もし個性の伸ばし方を指南してくれる教本があったら 作:毎日がチートディ
ある者は持って生まれた個性に絶対の自信を持ち無個性の幼なじみを虐め、ある者は親に№1になるために虐待めいた苦行を課せられ、それでもその者達はその強い個性故に輝かしい未来が約束されているだろう。
だが、そうでない多数の弱個性と呼ばれる者達はそう遠くないうちに自身の限界を悟り、夢を諦めていく、そんな一握りの者達だけが謳歌できる歪な世界。
だが、弱個性であっても夢を捨てきれずひたすら個性を鍛えてヒーローを目指す者達がいる。
もし、そんな苦難の道を選んだ者達の前に現れ、現状を打破する道を標してくれる不思議な本があったとしたら・・・。
「サルでも分かる魔法の教本」
著者名はクラッシャー伊東。
夢を捨てず努力を続ける少年少女達の前に、どこからともなく現れるというこの本が世界にどのような影響を与えていくのであろうか・・・。
「ヴィランだ!!!」
雄英高校 1年A組の救助訓練が始まろうとしていたUSJ(嘘の災害や事故ルーム)に突如ヴィランが襲撃をかけてきた。
「どこだよ・・・せっかくこんなに大衆引き連れてきたのにさ・・・オールマイト・・・平和の象徴・・・いないなんて・・・」
体中に手を模したアクセサリーを身につけた、リーダーらしきヴィランは教師であるオールマイトが居ないことに怒りとも失望ともつかない声をあげる。
「子供を殺せばくるのかなぁ」
底知れない悪意に晒される生徒達。
次々と現れる無数のヴィラン達。
本来なら生徒達を守るために担任の相澤先生が一人前線を支えることになっただろう。
だがこの世界線では相澤よりも更に前に出る生徒がいた。
「相澤先生。緊急事態と判断します。仮免保持者として個性による戦闘行為を実行させていただきますわ」
その者は、特例として中学の時点で仮免試験の受験を許可され、一発で合格した特待生。
彼女が腕を振るえば、雑魚ヴィラン達は竜巻に巻き上げられ、炎にあぶられ、巨大な氷柱に閉じ込められ、正に鎧袖一触とばかりに蹴散らされていく。
「ククク・・・お前か。先生が気をつけるようにと言っていた後継者候補は・・・ミス・オールマイティ」
「後継者、というのは意味が分かりませんが、確かに私はミス・オールマイティと呼ばれていますわね。八百万百と申します。もうお会いすることは無いと思いますが、一期一会の精神で挨拶は大事とクラッシャー伊東先生の本に書かれていましたわ。以後お見知りおきを」
八百万百はカーテシ―で挨拶をすると同時に、体中から全方位に分銅付きのチェーンを生成して射出する。
そのチェーンは残っているヴィラン達に満遍なく襲い掛かると同時に、既に倒れているヴィラン達も絡め取り拘束していく。
ヴィランのリーダー、死柄木は相方の黒霧の個性を利用して効果範囲から逃れることが出来たが、その他のヴィラン達は、死柄木の切り札である脳無と呼ばれる特注の化け物すら例外なく捕縛してしまう。
「クソッ脳無!そんな鎖ごときとっとと引きちぎって皆殺しにしろ!」
死柄木のオーダーを受け、脳無は鎖を引きちぎろうとするが、その鎖はちぎれる様子はない。
「単一の分子のみで作られた本来なら存在し得ない構造の物質のチェーンです。それを破壊するならビッグバン並の破壊力が必要ですわね。宇宙でも創造してみますか?」
「クソチートが!黒霧!もっとだ!脳無の在庫全部だせ!!!」
死柄木の苛立った声に脳無は肩をすくめながらも、ゲートの個性で無数の脳無を転送してきた。
「幾ら何でも限界があんだろ!粗製濫造で多少出来が悪かろうが戦いは数だってアニメで言ってたぜ!1000体の脳無軍団だ!たっぷり味わえよ!」
際限なく現れて襲い掛かる脳無を前にして、八百万百は余裕の笑みを浮かべながら脳無達へと歓迎するように手を広げた。
「では、限界までダンスを楽しみましょう」
八百万百の身体から、杭が、矢が、剣が、砲弾が、炎が、氷が、突風が、ありとあらゆる存在が際限なく溢れ、無数の脳無軍団を血祭りに上げていく。
その限界などないとばかりの圧倒的な手数に、死柄木は発狂するように頭をかき乱しながら何故だと叫びを上げる。
八百万百、創造の個性を持つ少女。
彼女の個性は自分が構造を理解している非生物の物質を、脂質を消費することによって生み出す個性である。
その個性は何一つ変質などしていない。
万能故に変化が起こりづらい融通の利かない個性である。
故に、優秀なヒーローになれても唯一無二の最強のヒーローにはなりえないだろう。
親や個性の家庭教師からは期待と同時に限界を諭され、少しでも知識を広げて手数を増やすという夢の持てない教育に苦悩した幼少期。
それでも最強のヒーローへの道を諦められなかった彼女の前に、一つの本が現れた。
「物理法則も何もひっくり返す魔法なんて能力に限界なんてない。あるのはここまでしかできないだろうという単なる思い込みだけだ。思い込みが魔法の上限を決めてしまうなら、思い込めばその上限を取り払うことだってできるはずだ」
『サルでもわかる魔法の教本』と書かれたその本では、個性のことを魔法と称していた。恐らく個性黎明期にしるされたのだと推測される。
確かに世界の殆どの人が無個性であった頃は個性とは魔法のような力で有ったのだろう。
その本には色々な魔法・・・個性を持った少女達の例が書かれていて、どのような個性をどのように扱っているのか。自分ならどのように伸ばし、どのように扱うのかが解説されていた。
たとえば、他人が困った声が聞こえる個性の少女がいた。
その少女はその声を聞いて、その者の元へと駆けつけ、交通事故に遭おうとしていたのを助けたりしていたそうだ。
そしてその個性の本質は意思伝達ではなく、未来予知であると指摘し、その力を伸ばすことにより、遙か未来の災害まで予知する個性にまで育て上げたそうである。
故に、出来ないという思い込みこそが個性の成長を阻害する要因であると説かれていた。
まだ常識すら十全に身につけていない幼少の少女の概念をその本は見事に覆してしまったのだ。
「確かに、私には限界がありますわ。脂質がなくなれば作れませんし、生物や理解していない物は作れませんわ」
八百万百は笑みを妖しく深めながら続ける。
「ですが脂質は生物ではない物質であって、私は十全にその構造を理解していますもの」
本来人間が保有する脂質などたかが知れている。
八百万百の本来の個性であっても、その脂質を使って物を創造するとき、そこに質量保存の法則など存在しないとばかりに、消費された脂質に見合わない大量の物質を作れてしまう。
ならば、少量の脂質を消費して、大量の脂質を創造すれば、簡単に永久機関ができあがってしまうのだ。
彼女は常に脂質を創造しながら、その差額の脂質を使用して大量の物質を絶え間なく創造し続けていた。
「それにありえないなんてありえない。その構造を理解しているって誰が判定していますの? そんなの自分の思い込みですわ。ならば構造がそれで正しい。そう私が感じている物ならどんなにあり得ないものですら創造できますわね。ほら、このガンダムってアニメで見たメガ粒子だって、100円で買ったオタクの同人誌に粒子の構造が書かれていましたわ」
そういって、両手からメガ粒子砲を乱射して脳無達を貫いていく。
「狂ってる!狂ってやがる!先生なんだよこれ!オールマイトよりよっぽど酷ぇじゃねぇか!!!」
1000体もの脳無を鏖殺しおえて、テーブルと椅子とティーセットを創造した八百万百は優雅に紅茶を嗜んで、「あら、まだいましたの? よっぽどお暇なのですね」と嘲るように笑いかけると、死柄木は覚えてやがれと三下雑魚の定型句のような台詞と共に転移して逃げたのだった。
それを見ていたA組一同。
「もう全部あいつ一人でいいんじゃないかな」
そう思ったという。
そして、どこかで白い少女もそれを見て愉悦を浮かべていたらしい。