フーシャ村の大海賊と大賞金稼ぎ   作:NEW謝

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劣等感

 「やり用なんて、いくらでもあったんだよな……」

 

 寝起き一発目にしては、我ながら情けないセリフだった。

 

 ぼんやりと天井を見つめる。

 

 頭の中は、昨日の山賊の事でいっぱいだった。……いや、戦いというほどのものでもないか。

 

 相手が強いと分かってからの俺は、多分自分は一般人だから負けても仕方無いと、負ける言い訳ばかり探していたと思う。

 

 ……ここは、負けたら死ぬ世界だろ。

 

 何もかもが情けなくて、俺は自分の惨めさから、ベッドに拳を叩きつけた。

 どうやら俺には、現実から目を逸らすという立派な特技があるらしい。

 変えようの無い過去に言い訳をして、目の前から逃げようとする癖が。

 

 「こんな事してたってしょうが無いのになあ」

 

 俺は自分の惨めさを酷く痛感した

 俺は手で顔を覆い隠しながら、ベッドの上で軽く死にたくなってきた。

 

 ドン!!

 

 そんな時、突然部屋の壁がぶっ壊れた。

 壁ぶっ壊す人間なんて一人しか心当たり無いや。

 壁は完全にぶち抜かれ、粉塵がふわっと舞っている。

 

 「目が覚めたようじゃな」

 「え、英雄ガープ」

 

 やはり主人公モンキー・D・ルフィの祖父で海軍の英雄、モンキー・D・ガープだった。 

 

 俺はまず、ガープの大きさやオーラなど存在そのものに驚いた。この村で生活してりゃたまに見かける事もあるが、こんなに近くで見たことは無かった。

 それに「目が覚めた」と言った。俺が目覚めたタイミングで現れられる化物さにも改めて感心をする。

 

 生物としてじゃない、存在としての格が全然違う。この人と同じ世界に存在してる事が不思議で溜まらない。

 

 

 「英雄か」

 

 ガープは俺の寝ているベッドに腰掛けてきた。ベッドはガープの重さと勢いで悲鳴のような軋み音を立てた。俺は潰される前に、急いで足を避ける。

 ガープは腕を組みながら俺の方を見てくる。

 

 笑顔でもやっぱ怖ーよこの人。

 

 「えっと、英雄って呼び方苦手なんでしたっけ?」

 

 それとなく話題を振ってみる。知識の断片では、確かそういうエピソードがあったはず。天竜人を助けたとかで面倒事を抱えて、それからは……みたいな。

 で呼び名自体はそれ以外にも功績がデカすぎて妥当、みたいな記憶もあるんだが……まぁ良く分からない。

 

 「ルフィはどうされました?」

 「お前さんもルフィの知り合いか? 

 すまんがルフィは、しばらくわしの知り合いに預けてとる。

 立派な海兵に育て上げるまで、会うことはできんじゃろう」

 「……そうですか」

 

 わーお。今日がルフィとエースの出会いの日だったらしい。 

 そりゃONEPIECEで暮らしてればこんな日も来るよな、いざこういうイベントが目の前で起きると、流石に自覚せざるを得ない。

 まぁその内ここで強くなったルフィによって、インペルダウンもエニエスロビーも襲撃されるのかと思うと、俺の胃が痛くなる。

 

 「あまり無理をするな」

 「いえ、問題ありません」

 

 (アンタの孫のせいだからな)

 

 「ルフィの知り合いならお前さんも、海軍に入る気はあるか?」

 「今のところ無いですね。集団行動、苦手なんで、それにキッチリしたのも苦手です」

 「なるほどのう」

 

 マイペースなガープだが、俺の返事を聞くと簡単に引き下がった。本気では無かったのだろう。

 本音を言えば目の前で、鼻ほじってて欲しいが、こればかりは諦めるしかない。

 

 「まあ、物騒な時代ではあるからの。ある程度、強くはなっておいた方がええ」

 「それは思ってます。……将来的には、賞金稼ぎとかが現実的ですかね。ルールに縛られすぎず、けど戦えるくらいにはなりたいっていうか」

 

 目指す場所は、正義でも悪でもない。

 自分が納得できる場所だ。

 俺には、海軍になれるほどの覚悟も、海賊になれるほどの理由もない。

 ただせっかくワンピースに来たなら、戦ってみたい気もある。

 

 「ほう」 

 

 俺の返答を聴いたガープは、先程ベッドに座った時と同じ目を向けてくる。

 やめろ俺はそう言う視線には敏感なんだって。

 

 「え、俺何か墓穴掘りました?」

 

 「お前さんは他の海に出た事無いじゃろ」

 「まぁそうですね東の海以外、行ったことも見たことも、」

 

 あ、成る程その話ですか。

 

 「物騒なのはそうじゃな、この村にも山賊は出る」

 「……」

 

 俺は心当たりがあるので、口数を減らしてこれ以上ガープに情報を与えない様に注意する。

 

 「じゃが」

 

 遅かっただろうか? 俺を見るガープの眼力が強すぎてそこから目をそらせない。俺は唾をぐっと飲み込んで次に来るだろう言葉を待つ。

 

 ゴクリ

 

 「あー何だ忘れた」

 

 「え?」

 「もういいわい」

 

 シーン

 

 「いや絶対バレてましたよね!?俺がアンタの軍艦に近づいてたこと!」

 

 「おー、そうじゃったそうじゃった。ガハハハ!」

 

 ズルい尋問しやがってジジイ、そんなんされたら絶対絶命直後のG5でもツッコミ入れちゃうんだぞ。

 

 「まぁすぐ諦めましたよ」

 

 2.3週間前、珍しく軍艦で来たガープが山に登っていった。

 その時興味本位でこっそりと軍艦に近づいてみたんだ。 

 

 あの軍艦サンドバッグなら、こんな俺でも強くなれるんじゃないかと思ったんだ。

 でも実際、軍艦の前に拳を突き出してみると、痛いのは嫌だしバレるのも怖くなって結局逃げ帰った。

 

 「で、そのあと真面目そうな海兵さんに見つかって、ガープさんに伝えられたってわけです。……完全な不審者の俺が、100%悪いんですけどね」 

 

 ガープはまた腹を抱えて笑っていた。

 こっちは真顔で謝罪してるのに、なんなんだこの温度差は。

 

 「・・・・・・もう完全に白状しますよ」

 

 観念した俺の声に、ガープはふっと笑いを収めた。そして、少しだけ真面目な顔になる。

 

 「俺は新世界で通用する程の強さを夢見てます。それは最弱の海で誰かに守られているようにある村じゃ、想像も出来ない筈の強さです」

 

 俺は、知っている。原作を通して知ってしまったと言った方が正しいかもしれない。

 この世界には、四皇と呼ばれる怪物がいて、世界政府がいて、正義も悪も曖昧で、弱ければ一瞬で飲み込まれる。

 

 「俺は、ルフィやエースが走っていくこの国で、ただくすぶってる自分が……正直、悔しいです」

 

 ガープは「やはりな」と納得した後、「じゃが東の海は平和の象徴じゃい」と軽くゲンコツを喰らわせてきた。

 ただ、関係性が微妙過ぎて、威力はそこまで無かった。俺への愛は大して無いのが分かってしまう。

 

 「まぁ分かってるんですよ本当は、自分がどれ程卑怯かって事位」

  努力もせず、理想ばかり語って、都合の良い道ばかり探して。逃げようとすればする程、出来ない自分がチラついて。

 

 

 ・・・・・・顔を上げると、ガープが寝ていた。

 

 「デジャブじゃねーか!」

 

 「ん?あースマんのう」

  

 ガープはあくびをして、起き上がる。

 

 「まぁ今日の話、秘密にしといてくださいね。面倒事は勘弁です」

 「構わん構わん。お前さんのような子供の戯言、信じるやつなんぞおらんわい。ハッハッハッハ!」

 

 俺はガープの姿を見て溜息をつきながら、膝を抱え込む。

 

 ロビンの件があるし、いつ何処でバレるかは分からない。

 ただこの人の話なら、今だけは信用しておこう。

 

 (それにしても、身体が重いな)

 

 気が抜けたからか、一気に疲れが押し寄せてきた。

 

 山賊ごときにやられてる様じゃ、近海のヌシを倒すのも夢のまた夢。このままだと、俺の物語は始まる前に詰んでいる。

 

 「お、そうじゃった。お前さんに会いに来た理由を思い出したわい」

 

 そう言ってガープは煎餅の袋を取り出し、バリバリと食べ始める。

 

 俺はまたまた溜息を吐く。これ以上付き合いきれねーよ。

 

 

──

 

 俺は山賊の手錠に繋がった縄を肩にかけて、フーシャ村の大通りを歩く。

 気分はまるで、ロジャーを連れた処刑人。

 道行く人たちからも、緊張感がヒシヒシと伝わって来る。

 ──なのに、当の本人は

 

 「ふっ、お前はまるで劣等感の塊だな」

 「ちっ」

 

 まるで散歩してるかのように、村を興味深そうに眺めてやがる。

 

 ──こいつ、自分が招かれざる客と理解してるのか?

 この村も、俺の事も事を完全に舐めているんじゃないだろうか?

 ガープさん、何でこんな奴俺に任せたんだよ・・・・・・。

 

 「お前の様な人間に待つのは挫折か破滅。真の意味で満たされる事は無いだろう」

 

 ……何だコイツ厨二病か?

 

 まぁ実力は本物だし。

 ガープが言うには、俺じゃコイツに勝てないらしい。

 

 言わなくても分かってるっての。

 こちとらモブ歴何年だと思ってんだよ。

 

 ・・・・・・ただ、一緒に歩いてると意外と冷静な奴だって事が分かる。

 ガープの事を知って尚、感情で動く程に馬鹿では無いだろう。

 

 とは言え、山賊は何処まで行ったって山賊、警戒するに越したことは無い。そう言ってたのも海軍の人だ。

 

 そんな事を考えていた俺は、なんとなく後ろを振り返える。

 山賊──ラシードは俺と目が合うとニヤリと笑う。

 

 ・・・・・・ムカつく。

  

 縄をぐいっと前に引っ張ってみると、ラシードは「おっと」と前に転びそうになる。

 

 「何だ? 僕の頭に鉄砲の弾でも通る所だったか?」

 「かもな」

 

 俺はニヤリと笑い返す。

 

 やがて俺達は、一軒の建物の前で足を止めた。

 軍艦が港から遠ざかってゆくのが見えて、俺は思わずため息をつく。

 

 「着いたぞ」

 「やはりここか」

 

 俺達が着いたのは、いつもの店──おやっさんが居る店だ。

 ラシードはしゃがみ込み、店先の看板をじっと見つめる。

 その目は、まるで何かを見極めているようだった。

 

 ・・・・・・彼女が今、何を考えているのか。俺ごときに推し量れるものではない。マリンフォードの様に、せめてミホークと同じ最上大業物が必要だ。

 

 「いいか?」

 「・・・・・・」

 「お前自身の為にも、冷静にな」 

 

 念押しをしてから、ガープから貰った鍵を取り出す。

 2番の鍵──これで手錠が外せる。

 

 カチャリ。

 

 ラシードは外れた手首を一瞥し、深呼吸をした。

 

 カランコロンカラン

 

 「いらっしゃいませ」

 「おい、バカ!」

 

 ラシードの野郎、爆発しやがった。

 おやっさんを見つけるなり反射的に走り出しやがった。聞いてねぇぞ!

 

 慌てて背中の鉄パイプを抜く。どうせ勝てるわけ勝てないけど、それでも構えるしかない。

 

 ラシードは感情全開でおやっさんに向かって突っ込んでいく。

 その風圧で、椅子や机も吹き飛ぶ。

 その様は、明らかに人外・ONEPIECEの住人だ。

 

 「はあああああああッ!」

 

 山賊は右の拳をおやっさんに向けて振り上げる。

 

 「おやっさん!」

 

 おやっさんは微動だにしない。

 すべてを受け入れるみたいに、ただそこに立っている。

 

 ・・・・・・やっぱ気づいていたか。

 

 ガープから聞いた話だ。

 山賊の名前はラシード、ゾロやサンジと同い年の12歳。

 今の俺と2個しか違わない。

 けど貫禄は段違いだ。理由は、目の前で起こって居る通り復讐だ。

 ワノ国の侍かよ。

 

 ラシードの右手は、おやっさんに当たる直前でピタリと制止した。

 

 「クソッ、何でだよ」

 腕は逸れて、店の床を強く殴りつけた。

 床にはヒビ一つ入っていない拳大の穴が開いている。

 見事な破壊力だ。アラバスタでボンちゃんが見せていた技を思い出させる。

 

 ラシードは拳を床から引き抜き、荒い息を吐きながら震える拳をじっと見つめる。

 

 「はぁ、見てらんねぇ」

 

 俺はその光景から目をそらす。

 

 ──またガープから聞いた話だが、ラシードには仲の悪い兄が居た。

 その兄は軍人で、なんと7年前までおやっさんの部下だったらしい。

 だからおやっさんは山賊と戦えたんだ、と納得した。

 

 その兄は劣等感が凄すぎる奴で、常に誰かを否定して自分の価値を守ろうとしていた。

 家では愚痴ばかりで、ラシードはいつも粗探しの対象だったそうだ。

 

 ある日、ラシードの兄は戦場でミスを犯し、パニックに陥って、おやっさんの指示を無視し、一人で戦場に突っ込んで散った。

 

 ラシードは、兄の死を悲しめ無かった。 

 しかし、ラシードの兄は半ば優秀、人の顔ばかり気にして居たので周囲からの評判が良かった。何より本人はもう存在してい無い上に、終わり方がドラマチック過ぎた。

 

 兄の存在は次第にイメージとして語られる様になにり、家族でさえそうだった。

 

 それゆえにラシードは、「優秀な兄の妹」として生きる事を強いられた。ちなみに「ラシード」は兄の名前であり、男性名だ。彼女自身の本名はラシア。

 

 そして、そのレッテルには復讐の色さえ染み付いていた。

 

 何度か弱音を吐いた事もあったが、決して肯定される事は無かった。

 弱さを見せる彼女は周囲のイメージの中には存在しなかった。

 ラシードは優秀な兄の妹として生きるしかなかったのだ。

 

 そしてある時両親も亡くなり、ラシードに残った歪みはもはや解ける事のない呪いとなった。

 

 そんな彼女は今、理性と感情との狭間で揺れ動いている。

 

 何度も床を殴り、地面に頭を擦り付けうめき声を上げていた。

 

 「現実を受け入れられない。ひとりの子供が背負うには、重すぎる時間が過ぎてしまった……」

 

 おやっさんはいつの間にか戦う人の顔つきになり、苦しむラシードを見つめている。

 

 「だが、今の彼女には自分を受け入れていいと感じる自信も価値観も無い」

 おやっさんは重く温かい手が、俺の肩にそっと置かれた。

 

 「俺の声じゃ届かない」

  

 俺は目を閉じ、おやっさんの期待に応えようと考える。

 

 原作にも一杯あった、こんなシーン。

 

 助けや肯定を求めながら、それを認められない。

 自分から手を掴めない相手に主人公だったら何て言うのだろうか?




 主人公マイナス過ぎる
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