もし個性の伸ばし方を指南してくれる教本があったら 作:毎日がチートディ
Side:相澤
放課後、雄英高校内にある高耐久個性トレーニングルーム。
この部屋常連の爆豪と八百万が互いに邪魔にならないように個性練習している中、俺は麗日お茶子を呼び出していた。
それにしても、B組の生徒はよく利用しているのに、うちのクラスで放課後に自主練しているのは爆豪と八百万だけとは実に嘆かわしいな。
麗日の場合は部屋を抜け出してどこかでやってるみたいだが。
今日呼び出したのは麗日が実際個性をどのように扱えるかの確認の為だ。
「えっと・・・恥ずかしいんですが、たいしたことはできないですよ」
そういって見せて貰ったが、重力を操っての空中浮遊からの上下左右問わずの落下及び重力増加による加速。
これは普段行っている重力負荷を解かなくても出来る移動手段とのこと。
また、遠距離にあるものを重力を使って手元に引き寄せたり、逆に遠ざけたりもできるようだ。
どこがたいしたことがない能力なのだろうか、ボブは訝しんだ。
また、ワームホールを使った空間転移も見せてもらったが、このぐらいみんな出来ますよねとか言われた。出来ない俺ら教師陣は落ちこぼれなのか?
聞いてみたら八百万も当然の顔で「当然空間転移ぐらい出来ますわよ」と転移ゲートを創造して答えていた。
常識が壊れる。俺と爆豪は頭を抱えた。
「ところで、聞きたかったのだが・・・個性届ではお前の個性は手の指先にある肉球で対象に触れることで重力を操作するとあったが、これは正しいのか」
「そうですよ。『指の肉球で対象に触れること』は私の個性の起動条件なので、幾ら個性が強化してもこの縛りだけは絶対変えれんです」
起動条件。それは個性を発動するための条件で、俺の場合は目で対象を見ること。
この条件がある個性は自分以外に干渉出来る強力な個性の場合が多いが、強力な反面、その条件が発動に必須になる。
そしてその起動条件は個性獲得時から変更することはほぼ無理とも言われている。
「その割には、先ほど見せて貰った遠距離の物を重力で引き寄せたりなど、自身の身体に対する重力操作も手で触れてる様子は無かったが、起動条件はどうやってクリアしているんだ」
「え? ちゃんと触ってますよ?」
俺の問いに、麗日は首を傾げながら、困惑した表情を浮かべる。
「ほら、こんな感じで」と、麗日は手を前に差し出し、遠くにある墓石を重力操作して浮かべて見せた。
「なぁ爆豪、俺は麗日の手が遠くにある墓石に触れていないように見えるが、お前はどうだ」
「触れてねぇだろうがどう見ても」
今度は此方が困惑の表情を浮かべていた。
「麗日さんはちゃんと触れていますわ・・・空気越しに」
「ん? そやよ。何を当たり前の事を」
麗日は、何を当たり前の事をと言ったが、空気越しに触れるって触れたうちに入るのか?
「相澤先生の起動条件は相手を視認することですよね。全身タイツを着用している相手でも個性は発動しますか?」
八百万が尋ねてきたので、俺は当然だと答える。
全身タイツのヴィランなど掃いて捨てるほど居るからな。
「何故ですか? 相澤先生が見ているのは全身タイツであって、対象人物ではないでしょう。それとも全身タイツが個性を発動するのですか?」
「・・・どういう意味だ。俺はその全身タイツを着ている奴の個性を止める・・・いやまて、そういうことか? 着ている全身タイツもまた、その人物の一部と捉えているのか?」
「そういうことですわ。着ている服から個性が伝播するなら、その周りにある空気もまたその人を取り巻く一部と考えるなら、その空気に触れて個性が伝播しますわね」
「ああ、何を言ってるのかなって思ってたのそれやったんか。うん、服越しに触って相手に個性が効くなら空気もまた纏っている物と認識すれば直接触れずに遠距離にあるものでも対象にできるって先生に教わったんよ」
「認識の拡張ですわね。基礎中の基礎ですわ」
二人は当然のように言っているが、そんな簡単なものではないはずだが・・・。
俺ですら今まで意識などしていなかったのに、それを意識的に捉えて認識を拡張することで起動条件を緩和させているのか。
「麗日、ちなみにどこまでの範囲の物を対象に出来る?」
その問いに、麗日は少し考え込み、「全部・・・かな」と言いよどみながら答える。
「あんまり意識したことないですけど、多分全部いけると思います。いまちょっと太陽引っぱってみましたけど、ちゃんと動きましたし、あ、ちゃんと太陽元の位置に戻して重力バランス整えておきました・・・水星が太陽に飲まれて蒸発しちゃったけど」
なんかサラッと恐いことを聞いた気がするが・・・胃が痛くなるので聞かなかったことにしよう。
「あと、地球上も全体の重力を観測できてるんで、知り合いなら固有の重力を覚えてるんでどこにいても対象に出来ますよ。例えば・・・あの手が一杯付いたヴィランさんを操作してみますね。壁とか天井に何度か叩きつけて気絶させておきました」
いや、見えないから分からんが・・・それにしても・・・
「麗日、太陽を操作と言ったが、宇宙に空気はないがどうやって伝播させている? それに太陽なんて言う大質量をどうやって操作しているんだ?」
あんな大きくて重量もあるものを操作などできるものなのだろうか。
「え? 何言ってるんです? 宇宙には空気はないですが代わりにエーテルやダークマターやゲッター線が満ちているんでしょ。先生に教わりましたよ」
「(恐らく、思い込みですわね。自分だけの現実ですわ。個性を成長させる為には現実と乖離した現象を当たり前の事と誤認することも必要です。もっとも、先生って学がないですから本当にそう思ってて教えたのかもしれませんが)」
八百万が麗日に聞こえないように耳打ちしてきた。
「あと、大質量って個性に関係ありますか?」
「いや、あんなに大きかったり重かったりする物は個性が効かないものだろう」
「んんん?? えっと・・・うちの個性、別に物理学とか関係ないですよね」
またもや難しい顔で考え込む麗日。
「えっとなんだっけ、そう、概念だ。うちの個性は概念型なんよ」
「概念?」
「別に物理現象を起こしてるわけじゃなく、重力を操作するっていう概念の個性なんです。そして概念の起動条件が肉球で触れることであって、その起動条件さえ満たしておけば、あとは関係ないんよ」
八百万の個性のように脂質を変化させたり、爆豪の個性のように爆発性の物質を掌の汗腺から出して爆破しているような個性では無く、重力を操るという結果を押しつける個性が概念型というらしい。
俺の抹消も概念型にあたるそうだ。
概念型は起動条件がある場合が多く、だが、その起動条件を満たしてしまえば結果を強制的に押しつけることができる。
「概念型の恐ろしいところは押しつけられてしまえば抗いようがないってことですかね。例えば先生の世界にいる異能力者で直死っていう使えば対象を問答無用で殺せる魔眼を持っている人が居るらしいんですが、その人の力を使えば人だけじゃ無く物や病気、はたまた現象ですら殺せるらしくて、神様だって目の前に居れば殺せるらしいですよ」
なんだそのむちゃくちゃな個性は。
「また先生の護衛のアリスちゃんは不死という固有魔法を持っているんですが、殺すという概念を押しつけられてしまえば、その不死という固有魔法を殺された上で、殺されてしまうそうです。それほど概念というのは当てた者勝ちの恐ろしいものなんです」
「小大さんの個性も概念型ですわね。でも概念型とそうでない個性の区別は非常にあいまいな物があるそうです。例外は異形型でしょうね。でもあれもまた自分自身にそうあれかしという概念を押しつけているとも考えられますが。まだまだ研究の余地がある考え方ですわ」
どちらにせよ、それが正しいという思い込みこそが個性の成長には必須とのことらしい。
やはりクラッシャー伊東の教えは俺らの一歩どころか百歩も先を行っている。
直接見た印象はただのお調子者の馬鹿にしか見えなかったが、見た目だけで判断するものではないな。
「ちょっと試してみてぇことがある。先生、場所借りるぜ」
爆豪は俺たちから距離を取り、目を閉じて意識を集中させる。
「死、に、さ、ら、せーーーーーー!!!」
両腕を身体正面でクロスさせてから腕を左右へ広げるように勢いよく振る。
普段ならそこに爆破が伴うのだろうが、何も起きない。
「はぁはぁ・・・弾けろ!!」
爆豪のその言葉と共に、辺り一帯で連続した爆発が発生した。
「おい、爆豪、今何をやった?」
「ああ? ああ、俺の爆破は爆発する汗によって生じてる。今までは掌から放出して直ぐ爆破させていたが、その汗を飛ばして、任意で爆破できないかって考えたんだ。んで出来るって強く思い込んだら、なんか出来た」
そう答えた爆豪は「汗は液体だし、別にそれが凍ったり、蒸発して気体になっても汗は変わらねぇよな・・・もしかしたら・・・」と緑谷みたいにブツブツと言いながら考え込んでしまった。
やはりこいつは切っ掛けさえあれば自分で勝手に前に進んでいく才能マンだな。
クラッシャー伊東が本など必要ないと言った理由が分かった。
そんな爆豪を見ていた麗日が「やっぱり優等生は違うんやなぁ。私なんかじゃ全然追いつけないよ」などと落ち込んでいるが、お前が一番チートなのをそろそろ自覚して貰いたいものだ。