魔法少女☆鹿目まどか 円環最期のZERO秒間   作:凡庸

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エピローグ7 傀儡

 おぞましい髑髏の貌に、禍々しくも神々しい光が点る。

 渦巻く機械の眼差しで、マジンガーZEROは虚空を見上げた。

 

―――騒々しい奴らだ

 

 魔神が光の意思を発する。

 魔神の頭部、パイルダーの中で女神はその意思を受け取った。

 自らの創造主であり、母と認めた魔神であるZEROが見つめるその先に、娘である女神は愕然とした眼差しを送っていた。

 漂泊された虚無色の宇宙の彼方で、何かが蠢いている。

 それは今まで見てきた、どんな存在よりも巨大であると認識できた。

 少なくともそれらは二つあるように感じられた。

 

―――ラ=グースの本体、ではないが細胞よりはかなり大きい。肉塊といったところだろう

 

 女神はその存在が、黒い仏のような存在に見えた。

 異様に細く長い手は、骸骨の様な胴体から何十本も何百本も生えているように見え、まるで無数の枝葉や根のようだった。

 結跏趺坐を組み、座した姿は仏を彷彿とさせた。

 しかし、顔があるべき場所には巨大な大穴が開いていた。

 穴の内側は、焼けた鉄か生物の内臓の様な赤黒い色で満ちている。

 異形の仏、魔神曰くのラ=グースの肉片は無数の手で何かを引き千切り、その穴の中へと放り込んで喰っていた。

 

―――もう片方は、肥大化に肥大化を重ねたドグラか。ここまで大きいのは初めて見る

 

―――奴らを創造したのはラ=グースだが、創造主すら餌にしか見えぬか

 

―――既にドグラとは別物といっていいかもしれぬ

 

―――異形達が転生を繰り返し、際限なき増殖を続ける憎悪の世界

 

―――魔界とでもいうべきか

 

 少し興味深そうに魔神は言った。

 ドグラの事も知っている。内部に無限の空間を持つ、際限なく異形の生物を生み出す異次元の穴。

 チャチな兵器とかつて魔神は言った。

 その認識は既に通用しないようだった。

 思いつく限りの残酷な方法で肉体と精神を破壊されたような、極限の苦痛で果てた人間や無数の生物の死骸を、苦痛の形だけはまざまざと残したままにぐちゃぐちゃにして新たな形に成形させたような。

 生理的嫌悪感の塊がアメーバ状になったとしか思えない、そうとしか認識できない外見の異形は黒い仏の腕をへし折り、引き裂いては自らの内に取り込んでいく。

 

―――距離にして無限の隔たりがあり、別の世界と言っていい場所で奴らは戦っている

 

―――奴らは無駄に巨大故、蜃気楼のように見えるのだ

 

―――傍迷惑な連中だ

 

 事も無げにZEROは言った。興味はあっても呆れの方が大きいように感じられた。

 強さや大きさ、そして邪悪さに際限などなく、それが魔神にとって日常そのものに過ぎない。

 これまでの事で分かっていたつもりだったが、宇宙の狂気とでもいうべき事象には慣れることが無い。

 だが、観ているだけでも精神を穢すような存在に対し、女神は視線を逸らさなかった。

 もっと恐ろしく、畏怖すべき存在を知っているからである。

 

―――驚いてはいるが、怯えておらぬな。偉いぞ

 

 固唾を飲みながらも巨大な異形を見上げる女神を魔神は褒めた。

 それだけで、心がずっと楽になった。

 睨むように、挑むように女神は異形の殺し合いを見上げた。

 

―――そなたの事は見えていないが、あの二体も私の存在は認識している

 

―――しかし愚かではないようで、姿は見せても私との交戦の意思は示していない

 

―――まぁ、迎撃の手段などいくらでも用意しているだろうが

 

 二体からすれば、ZEROは米粒以下どころではない。

 大きさにして精々三十メートル少々。比較対象にもなりはしない。

 しかし異形達は、この魔神を恐れていた。

 大きさなど、この存在を相手にしては優位に至らないと知っているのだろう。

 一方でZEROも相手を見くびってなどいない。

 異常な存在との交戦が、生物で言う呼吸や鼓動に等しく慣れ切っているだけである。

 

―――また一つ、そなたに宇宙の事を教えよう

 

 見上げながら、ZEROの言葉に耳を傾ける。

 光の文字と鹿目詢子の声を借りた母の声を、女神は聞いた。

 

―――この宇宙には、多くの忌むべき者共がいる

 

 女神の視界に異変が生じた。

 魔神の語る忌むべき者共の背後から、そして上空に下方から何かが迫った。

 互いに喰らい合う最中であったため、二体の異形の反応が僅かに遅れた。

 その一瞬に満たない時の中で、二体はそれに吞み込まれた。

 

―――全てに牙を剥き、万物を喰らうものがいる

 

―――それがあの緑の光だ

 

 それは、緑色の光だった。

 猛毒のように禍々しく、一方で深緑の葉のように美しく輝く光の大海嘯。

 それがラ=グースの肉塊と魔界と化したドグラを吞み込んでいた。

 光の中に消えた二体は、影さえも見えない。

 万物を喰らうという魔神の評が、悪夢を喰らう悪夢として顕現していた。

 

―――その名は

 

 恐怖が無かったと言いえば噓になる。

 しかし、どんな形でも母なる魔神の意思と言葉を娘たる女神は渇望していた。

 だが魔神からの光の文字を、緑の光が塗り潰したのは直後の事だった。

 緑の大海嘯から、深緑の光が魔神に向かって瀑布となって降り注いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『奇妙な現象ね』

 

 暁美ほむらは呟いた。しかし口は動いていない。

 口どころか体は全く動かず、呼吸さえもしていない。

 それでも全く苦しくはない。

 自分だけではなく、視界に映る全て。それどころか悪魔として認識できる限りの世界が停止していることが分かった。

 従者である愛生まばゆは、チーズがたっぷりと乗せられたマルゲリータビザを歓喜の表情で頬張っている状態で停止している。

 その近くでは暁美ほむらが敬愛する時間遡行者、ミネルバXが静かにお茶を飲みつつ停止していた。

 表情は和やかだが、視線は凍えている。

 

 視線の先には、全身甲冑を纏った身長二メートルはある美女が鉈の様なナイフでピザを切り分けている状態で動きを止めている。

 新たに悪魔の従者となった暗黒大将軍の姿であった。

 切り取ったピザを、ミネルバXが掲げた皿の上に丁寧に載せている。

 過去の事が事なので互いに複雑な心境なのだろうが、歓待を施し応じているあたりに理性が感じられた。

 共に運命を弄んだ相手が同じなので、共感があるのかもしれない。

 

『まさか私が時を止められる立場になるなんて』

 

 状況確認を終え、暁美ほむらは思念にて溜息を吐いた。

 イメージとして吐いた息は、実体としての自分が咥えているピザに触れた。

 片手で持ったピザを咥え、伸びるチーズを満面に近い笑みで啜っている状態で停止した自分の姿の事は極力考えないようにした。

 本当に美味しいのだから仕方ない。

 そして今が楽しいのだから。

 

『何か起きてるわね』

 

 だからこそ、今の異常が気になった。

 思考だけとはいえ動いているのであれば、やれる事をやるだけだった。

 思考し意識を保ち続ける。

 意識を光の線として、拡散させるイメージを抱く。

 拡散の範囲は想定などしない。

 ただ無限に、自分の想像力の限りを尽くして光を彼方へと飛ばすイメージを抱き続ける。

 それが誰かに届くように。

 

 この行為を、暁美ほむらは馬鹿馬鹿しいとは思わなかった。

 今のこの現状、孤独ではなくなった今という状態は、少し前にそうした事でもたらされた事だからである。

 思考の中で飛び交っていた光が形を作っていく。

 

 その形が形成されることを、暁美ほむらは不思議だとは思わなかった。

 彼女にとって光とは、その形の持ち主そのものであるからだ。

 光は輝く少女の形をしていた。

 それはあまりにも眩しすぎた。

 眩しすぎて強過ぎた。

 

 眼を背けたかったが、自分にはその選択を選べなかった。

 光の少女は、自分に向けて手を伸ばしていた。

 その時に暁美ほむらは、自分も形を成している事に気が付いた。

 光に照らされて生じた自分もまた、光であった。

 

『行こう、ほむらちゃん』

 

『ええ、まどか』

 

 罪悪感による痛みと気不味さを抱きつつも、暁美ほむらは鹿目まどかの手を取った。

 手と手が触れた瞬間、二人の姿は痕跡も残さず消えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 空の一面を覆う緑の大海嘯から降り注ぐ緑の奔流。

 それが大海嘯へと逆流し、線の形を維持できずに霧散する。

 側面に刃を備えた剛腕が奔流を薙ぎ払っていた。

 

―――指先を火傷したか

 

 事も無げに魔神は告げた。

 対して女神は言葉を失っていた。

 奔流との接触から薙ぎ払いまで、長くても二秒程度だった。

 その間で、魔神の右手は赤熱化していた。

 魔神の言葉通り、それは指先だけだったが黒の装甲が溶鉄の色になっている。

 腕のアイアンカッターに至っては刃面が赤色化し先端には鉄の雫が浮かび、溶解を示していた。

 

―――しゃらくさい事を

 

 魔神の言葉の間に指先と刃からは赤熱化が消え、熱で歪んだ形も整えられていく。

 しかし完全再生には至らない。僅かだが、見て取れる程度の損傷が残ったままだった。

 

―――自分で言うのもなんだが

 

―――私を獲物と見做す思考は理解できぬ

 

「…え?」

 

 魔神の言葉に女神は二つの感情を抱いた。

 無敵の創造主を餌と見做す存在の異常さと、異常な破壊力に。

 そしてもう一つは。

 

「あの光は」

 

 女神は自分の声が震えているのを感じた。

 

「ははさまを、求めているのですか」

 

―――然り。奴にとって私は資源であり餌にでも見えるのだろう

 

「資源に、餌」

 

 言葉を繰り返してから、そうですかと女神は返した。

 

「許せません。あれは敵です。存在を認める訳に行きません」

 

 感情を声に乗せて、女神は言葉を紡いだ。

 感情とは怒りであった。

 

「ははさまは、絶対に渡しません」

 

 感情のままに女神は告げる。

 強い眼差しで、一面の緑を睨みつける。

 

「ははさまは、私だけのははさまです」

 

 自分の中で、魔神への欲望が渦巻くのを女神は感じていた。

 自分だけのものなのに、という自分でも自覚している卑しい想いが積み重なっていく。

 そして少なからずの嫉妬を、緑の光へと抱いている。

 あの存在は、自分の創造主を掌握ないし干渉できる力を持っていると悟ったのだった。

 今の自分にはないその力に、女神は嫉妬していた。それは憎悪にも等しい感情だった。

 そして何よりも、自分が敬慕する存在に敵対する存在が許せなかった。

 

「あなたを傷付け搾取していいのは、私だけです」

 

 断言する女神。直後に彼女は「あ」と言った。それまでの言葉は兎も角、最後のは思念にしておこうという理性はあった。

 想いが強過ぎて言葉として放ったことに、女神は気まずさを覚えた。

 

―――怯えてはおらぬな。安心したぞ

 

 言われた当人は、聞こえていなかったフリでもしているのか平然としていた。

 それもあるのだろうが、本人がかつて行っていた事を鑑みると驚くには値しないのだろうと思った。

 

―――来る。備えよ

 

 意思が届いた瞬間、女神は身構えた。

 今の彼女はZEROのパイルダーの中にいる。

 座席に座り、肘掛けをしっかりと手で掴む。

 そして操縦桿には触手のように伸びる髪を、捕食のように執拗に絡ませていた。

 それらが、微かではあるが震えた。

 外部からの衝撃が、無害とはいえ完全には防げなかったことに女神は驚愕した。

 

―――参

 

 剛腕が降られ、迫る何かを迎撃していた。

 黄色い破片を見せて砕けたのは、同色の拳であった。

 銀色の蛇を思わせる長い腕が、弾かれた衝撃で撓んでいた。

 その根源を女神は眼で追ったが、形を捉える前に振動によって視界がぶれた。

 

―――弐

 

 再び数字が頭に浮かぶ。それはZEROが示した数だった。

 視線の先では、パイルダーの風防の手前で回転する円錐が見えた。

 それはZEROの剛力を以てしても完全には止まらず、銀色の破片を撒き散らしながらも槍の様な先端を回転させている。

 接触の瞬間に感じたのは、座席に腰掛けたときくらいの軽い揺れであり、今は微細な振動を感じている。

 

 それはZEROの体感と共有した感覚なのか、魔神は鬱陶しそうに銀の槍を払い除けた。

 振られた腕の先で、骨組みだけの人形のような細い姿が見えた。そんな気がした。

 それも即座に、幻のように消えた。

 しかし一瞬に満たない時間の中で、その姿が弾けたように見えていた。

 それは女神としての空間への認識能力を以てしても、錯覚としか思えない挙動だった。

 弾けた後の姿は、女神には分からなかった。

 認識できているのは、彼女の創造主である魔神だけである。

 

―――壱

 

 ギンという音が頭に響き、同時に座席が少し動くような感覚がした。

 映画の上映手法の中で、座席が揺れ動くものがあることを女神は思い返していた。

 金色の眼差しの先では、ZEROが再び剛腕を掲げていた。

 僅かに融解したアイアンカッターを用いて、襲来した何かを受け止めている。

 それはZEROの腕の刃に似た形を、斧の形をしていた。

 

 そして似ているのは、武器だけではなかった。

 片刃の斧を握る指も腕は太く、丸みを帯びた肩関節やそれを支える胸も分厚く広い装甲に覆われている。

 胴体や脚も、同じような太い造形をしていた。

 それはZEROと同じく人型であり、細部は異なっていながらも魔神と似た意匠があった。

 腕の側面にも、ZEROほどではないが鋭利で巨大な刃が生えている。

 鮫と鯱のように、種が異なれど似た造形となる収斂進化のようなものを、女神はその存在に感じていた。

 

「何…ですか、これは……」

 

 声の震えを必死に抑えながら、女神は幼子の表情で問うた。

 怯えないと誓ったはずなのに、表情には恐怖が滲んでいる。

 

―――奴は  という

 

 魔神が女神の問いに答えた。

 その意思は文字として、また鹿目詢子の声を元にした音としても聞こえた筈だが、女神はそれを記憶できなかった。

 

―――聞こえたはずだが名を認識できなかったか

 

―――気に病むことは無い、それで正常だ

 

―――今のところは、傀儡とでも思えばいい

 

 傀儡。

 その言葉が、女神には異様にしっくりと感じられた。

 言葉の通りの姿であると、女神は魔神と対峙する人型に対してそう思った。

 全身が燃え上がっているような赤を基調とした色で染め上げ、その背には幅広の外套のような翼が広がっている。

 それだけ見れば、ヒーロー然とした趣が強かった。

 しかしその顔は、どこか異様な姿に見えた。

 

 六角形に近い形の顔から、左右に伸びた角は鬼の角にも獣の耳にも見えた。

 顔には幾何学模様のように緑色のフィルターが配置され、内部のメカを晒している。

 それが機械でありながら、どこか生々しい雰囲気を放っていた。

 

 そして顔に穿たれた眼は、鋭くも丸みを帯びた形をしていた。

 怒りに満ちているとも、全てに無関心であるともとれるような、虚無的な眼であった。

 自分やZEROと似た金色で輝いてはいるが、その縁や金色の奥には不吉な緑色が滲んでいる。

 まるでその色に、操られているようだった。女神はそう感じた。

 そうであるが故に、女神はこの機械の人型を「傀儡」と認識したのだった。

 

―――反撃だ

 

―――光子力ビーム

 

 刃と斧を噛み合わせたままで、魔神の眼が光を放つ。

 超至近距離からの、無数の光弾による超精密射撃。

 その瞬間に、女神は驚愕に眼を見開いた。

 防御不可能な破壊力と回避不可能な密度の光の群れの中を、横切る複数の影が見えた。

 その寸前、傀儡の姿が弾けたようにも見えた。

 その現象は光子力ビームの着弾前に生じていた。

 

「あれは!?」

 

―――よく見えたな。偉いぞ

 

 意思の最中に、魔神の剛腕が縦横に動いた。

 複雑な線を描く斬撃と殴打の間を、三つの何かが擦り抜けた。

 

―――それも間違ってないが、一体だ

 

 言い様に背後に蹴りが放たれた。

 無音の世界に、ある筈のない轟音が響き黄色の破片が撒き散らされる。

 振り返った魔神の先に、異様な姿の存在がいた。

 下半身は白い戦車のようであり、太く赤い胴体からは蛇のように長い腕が生え、その先の黄色い拳は砕けて破片を散らしている。

 胴体部分の赤色に、女神は見覚えがあった。

 

―――ルストハリケーン

 

 魔神が口を開いて大渦を放つ。その瞬間に再び傀儡の形は弾けた。

 そう見えた時には、ZEROの大渦に真っ向から挑む渦が発生していた。

 渦の奥に、回転する銀の光が見えた。

 渦同士の拮抗は一瞬であり、ルストハリケーンが対する渦をほぼ飲み込みかけていた。

 

―――何者だ、貴様

 

 大渦を止め、魔神が問うた。

 威力が弱まった瞬間、大渦を銀の槍が貫いた。

 頭部へと向かったそれを、魔神の左手が止めた。

 今度は手が触れた瞬間、回転が完全に止まっていた。

 

―――たしかに   のようだが、奴らにしては気配が妙だ

 

 意思を告げると、魔神は銀の槍を握り潰した。

 握っていたのは槍の先端だというのに、亀裂は上半身に及んでいた。

 それによって動きが停止し、女神は相手の姿が見えた。

 

 赤く細い脚を持ち、黄色く細い胴体から生えた右腕はペンチを思わせる工具然とした形で、残る左手は長い円錐。ドリルの形をしていた。

 三角形の頭部と胸のあたりまでを、白い装甲で覆っている。

 亀裂はそこにまで及び、装甲の破断面からは血の様な液体が溢れていた。

 

 女神が観察を終えるのと、その存在が弾けたのはほぼ同時だった。

 破壊によって、先ほどまでの異常な速度が減じていた。

 かろうじてだが、女神でも認識できる速度になっている。

 恐らくというか確実に、魔神はこれを狙っていたのだろうと女神は思った。

 相手の事を、自分に学ばせるために。

 

―――再び問おう。貴様は何だ

 

 魔神の問い掛けの中で、三つの飛翔体が縦一列に重なるのが見えた。

 自動車で言えば玉突き事故の様な状況であり、思わず眼を背けたくなるほどの悲惨な光景に思えた。

 

 しかし、生じた現象は女神をしても奇怪に映った。

 戦闘機、と呼ぶには程度の差はあれど丸みを帯び、全体的にはビート版のような形をした飛翔体は接続というか激突しながら形を変え、それぞれが頭部と胴体、そして脚部へと形を変えて一つの存在へと変異した。

 傀儡の今の姿は、鬼か人型の獣を思わせる姿となっている。

『合体』『変形』という形が女神の脳裏に浮かんだ。

 

―――ブレストファイヤー

 

 形が完全に形成されてから、魔神は武装を放った。

 真紅の大奔流が放たれると同時に、両腕をそれぞれの斜め下へと伸ばした泰然とした姿勢を取った。

 途端に、太い胴体の一部。人間でいう臍の辺りの装甲が開き、そこから深緑の光が放たれた。

 緒戦にて、ZEROへと降り注いだ光がこれであると女神は知った。

 交差する熱線と光。

 それは相手を呑み込みつつ相手を貫いた。

 赤と緑が混じった光が爆散し、破壊の力が荒れ狂う。

 

―――応えよ。貴様は何だ

 

 三度に渡り、ZEROは尋ねた。

 問われた相手の姿は、凄惨なものとなっていた。

 変形を経た事で以前の破損は修復されていたが、ブレストファイヤーが与えた傷はその比ではなかった。

 右手を除く手足が根本付近から欠損し、胴体が大きく抉れて全身が焼け爛れている。

 

「あぁ……」

 

 女神は声を震わせていた。それは傀儡の姿を見てのものではなかった。

 傀儡が放った緑の光は、ZEROの右側の放熱板に命中していた。

 命中箇所は目に見えて分かるほどに黒く変色し、表面が剥離している。

 それは病巣のようにじわじわと広がり、放熱板の表面に黒い亀裂を穿った。

 先程もあったことだが、破壊不能の超合金Zを侵食し破壊する存在が信じられなかった。

 

 時天空の場合は、ZEROと同調していた自分の精神が弱体化を招いたことと、相手の力もZERO由来であった事からまだ理解出来た。

 だが今対峙している存在の力は、これまでの経験を踏まえても異常だった。

 ZEROを破壊する緑の光は、半壊どころか全壊に近い状態の傀儡の破損個所から血のように溢れている。

 その色が、女神にはたまらなく恐ろしく感じられた。

 

 状況的にはZEROの損傷は軽微であるのに、ZEROは最強であると信じているのに僅かに不安が湧いていた。

 その時に、傀儡に動きがあった。

 半ば溶解しつつも存在している右腕が、ZEROの方へと伸ばされた。

 掌を上にしてのそれは、攻撃の意思を示したものではなかった。

 

【初めまして。マジンガーZERO】

 

 手の上で、緑色の文字が輝いた。

 ZEROの用いる意思表示と、同じ事を傀儡もまた行っている。

 その文字を見た時、女神の意識は声を聴いた。

 文字を認識したことで、そこに刻まれた意思を読み取ったのだった。

 

 意思に刻まれたものは、女性の声のように聴こえた。

 それが自分の、鹿目まどかの声であると気付き、女神は悲鳴を上げそうになった。

 意思を読み取った自分が、自分の声として再生したに過ぎないと思い、女神は声を出すのを必死で堪えた。

 

 しかし女神はこの時、傀儡の眼の中の光に気が付いた。

 丸みを帯びた眼の中に緑の光が瞳のように溜まり、それは自分を、ZEROのパイルダーに視線を注いでいた。

 

【そして、その内にいる者よ】

 

 両手で抑えた口の隙間から、女神は小さな悲鳴を漏らした。

 

 

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