてしまったのだ、そしてその背中には一本の剣が刺さっていた。
そしてオークが倒れたのを合図にするかの如く、森の中から次々とオークの悲鳴が聞こえてきた。数分後あたりはすっかり静かになっていた、僕もデルフリンガーも何が起こっているのか状況がつかめなかった。オーク以上にやばい存在がすぐ近くにいるのかもしれない、気を引き締めて周囲を警戒していると、森から数人の男女が姿を現したのだ。
「警戒しなくていい、私達は敵じゃないよ」
「がっはっは!!あのオークに一人で立ち向かうとは!!なかなかやるじゃねーか坊主!!」
礼儀正しい男性と、がさつそうな大男が僕に向かって話しかけてきたのだ。
この人達は一体何者なのだろうか。
投稿を22時に統一しようとしています。
現在時刻21時52分、ギリギリでした・・・・