もし個性の伸ばし方を指南してくれる教本があったら   作:毎日がチートディ

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贋作者

「あ、仁くーん、こっちこっちー」

 

 

一人の男がタバコをくゆらせながら薄暗い廊下を歩いてきた。

額の中央に縦一文字の傷が入ったその男の目は社会のドブ底を見てきたような腐った目をしていて、その目だけで彼のこれまでの人生の過酷さが伺いしれるだろう。

そんな男に対して、雄英高校の制服を身に纏った少女は会えて嬉しいという感情を隠そうともしないように飛び跳ねながら手を振って出迎えた。

男はその少女の満面の歪んだ笑顔を見て、漸く表情を和らげる。

 

少女、渡我被身子は男に駆け寄ると、男の腕にしがみついて一緒に歩いてくる。

 

俺は、毎度おなじみになったその光景を見ながらため息を吐きながら男に問いかけた。

 

 

「それで、今日は本物なのか?」

 

「風が遍在するように、俺もまた遍在する存在だぜ。そんな問いかけに何の意味があるってんだい、ホークスの旦那」

 

「仮にもお前は保護観察中の元ヴィランだということを自覚してほしいよ。分倍河原仁」

 

「俺は生きたいように生きるぜ。いや、死にたいように死ぬんだよ。なんなら直ぐさまヴィランへ返り咲いたっていいんだぜ」

 

 

おどけるような言葉に俺の胃がまた痛みを発する。

 

 

「勘弁してくれ。もしお前が捕まってタルタロス行きになったら俺死ぬよ。殺されちゃうよ。お前と渡我の治療をろくろ首よりも首を長ーくして順番待ちしてる永田町の妖怪爺達にぶっ殺されちゃうからマジでやめてね。もし何かやっちゃったら全力で揉み消すから捕まる前に絶対連絡してね」

 

 

本持ちってのはどうしてどいつもこいつもこう変人ばかりなんだ。

今度入ってくる骨抜って奴も俺の尻に熱い視線を送ってやがったし、そろそろ本気で転職考えるべきかな。

 

 

「それにしても今日は本当に警護が物々しいな。アンクルサムの叔父さんでも来てるのかと思ったぜ」

 

「日本にとってはそれぐらい大事な相手だからな」

 

 

幾らAFOが捕まったといってもヴィラン連合も、その中の転移能力者もまだ補足できていない。

万が一、今日の手術のことが漏れて襲撃された場合を想定して、表からも裏からも集められるだけの戦力を集めている。

本持ちだって数人居るんだ。

 

それこそあのクラッシャー伊東が気まぐれで現れない限りなんとかなる・・・はずだ。

 

・・・・・・・・・強い連中は性格に難があるヤツばかりだから不安だ。

 

俺は胃を押さえながらも、分倍河原と渡我を連れて、手術室へと案内する。

手術室の部屋の前にはエンデヴァーさんとベストジーニストが立っていた。

エンデヴァーさんは眉間に皺を寄せて目を閉じ、腕組みをしたまま壁に背を付けている。

 

 

「勝ち逃げなど許さん。分倍河原、渡我被身子。ヤツのことを頼んだ」

 

 

ポツリと一言だけ言い、エンデヴァーさんはそっぽを向く。

 

 

「ツンデレです! 見事なまでのツンデレですよ、仁くん」

 

「マジでテンプレ通りだな。そのまま録画して博物館に飾っておきたかったぜ」

 

 

その言葉に、エンデヴァーさんの顔が赤く染まり額に血管が浮き上がる。

羞恥と怒りでプルプルと震えているが、エンデヴァーさんも彼らの重要性は理解しているので必死で我慢しているようだ。

 

 

 

ここは国立最高学府の大学病院。

今日、ここで、オールマイトの復活をかけた大手術が行われる。

 

 

 

手術室の中にはリカバリーガールを初めとする日本の貴重な回復・治療系の個性持ちが何人も待機していた。

 

 

「よお、オールマイト。前にも言ったが、身体は治せるが、個性の方は無理だ。そもそもがお前自身の個性じゃないからな。ただ、お前が英雄たらんとするならば多少は戦えるようにはしてやるよ」

 

「分かっているよ。私はただ、時間が欲しいんだ。まだ未熟な彼らを導けるだけの時間が」

 

 

分倍河原の言葉にオールマイトは覚悟を決めた顔で答える。

 

 

「あともう一つ。これも前にも言ったが、俺の個性は完全に中身まで理解できていないものは直ぐに壊れてしまう。人間の場合は器の小さい人間ならともかく、トップヒーローやトップヴィランとか星に愛されたような人間は存在力がデカすぎて俺には共感がしにくい。だから小突けば崩れるような儚い存在になってしまう」

 

 

分倍河原は元々複製の能力があったが、ちょっと衝撃を与えてしまえば直ぐ壊れてしまう出来損ないしかできない能力だったそうだ。

だが、あの本を手に入れてからその能力は大きく成長した。

この国で、総理大臣よりも替えが効かない能力者になった。

 

 

『俺は馬鹿だからよ。見た目だけで相手のことを分かった気になっちまってたんだよ。だけど先生はそれじゃ本物を再現できなくて当然だって諭してくれた。再現したい物や相手、その存在全て、本質も何もかもを知ることが大事なんだってな』

 

 

故に、彼が健康体の複製を作って治療する際、治療相手の情報を余すこと無く知り、共感し、自分と同一と思えるようになるまでの時間がかかってしまう。そのため、年に行える手術の数が限られてしまうんだ。幾ら自身の複製体を作り、並列で処理しても精神的な限度がある。だからこそ彼の一分一秒は金塊よりも貴重だ。

 

 

「オールマイト。俺はお前さんのことをこの1年ほど理解しようと努力してきた。でもやっぱりあんたの精神性は理解できなかったわ。一体何が楽しくて生きているんだ? あんたは本当に正義の味方だな。マジで吊るされないようにほどほどに生きることを覚えるといいぜ」

 

「あ、ああ、頑張ってみるよ」

 

「だからこそ、あんたの完全な複製体は作れない。だが、あんたはオールマイトだ。人々の希望となり、幻想となり、信仰になった存在だ。生きたまま座に登録された貴重品だって先生もホルマリン漬けしたいって言ってたぜ。故に理解しきれない部分は人々の幻想を持って再現する。オールマイト。あんたが人々の希望であり続けるなら、あんたの身体は100年でも1000年でも動き続けることを保証する。だが、人々があんたを失望した途端、幻想は砕け散る。それを忘れるなよ。複製を開始する―――投影トレース開始オン

 

 

 

創造の理念を鑑定し、

基本となる骨子を想定し、

構成された材質を複製し、

制作に及ぶ技術を模倣し、

成長に至る経験に共感し・・・エラー、

人々が祈る信仰で補強し、

蓄積された年月を再現し、

あらゆる工程を凌駕し尽くし――――

ここに、幻想を結び剣と成す――――!

 

 

 

「オールマイトが・・・」

 

 

誰かが思わず呟いた言葉通り、分倍河原の前に全盛期のオールマイトの身体が現れる。

 

 

「・・・・・・・・・はぁ。マジで疲れた。ご注文のオールマイトの身体だ。しかも人々の信仰によってオールマイトの個性もまたオールマイトの物と認識されて再現されている。だがそっちについては人々が理解できる範囲でしか再現できていないからな。精々超パワーぐらいなもんだ。誰かに譲り渡したりもできないし、以前までの常識外れな力はないから注意してくれ」

 

 

「よし! んじゃ移植手術に移るよ! 渡我! 出血の制御に関してはあんたに全て任せるから頼んだよ! ほら、オールマイト何ぼさっとしてるんさ。とっととマスクして寝な!」

 

 

リカバリーガールは複製された自身の身体に魅入っていたオールマイトの後頭部をぶん殴り、麻酔用のマスクを顔面に押しつけて寝かしつけた。

 

 

「んじゃ、俺はもう帰るわ」

 

「ああ、報酬は何時もの口座に振り込んでおく。また何かあったら連絡する」

 

「金さえ払ってくれればAFOだって複製してやるさ。んじゃな」

 

 

そういうと、分倍河原の身体はドロドロになって消えていった。やっぱり複製体だったのか。

 

オールマイトは開頭され、慎重に且つ迅速に脳移植が行われている。

なかなか見てて気持ちの良い光景では無いが、俺は警戒のために離れるわけにいかないからな。

 

でもこれでオールマイトが、俺たちの希望が復活する。

見た目だけだが、それでもそれで人々が安心して社会が安定するなら。

後は俺らが抜けた穴を埋めるだけだ。

 

クラッシャー伊東に対しては複雑な気持ちが拭えないが、分倍河原という男を育ててくれたこと一点だけでも足を向けて寝られないな。

 

 

あと、渡我と分倍河原の仲が壊れないように注意せねば。

失恋して日本から離れるとか言われたら、それこそ俺の命が危ない。

後で渡我にネズミーランドのペアチケットと穴の空いたゴムを渡しておくか。

なんとしてでも日本に縛り付けないと。

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