もし個性の伸ばし方を指南してくれる教本があったら 作:毎日がチートディ
雄英体育祭。
ヒーロー社会の現代ではオリンピック並の熱狂的なイベントである。
そこで活躍した生徒は将来のトップヒーロー候補として輝かしい未来が約束されるだろう。
そして今年の雄英体育祭で最も注目されているのが・・・
「どうせてめーらアレだろ! こいつらだろ!!」
司会のプレゼント・マイクが観客の期待を煽るように声を上げる。
「ヴィランの襲撃を受けたにもかかわらず、鋼の精神・・・というより単純な力量差で見事に撃退した奇跡の新星・・・ミス・オールマイティ! 八百万百!!! ・・・と愉快な仲間達」
八百万百を筆頭に現れる1年A組が最大級の歓声を受けて迎えられる。
その後の一般受験主席のA組爆豪による、特待組全員ぶっ殺して優勝宣言と併せて実に目立ちまくり、もう一つの雄英ヒーロー科のB組は欠片も中継画面には映されることはなかった。
A組の生徒もヴィラン連合襲撃時に活躍した八百万百、一々目立つ爆豪、そして対人戦闘訓練で力を発揮したもう一人の特待生である轟の3人が注意すべきライバルとしてみていた。
だが、八百万百はともかく、もう一人の特待生である轟は親の七光りで特待になっただけであり、他の特待組と比べると凡庸で弱いという現実をまだA組の生徒達は知らないのだった。
「本当に今回の体育祭、出なくて良かったのか?」
第一競技の障害物レースが行われているなか・・・教室で一人中継映像を見ているB組の特待生の片割れ、骨抜柔造に担任のブラドキングが声をかける。
「ええ、俺の個性は殺傷力が高すぎますしね。それにもう公安行きが決まっていますからメディアに露出することは控えるようにと言われています」
少し寂しそうに笑いながら言う骨抜の肩にブラドキングが優しく手をかける。
ちなみにR-18指定はされていないので、この後の展開は割愛する。
閑話休題
着衣を整えながら少し恥ずかしそうに顔を逸らして、いつの間にか始まっていた最終種目第一戦の中継を見て、ブラドキングへと語った。
「それに、今回の最終種目・・・リングという限定的な空間での戦闘ならあいつは最強です。例えオールマイトが相手だって勝てますよ」
「あー、B組の奴だったか。悪いが俺はまだ割り切れて無くてな。こっちだけで相手させて・・・へぶべぼっ!」
「焦凍ぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーー!!!!」
『あーっと! 試合開始早々首元を掻きながら余裕ぶったイケメン轟が吹っ飛んだー―――!!! そしてエンダヴァーの声デカすぎ!!!』
『だめだなあれ、完全に白目向いてやがるぞ。特待生の中では落ちこぼれの癖に油断するからだ。後で補習だな』
『1戦目、2戦目はあっちこっち逃げ回りながら戦っていたのに今回はアッサリ終わったな』
『ああ、もう縄張り作りは終わったんだろうさ』
『こりゃ決勝が楽しみだぜ』
担架で運ばれていく轟と、それに付き添いながら叫んでいるエンデヴァーの映像がクローズアップされる中、彼女は一人静かにリングを後にした。
この後の決勝へと戦意を静かに高めながら・・・。
そして八百万百と爆豪勝己の戦いは、前評判どおり八百万百が危なげなく勝利し、そして決勝はA組とB組の特待生同士の戦いとなった。
「お初にお目に掛かります。八百万百ですわ。もう会うことは・・・ヴィラン相手じゃないので何時もの挨拶テンプレは使えませんわね。今後ともよろしくお願いしますわ」
八百万百がカーテシ―で挨拶をしてくる。
挨拶は大事。クラッシャー伊東先生も言っていた。
だから私もちゃんと挨拶しないと。
「ん」
ぺこりと頭を下げて自己紹介をする。
声が出ていないだって?
そんなのニュアンスで汲み取って欲しい。
それにしてもさっきの轟君は拍子抜けした。
同じ特待生だっていうから個性を使ったのにワンパンで終わってしまった。
あれなら体術だけで十分だったかも。
勿体ないことをした。
挨拶もちゃんと出来てなかったし、骨抜君と同じ特待生なのにクラッシャー伊東先生の教えをうけていないのかな?
もう一人先生の教えを受けた特待生が辞退して他の学校に進学したから繰り上げで合格したって噂は本当だったのかも。
でも八百万さんは界隈では有名だから少しは楽しめそう。
『さァいよいよラスト!! 雄英1年の頂点がここで決まる!!』
プレゼント・マイクの司会が響き渡る中。
リングで向き合った二人はお互いに等距離を保ちながら円を描くようにユックリと歩いていて間合いを微調整する。
『決勝戦!!! A組VSB組!!! どっちも特待生だ!!!』
観客のボルテージは否応なしに上がり、会場が揺れるほどの歓声が上がる。
『自分こそが最強と、勝ってそれを証明しろ有精卵ども!!!』
オールマイトが、エンデヴァーが、会場にいるヒーロー達が、そしてテレビで見ている世界各国のトップヒーローも、そして世界中のヴィラン達も、オール・フォー・ワンですらその戦いに注目している。
『“ミス・オールマイティ”八百万百、対・・・』
八百万は両手にメガ粒子、いや上鳴に後でミノフスキー粒子じゃね?ってツッコまれたけど名称なんて創造の個性には特に関係ないので、とにかく縮退された粒子を集め、何時でも発射出来る体勢を取る。
『“最強”小大唯!!! 今!! スタート!!!!』
開幕ぶっぱ!!
八百万の両手からメガ粒子砲が炸裂する!!
だが、そのビームは下方から吹き飛ばされるように上空へ向きを変更される。
そしてお返しとばかりに八百万の頭の直ぐ横で空気が炸裂する。
八百万は絶えず自身から全方位に創造して発散している電磁波のレーダーで感知して、間一髪爆発反応装甲を展開して耐える。
その間にも小大は次の攻撃へと移っていた。
反対方向から、そして正面からも連続して衝撃波が八百万へと襲い掛かる。
「ん(やっぱり轟君と違って硬いね)」
『おーーーっと何だ!!! 八百万がなんか分かんねー攻撃を受けてるぞ!!!』
『あれは圧縮空気の炸裂だな。轟戦でワンパンKOを決めた技だ。爆豪の爆発と違って目じゃ見えないから防ぐのも大変だろうな。八百万はそれを指向性の爆発で相殺しているな』
八百万は全方位に爆発反応装甲を絶えず創造しながらも懸命に足を動かし炸裂の中から抜け出そうとする。
「ね(この硬さなら非殺傷攻撃じゃなくても耐えれるよね。行くね。)」
小大は久々に全力で戦える相手を見つけてほんの僅かな笑みを浮かべる。
周囲からの攻撃を防御しながら歩を進める八百万に、今度は下方向、足下から多数の円錐上の岩が現れて八百万の身体を貫こうとする。
その攻撃を受けた八百万は右腕を捥がれつつも何とか急所へのダメージだけは回避する。
吹き飛んだ八百万の右腕を見た観客から悲鳴が上がる中、当の本人は何でも無いように右腕を創造して生やす。
「ね(やっぱり自己再生も出来るよね。千切れた腕は単なるお肉。お肉は物質であって生き物ではないって感じかな。自己認識の改変ぐらいは基礎だからね)」
「脳をやられない限り、私を殺すことはできないですわ」
「ん(ならどんどん行くよ)」
小大の宣言どおり、無慈悲なまでの密度で多数の岩と空気の炸裂が絶え間なく八百万へと襲い掛かる。
『おいおいおいおい!!! なんだこの一方的な戦いは!! 八百万は耐え忍んでいるが正直このままじゃジリ貧だぜ! というよりこの手数は本当にどういう訳だよ!!!』
『リングの上は既に小大の縄張りになってるんだよ』
『資料だと小大の個性は“サイズ”、触れた物の大きさを小さくしたり大きくしたり出来る能力だよな。だがどうみても触れていねーぞ』
『すでに触れて置いたんだよ。奴は1戦目と2戦目で逃げ回っているように見えて、リングのあらゆる場所にミクロサイズまで小さくした岩や空気を配置したんだろうな。それを順次解除して攻撃しているってことだ』
『だから縄張りか。資料によると自身の縄張りの中での戦闘なら雄英高校史上で最強の範囲攻撃能力で特待生受験の際に・・・えーっとこれは言って良いのか?』
『オールマイトをフルボッコにしたそうだな。もう二度とやりたくないとのコメントだ』
手を足を吹き飛ばされて身体に大穴を開けられても脳内麻薬を創造して痛覚をシャットアウトすることで耐えつつ、八百万は冷静に反撃の機会を狙っていた。
(小大さんは私への攻撃に夢中のようですが、これだけリング上を荒らし回ったら死角も多くなりますわ)
八百万は小大に気付かれないように先端にドリルのついた多関節の合金製の触手を足下から創造して地中を掘り進みながら小大の背後へと回り込ませる。
そして小大の身体を貫こうと一気に襲い掛からせる。
「ん(そんなのお見通し)」
だが無慈悲にもその攻撃は小大に振り向きもさせずに空気の炸裂で吹き飛ばされた。
「ね(個性によるレーダーはなにも貴方だけの専売特許じゃない。背中にも目を付けるのは基礎中の基礎だからね)」
小大は自身が個性をかけた対象の位置は全て常に感知できている。
そして自身の周囲の空気は絶えずサイズを変更された空気が循環するように個性を使用している。
故にその空気の微細な動きで周囲の動きは全てまるっとお見通しだ。
「ん(教本の中で犬の異形型の少女の話が一番好きなんだ)」
「犬・・・ですか。もしかして穴掘りの・・・」
「ん(そう。穴を掘るだけの個性。弱個性だと馬鹿にされていた少女の話)」
その少女の個性は穴を掘るだけの個性。
爪で掘った穴を直径1メートル、奥行き5メートルにまで広げる。
ただそれだけの個性だった。
その少女の個性は誰から見ても戦闘で役に立つとは思われておらず、本人の気弱な性格も相まって常に下に見られていた。
だがその個性はとてつもない可能性を秘めた個性だった。
少女は大事な親友を殺された復讐を誓い、個性を悪用するものを殺してまわるヴィジランテとなった。
彼女の個性が発動するとき、その穴の効果範囲にあるものは例外なく消滅する。どんな強固な物体だろうが、直径1メートル、奥行き5メートルの範囲内にあれば関係なく削り取られるのだ。
そして、発動は任意。傷を付けた物はどこにあろうが認識可能で、どれだけ離れていようが彼女の意思次第で穴ができるのだ。
彼女は自身の活動範囲を縄張りと称し、ありとあらゆる場所に傷を付け、自身が傷を付けた物を配置して回ったそうだ。
そしていざ戦闘になると一つ一つ小さく傷を付けた紙片を紙吹雪のように舞い散らせながら広範囲を攻撃しつつ、逃げる敵には設置してあった傷を発動させて殺したそうだ。
小大の個性もサイズを解除するのは触れていなくても可能で、個性を成長させることでどこにあるのかも常に把握できるようになった。
それからは自分の生活範囲では常にトラップのように圧縮した物を配置するのが習慣になった。
だからこそ、この最終種目が決まった際に、直ぐさま家に戻り、持ってこれるだけの装備を調えて、2試合を通してトラップを配置したのだ。
「ん(もうここは私の縄張り。ここなら誰にも負けない)」
いくらでも再生するなら、リング外に押し出してしまえば良い。
小大は更に手札を切ることを決めた。
ジャージのポケットから砂のような粒を大量に取り出し、空気の炸裂で八百万へと飛ばす。
それらが八百万の目の前まで迫ったところで個性を解除して巨大な岩へとサイズをもどす。
当然足下からの攻撃も平行でだ。
更にダメ押しとばかりにリングへと手を付ける。
「ね(このリング広すぎるから、小さくするね)」
押し出そうとする岩を耐え抜こうとしていた八百万も、流石にリングそのものを小さくされることまでは対応しきれなかった。
バーニアを創造して空を飛ぼうにも、小大の攻撃が殺到することで耐えきれず、あえなく地へと叩きつけられることになった。
『八百万さんの場外!! 小大さんの勝ちよ!!!』
審判のミッドナイト先生の声が響いた。
B組の生徒達がリングへと殺到して小大の胴上げを始めるなか、観客達は既にドン引き状態だった。
『んんん、これは弔くんには荷が重すぎるかな・・・』
どこかの黒幕も計画の練り直しが必要かなと冷や汗を流しつつ、あの個性欲しいけど使いこなすのが面倒そうだなと零すのだった。
白い少女も想像以上の成長ぶりに本を渡した甲斐があったと喜んでいた。