魔法少女☆鹿目まどか 円環最期のZERO秒間   作:凡庸

58 / 58
第58話

「始まりましたね」

 

「そうだね」

 

 彼方から離れた場所。

 女神と悪魔が不在となった円環の理の中の一室で、まばゆとA-Qは虚空に浮かぶ映像を観ながら言葉を交わしていた。

 

「悪魔の、いや、暁美ほむらの観測者だからとはいえ、遠い彼方の事象まで観測できるとはね。実にエクセレントだよ」

 

「お褒め頂きありがとうございます。ええと」

 

「A-Qでいいよ。さん付けするかは君に任せる」

 

「分かりました。ではA-Q、始めましょう」

 

「君は、グッドだけどもフールだね」

 

 アリナ・グレイと精神疾患を患ったインキュベーターの融合体は、微妙な不快さを示しつつも頷いた。

 暁美ほむらの従者と異形のインキュベーターが何かをしている中。

 そこから少し離れた場所にあるベッドの上では、女神の器たる少女、鹿目まどかは静かな寝息を立てていた。

 その寝息がほんの僅かな時間停止し、そして可憐な瞼がほんの少しだけ開いたことに、この場の誰も気付いていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 光線と熱線、そしてミサイルと光の矢が飛び交う中を、偉大な勇者の名を冠された魔神は紅の翼で飛翔し、縦横無尽に動いていた。

 回避しきれなかったものは両手に握られた一対の剣によって弾かれ、また命中しても損傷には至らなかった。

 極めて高い機動性と頑丈極まりない装甲。

 正に完璧な兵器だと、操縦席に座す暁美ほむらは思った。

 

「サンダーブレーク…!!」

 

 敵である無数のマジンガーZからのブレストファイヤーを斬撃で弾きながら、暁美ほむらは武装名を叫んだ。

 その声は高揚を帯びていたが、魔神の雷の威力は彼女の期待と感情を裏切らなかった。

 剣の先端から放たれた雷撃は広く網のように拡散し、迫る熱線を弾いた上に大量のZ達を補足し破壊せしめた。

 

 砂のように崩壊していくZ達であったが、その奥から迫り来る存在があった。

 それらは雷撃の網の中を掻い潜り、グレートの頭部へと一瞬で迫った。

 操縦席の風防の先に、虚無の矢を構えた鹿目まどかの虚影達がいた。

 弓矢が放たれる直前、それら全ての額に風穴が開いた。

 

「言ったでしょう。容赦はしないって」

 

 Z同様に砂となって崩れゆく鹿目まどか達に、暁美ほむらはそう言った。

 内心の整理の為だと、彼女自身も分かっている。

 構えていた銃を下ろし、再び操縦桿を握る。

 

「干渉遮断フィールド…役に立つなんて、思いもしなかったわ」

 

 グレートを操作しながら暁美ほむらは呟いた。

 件のフィールドは忌まわしい思い出の一つだが、その経験が役に立っていた。

 元の存在は外部からの流入は可能でも内部からの脱出は不可能という代物であり、今回の場合とは逆だった。

 内部からの干渉を行えるという点で、彼女はかつてのそれを参考にしたのだろう。

 そしてもう一つ、彼女はフィールドの知識を利用したものがあった。

 その思いを有しながら、暁美ほむらは左手の盾を一瞥した。

 

「ブレストバーン!!」

 

 しかしその一瞥も一瞬の事であり、即座に攻撃を放った。

 虚空の一面を覆う灼熱の光は、これもまた無数のZと鹿目まどかの幻影を薙ぎ払った。

 グレートの力は圧倒的であり、戦闘の開始から今に至るまで無数の敵を殲滅していた。

 とはいえ相手の数は無数であり、殲滅しきるまでには相当の時間と、そして戦闘中に適応されまいかという不安があった。

 そしてそれは、程なくして的中することとなった。

 

 辺り一面を覆う砂の嵐を突き破り、鋼の剛腕とその全身が見えた。

 と思った時には肉薄されていた。

 反射的に振るった刃は、鈴のような澄んだ音と共に弾き返された。

 

「あら、振出しに戻ったのかしら」

 

 揶揄のような言葉を投げつつも、暁美ほむらの声に余裕はなかった。

 先ほどまでZを易々と切断していた剣の刃が欠け、弾かれた振動はグレートの操縦桿から伝わり彼女の腕をも痺れさせている。

 

「その姿は」

 

 彼女が言い終えるよりも早く、新たに表れた存在は胸の放熱板から熱線を放ち、虚無の世界は真紅に染まった。

 紅に染まる視界を拭うように、暁美ほむらはグレートに剣を振らせた。

 斬撃により熱線が掻き消されたが、勇者の全身には火傷のような破損が生じていた。

 

「ごめんなさい、グレート」

 

 操縦席までの熱は遮断されていたが、彼女は外部の超高熱を感じ取っていた。

 身を削って主を消滅から防いだ勇者を、暁美ほむらは感謝した。

 謝罪したのは、避け切れなかったからだろう。

 相手に対する怒りが湧いたが、彼女は冷静に努めようと己を律し前を見た。

 Zは無数の群体から個体へと変わっていた。

 そのためか、能力が格段に上がっている。

 更に最も変化が著しいのは、その外見だった。

 

 大きさはさして変わらない。

 武装で見ても、常時展開されたアイアンカッターが消え、腕の異様な肥大化も無い。

 だが全体的に装甲に厚みが増し、人間の体格で言えば筋骨隆々とした体格へと変貌していた。

 ジェットスクランダーは装甲の淵が溶解したかのような、または生物の肉のような生々しい造形へと変わり更に巨大化している。

 そして最も変化が著しいのはその顔だった。

 恐ろしさはあれど荘厳だったマジンガーZの顔は、髑髏を彷彿とさせる形状に変わっていた。

 悪鬼という言葉が暁美ほむらの脳裏を過るが、この姿には更に相応しい呼び名があることを彼女は覚えている。

 

「終焉の魔神」

  

 そう呟いた彼女の視界を、終焉の魔神の拳が覆った。

 直後に轟音が生じ、破壊不能である筈の超合金ニューZが破片となって砕け散る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『………』

 

 暁美ほむらが駆るグレートマジンガーの奮闘とマジンガーZの変貌。

 そして今現在陥っている苦境を、女神の意思は暁美ほむらの視点で見ていた。

 終焉の魔神と化したマジンガーZの殴打を受けたグレートの腕は、表層ではあるが装甲が剥離し飛散していた。

 返しで放たれた斬撃を、終焉の魔神は手で掴み取るや即座に握り潰した。

 砕け散る破片を目くらましにして放ったサンダーブレークを、終焉の魔神は避けもせずに受けた。

 着弾地点である胸部が赤く輝いた時、暁美ほむらの感覚と視界を介して女神の意思も戦慄を感じた。

 

「ブレストバーン!!」

 

 至近距離で放たれたブレストファイヤーを、ブレストバーンが迎撃する。

 虚無を染め上げる真紅の光を、虚無の輝きが塗り潰す。

 紅と無色の混沌とした大爆発の粉塵の中を、グレートが飛翔する。

 吹き飛ばされたのではなく、自ら距離を取るため離脱したようだった。

 

「そう易々と、何度も焼かれるわけにいかないわ」

 

 言い様、グレートの脚部から十字型の鉄塊が射出された。

 その上部を握るや、即座に形状が変化。構えた時には、マジンガーブレードとして形成されていた。

 同時に全身の破損個所を黒い燐光が覆い、修復していく。

 爛れたような溶解部分も滑らかになり、内部のメカニズムの異常も完全に元通りとなっていた。

 時間にして一秒経ったかどうかであった。

 

「この再生能力…美樹さやかも真っ青ね」

 

 因縁のある者の名を例に出し、暁美ほむらは感嘆の声を上げた。

 補助として自らの魔力を流したが、それが不要なくらいにグレートの性能は高かった。

 しかしそれを以てしても、終焉の魔神を相手にしてはどれだけ保つか分からなかった。

 遠くで何かが光った、と見るや暁美ほむらは斬撃を見舞った。

 

 弾き返したのは、終焉の魔神の双腕だった。

 新たに生成した剣は僅かに欠けながらも、砕けはしなかった。

 見れば、魔神の腕には斬線が僅かではあるが走っている。

 しかしそれも見る間に薄れ、本体と再接続される頃には完全に修復されていた。

 再生の度に強化していっても、消耗戦に持ち込まれることは必至であり、その場合自分という脆弱な精神の重りがある分グレートが不利であると彼女は察した。

 

「でも、諦めるつもりなんて毛頭ないわ」

 

 剣を交差させると、既に上空に展開させていた曇天からの雷をその先端で受けた。

 その雷は終焉の魔神ではなく。グレートに向けて放たれた。

 偉大な勇者の全身を雷撃が多い、その姿を煌々と浮かび上がらせる。

 

「来なさい」

 

 悪魔を思わせる蠱惑的な挑発の声を暁美ほむらは発した。

 その声が聞こえたかのか、即座に終焉の魔神が雷を纏ったグレートへと肉薄する。

 即座に剣戟と殴打、熱線と雷撃の応酬が開始され、魔神同士の戦いは刻一刻と激しさを増していく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 女神の意思は、それらを黙って見つめていた。

 思ったのは、何故ここに彼女が来たのかという疑問だった。

 自分の存在は、彼女にとって邪魔以外の何者でもない。

 何しろ文字通りに引き裂いたくらいである。

 人間としての鹿目まどかは円環の理に残しているし、自分がこの場にいなくてもあの世界は存在している。

 神としての権能も人間の鹿目まどかに残しているので、あとはどうとでもなる筈だった。

 鹿目まどかと暁美ほむらで、いくらでも理想の世界を築いていける。

 それは責任の押し付けと自らの解放であるのと同時に、彼女らにとっても救いとなる筈だった。

 

『それなのに、なんで』

 

 女神の意思は問うた。

 返ってくる事の無い問い掛けを。

 

―――それは、彼女が貴女を救いたいと思っているからだ

 

『!』

 

 その声、正確には意思は自分の口から発せられたように思えた。

 暁美ほむらの盾の中に形成された空間の中で、女神の意思は少女の姿かたちをとっていた。

 その姿は無意識のうちにではあるが、皮肉にも自分が切り離したはずの鹿目まどかの姿をしていた。

 自分の口が動いたと思ったが違っていた。

 

 感覚を共有する何かが、自分とは違う事を思い、そして彼女に意思の言葉を発していた。

 その主が何であるのか、女神の意思は気付いた。

 つい先ほど、尋常ではない怒りを発していた存在だった。

 その感情は、女神の意思を強く引き付けた。

 何故ならば、その感情とは彼女が万人から拭い去りたいと思っていたものであるからだ。

 即ち、絶望である。

 

―――グレートの存在が、私を再び目覚めさせた

 

―――私はつまるところ、奴への嫉妬と憎悪で出来ているのだろう

 

―――我ながら、救いがたい存在だ

 

 意思は内心を告げた。

 この存在が何であるのか、女神の意思は急速に思い出していった。

 そして気付いた。

 自らと重なっていた意思が、傍らに立っている事に。

 それは自分と同じ姿をしていた。

 それが同じ声で、されど異なる口調と声の出し方で意思の言葉を発している。

 

―――何故来た、とは問わぬ

 

―――今は、奴を

 

 言葉の途中で、女神の意思は傍らの存在の手を握って頷いた。

 自分の手と同じ柔らかい感触でありながら、鉄のように冷たい温度の手であった。

 握った手の感触はそのままに、自分の背後で気配を感じた。

 その瞬間に、彼女は背後に跳んだ。

 出迎えたのは、既に馴染み深く感じるようになった、操縦席の感触だった。

 

 傍らの存在の手は放したが、それでも気配と存在が近くにあることは変わらなかった。

 開いていた風防が閉じ、機械の駆動音が鳴る。

 暁美ほむらの盾の中、闇で覆われた空間の中で、二つの光点が点った。

 それは、眩い金色の光を湛えた眼であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐぁっ…」

 

 暁美ほむらは苦鳴を漏らした。

 盾として掲げた剣が二本纏めて、それどころかグレートの腕の装甲ごと爆ぜ割れた。

 衝撃は殺し切れず、操縦室に座す彼女の肉体にも伝わり、暁美ほむらの両腕からは血と肉が散った。

 痛みの感覚からして、血で染まった袖を捲ればグレートと同じような傷がついている事が察せられた。

 割れた骨が幾つもの破片になり、赤黒い傷口の中に転がっているのだろうと。

 負傷は散々にしてきたが、それでも慣れ切るものではない。

 悲鳴を上げれば多少は楽になるだろうが、暁美ほむらは歯を食いしばった。

 

 自分が負傷するのは別にいい。

 だがグレートが破壊されたのは自分の操作が及ばなかったからだ。

 この兵器は極めて高性能で、かつて自分が繰り広げていた戦いの中で欲しかった全てが詰まっている。

 巨大でありながら魔法少女以上の機動力を誇り、耐久性や破壊力は比べようもないほどに高い。

 自分の想像と期待以上の働きを見せる、正に完璧な兵器である。

 しかし自分は、それを使いこなせていない。

 だから無用な被弾を受け、破損させてしまった。

 

 それに対し、グレートは何も言わない。

 無機物なのだから当たり前といえばそうだが、人に酷似した姿故にどうしても完全にモノであるとは思えない。

 言葉を喋らず、泣き言の一つも言わず、一筋の涙も流さない。

 ロボットであり機械なのだから当たり前だ。

 だがしかし、造られたのは強大な悪に立ち向かい、世界や誰かの未来を開く為である。

 

 それは正に、偉大な勇者という称号に相応しい。

 だからこそ、暁美ほむらはグレートのような偉大な勇者でありたいと思った。

 今の自分は世界を壊した悪魔だが、そんな偉大な存在に触れている今この時だけは、そんな存在でありたいと願っていた。

 そして、願うだけでは何も変わらない事を知っている。

 既に奇跡の対価として魂を売り飛ばしている以上、自分の魂と力でなんとかするしかないのだと。

 

 震える両手で、暁美ほむらは再び操縦桿を握った。

 殴打の衝撃で吹き飛ばされ、グレートは背中から何かに激突していた。

 それは無数のマジンガーZが最後に残した無数の砂粒が戦闘の余波で堆積し更には高熱によって凝縮し、山ほどの大きさの岩塊となったものだった。

 元が超合金Zである為に非常に頑丈であり、衝撃でグレートは元より暁美ほむらの背中も大きく傷付いていた。

 恐らく背骨が砕けているだろう。

 魔力をグレートの修復に回し、最低限の治癒を施しながら暁美ほむらは操縦桿を動かした。

 

「立ち…上がれ…!!」

 

 苦痛の中、強い口調で暁美ほむらは血と言葉を吐いた。

 

「グレート…マジンガー!!」

 

 暁美ほむらの、悲鳴に非ずの叫びと共に偉大な勇者が立ち上がる。

 全身の損傷は残っているが、勇者は搭乗者の願いを叶えていた。

 再び生成した剣は形成が不完全であり、出来上がった時点で既に刃が欠けている。

 装甲のひび割れも修復が追い付いていない。

 

 しかし敵は待ってはくれず、上空から飛来する終焉の魔神の姿が見えた。

 見えた時には眼前にあり、時を止める魔法も間に合わない。

 最速の斬撃しか打つ手はなく、それはこれまで十数回も繰り返していた事だった。

 これが有効打に繋がることは無いと分かっていたが、それでも他に手は無かった。

 反撃の時間を稼ぐためには。

 

 斬撃と拳が交差する刹那、暁美ほむらの盾が眩い光を放った。

 光が見えた時、彼女は自分が役割を果たせたのだと悟った。

 

「遅かったわね」

 

 血で濡れた口を拭い、彼女は挑発的な物言いを放った。

 

「ZERO」

 

 名を告げた瞬間、暁美ほむらの盾から極光が迸った。

 放たれた光は、見る間に形を成していく。

 ZEROの名を持つ、くろがねの魔神の姿へと。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

冬木の番外次席(作者:甘めのコーヒー)(原作:Fate/Zero)

Fate Zeroにキング・ブラッドレイを参加させました。▼最強で、どこまでも人間らしくありたい、そんなキャラにしてます。▼オリジナルストーリーにしてるので、原作とは違う終わり方にします。▼


総合評価:496/評価:7.87/連載:103話/更新日時:2026年06月25日(木) 19:57 小説情報

月の王とかぐや姫(作者:名無しのマスター)(原作:超かぐや姫!)

月の王とかぐや姫の物語。▼それは泡沫の夢かもしれないけれど確かにそこにあった物語。▼さぁ、物語を始めよう。


総合評価:4090/評価:8.98/連載:64話/更新日時:2026年08月16日(日) 17:06 小説情報

はーい、マユで~す! でもごめんなさい、いまマユは生体CPUになってるのでお話しできません(作者:何を書けばいいんだ)(原作:ガンダム)

CE71年、大西洋連合が実施したオーブ解放作戦によって発生した激しい戦闘の最中、マユ・アスカは流れ弾によって吹き飛ばされ絶命したかに思えた。▼だが彼女は死んでいなかった、瀕死の重傷を負いつつも生き残った彼女はブルーコスモスによって加工され、生体CPUメリー・ゴーランドとして生まれ変わったのだ。▼しかし、過去の記憶を抹消された彼女の脳内にはなぜかガンダムSEE…


総合評価:9956/評価:8.7/完結:32話/更新日時:2026年07月07日(火) 12:07 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>