どう考えても原作あるタイプの世界観に全力で溶け込みに行くヤツ 作:くろうーろんちゃ560
「フン、無様だな」
「だ……まれ……!!」
「粋がったところで無駄だ。所詮お前には何も出来ない」
「……っ!!」
「お前は弱い。故に、望む未来を選ぶことも儘ならない」
「うるさい……!そんな事実、認めないぞ……!!」
「認めずどうなる?喚いて結果が変わるわけでもない」
「だからって、諦めるわけにはいかない……!」
「……」
「俺が折れたら未来はどうなる、あの娘はどうなる!?」
「……」
「誰かが悲しむことが分かっているのに、力を尽くさずただ見ているだけなんて出来ない!!」
「だから無謀に出ると?自爆特攻で「違う!」──っ?」
「犬死なんかしない!俺は今日、勝ちに来たんだ!」
「口ではなんとでも言える!今、力が足りないのに出しゃばっているのが事実だろう!」
「それでも!負けを認めるわけには、いかないんだッ!」
「──!?な、なんだその力はッ!どこにそんなエネルギーが眠って──!?」
「勝負は──ここからだっ!!」
「こ、小癪なァあ!!!!」
人の家の前で何をしているんだろう。
とりあえず、確認のために開けたカーテンを閉める。バレないように音は立てず。そして深呼吸。まずは落ち着こう。
それにしても驚いた。あんまりにもうるさいから何事かと思って窓を覗いただけだったのに。まるで漫画やアニメのワンシーンだった。というか銃刀法ってないのかなこの地域。そもそもあんなビームが出る剣どこに売っているんだろう。
今日はいつものように普通の日常だったハズだ。朝起きて学校へ行き、普通に授業を受けて家に帰り、部屋のベッドでダラケて、いつの間にかうたた寝をしてしまった。そんな折、まあまあでかめの騒音。気持ちのいい睡魔は過ぎ去り、流石にもう寝るに寝られず、窓の外を確認するとこのザマだ。
……うん。自分で思い返しても理解が出来ない。バイオハザードの最初か?
幸いなことに今僕がいるのは2階。絶賛アニメバトルが繰り広げられている場所よりは高所。ということで被害はないと考えてよさそうだ。バトルと言っても序盤ボス戦くらいの規模だし。
これがラスボスなら大変だった。多分2階とか関係なく周り一帯更地になる。
こっそりとカーテンを少し開け様子を伺う。どうやらバトルも終盤だ。先ほど覚醒したっぽかった制服の少年ヒーロー(仮)の猛攻にさっきまで大口を叩いていた黒装束の悪役(仮)が押され気味。このまま行けばヒーロー(仮)が勝利を収めるだろう。それにしてもコテコテだな制服覚醒主人公に黒装束悪役って。
なんて、そうこうしているうちに悪役(仮)がヒーロー(仮)の光る剣に突き刺された。『フォトンエスパーダ』とか聞こえたし多分必殺技か何かだろう。直訳して光る剣、英語とスペイン語混ざってるしセンスは無さそうだ。
……さて、長ったらしい状況の把握はこれくらいで終わりにしたほうがいいだろう。そろそろ現実と向き合う時間だ。
いやぁ、それにしてもビックリだ……。
「原作アリ世界だとは思ってたけど、まさかバトル系とは」
僕の名前は羽有双葉、今をトキメク一般転生者だ。
☆
転生したとき、人はまずなにを考えるだろうか。
答えは「あ~……正しいのは仏教だったか」だ。
千差万別、様々な答えがあるけれど曲がりなりにも転生というものを経験した僕がそうだったわけだし、参考資料としてはそこそこの価値があると思う。
『転生』は2度流行った。仏陀が唱えた方をファーストインパクトとするなら、21世紀日本にてそこそこのムーブメントを巻き起こした『転生』はセカンドインパクト。
僕の経験した転生は多分セカンドインパクトだ。ファーストインパクトの可能性もあるが、その場合仏陀はだいぶ俗世に染まった思考回路だと言わざるを得ない。
そんな転生を経験した僕だけど、生まれたのなんか前世とニアピンの日本だった。平行世界とかそういう類なのかもしれない。
しかし、あいにくなことに平成の残滓を追いかけたまま前世を終えた系お兄さんだった僕は異世界転生系にはそこまで明るくなかった。新しいストーリーの摂取に多大な労力が必要になる年ごろだったのだ。
言うなれば僕は、忍者が影目指したり殺し屋が家庭教師になるヤツ、少し進んで超生物を殺す教室なんかは通っているがヒーローがアカデミアする辺りからはある程度は知ってるけどしっかりと追えてないというこの世の終わりみたいな懐古厨だった。
ということで流行りはなんとなく知ってるけどリアタイしてない系だった僕がちゃんと把握している転生とはコテコテのファンタジー世界に神様が連れていってくれてチートでウハウハするタイプなわけで。
そんな僕の話をするとしたら、きっと最初は保育園からなのだろう。
前世ではふと『あの頃に戻りたいなぁ』なんて思ったこともあったが、実際に経験し直すとなんと虚無なことか。自我がある人間がスモック着て保育園に通う姿は滑稽だったぜ……。
特段僕のことに関しては語ることはない。だけど、この話を避けることもできない。なんせ、これが物語のはじまりでもあるのだから。
〜〜以下、幼少の記憶〜〜
「双葉くん。なにしてあそぼっか?」
「あ、先生。えーと……絵とか、描きます、か……?」
「うん!お絵かきしようね!じゃあお花とか描こう!」
「あ、はい…………できました」
「うわぁ!上手だねえ!きれいなお花畑!」
「は、はは……」
「でも、きれいなお花畑につられて……ガオー!怪獣さんがやってきちゃったよ!」
「……」←僕
「……」←先生
「……」←気まずくて目を逸らす僕
「……うぅっ」
「!?」
「私、保育士の才能ないのかなぁ……」
「……う、うわー!!わるいかいじゅうめ!ぼーりょくはゆるさないぞ!!このトッチメルンジャーがあいてだ!!」(ヤケクソ)
「!!……フッフッフ!このお花畑はわたしの物だー!」
僕の園生活の最も印象的なのは地獄の空気読みだった。
ボランティアで来ていた保育士希望の藤野先生(14)の自信を失わせないよう無邪気に振る舞うのは僕にはあまりにも険しい壁だった。近くでは園児たちが無邪気に遊んでいるのも苦しかった。僕は彼らの熱量に合わせきれなかったのだ。
結果、僕は園児たちと大学の友達くらいの距離感を作り上げるという快挙を成し遂げた。あの絶妙な関係、この若さで築き上げたのは才能というよりない。当時の藤野先生(14)だって経験してなかっただろう。
しかし、だ。本題はここから。こんな僕の生活はどうでもよくて、重要なのはこの背景。
僕の混ざりきれなかった園児たちの話だ。彼らはなんだかガチガチのラブコメをやっていた。主人公とヒロインの過去回想であるアレコレ。藤野先生(14)に遊んでもらっていた僕は、悲しみに暮れながらもそんな感じの土台造りを間近で目撃していた。
そう、それこそ転生して初めての物語要素。そして僕が『原作があるタイプの世界』へ転生したことを知覚した瞬間でもある。
いや、言葉を正しくするなら知覚した、というか知覚させられた、といったところか。
僕は目にしたのだ。圧倒的かつ決定的な証拠を。
「──は、転校しても私のこと忘れない?」
「ああ!もちろん!」
「──!!」
「おれと──は、離れてたって一生ともだちだ!」
「うん!!…………え?」
「だから!おれたちはずっとともだちだ!また会える!」
「とも……だち……?」
「ああ!ともだちだ!」
「〜〜っっ!!ばかぁ!!」
「ぶへぇっ!?」
僕には分かった。あれはギャグパートだと。
ブォン!(女の子が怒りの拳を振り抜く音)
ゴッ!(男の子が吹っ飛ぶ音)
ゴガシャッ!(男の子がめり込む音)
「ミッ!?」(惨劇を目にした藤野先生の声にならない悲鳴)
もはや気づくなという方が無理があった。分かりやすすぎるだろアニメもしくは漫画描写。ここコメディ要素ですよ、じゃねえんだよ急に目の前でこれ見せられた僕の身になってくれ。『あっ原作ありそ〜』ってなるよそりゃあ。
そして、話はここで終わらない。僕が現状を把握するのを世界が待っていたかのように、その日事態は転がった。
「うおお!なんだかよく分からんが原作展開だ!アツい!」
突然の展開に呆然としていると、その時ちょうど隣にいた田辺くんがそう宣ったのだ。
「た、田辺くん?」
「突然記憶を取り戻したら──世界で目の前で過去編のワンシーンとはツイてるぜ!」
「田辺くん!?」
田辺くんは僕には目もくれずとんでもない勢いで状況把握をし説明口調でまくしたてた。
「待てよ?この時代、ということは紘ちゃんはまだフリー!今なら原作無視でオレも紘ちゃんとイチャイチャできたりするかもしれねえ!!」
「田辺くん!もう少し僕に分かる速さでお願い!」
田辺くんは脳内全部垂れ流してるんじゃないかというレベルで全部喋っていた。僕とは比べ物にならない判断力、そしてその言動。田辺くんは僕に転生者のチュートリアルを見せてくれているようだった。
「待ってろ紘ちゃん!この田辺、今すぐアナタのもとにブフぁあッ!?」
「た、田辺くんが急に飛び出して爆速で車に轢かれたー!?」
なにが起きてるかは当時の僕には理解できなかった。そして今の僕にも理解できない。ナニ漫画日和くらい速い展開だった。
田辺くんの大惨事に大慌てで駆け寄ったとき、他の人たちは原作組のラブコメ展開に夢中で反応が薄かった。
「し、しっかりしろ田辺くん!」
「お、おまえは……く、そうか。オマエも転生者なのか」
「どういう能力!?今の一瞬でなにが分かったの!?」
「よく聞け……オレはもう長くない」
「唐突な親友枠の死みたいな展開!?僕らほぼ話したことないよね!?」
「修正力に……気をつけろ……!やつらは……転生者を……メタ展開を……許さない」
「ごめん田辺くん!正直君が何を言っているのか1文字も分からない!」
「だが、抜け道はある!この世界の住人として……物語を動かすんだ……!原作知識のないおまえには、ソレができる……!」
「もはや怖いよ君!何故そこまで僕のことを知っているんだ!」
「この世界に溶け込め……!おまえは、オレのようになるな……!」
「田辺くん!おい!田辺くん!?」
「紘ちゃんは……おれの…………よ……め……」
「た、田辺くーーーん!!!」
そうして、次に目が覚めたとき田辺くんは転生に関する全ての記憶を失っていた。ちなみに傷は1時間くらいで治った。
今になって思う。田辺くんは僕に世界のシステムを教えるために来てくれたんじゃないかと。ほら、ゲームでチュートリアルを教えてくれるみたいな感じで。『Bボタンでダッシュだ!』みたいなヤツ。
とにかく僕は、こうやってこの世界が『原作アリ世界』であると知った。
とはいえ、なんの原作かまでは判明せず、彼らのラブコメ組の名前にもピンと来なかった僕はこの日、とりあえずギャグラブコメ世界なのかなぁと認識を新たにしたのだった。
☆
そして僕は今日、バトルシーンを目撃してしまった。学園ギャグラブコメと見せかけてバトルモノもあるとか聞いてない。軽くパニックである。そりゃ現実逃避もするよね。
おそらくだけど、原作に溶け込めなければ僕は田辺くんのように修正されてしまうのだろう。そう直感的に分かった僕はこれまでなんとか、この世界の住人として慎ましく生きてきた。
ただ、あの時田辺くんは言っていた。
『この世界の住人として物語を動かすのだ』と。
生まれ直したこの人生。どこに地雷が潜んでいるか分からずビクビク怯えて生きていくなんてまっぴらゴメンだ。この世界がなんなのかも、主人公が誰かも、ヒロインが誰かも正確には分からない僕が安心して生きるには世界は過酷すぎる。今の僕が心から信じられるのは田辺くんのみ。
『記憶を取り戻したら──世界で目の前で過去編のワンシーンとはツイてるぜ!』
あの時説明のように口走っていたあの台詞。忘れることはない、数少ない
ああ、やってやる。これが漫画やラノベ、アニメの世界なら。完璧に溶け込んでやるとも。原作に僕を刻んでやる。
僕は、この世界のネームドキャラクターになるんだ!
震えるほど古代のノリを持ち出した男、ここに永眠