もし個性の伸ばし方を指南してくれる教本があったら   作:毎日がチートディ

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親友

インターンを間近に控えた雄英高校1年A組は、迫り来る危機に備え静かに牙を研いで・・・・・・

 

 

「今週のグラビアもエロいぜ! 次号のグラビアの子も可愛いし、マジで週刊文秋最高だぜ」

 

 

・・・・・・・・・いなかった。

 

 

峰田を中心に上鳴や瀬呂など男子が集まりエログラビアに夢中になっている。

 

 

「水着の写真であそこまではしゃぐなんて男子って馬鹿すぎ」

 

「まぁまぁ、男の子だしね」

 

 

女子達がそんな男子達に向ける視線は非常に冷ややかな物だ。

だが、その女子達もファッション雑誌を囲んでおしゃべりを楽しんでいる。

 

雄英体育祭後は飯田の兄がヒーロー殺しに襲われて暗くなっていたが、そのヒーロー殺しもあっさりと通りがかりのヴィランに殺されてしまい、飯田の兄は渡我被身子の治療により無事に復帰して、実に平和な物である。

職場体験の際にヒーロー殺しに遭遇してしまった緑谷や轟も、出会ってすぐにそのヒーロー殺しが倒された物だから、拍子抜けこそしたが危機感などまるで感じることはなかった。

 

林間合宿こそ、ヴィラン連合に襲われはしたが、特待生の2人が前面に出てヴィランを押させていたため実際に特待生以外で真面にヴィランと戦ったのは、捕えられてしまった爆豪のみ。その爆豪も誘拐翌日には麗日お茶子から齎された情報から生徒が出しゃばる隙も与えず教師陣が一気に攻め込んだため、生徒はTVでオールマイトが隻腕のオール・フォー・ワン相手に戦い、苦戦はしたがトゥルーフォームを見せる事は無く勝利したため、これまで成長する機会など全くなかった。

 

 

故に、この醜態である。

 

 

「だが、この文秋はそれ以外にも色々興味深い記事が書いてあって男の魂を擽られる」

 

 

常闇が目を輝かせながら同じく文秋を読んでいた。

 

 

「ヤクザ団体死穢八斎會の謎の壊滅。崩壊した組屋敷で組長代理を含む全組員が無惨な死体で発見。団体を秘密裏に調査していたヒーローは関係を否定。公安の暗殺部隊か、はたまたヴィランの勢力争いか・・・うむむ、闇の陰謀を感じるぞ」

 

「こっちの先週からの企画のタイツ男の話も面白いよな。政府の要人らに付き従う謎の全身タイツ男達トゥワイスの謎に迫る。トゥワイスの謎が掴めたらしくて、来週にはその正体を巻頭特集で大公開なんだってさ!」

 

 

同じく一緒に読んでいた切島が来週が楽しみだとウキウキしているところに、通りがかった八百万がその雑誌を横から見て声をかける。

 

 

「切島さん、来週号を楽しみにしているところ悪いのですが、その文秋の出版社が今朝方倒産しましたよ、社員全員タルタロス送りになって」

 

 

その言葉に、クラスが凍り付く。

 

 

「え? この本、今日発売だよね。それがなんでいきなり逮捕?」

 

「どうやら会社まるごとオール・フォー・ワンの下部組織だった、という事になっていますね、表向きは」

 

 

八百万へと父から朝一で警告の電話があった。

 

 

「どうやら政治の暗部に踏み込んだそうで、永田町の指示から公安ヒーローが総出で出動、社員だけじゃなく親族や知人まで根こそぎ逮捕されたようです。死人も多数出ているそうで。父から今回の件で公安が殺気立っているので趣味のヴィジランテ活動を暫く止めるように言われてしまいましたわ」

 

 

ストレス解消と戦闘訓練を兼ねていてとても楽しかったのですが、と八百万は残念そうにため息を吐く。

 

 

「次号のグラビアちゃんが・・・おっぱいちゃんが・・・」

 

 

「その子も出版社内の撮影所に居合わせた関係で物理的にこんがりと良い焼け具合で炎上引退したそうなので・・・ご愁傷様です」

 

 

南無南無と手を合わせる八百万を見て、峰田が絶望したように跪き泣き崩れたのを男子達は慰めるのだった。

 

 

そんな普通科と大して変わらないような日常風景に、廊下から見ていた担任の相澤は危険視していた。

 

 

ヴィランから2度の襲撃を受けておきながら精神的な成長がほとんど見られない。

従来の相澤なら全員除籍してもおかしくない。

だが、ヒーロー公安委員会からこれ以上の生徒の除籍は厳禁とされていた。

ただでさえ、現在の雄英高校 ヒーロー科は3年生と2年生がそれぞれ1人しかいない状況なのだ。

それに2年の渡我は貴重な医療能力者で、3年は中身がアレだ。

どちらも卒業後は真っ当に活動するヒーローには成らない。

 

故に、今年の1年は全員ヒーローとしてデビューさせるようにキツく言われている。

そのうえ1年目から仮免許試験を受けさせるようにと、

 

仮免許さえ交付してしまえば、現場に出動させられるからな。

ヒーロー公安委員会は人格的にまともな部類に入るヒーローが喉から手が出るほど欲しいのだろう。

 

 

だが、昨今の凶悪化している現場にこんな調子のこいつらを出せば、たちまち死体の山が出来上がることだろう。

それこそ昨夜のあいつが言っていたことが現実になってしまう。

 

 

『うちの白いのの観測だけど、このままだと、1年もしないでA組はほとんど死ぬね。お茶子ちゃんぐらいだよ、1年後もぴんぴんしてるのは。百ちゃんも8割ぐらいの確率で死ぬっぽい。一旦守勢に回ると案外脆いからね彼女』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昨夜、相澤の自室にクラッシャー伊東が現れた。

 

 

爆豪の言うとおり、手裏剣型の髪留めで黒い長髪をポニーテールに纏め、服装は黒ビキニの上から旧ドイツ軍のコートを羽織っていた。

更に、噂に聞く白い少女と思わしき、白のセーラー服を来た全体的に白で統一した少女、そして彼女らの後ろに付き従うメイド服の少女の3人が、俺の部屋にいきなり現れたときは流石に驚いた。

気配などまるで感じなかった。

幾らプライベートな時間とは言え、真後ろに立たれて声をかけられるまで気付かなかったのは初めてだ。

あちらにその気があったなら俺は抵抗も出来ずに殺されていただろう。

 

 

「あの時は周りに人が多かったからね。口の軽そうなのとかもいたし、お茶子ちゃんには聞かせられない話とかもあるから時間をちょっと貰う事にしたよ」

 

 

クラッシャー伊東(だと思う女)が一方的にそう言うと、メイドが小さな袋から取り出した椅子やテーブル(明らかに入るサイズではない)をセッティングしていく。

 

狭い部屋にそんな物を置かれると・・・俺のベッドがいつの間にか消えていてスペースは確保されていた。

あのメイド少女は恐らく袋に物をサイズを無視して収納するとかの個性を持っているのだろう。後で返してくれるよな、俺のベッド。

 

 

「ああ、そんなに警戒しないでもいいよ。僕の固有魔法は“物を投げると狙ったところに絶対当たる”っていうちゃちな物だし、この白いのの魔法は“困った人間の声が聞こえる”っていう限定的な未来を観測するもの。メイドのは先ほどから使っているのを見て貰えば分かるだろうが、ご覧の通りだ。私は遠距離戦闘特化な上に今日は武器は持ってないし、残りの二人は非戦闘タイプ。魔法を無効化できて近接能力の高い君にこの間合いで戦いを挑んだりはしないよ。それに、僕は君にここで魔法を使わないと誓約しよう。これは魔法の取引にも使われる魔法の誓約だ。僕がここで君に魔法を使えば僕は罰則を受けて死ぬ」

 

 

彼女は羊皮紙に書かれた誓約書を俺の前に置いた。

それがどの程度効果があるのかは分からないが、俺は彼女の態度に何故か安堵を覚えていた。

ならば警戒することもないな。ここは情報収集に徹するのが合理的だ。

俺は発動しようとしてた個性を中止して目頭を揉む。

夜半に俺の個性はキツい。使わないですむのは非常に助かる。

俺は気さくなクラッシャー伊東にだんだんと親近感を覚えてきていた。

彼女達とはこんな出会いをしていなければきっと親友になれていたかもしれない。

 

 

「親友か。それはいいな。今からでも間に合うさ。なぁ相澤先生」

 

「いや、俺は雄英の教師として、公私の区別は付けなくては・・・親友だなんて俺は何を言っているんだ」

 

 

どうやら噂の人物に逢えて少し興奮していたようだ。気を確かに持たねば。合理的じゃない。

 

 

「それで、一体何の話をしにきたんだ。こんな時間だ、手早く済ませたい」

 

「そうだな。こっちも面倒くさいのはお断りだから単刀直入に言う。A組の実力が想定より低くなりすぎた」

 

「想定? どういうことだ」

 

「あんたらの言葉で言うならPlus ultraプルスウルトラが足りていない」

 

 

クラッシャー伊東が困ったことになったよと、ため息をつく。

 

 

「うちの白いのの観測だけど、このままだと、1年もしないでA組はほとんど死ぬね。お茶子ちゃんぐらいだよ、1年後もぴんぴんしてるのは。百ちゃんも8割ぐらいの確率で死ぬっぽい。一旦守勢に回ると案外脆いからね彼女」

 

「死ぬ? それも1年もしないで? 一体何を言っているんだ、お前は」

 

「さっきも言ったとおり、うちの白いのの固有魔法は限定的だが未来を視ることができる。それも助けを求める声を介してね」

 

 

麻雀で鍛え上げました、と冗談なのか区別がつかない事を言って微笑む白い少女。

 

 

「本来のこの世界は全世界的な犠牲こそ多いが、A組は全員無事・・・とまでは言わないが死人は出ずに乗り越えられるはずだった」

 

「ですが、今後1年以内に現役ヒーローの半分は死に、それ以外の一般市民に至っては1000万以上の死者が出ます。私にはそれを看過できませんでした」

 

 

1000万・・・この国の10人に1人近くが死ぬほどの・・・それほどの何かが起きるのか。

 

 

「それでこいつが僕に無許可で教本をばらまきだしたってわけだ」

 

「彼女がばらまいた、というが、俺には君もそうだが彼女もまだ十代の少女にしか見えないが。知っている限り50年以上前から教本の噂はあるのだが、どうなっている」

 

「魔法少女に年齢なんて関係ないよ。私たち魔法少女は一種の人型兵器だ。見た目もそうだがちゃんとメンテナンスをすれば何千年だろうが生きられる」

 

 

俺はニタニタと口元を歪ませた爽やかな笑顔を浮かべるクラッシャー伊東を見ていると暖かな気持ちになり、本来なら隠すべき情報を俺に包み隠さず教えてくれる彼女のことを、信頼の置ける人物だと思えるようになってきた。

 

 

「本来なら今後行われるであろうインターンで、其方の緑色のボンバヘッが大きな成長を遂げる事件が起きるはずだった。だが、本来の歴史から外れた影響で、彼の死亡確率が100%になってしまってね。どのように乱数調整しようが、仮にインターンに参加させなくてもヒーロー特有のお節介さから事件に首を突っ込んで派手に爆散して死亡するっていう詰み状態になってね。更にその後、事件の鍵になったガキが数年以内に宇宙全体を原初まで巻き戻して世界そのものがなくなるという大スペクタクルSF映画となってしまう」

 

「本来ならそれを防げる人が居たはず何ですが・・・今頃どこにいるんでしょうね」

 

「世界線の壁どころか、世界層の壁すら透過して宝石爺の認知範囲外に行ってしまったからな。もはや戻ろうとしても戻れんだろう。才能がありすぎる奴だった」

 

「そんなわけで、事件そのものを無くしてしまう必要があった。危なっかしいガキに関してはこっちに上位互換の魔法が使える奴がいるから、そいつに預かって貰っているから安心しろ」

 

「まどかさん、新しい妹が出来たって喜んで面倒見てましたから安心してください」

 

 

なにがなんだか分からんが世界の危機が一つ解決したらしい。

全くもって意味が分からん。

 

 

分かったのは緑のボンバヘッというのが恐らく緑谷の事で、奴がインターン先で死ぬところだったということぐらいか。

インターンで生徒が殉職とかトラウマ抉られるので阻止してくれたことはありがたい。

 

 

「そんなわけで彼らには至急成長してもらう必要がある」

 

「だが、オール・フォー・ワンが捕まり、残っているヴィラン連合も脅威となるのは転移系能力者だけだ。それでなぜA組が壊滅するなんてことになる」

 

「オール・フォー・ワンがこのままただ捕まっていることを良しとしているだって? 甘い、甘すぎる。マックスコーヒーに練乳入れて飲むほど甘い考えだ。既に練乳は最初から入っているだろう」

 

 

クラッシャー伊東はメイドから差し出されたマックスコーヒー(異世界でも売っているのか)を一気飲みする。

 

 

「これからどうなるのかを言ったら面白くな・・・げふん、失礼、噛みました。あれだ、あれがあれしてあれな法律で異世界にあまり干渉すると法律的な感じでアレになるので言えないのだ。オール・フォー・ワンも強さ的には中の下程度だが、その法律のために僕たちが手を出すことは出来ん」

 

「そういう割には教本持ってた子が教本目当てに殺されたときにぶち切れて組員総出で囲んでボコボコにしてましたよね」

 

「うるさいぞ。ちゃんと片腕だけで我慢しただろうが、あれを殺したらその先の楽しみがなくなるしな。本当にギリギリで我慢したんだぞ」

 

 

白い少女が面白そうに顔を歪ませながら煽り、クラッシャー伊東が真っ赤になって否定する。

メイドの子がまたやってるとばかりに呆れた顔で二人を見ていることから、このような事はいつのものことで、二人が本当に仲が良さそうなのが分かる。

 

 

「とにもかくにもテコ入れが必要だ。手軽にレベル上げするには経験値を一杯持っていそうな敵と戦うことだな」

 

 

実戦経験が豊富で強いヴィランなど限られているし、そんなのとあいつらを戦わせればそれこそ死人が出るが・・・。

 

 

「いるじゃないか、手近に。生徒の癖に最早トップヴィランの風格纏ってて強くて、それでいて辛うじてヒーローへの道を諦めきれない奴が」

 

 

そいつと戦わせれば良い。

クラッシャー伊東が事もなげに言った言葉に一人の人物が脳裏に浮かぶ。

 

 

「選ばれなかったが故に磨かれた至高の才能」

 

 

ダメだ、奴は危険すぎる。

 

 

「雄英高校が作り上げた最強の怪物。捻れに捻れた狂気の産物がさ」

 

 

だが、俺には親友のクラッシャー伊東が言う言葉を疑うことができなかった。

それにほら、こんなにも安らぎを感じる。

 

 

難しく考えすぎたんだ。

 

 

あいつもA組との交流で俺とクラッシャー伊東のように友情が芽生えるかもしれないじゃないか。

 

 

「今日のところはこれで帰るよ。また連絡する」

 

 

考え続ける俺をよそに、クラッシャー伊東はニタニタと信頼できる笑みを浮かべながらゲートへと消えていった。

 

 

「のっこちゃん、お疲れ様です。私たちも帰りましょう」

 

「ずっとだったから結構疲れたの。帰ったらケーキね」

 

 

白い少女もメイドを労いながら帰っていった。

 

 

俺は家具一つ無い自室の隅で、体育座りをしながら今後のスケジュールについて朝まで考え続けていた。

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