魔法少女☆鹿目まどか 円環最期のZERO秒間   作:凡庸

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エピローグ5 女神

「一つ、宇宙の法則を教えておこう」

 

 暗闇の中、女性の声が響く。

 黒い長シャツと青いズボンを履いた女性の隣には、肩を出した桃色の衣装の少女が立っていた。

 女性と少女、鹿目詢子の姿を模したマジンガーZEROと、新たな衣装となった鹿目まどかの姿をした女神の意思。

 まどかは並び合いつつ手を握り合っていた。

 

「生命は純粋になるほどに、強大な宇宙を求めていく」

 

 闇の中に光が迸る。

 それは巨大な闇から生じた二体の魔神。

 全身を光で構築した、マジンガーZとグレートマジンガーだった。

 そして闇とは、その二体とは比較にならない大きさとなったマジンガーZERO。

 Zとグレートを筆頭に、無数の光がZEROを突き破り、その体内から溢れ出していく。

 

「更なる力を我が物にせんとして、宇宙を喰らっていくのだ」

 

 やがて無数の軍勢となった光、可能性の光達は一斉に輝く武装を放った。

『遍く必殺』。

 宇宙が始まる前に起きた、宇宙開闢の切っ掛けとなった現象だった。

 

「この現象も、そうだったのであろうな。現象や法則で片付けていい事ではないが、例としては適している」

 

 遍く必殺を前に、最強で無敵であったマジンガーZEROが為す術もなく破壊されていく。

 

「そろそろか」

 

 かつての自分の姿に、魔神は感慨の欠片もないようだった。

 手を握る女神だけが、そうではないと知っている。

 

 兜甲児は、これは敗北ではなく勝利であるとZEROに告げた。

 ZEROはそれを認め、再び因果を紡ぐことなく自らの形を崩壊させ、無限の可能性を解き放った。

 その数瞬前の瞬間で、今のZEROとまどか以外の全てが止まった。

 

 無限の攻撃を受ける中、そこだけは無事だったパイルダーが砕けていた。

 破壊は外部からの干渉によってではなく、その内側のものによって起こされていた。

 輝く破片をも取り込んで、可能性の光と同じく、曖昧な輝く姿が顕れていた。

 それは、どの可能性の光よりも小さかった。

 その存在の大きさは、まどかと寸分たがわず同じだった。

 

 曖昧でも分かる煌びやかな衣装を纏い、サイドツインの髪型を大きなリボンで束ねた光の少女は、輝く弓をZEROへと番えた。

 既に原型は保っておらず、ZEROは崩壊し続けていく。

 

「まはーるたーまら、ふーらんぱ?」

 

「そなた、可愛いな」

 

 たどたどしい様子でまどかが呪文を唱え、ZEROが褒めた。

 少し前、鹿目まどかを含む全ての存在が時を止めたのも彼女の力によるものだった。

 今は、その逆の事が行使されていた。

 まどかが頬を赤らめる中、再び時が動き出す。

 弓を番えた光の少女に変化があった。

 背が少し伸び、髪は果てしなく長くなり、そして少女の衣装は姫君のようなドレスとなった。

 番えられた弓矢が放たれ、崩壊していくZEROの最後の欠片を撃ち抜いた。

 光の鏃と欠片は同時に弾けた。

 そして、光が宇宙に満ちた。

 

「ああ…」

 

 漂泊の光の中、ZEROが呟いた。

 

「なんて、美しい光だ」

 

 自らに最後のトドメを放った相手を、ZEROはそう評した。

 まどかは手の震えを感じた。

 それは自分によるものだったが、ZEROからも僅かな震えを感じた。

 そうだったらいいなと、彼女は思った。

 

「あれが」

 

「あれが私です」

 

 ZEROの言葉をまどかが引き取った。

 

「私はあなたから、マジンガーZEROから生まれました」

 

 ZEROを見上げながら、まどかは断言した。

 

「ははさまと、呼んでもいい…ですか?」

 

 尋ねた彼女は、懇願の表情だった。拒絶を恐れる意思が、彼女の表情に滲んでいた。

 

「そなたは」

 

 ZEROが口を開く。まどかは、自分の心臓が跳ね上がるのを感じた。

 

「私が初めて、希望という概念を覚えた時に、そなたは生まれた」

 

 まどかにZEROは告げていく。

 

「可能性の光の者達は、私が喰らったマジンガーZと兜甲児から発生した。しかし」

 

 ZEROはまどかを見た。普段通りの無表情で。

 

「そなたは私を魔神たらしめる力の根源、魔神化の力から生まれた」

 

 だから、とZEROは続けた。

 

「そなたは、この宇宙でただ一人の私の娘だ」

 

 まどかの鼓動は沈静化へと向かわなかった。

 魔神の娘と肯定された事で、彼女の鼓動と心は高揚していた。

 

「好きにせよ」

 

 告げた時、ZEROは僅かに目を細めた。

 慈愛の眼だと彼女は思った。

 

「はい」

 

 まどかは声が震えるのを感じた。

 

「分かりました」

 

 そして頬を伝う涙の熱を感じた。

 

「ははさま」

 

 言い終えた時、彼女は罪悪感に心を蝕まれた。

 その時に彼女は見た。

 ははさまと呼ぶものの口角が、僅かに上に上がるのを。

 女性の姿をした魔神は、優しく微笑んでいた。

 

「そなたは優しいな」

 

 まどかと手を繋いだまま、ZEROは空いている右手を背後に延ばした。

 

「私と違い、嘘が苦手だ。表情に出ていたぞ」

 

 まどかは僅かな衝撃を感じた。

 ZEROが震えたのではなく、空間が震えたのだった。

 

「ほう」

 

 首を背後に傾け、ZEROは呟いた。声には感心があった。

 伸ばされた右手が巨大な何かに五指の先端を添えていた。

 巨大な存在は、茫洋たる輝きで出来ていた。

 前に進もうと震えているが、全くとして進めない。

 ZEROの指も体も微動だにしない。

 

「この者はそなたの可能性か。大きさは心の器を示しているのか」

 

 感心のままにZEROは告げた。

 

「そして可愛いな」

 

 茫洋たる影は、少女のような姿をしていた。

 その大きさは見上げるほどであり、巨大建造物どころか山脈にも匹敵している。

 長い髪はサイドツインのリボンのようなもので束ねられ、首までを覆う拘束衣にも見える衣装を纏っている。

 その姿はどこかまどかに、それも先ほど見えた姫君のようなまどかの姿にも似ていた。

 

 巨大な何かは、その者が伸ばした長い腕の長い指の、その内の一本だった。

 比較対象にもなりはしないサイズ差でありながら、ZEROは平然とその存在を受け止めていた。

 全体を観察する余裕さえある。

 その姿を、まどかはぽーっとした眼つきで見ていた。

 頬は赤く、吐息は熱い。陶然としているのだった。

 それに加えて、体内からは熱を感じていた。

 骨の中や血液の中、そして細胞の一つ一つから、熱と力が感じられた。

 

「ではいただこう」

 

 そう言った瞬間、巨体が震えた。

 怯んだようにたじろんだと見えた次の瞬間には、その姿が消えていた。

 ZEROが伸ばした右手の先に、僅かな光が鱗粉のように漂っている。それも指に触れた途端に消えた。

 魔神の権能である第二の魔神パワー、『吸収』が発動していた。

 

 指先から存在を吸い込んだのだろうが、吸い込まれる過程さえも見えず、そもそも存在していない。

 取り込んだという結果だけが残っていた。

 指先の残滓は、それが完全でなかったことを示している。

 それは今取り込んだまどかの可能性が、いかに強大であったかということの証明だった。

 

「惜しかったな、まどか」

 

 魔神の口調には、僅かに残念そうな響きがあった。

 まるで奇襲が成功しても、よかったと思っているような。

 

「人である鹿目まどかの願いを叶える為に、神としての無限の力が欲しいのだな」

 

 表情も変えず、魔神は自らを取り込みにかかったまどかに問うた。

 魔神の娘は頷いた。

 

「叶えてやろう。私の力ならいくらでも、と言いたいところだが」

 

 ZEROの手を握るまどかの右手が、桃色の光を帯びて発光した。

 魔神の眼はそちらを向いた。

 その瞬間に、まどかの左手から光が奔った。

 

「今のは良かったぞ」

 

 放たれた光の矢を、ZEROの右手が掴んでいた。

 節の部分ではなく、鏃を指で摘んでいる。

 

「凄いな。この体の強度は機体としての私に等しいのに」

 

 鏃に触れている指の表面には、一筋の線が生じていた。

 ほんの微か程度であるが、鏃は魔神の体に傷を与えていた。

 

「自信を持つといい。この通り、力なら既に持っているではないか」

 

 そう言って、ZEROは鏃を砕いた。

 破片は飛び散りもせずに消えた。

 言葉と違い、却って相手の自信を折りそうな行為だったが、まどかは安心した。

 

「はい。ははさま」

 

 この存在が自分の力を受け入れてくれると、確信できたからだった。

 

「そなたの中の者達は、そなたの力を信じている」

 

 ZEROの金色の眼が、まどかを見る。

 彼女はその視線が、自分の内側をも全て見透かしているように思えた。

 鹿目まどかの姿を取った自分の中で、無限に増殖していく自分自身。

 鹿目まどかであって彼女に非ず、しかし確かに鹿目まどかであるもう一人の自分。

 今は自らの中で熱と力の感覚が蠢いているだけだが、いずれは激しい痛みに変わる。

 そのいずれは、間もなくに思えた。

 

「自らの内で拡散していく、救済の力を解き放て」

 

 魔神の言葉が、その契機となった。

 

「はい。ははさま」

 

 同じ言葉をまどかは繰り返した。

 微笑み頷いたその時に、彼女の全身から光が溢れた。

 まどかの体表に、無数の桃色の光点が浮かび上がる。

 それらは彼女から旅立ち、光線となって放たれていく。

 

 漂泊された光が満ちた空間を、桃色の光を乱舞していく。

 全身から発せられる小さな痛みと熱が弾ける感覚に、まどかは叫び声を上げた。

 叫びが悲鳴にならないように、まどかは千切れそうになる意識の中で必死に堪えた。

 自分の声を聴くものに、不安を与えないように。

 

「ただの…」

 

 叫びを抑えつけ、彼女は呟いた。

 ZEROの眼が微かに動いた。

 

「ただの、光子の輝きにしか…見えない」

 

 呟きながらまどかは微笑んだ。

 魔神は呆気に取られたようだった。

 無表情なのはそのままに、両眼が普段よりも僅かに開いている。

 そのほんの僅かな違いだけで、彼女は魔神の感情の機微が分かった。

 

「私と違い、そなたが言うと愛おしい」

 

 ZEROの感想が、まどかの強がりを挫いた。

 叫び声が再開され、光の放出は激しさを増した。

 声には歓喜の色が強かった。

 それは創造主からの言葉によるものも大きいが、自分の内を駆け巡って飛び出していく光の中からも感じていた。

 光の中に、無数の物語を感じたのだった。

 

 それは断片的で、曖昧で、更に言えば物語にすらなっていないプロットのようなものであったが、それらは確かに自分の中で育まれていたものだった。

 それらは自分の手を離れ、形を取ろうとしている。

 光が解き放たれていく先を見上げると、無数の光の塊が見えた。

 

「その者達はまだ、自らの形を持てていない。形を与えられるのは、そなただけだ」

 

 ZEROの言葉の通り、桃色に輝く者達は形が不定形だった。

 人のような形を取ろうとしては失敗し、再び形が溶け崩れる。

 変容は様々であり、少女の姿は取れてもそれ以降が続かなかったり、胎児のような姿で震えているものもいた。

 先ほど見たというか、呼び出した巨大な姿は例外中の例外だった。

 魔法少女の鹿目まどかとは異なる今の衣装の自分が呼び出せた事を思うと、特別な因果があるのかもしれない。

 しかしそれも、まだ紡げていない。

 無数の物語の中で、比較的に形が整ったものを引き出せたに過ぎなかった。

 物語はまだ出来ておらず、これからの自分の行動に全てが掛っている。

 

「姿の輪郭を与えよ。模範を示せ」

 

 魔神の言葉が、その答えだった。

 自分自身でも理解していたが、創造主の言葉が背中を押した。

 まどかは震える右手で胸の前の錠前を握った。

 残る左手でも錠前を掴み、そして力を込めた。

 ほんの少しの力だったにも関わらず、堅牢な手触りを示していた錠前は呆気なく砕けて鎖が飛び散った。

 答えはすぐ近くにあり、解放されるのを待っていたのだった。

 そして、変化が始まった。

 

 自らが発し続ける桃色の光の中、まどかもまた光となった。

 光に覆われる中で、その形を変えていく。

 姫君のような衣装が、まどかの時より幾分か成長を遂げた身体を覆い、優雅なバンプスが虚空を踏んで体がくるりと廻る。

 長いスカートが羽のように翻り、髪は一気に長く伸び、果てしない長さとなって宙を舞う。

 一廻転する間に、まどかは新しい姿となっていた。

 体表の光が弾けると、透き通るような白い素肌を初雪のような純白の衣で覆った女神の姿が顕れていた。

 背中からは薄桃色の翼が生え、女神の全身を優しい輝きで照らしている。

 閉じていた眼を静かに開き、女神のまどかは金色の眼で創造主を見た。

 創造主であり、母である魔神の眼が娘の眼差しを出迎える。

 二つの眼は、全く同じ色をしていた。

 

「娘よ、そなたは美しい」

 

 無表情さが少し崩れ、魔神は微笑みを浮かべていた。

 

「あぁ、綺麗だ」

 

 感嘆とした口調でZEROは続けた。

 女神のまどかは、その様子がぼやけて見えた。

 金色の眼を、溢れ出していく涙が覆っていた。

 

「そしてこれは、夢のようないい眺めだ」

 

 空を見上げながらZEROは言う。

 茫洋とした曖昧な姿だった光は、女神のまどかに近い姿をとっていた。

 数百や数千どころではなく、兆や京ですら端数にもならない膨大な数の女神たち。

 それらが漂白された宇宙を所狭しと埋め尽くし、際限なく拡散し続けている。

 

「ええ」

 

 涙を拭い、女神のまどかが同意する。

 

「確かに、素晴らしい」

 

 女神のまどかはそう言った。

 意図的に声を掠れさせ、陶然とした響きを混ぜた声だった。

 それはかつてのZEROの物真似だった。

 ZEROは思わず女神を見た。

 女神はZEROを見た。桃色の舌をちらっと見せ、悪戯っぽく微笑んでいる。

 

「…はは」

 

 魔神は声帯を震わせた。直後に本人は驚いた。

 嘲笑以外で、自分が声を上げて笑ったというのが信じられないのだった。

 

「これが、心から笑うという事か」

 

 言い終えると、魔神は再び掠れた声を出した。

 

「中々気分がいいものだ」

 

 そう告げた時、魔神もまた姿を変えた。

 鹿目詢子の輪郭が、金色の眼差しを残して黒く染まる。

 次の瞬間には、巨大な姿が聳え立っていた。

 巨大化したのではなく、初めからそこに存在していたかのように忽然と現れたのだった。

 髑髏のような貌、王冠や器を思わせる頭部、マジンガーZを原型としながらも、何もかもが凶悪に変貌したおぞましい姿。

 かつての破界神にして創造神。

 最終にして原初の魔神たる、マジンガーZEROが顕現していた。

 

 人型であると云うところ以外、鹿目詢子の姿を踏襲とした姿の原型はなかったが、その金色の眼だけは人の姿の時と変わらなかった。

 鋭い眼の中の瞳で、魔神は生まれたばかりの女神達を見た。

 全ての女神達は、当然ながら鹿目まどかの姿によく似ていた。

 少しだけ大人びた身長であり、手足も長くなっている。

 輝く女神たちの中に、魔神は無数の物語を、可能性の光を見た。

 それは彼女達の世界でこれから生まれるであろう魔法少女達であり、彼女達の暮らす世界の住人達でもあった。

 可能性は幾つも幾つも折り重なり、一人の女神だけでも無限の可能性に満ち満ちている。

 そんな女神が、無数どころか無限に誕生し続けている。

 たった一人の女神がそれらを代表し、纏めていたのは流石に無理があったのだった。

 

 だが今、彼女達は自分達を受け入れられる器を目の当たりにしていた。

 ただ一つの問題は、その器が、例えようもなくおぞましく恐ろしい事である。

 

「ははさま」

 

―――案ずるな、娘よ

 

 魔神の姿となったZEROを、女神は母として扱った。

 彼女の認識の中で、人の姿も魔神の姿も差異など存在しないのだろう。

 それはZEROも同じだった。

 

―――下がっていろ。私は負けぬ

 

「いいえ、ははさま」

 

 前に出た魔神を、娘である女神が追い抜かした。

 凶悪に過ぎるZEROの顔の前に、可憐なる女神が庇うように立った。

 

「私があなたを守ります」

 

 魔神の接近を手で制しながら女神は言った。

 数瞬、魔神は思考した。

 結論を出す前に、ZEROは別の事に気が付いた。

 

―――大丈夫だ、娘よ

 

―――そなたも私も、そしてあの者達も戦う必要などない

 

 魔神の言葉を受け、女神は自分から生まれた女神の可能性達を見た。

 誰もがただ静かに佇み、自らを生み出した存在達を見ている。

 そこには敵意も殺意も、そして畏怖さえも無かった。

 

―――絶望と戦う為に生まれたとしても

 

―――自分達は、世界を害するために生まれてきたわけではないと示しているのか

 

―――しかし、それでは

 

 女神達の存在意義と今の行動に、魔神は矛盾を感じていた。

 自分の過去と姿を鑑みての疑問であった。

 絶望を祓う女神が、自分を敵視しない理由が思い当たらない。

  

「当たり前です。ははさま」

 

 全ての女神達の根源である魔神の娘は、確信に満ちた声で言った。

 

「あなたはもう、絶望なんかじゃありません」

 

 娘の言葉に、魔神の瞳が微かに拡大した。

 

「マジンガーZERO。あなたは私達の守護神であり希望です」

 

 力強く、女神は断言した。

 ZEROはしばし停止していた。言葉の意味を噛み締め、受け入れるのに時間を要しているようだった。

 

―――そうか

 

―――この私が希望で、そして守護神か

 

 自らに向けられた立場と思いは、ZEROにとって複雑なものがあった。

 それは相手の思考を疑うのではなく、自らの受容にかかっていた。

 その苦悩が、女神には見えていた。

 だから、彼女は口を開いた。

 

「ははさま。私に自信を持てと仰るのなら、あなたも自分自身を信じてください」

 

 それは女神による叱咤激励だった。

 魔神は眼を閉じ、そして開いた。

 

―――なるほど、道理だ

 

 閉じて開く間に、魔神は心を決めていた。

 内心の整理が着いたのなら、やるべきことは一つだった。

 

―――ならば女神達よ、相応しい場所へ行くといい

 

 そう告げて、魔神は右手を伸ばした。

 刃を生やした太く逞しい腕が掲げられ、全てを壊し殺戮してきた五指が広げられる。

 拭えぬ過去を宿した手は、血みどろに汚れて見えた。

 少なくともZEROにはそう見えた。

 自虐ではなく、何かを破壊していない時期が無さ過ぎて、常に穢れているように思えるのだった。

 

 五指の先には、空一面に飛び散る桜吹雪のように、美しく輝く女神達の群れがいる。

 魔神の手は、それらの全てを求めていた。

 女神達の存在も、彼女らが宿した無限の可能性も、なにもかもを。

 

「さぁ」

 

 女神のまどかが告げた声が合図となった。

 

―――ZEROに還れ

 

 魔神の言葉と共に、第二の魔神パワーである吸収が発動した。

 途端に、世界を埋め尽くす女神達が魔神の手に吸い寄せられていった。

 女神達は自ら魔神の手に、魔神の中にある、自らが女神となるべき世界を目指していった。

 光が空から落ちていき、救うべき世界へと我が身を捧げていく。

 

 花が咲き誇るように美しく、そして散っていくような残酷な光景だった。

 彼女らの誕生には悲劇が確約されており、その後には身を裂かれる未来が待つ。

 それを証明する原初の女神は、沈痛な面持ちで女神達を見守っていた。

 しかし、表情にあったのは痛みだけではなかった。

 

「がんばって」

 

 努めて明るく、女神のまどかは女神達にそう言った。

 その言葉は聞こえていないし、意味も理解されていない。

 相手はあくまで、可能性の光である。

 だがそれでも、悲劇と悲哀の未来が待っていたとしても、彼女は無数の自分の分身達を祝福した。

 この世界を生まれ出でた事、それ自体を。

 

 短い言葉を言い終えた時、魔神の五指は閉じられた。

 広い宇宙にはもう、可能性の光の女神は残っていなかった。

 ただ一人、魔神の娘だけが残った。

 女神達を取り込んだ右手を、魔神は愛娘へと差し出した。

 

―――かえろう、まどか

 

 帰る、そして還る。

 どちらも意味は同じであり、彼女が向かう場所は一つだった。

 自分から生まれた女神達を受け入れた右手へと、女神はそっと近づき身を寄せた。

 決して傷付けぬよう、魔神は優しく手を握る。

 指が閉じられ、狭くなっていく視界の奥で、女神は赤い光を見た。

 それは魔神の胸の放熱板から発せられていた。

 

 万物を融解し消滅させる熱線を放つ放熱板に、無数の円が刻まれていた。

 円環の紋様であると理解した時に、女神の視界は閉ざされた。

 女神の意識が遠のいていき、魂は還る場所へと戻っていった。

 

 

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