もし個性の伸ばし方を指南してくれる教本があったら   作:毎日がチートディ

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尻の穴

side:荼毘

 

 

廃墟となったビル群の裏路地、薄暗い狭い道を一人走る。

 

遠くからビルが倒壊する音が聞こえた。

 

あの筋肉馬鹿、またド派手やってやがる。

 

後始末をするこっちの身にもなれと悪態を付きながら音がした方に走っていると無線が入る。

 

 

『荼毘ちゃん、そっちに3人追い込んだわ。それで最後のはずよ』

 

「分かった。あとマスキュラーの馬鹿にあまり派手にやり過ぎるなと文句言っといてくれ。あの馬鹿、無線またぶっ壊したみたいで通信が繋がらねぇ」

 

『わかったわよん』

 

 

通信が切れてすぐ、前方から人の気配が感じられた。

 

先手必勝。

 

俺は壁を蹴り上がり、高所を取ると、上空から3人の人影を視認。

直ぐさま個性で猛烈な火炎を放射して敵を呑み込む。

 

 

前方を走っていた2人は燃えさかる炎に焼かれ断末魔の悲鳴を上げながら地面をのたうち回り、直ぐに動かなくなる。

だが最後方を走っていた男は間一髪で上空に飛ぶことで避ける。

俺は直ぐさま2発、3発と火球を飛ばすが、器用に避けていく。

 

 

「ははっ! 俺は"素材にこだわる解放戦線"、略してソザ解の栄えある北関東エリア群馬支部チーフマネージャー代理補佐の第一の部下だ! この程度の攻撃でやられると思っているのか!」

 

「いや、それってただのヒラ構成員じゃないのか」

 

「ほざけ! 貴様らを討って偉大なるトットポップ様への供物にしてくれる!」

 

「ハッやってみろよ!」

 

 

大口叩くだけの実力はあるようで、両腕から生えた刃を振るい、高威力の風の刃を飛ばして攻撃してくる。

 

 

「貴様の炎なんぞ、この俺の風で全て吹き散らしてくれるわ!」

 

 

確かに、炎とは相性が悪いな。

だが、まだ勝負が決まったわけではないぞ。

 

 

路地に着地したヒラ構成員は、自分の足が動かなくなったことに驚き、地面を見る。

そこには凍り付いて地面と一体化した己の両脚があった。

 

 

「なっいつの間に!」

 

「上空で炎にあぶられていて気付かなかったようだが、地面は完全に凍結させてもらっていたぜ」

 

 

熱い空気は上に向かって上がっていき、冷気は下へと下がる。

なので上空で攻撃している間に気付かれないように路面を凍結させていただけだ。

 

 

「ま、まて、話せば分かる。俺を殺しちゃ、本部の情報とか分からなくなるぜ」

 

「テメェなんかの下っ端に聞きてぇことなんてねぇよ。そもそも俺らは捕虜なんてモンはとらねぇ。全殺しがモットーなんでな」

 

 

見苦しく命乞いする男に、俺は手向けとばかりに渾身の一撃を見舞ってやる。

 

 

「喰らえ、KHOLODNYI SMERCHホーロドニー スメルチ!!」

 

 

氷の竜巻が男を呑み込み、瞬時に凍結した身体が竜巻によって粉々に砕かれていった。

 

 

「ふぅ・・・おい、こっちは終わった。そっちの首尾はどうだ」

 

 

俺は無線でマグ姐に呼びかける。

 

 

『荼毘ちゃん、こっちも後片付け終わったわよ。でもごめんね、メインコンピュータの中身は空っぽ。ここも外れみたい』

 

「ハァ・・・まあ、いつものことだ。アジトに戻るぞ」

 

『はっはーーー! おい荼毘、ションボリしてんじゃねーよ、俺はご機嫌だぜ! やっぱり人を幾らでも殺せるってのは最高だ』

 

「テメェは少しぐらいこっちの指示を聞きやがれ呆けが」

 

 

まぁ、いつも通りの骨折り損のくたびれ儲けって訳だ。

部下に被害が出なかっただけマシだと思おう。

真っ白な髪を掻き上げながら、俺はまたため息を吐くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

『俺は異世界転移したことがある』

 

 

そんなことを言ったら、頭がおかしいと思われるか、中二病がまだ直らないんですか、などと言われてしまうだろう。

 

だが、俺の場合はそんななろう小説みたいな妄想では無く、単なる事実だ。

 

 

13の頃に、個性の出力が跳ね上がって暴走した際、炎に飲まれる俺は、どこからともなく現れた腕に髪を掴まれて異世界へと引きずり込まれたんだ。

そして、気付いたらピティ・フレデリカとかいう変態女に髪をなめ回されてるわ、服が燃え尽きたために丸裸になった俺のMr.BIGを珍妙な格好をした女どもに興味深そうに観察されていたりと、いたいけな子供相手に何してくれるんだと今でも文句を言いたくなるような仕打ちをうけていた。

ちなみにその日から、俺の渾名はポークビッツになった。由来は聞きたくねぇ。

 

俺は組長の気まぐれであの窮地から助けられたらしい。

本人はちょっとオリチャーを試してみたくなったとかよく分からないことを言っていたが、あの人がよく分からないことを言い出すのはいつものことなのだとそう日も経たずに納得するようになった。

とにもかくにも変人で突拍子も無いことをやりだしては、娘の華乃さんに叱られて土下座で謝っていたな。

 

 

「おい、ポークビッツ。お前をこのまま元の世界に帰してやってもいいが、その場合遠くないうちにまた力が暴発して今度こそ死ぬことになる。それだと僕も助けた甲斐がないからな。多少魔法、いや個性の使い方をレクチャーしてやってもいい」

 

 

その言葉は俺にとって願ったりだったので直ぐさまお願いした。

 

 

「鉄腕組の『サルでもなれる簡単つよつよ魔法少女コース』は2種類ある。『みっちり1年コース』と『アバン流お手軽1週間コース』だ」

 

 

長期だとお父さんが心配するだろう。やはり1週間コースで・・・

 

 

「ただし、1週間の場合、魔法は尻から出る「みっちり1年でお願いします」」

 

 

こうして俺は戦闘組員養成機関『尻の穴』でみっちりと1年間訓練を積むことになった。

なってしまった・・・もしあの頃に戻れるなら絶対後悔するからやめておけと説得したことだろう。

 

 

あそこは、地獄と呼ぶのも生ぬるい場所だった。

 

 

「先ず、魔法とは精神力っす。出来るって思えば出来るっすよ。気合いを出すっす! ほら、もたもたしてると鉄球にぺしゃんこにされるっすよ! 歌いながら走れ走れ走れ!!!」

 

「うおおおおーーー高まるぞ! ぜったいいっぱい輝け! 人生は一度きりなんだ!!!」

 

 

できるって叫ぼう、できるって笑おう、できるって走りだそう。じゃないと死ぬ!!!!

 

新人の組員達と一緒に燃えさかる巨大鉄球に追われながら、一日中走り続けたり。

 

 

「ポークビッツの個性は炎を出す個性っすか。でも出力によって炎の温度が変化しているっすね。つまり温度を調節出来るわけっす。温度というのは物質の振動数で発生するっすよ。その振動数を制御できるのがポークビッツの個性とも言えるっすね。ていうかそう思い込めっす。ならば振動数を限りなく低く、0までに押さえれば、すなわち冷気を発する事ができるっすね。気合いを入れれば熱が上がるなら、逆に精神を鎮めることで温度を下げて冷気を発生できるはず。ならばやることは簡単、座禅で修行っすね。カーーーツ!!! 精神が乱れてるっす!」

 

 

少しでも雑念に心が揺らげば、すぐさま刀で首を刎ねられる。

首が飛んでも直ぐさま回復させれる魔法少女がいるので、1日に何度も首を刎ねられる。

首が刎ねるのは痛みは一瞬だからすぐ慣れたが、慣れたら慣れたで武器が棍棒になって、身体をすり潰される方式に変わった。

 

 

体術の訓練もミスイコール臨死体験。三途の川を渡ろうとしても強制送還されるので、何度でも体験できて嬉しいなぁ・・・。

最初はこっちに来るんじゃないよって言っていた死んだ婆ちゃんも、1年経つ頃にはもう見飽きたからとっとと帰りなと邪険に扱ってくる始末。

 

 

その1年があったから、今の俺があると言っても過言ではない。

大抵の死地だろうが、尻の穴に比べれば天国も同然だ。

強面のヴィラン相手だろうが、ラズリーヌ教官のしごきに比べれば恐怖など感じない。

 

 

そんな昔を懐かしみながらアジトへと帰還した俺を迎えたのは上司であるヒーロー公安委員会のクソ委員長様だ。

 

 

「荼毘君、任務ご苦労。これでソザ解の動きを鈍らせることが出来ただろう。だがもう少し損害を減らせないものか」

 

「無茶言うなよ。マグ姐が押さえていると言ってもマスキュラーの馬鹿は戦闘になったら頭がアホになるんだよ。それを折り込み済みでタルタロスから引っぱってきたんだろうが」

 

 

同僚のマグ姐さんには本当に苦労をかけてると思ってる。

だが、戦闘大好きでどんな相手でも喜んで戦ってくれるマスキュラーの方が、主義主張とそして癖が強すぎる本持ちより制御しやすいとタルタロスから特赦でスカウトしてきたのはお前らだろう。俺は反対したんだぜ。

 

だというのに反対した俺に押しつけやがって。

 

俺は何時ものように、個性で空気を振動させる事によって音を発生、それによって音楽を奏でると同時に踊り始める。

 

 

「おい。荼毘。お前またか・・・」

 

 

委員長はまたかよといった呆れた顔だが、奴がこれをちゃんと見ることがマスキュラーを預かる条件だ。

俺は激しく踊りながら尻の穴で鍛えた歌声を響かせる。

ここからがサビだ! 鉄腕魂を込めるぞ!!

 

 

「鳴らない言葉をもう一度描いて! 赤色に染まる時間を置き忘れ去れば!」

 

 

手を、もっと激しく! シェイクだ!! 心を込めて歌って踊れ!!!

 

 

「哀しい世界はもう二度となくて! 荒れた陸地が こぼれ落ちていく! 一筋の光へぇぇぇぇ!!!」

 

 

全身全霊を込めて踊りきった。

 

 

「ヒーロー委員会に反省を促すダンスだ。これに懲りたらもう少しマトモな任務を回すんだな」

 

 

やはりダンスはいいな。

これは組長に「お前はダンスの才能がある」と言われ、組長自ら教えて貰ったとっておきのダンスだ。

組長と一緒に焼き鉄板の上でこれを1日中踊ったあの頃を思い出しては懐かしくて涙がホロリと零れてくる。

 

 

ともあれ、任務が終わったので休暇だ。

 

1週間ぶりに我が家に帰れるぜ。

 

 

今日の任務で手に入れた敵の髪の束をアッシーもとい変態ピティに渡し、東京から実家までゲートでショートカットさせてもらう。

 

 

「おう、親父帰ったぞ」

 

「燈矢ぁぁぁぁぁおかえりぃぃぃ!!」

 

 

暑苦しい顔の親父が暑苦しく抱き締めてくるが、もう何時のものことなので慣れた。

1年の行方不明の後、俺が実家に戻ったとき、親父は目を丸くした後、俺を抱きしめて延々と泣いて謝ってきた。

俺が死んだと思って、毎日俺の遺影の前で悔いていたそうだ。

 

 

その後、親父は・・・親馬鹿になった。

 

 

異世界のことは信じちゃくれないだろうと思って適当にごまかしたが、命を助けてくれた人がいて、その人の元で修行してきたと、強くなった俺を見て貰った。そして親父を軽くボコした。

 

炎と冷気を自在に操れて、ダンスも一流の俺を見て、親父は「さすが俺の息子だ!!! お前こそが世界一だ!!!」と感涙の極みに達していた。

あの様子だとかなりギリギリの精神状態だったのだろう。

 

あのまま俺が死んでいたらきっと親父は壊れていたかもしれない。

もしかしたら末っ子の焦凍を俺の代わりにしようと苛烈に扱っていた恐れもある。

 

そんな末っ子の焦凍は、俺と違って最初から炎と氷が扱えるため、親父に俺に続く天才児だともてはやされている。

 

俺のようにならないようにと、大事に大事にしながら煽てて育てているために、どうやら自分のことを天才と疑わない甘ちゃんになってしまったが、出来の悪い子ほど可愛いとはよく言った物で、親父も俺も、そんな焦凍が可愛くてつい甘やかしてしまう。

 

 

「お、焦凍、帰ってたのか」

 

「うん、燈矢兄ちゃんお帰り。俺・・・仮免試験落ちた・・・」

 

 

なんだそんなことか。

 

 

「別に、まだ1年だろう。それに無理にヒーローになることないんだぞ」

 

「そうだぞぉ焦凍、ヒーローは危険だし危ないしそして危険なんだぞ。焦凍がもし怪我したらと思うと父さん、もう心配で心配で」

 

 

親父が焦凍を抱きしめて頬ずりするが、焦凍は鬱陶しそうにそれを押しのける。

 

 

「クソ親父、暑苦しいんだよ。俺は燈矢兄ちゃんと話してるんだ、近寄るんじゃねぇよ」

 

「うう、焦凍が冷たい・・・」

 

 

焦凍は遅めの反抗期を迎えたようで、親父のことを毛嫌いしている。

まぁ中学時代も毎日のように仕事の合間にストーカーしてたり、サイドキックに焦凍の友達の素行調査とかさせて、怖がらせたりなどしていたからな。

嫌われるのも当然だろう。

親父を思い出すから炎も使わないとか言ってるようだし。

 

 

「うう、雄英高校の授業は危なすぎる。この前も焦凍が死んじゃうんじゃないかって父さんは本当に本当に心配してだなぁ。くそう、相澤め。何が授業に乱入したら敷地内立ち入り禁止にするだ。だったら乱入しなくてもいいもっと安全な授業にしろ」

 

「いや、中学の頃みたいに乱入したら今度こそ親子の縁切るからな」

 

 

そんな憎まれ口をいう焦凍だが、それなら寮に入ったっていうのに二日に一度のペースで実家に帰ってくるのをやめろよ。

どれだけ家族離れ出来ないんだよ、甘ちゃんが。可愛すぎるだろうが。

 

 

「燈矢兄ちゃん。今日こそアレ、見せてくれよ」

 

「アレか・・・しょうがないな。だがくれぐれもいうが、危ないから絶対真似するんじゃねぇぞ。まぁできないだろうが」

 

 

俺は焦凍にせがまれて、庭に出る。

 

 

右手に炎、左手に冷気。

丁度同じだけの出力を維持させながら、両方の出力を上げていく。

そして、胸の前で両手を重ね合わせる。

 

炎と冷気が混ざり合い、お互いが反発しようとするのを押さえ込む。

 

そして混合する力を維持したまま、左手を前に、そして右手を弓を引くように後ろへと引っ張り、混合させた力を解き放つ。

 

これぞ、あそこで教わった炎と冷気の最終奥義。

 

 

「メドローア」

 

 

放たれた力は空を駆け、未だに噴火を続ける富士の山に直撃し、大地を消し飛ばしながら貫通した。

 

中腹に向こう側が見える巨大な穴を開けた富士の山。

 

うむ、ちょっとやり過ぎたな。

 

 

「燈矢兄ちゃんスゲぇ・・・」

 

 

焦凍が目を輝かせながら俺に尊敬の眼差しを向けてきた。

それだけで兄ちゃんご飯3杯はいけるぞ。

明日始末書書かないといけないだろうが、可愛い弟の為ならそれぐらい何枚だって書いてやると決意したある日の出来事の話だ。

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