もし個性の伸ばし方を指南してくれる教本があったら 作:毎日がチートディ
努力が常に報われるということない。
正しき心が常に正しくあるということもない。
身につけた力が常に栄光へと繋がるということもない。
これは力を得るために努力をしてしまったからこそ起きてしまった悲劇。
ほんの少しの歴史の変化によって闇へと墜ちた者の話である。
ああ、腹が減ったなぁ。
絶え間なく身を苛む空腹感。
いくら食べようがそれは満たされることは未来永劫訪れない。
今日も裏路地を一人、空腹を耐えながら徘徊する。
大手通に出れば食べ物は一杯有るのは分かっているが、それをしたら墜ちるところまで墜ちてしまうのが分かっているからできない。
帰るべき家もとうの昔に喪ってしまった俺には陽の射さない薄汚い路地裏しか居場所はない。
助けてください、伊東先生。
力尽きて蹲った彼は、たった一つ実家から持ち出してきた本を懐から取り出す。
『サルでも分かる魔法の教本』
自身の個性に悩んでいた幼少期に白い少女から手渡された教本。
あれが全ての終わりの始まりだった。
俺がこの本を読まなければ、こんな事にはならなかったのかな。
いや、俺がこの本を読んで調子に乗ってしまったのが悪いんだ。
みんなはこの本で得た力を正しく使っているのに、俺だけが・・・。
俺が・・・弱い俺が悪いんだ。
奥付、出版社の情報が書かれているページ。
そこに書かれている場所にいけばクラッシャー伊東先生に会えるかも。
そう思ってずっと探しているが、N市などという場所は日本にはない。
略称かと思って、Nから始まる名称の市を探してもう何年も日本中徘徊しているが、出版社『鉄腕組』は見つからない。
『やめてよ! そんなもの食べたくないよ!』
幼少期、教本で個性が成長している息子を都心の個性塾に入れようと保須市へと転校してきたのが人生の転換期だった。
本来出会う親友とは巡り会うことはなく、本来もっと未来で出会う人達と小学校で巡り会うことになってしまった。
『ほら、食べろよ、活きの良い蛇だぜ!』
小学校の裏庭。
薄暗く、教師も見回りに来ない、いつもの場所。
『やめてよ、 窃野くん』
『食べると強くなるんだろう。手伝ってやってんだよ、感謝しろよ根暗君』
『た、たべないなら、た、たべたい、メシ・・・』
『多部はさっきたらふく食っただろうが、おら食えよ根暗!』
あの日もいつもと同じように、窃野くんに気持ち悪い物を無理矢理食べさせられた。
ただ、いつもと違っていたのは、その食べた蛇が個性を持っていたことだった。
教本から、個性の本質を学び、個性塾で実験をしていた俺の新しい力。
食べた者の特性だけでなく、個性すらも自身の物へと昇華する能力。
個性はメリットばかりではなくデメリットも存在する。
なので食べるものが綿密に管理されるようになった俺に起きた悲劇。
その蛇の持っていた個性は『巨食』
自身より大きい物を簡単に食べれて、瞬時に消化するという個性だった。
口の中に押し込まれて無理矢理食べさせられた蛇の個性は、俺の個性との親和性が非常に高く、瞬時に俺の個性と統合された。
そして個性を身につけたばかりの頃に起きる、個性暴発が起こった。
俺の口からはみ出している、蛇の半身を、勿体ないと言って食べようと手を差し出した多部君。
彼の手が、俺の口に入ったとき、俺の個性が発動して、多部君はまるごと俺に呑み込まれてしまった。
『は? 多部? え?』
目の前で起きたことを理解できずに呆然として立ち尽くす窃野君。
更に吸収された多部君の個性により、今まで感じたこともない飢餓が・・・。
それにあらがえず、俺は窃野くんも・・・。
それからのことはよく憶えていない。
気付いたころには、教師や両親すら喰らっていて、俺はヴィランとして手配されるようになっていた。
ヒーローに、ただ皆の為になるヒーローになりたかっただけなのに。
大通りから聞こえてくる悲鳴に、俺の意識が夢の中から呼び覚まされる。
腹が、減ったなぁ。
悲鳴が聞こえるってことは、食事の時間って事だな。
『冬眠』の個性を解除して、久々にありつける食事に俺の足は心もち軽くなる。
「そういえば、保須市に戻ってきてたのか」
空腹で意識が朦朧としていた俺は、いつの間にか習得していた帰巣本能の個性で実家の近くまで戻っていて居たようだ。
大通りに出ると、そこで脳味噌剥き出しの怪人が徒党を成して街の人達に襲い掛かっていた。
「ヴィランだぁごちそうだぁ」
俺はヴィランになってしまったけど、それでもヒーローに憧れた気持ちまでは捨ててはいない。
だから、食べて良いのはヴィランだけ。
最近は噂になってヴィランの方から俺を避けるからなかなか食事にありつけなかったけど、今日はこれ、全部食べても良いんだよな。
いただきます。
ちゃんと挨拶して食べる。
挨拶は大事。
虚空に向かって口をパクパクとするだけで、視界内の怪人達は俺の口へと次々と転移してくる。
窃野くん、ありがとう。
君の個性はとても便利だよ。
暴れ回っている怪人が次々と消失していく事態に、鎮圧に当たっていたヒーロー達が何事かと騒ぎ出す。
ほどなくして、裏路地の入り口に立っている俺を見つける。
「お、おまえは!」
俺の顔を認識したヒーローは青褪めた顔をして後ずさりして警戒の声を上げる。
「闇を喰らう者が出たああああ!!!」
怪人達にも臆せず立ち回っていたヒーロー達も、俺からは逃げようとする。
別に、ヒーローも市民も食べないのになぁ。
「奴の視界に入るな! 喰われるぞ!!」
この声は、エンデヴァーか。
それにベストジーニストも来ているようで、ヒーローや市民が俺の視界に入らないように炎や繊維の防壁が現れる。
俺を服から伸びた繊維で拘束しようとするが、瞬時に食べて抜け出す。
折角食べたエネルギーを無駄遣いしたくない。
俺は視界が遮られているうちに、ストックしている逃走系の個性で素早く路地裏へと退避することにした。
途中で少年達相手にナイフを振り回して大立ち回りしているヴィランが居たのでついでにいただきますと挨拶することになったけど、その後も上手く逃げることができた。
あのヴィランどっかで見たことがある気がしたけど、もう食べちゃったしどうでもいいか。
今日は久々にいっぱい食べれた。ああ、腹が減ったなぁ。
白い少女はダークヒーローも有りだと頷いていた。