もし個性の伸ばし方を指南してくれる教本があったら 作:毎日がチートディ
「・・・魔法の教本に、クラッシャー伊東か」
ヴィランの潜伏先を爆豪の写真付きで伝えてきた麗日と、救助された爆豪から教本、そしてそれを齎す謎の女、クラッシャー伊東の話を聞かされた。
麗日の方はクラッシャー伊東を崇拝しているようで、教えるのを酷く躊躇っていた。
何度も頼みこみ、漸くその本を持ってきて貰う事になった。
それまで間にも、今回の事件や生徒の寮生活への移行の説明で親御さんの元へ回ったりなど、本当に忙しい日々だ。
今は事件で肉体的にも精神的にも傷ついているであろう生徒達。
特に・・・口田甲司・・・。
あの後、直ぐさま所轄の警察に聞いても、何も知らないとか、ただの火事だっただののらりくらりと。
公安の知人にしつこく聞いてやっと分かったが、あの地域は昔から異形種への差別が根強い地域だそうだ。
口田の家はそこで長い間暴力や嫌がらせなどを受けていたらしい。
だが口田が雄英高校に受かったことから、口田が将来ヒーローになって仕返しにくると思い込み、地域の若い奴らが集まって夜中に口田の家を襲ったらしい。
両親は生きたまま灯油をかけられ焼け殺され、弟や妹はリンチに会った末、首を切り落とされ晒されていたそうだ。
口田は入学に必要な物を遠くまで買いに行っていたため、帰宅が遅くなり難を逃れたそうだが、家を襲った若い奴らは全員謎の死を遂げている。
公安は口田が殺したのではないかと疑って秘密裏に調査をしていたそうだ。
それからは口田は精神を病んで、あの焼け跡で一人で暮らしていたそうだ。
毎晩、焼け跡で一人ずっと何かの本を読んでブツブツと独り言を言っているのが不気味だし五月蠅いからとっととどこかに連れて行ってくれ、そう近所の住人が言い放ったとき、そいつらを衝動的に殴らなかった自分を褒めてやりたい。クソッタレ共が!
だが、そんな口田の事を気付いてやれなかった俺が一番のクソッタレの無能野郎だ。
公安がなんて言おうが口田の事は俺が守る。あの風見鶏野郎。今度四の五の抜かしやがったら羽根全部むしり取ってやる!
・・・いかん、感情的になりすぎだ。合理的じゃない。素数を数えて冷静にならねば。
それに、先ずは教本のことだな。
昔から噂はあった。
航一の奴が急成長した時も、何かしら本をコソコソ読んでていたのを見たことがある。
30間際でヒーロー免許に受かり、その後コンビであっという間にトップヒーローの一員になり、遅咲きのヒーローとして話題のジェントル&ラブラバも常に手作りの革製カバーがかけられた本を大事に持ち歩いている姿をよく目撃されている。
だが、ネットで出回っている魔法の教本の話は荒唐無稽すぎて、完全に都市伝説の域をでない話ばかりだ。
そもそも配っているのが白い少女って、噂が出始めたのは50年は前だぞ。
一体どんな若作りだ。
ミッドナイトだってそこまでじゃ・・・いや何でも無い。
それに、今回爆豪があったのは噂で聞く白い少女とは違ったそうだ。
爆豪曰く、痴女忍者だと。
山田の奴が興奮していたが、あいつ、峰田と親戚とかじゃないだろうな。
年の離れた兄弟だって言われてもしっくりくるぞ。
「相澤先生。これが・・・魔法の教本です」
八百万に連れ添ってもらいやってきた麗日が心配そうな顔で本を差し出してきた。
俺たちはその本をじっくりと観察する。
『サルでも分かる魔法の教本』
ふざけたタイトルだ。
装丁は以前航一が読んでいた本と同じだな。
著者名は『クラッシャー伊東』
帯もちゃんとついていて、『大丈夫!? 私の本だよ!? 正気なのかい???』などと巫山戯たコピーが書かれている。
裏返してみると、出版社も書かれていて、バーコードまである。
値段はなんと税込み310円。
ジャンプ1冊分と同じ値段だ。
「値段は、先生が言うにはディアゴ○ティーニと違って、全巻同じ値段だそうです。全一巻だそうですけど。あと私もそうだけど、多分誰も請求されたことはないです」
著者と連絡を取っていることを初めて聞いたようで八百万は酷く驚いていた。
噂だと著者は詳細すら掴めない謎の人物で、生きているのか死んでいるのかすら不明だったからな。
八百万が白い少女なのかと聞いたが、麗日は白い少女に貰ったのではなく、爆豪が見たという容姿の女性に貰ったようだ。
「先生は私の個性を面白いって、その才能を磨きなさいって。でも、私は先生の期待に応えられてない」
確かにこいつは運動能力が低く、少し動いただけでも息も絶え絶えになる程、持久力にも問題がある生徒だ。
だが、こいつの個性は触れさえすれば格上でも容易に倒すことが可能だ。
それに、あの異常な耐久力と、そして俺の個性を打ち消した謎の力・・・。
俺は麗日と爆豪の体育祭の戦いのときを思い出す。
爆豪は一向に倒れない麗日に業を煮やし、烏帽子山を消し飛ばしたあの技を使った。
あんなもの、人相手に使えば、肉片すら残らず簡単に消し飛んでしまう。
だから、俺は爆豪と麗日を視界に収めて、個性を打ち消そうとした。
だが、俺が個性を使おうとしたとき、麗日を中心に視界が歪み、視認できなくなってしまった。
初めは外部の誰かの妨害かと思っていたが、あの後、何度か麗日に密かに個性を使おうしたが、その都度麗日を中心に謎の歪みが発生し、一度も個性が効いたことがない。
麗日自身気付いた様子がないが、恐らく無意識に防衛本能で個性を使っているのだろう。
彼女の個性は無重力。もしかしたら・・・。
「麗日。本の中を見せて貰っても良いか?」
俺は麗日の許可を貰い、教本を手に取り開く。
すると中には・・・
“貴方にはこの本は必要ありません。そのまま自己研鑽を積んで下さい。”
とだけ記載されている。
どのページをめくっても同じ文面が書いてあるだけだ。
「必要ない? どういうことだ・・・」
戸惑っている俺の横から覗き見た山田が「おおー、マジか。俺の個性、そんな使い方も出来るのか」と感嘆の声を上げる。
もしかして・・・俺はオールマイトに本の中を見て貰ったが「私にはこの本は必要ないそうだ。私はもう終わっていると書かれている」と苦笑しながら返された。
また、読めた僅かな数人の教員によれば、同じページでも読む人によって記載されている内容が違うようだ。
教員の殆どは俺と同じ、“そのまま自己研鑽しろ”とだけ書かれていたそうだ。
「読む人によって記載されていることが違う? 魔法の教本は読めば誰でも強くなれるのでは無いのか?」
「そんなことあるわけないでしょう」
俺のつぶやきに、八百万が呆れたような声を出す。
「教本は、個性の成長の仕方、トレーニングの仕方、考え方など、色々多岐に渡って記載されていますが、結局の所自分でそれを実践して努力しなければ結果はついてきませんですわ」
「なら、なんで爆豪にあんな煽るようなことを言ったんだ」
爆豪はその本を手に入れるだけで最強になるから手に取れと・・・まさか。
「もしかして断ることを期待していたのか?」
「先生なら、そんなこと言われて本を手に取るような安易な道に進む人、興味なさそう」
爆豪の話を聞いた麗日がそう断言する。
『Exactly』
麗日の言を肯定するように、本から声が聞こえてきた。
俺たち教員は一斉に教本を放り出し距離を取る。
すると教本は地に落ちることなく、宙へと浮かぶ。
『トンガリくんがもし本を取っていたら、僕は彼のことをサクッと忘れてただろうね』
トンガリ、爆豪のことか?
「お前がクラッシャー伊東か?」
『お気に入りのお茶子ちゃんがどうしてもって頼むから彼を探したけどさ。彼は僕を必要としない人間だ。一人で正しく努力できるし、自分の魔法の使い方を自分でちゃんと理解して成長できている。だから興味はなかったんだけどね。でも見つけたついでにちょっとからかってみたんだよ。するとどううだい。自分にだけは負けたくないから要らないってさ。まるでエミヤシロウじゃないか。思わず興奮して録画しちゃったよ。あの後でエミヤシロウとアーチャーに貴様らの同類がいたぞって散々からかうことができてご満悦だ。アレだけでご飯3杯いけたね。普段から3杯は普通におかわりするけど。本当に面白かったんで、彼のこと気に入っちゃったよ。僕の助言は彼には必要ないだろうけど、白いのによると、このままだとあと1年もしないで彼死んじゃうみたいだからさ、その時に借りを返すことにしたよ。アレは心臓1個の価値はあるからね。本当、何度あのシーン見ても面白い。本当に人間って素晴らしいな。えっと何の話してたっけ? まあ、あれだ。お茶子ちゃんは可愛い。でもトガちゃんも可愛い。この二人が僕のお気に入りだよ。あ、トガちゃん保健委員になったんだってね。毎日血だらけの可愛い子が一杯だって手紙送ってくれるんだよ。それでさ、この前・・・』
謎の声は俺の問いに答えることなく、自分勝手にひたすらベチャクチャ話し続けている。
だが、話の節々で聞き逃せない事が多々ある。
保健委員のトガとは、2年の渡我被身子の事か? 回復系個性のスペシャリストでリカバリーガールの後継者として入学した特待生の・・・。
性癖が特殊なのが唯一の欠点だが回復だけじゃなく戦闘能力も高く、隠密能力や生存能力も最高水準の名実ともに2年のトップだが、あいつも教本の読者だったのか。
「さっきから麗日と渡我の事ばっかり話しているが、お前は、配った教本を読んだ他の者がどうなっているかには興味ないのか?」
『全く無いね』
「もしその教本を読んだ者がヴィランになってもか?」
『別にどうでもよくない? 自分の魔法をどう使おうがそいつの勝手だろう』
「クッ。お前・・・個性を何だと思って『魔法少女が殺し合うなんて普通のことだろう。強ければ生きて弱ければ死ぬ。至極当たり前だ。弱い癖に粋がると直ぐに分からされて殺されるのは世の常だ。死にたくなければ目立たないようにすれば良い。そもそも自分から求めて手に入れた力ならともかく、勝手にこんなの押しつけて魔法少女にしておきながら世のため人のため正しい魔法少女になりましょう? 巫山戯んなって話だな。そもそも私が魔法を手に入れた直後、いきなりルーキーの魔法少女同士で殺し合いさせられたんだぜ。マジで腐った世の中だよな。あ、そういえばそっちは生まれ付き魔法を持っているんだっけ? ご愁傷様だよな。マジで狂った世界だと思うよ。同情するね、3分で忘れると思うけど』・・・一体何を言っている?」
さっきから魔法少女とか一体何のことだ? 狂っているのか?
いや。こいつの話が全部本当のことだとするなら・・・。
『まとめるとあれだ。その本を読んでどうなろうが、それはそいつの生き方次第だ。正しいヒーローになりたければそうすればいいし。殺人鬼になりたければそれでもいい。ただ、殺して良いのは殺される覚悟を持った者だけだ。ここマーカー引いておけ。試験に出るぞ。あ? なに漫画で読んだ台詞言ってるのかだって? こっちは大事な話をしてるんだ、茶々を入れるじゃない・・・ああ、コッチの話だ。とりま、その本は好きに使うがいい。読めるのならな』
それだけ言うと、本がパタリと閉じ、床へと落下した。
「さすがクラッシャー伊東先生。含蓄深いお話しでしたわ。八百万百。感服致しました」
「先生・・・そんなに私のことを期待してくれているなんて。これからももっと頑張ります!」
八百万と麗日は何故か感動の涙を流しながら深々と教本に頭を下げている。
クラッシャー伊東、なんて狂人だ。
だが、幾つか分かったこともある。
どうやら、この本は信じがたいことだが、異世界から来た本当の意味で魔法の本なのであろう。
好き勝手書いているだけなので低評価とか気にしないスタイル。