どう考えても原作あるタイプの世界観に全力で溶け込みに行くヤツ 作:くろうーろんちゃ560
なにも進まないのは仕様です
ネームドキャラになるために最も重要なこと、それはキャラ付けだ。それは髪型、シルエット、語尾、口癖、性格なんだっていい。ただ、他大勢と比べて特徴的な個性を持っていること。これが何よりも大切なのだ。
この世界の原作が漫画であれラノベであれ、人気になるキャラクターは特有の個性を持っている。漫画なら喋りに『』つけたり髪型を特徴的にしたり。有名なキャラクターはシルエットで分かる。死神代行も海賊船長もオレンジ忍者も亀仙流も黒く塗り潰されてても分かるのだ。ちなみにラノベ等小説の場合は全部の喋り出しに…つけて寡黙っぽくしたり笑い方キシシにしたり語尾にござるとかつけたり。
このように、作者はあの手この手でキャラ付けをするのだ。基本作者の脳内はキャラの付け方でいっぱい。というかそれしか考えていない。『あれ、今これ誰が喋ってんだっけ』『これ見分けついてる?』『コイツ差別化狙ってずっとキシキシ言ってない?』脳内はだいたいそんな感じだ。知らないけど。
幸いなことに、キツめの懐古厨だった僕はそういうのにそこそこ詳しい自負がある。
ということで、僕はこれまで読者、つまり前世の僕にウケるようなキャラを考える必要があったのだ。
☆
「──あのなぁ羽有、お前これ何度目だ?」
朝、いつものように登校した僕は、校門の前にてとある人物と向き合っていた。
「今日は何だ?UFOか?組織の刺客か?それとも空から女の子が降ってきたか?」
「えっと、今日は産気づいた「お爺さんが坂道で買い物かごを落とした」──へ、へへ……」
「すごいじゃないか、これで3週連続だ。大変だなぁお爺さんも。そろそろご家族も学生の登校時間に妊婦のお爺さんを買い物に行かせるのはやめるべきだと思わないか?ん?」
「お、お爺さんは独り身らしいので……」
「独り身なのに妊娠してるのか、世の中不思議だなぁ」
「…………目覚ましの電池が切れてました」
「最初からそう言え。だいたい何だ産気づいたお爺さんって。1回でも無理があるボケを3回もするな馬鹿者」
早い話遅刻である。ただ、校門にて生徒指導の先生に進行ストップを食らっているだけだった。
「いい加減しょうもない言い訳するのはやめろ。無駄だろこのやり取り」
「こ、これも小粋なジョークってことで」
「つまらん。面白くないうえにレパートリーが乏しい」
「……きちぃぜ」
「とりあえず、いつものように反省文。昼休みまでに」
「厳しいぜ……」
「厳しいのは毎度駄文を読まされる私だ」
「……」
散々な言われようで涙が出そうだ。ただ、これもキャラ付けの一貫として仕方なく行っているもの。本当は普通に起きられるしもっと面白いこと言える。目覚ましだってわざと電池切れしてただけだし同じボケ続けるのもネタ切れとかじゃなく狙ってだ。だから体に駆け抜ける羞恥心のような何かは気の所為だ。断じて。いったん忘れろ僕。
改めて、僕は目の前の人物の顔を見た。キリッとした鋭めの瞳と目が合う。僕よりもやや背丈が高く一つに結び上げた黒髪が特徴のスーツを着こなした女性、彼女こそが僕が通う高校の生徒指導、横倉なずなだ。
その綺麗な顔に侮るなかれ。彼女の拳はそこらの不良の一撃を軽く超える。
「まったく、こうも遅刻が続くとは。まさかお前、私と話したいが為わざと寝坊しているんじゃあるまいな?」
「ハハハ、まさか。そもそも僕はCから上しか対象じゃ──」
「──何か言ったか?」
「ふぁひほ(なにも)」
そしてそこらの不良より手を出すのが速い。なぜ彼女に教師が務まるのか、甚だ不思議でならない。
「ハァ……さっさといけ」
「へーい」
頭を痛そうにかぶりを振り、わざとらしくため息をつくとそういう横倉先生。許しが出たのでその横を通りさっさと教室に向かうことにするか、と考えてふとあることに気がついた。
「……先生は行かないんで?」
通常であれば僕とともに校舎に向かうのはずの横倉先生が、今日はその様子を見せない。まるでまだ誰かを待っているようだ。
珍しい。いつもは他に遅刻者がいようと僕を最後と決めつけ校舎に戻るのに、いったいどういう風の吹き回しだろう?
「あー、今日は転入生が登校するそうだからな。その生徒を待っているんだ」
「転入生って、また変な時期に……今4月末ですよ?」
新学期がはじまって既に一ヶ月を迎える。新クラスで色々と関係ができてくるこの時期に転入とは、なんともタイミングの悪い話だ。
「本来なら始業と同時だったらしいんだが、色々と立て込んだらしくてな」
「へえ、大変ですね」
「彼女もお前と同じ2年のようだし、機会があれば仲良くしてやれ」
「へーい」
ま、そんな機会ないと思うけど。
なんて考えつつ適当に返事をする。会話もそこで一区切りつき、今度こそ横倉先生に背を向け校舎内へ向かう。下駄箱で上履きに履き替えて階段を登って教室に向かう途中、今の話を思い返す。
それにしても、転入生……ねぇ。いったいどんな人物なんだろう。彼女と言っていたし女性なのは確定か。時期ハズレの女子転校生なんて、まるで漫画とかであるヒロイン登場のシーンみたい…………って、ん?
ヒロイン登場?
☆
「
目の前で少女が話している。正直耳に情報が一切入ってこない。理由は絶賛大やらかしで激萎え中だから。
現状の説明だ。僕らのクラスに転校生がやってきた。それも美少女の。
────ふぅ。
ナメんな編集部!!!!!
なにありきたりな展開でオーケー出してんだゴラァ!なんなのコレ?イマドキ流行んないよこんなの、どんだけの作品がこの展開やってると思ってるんだよ。手垢つきすぎてもう中身見えてねえよコレ。もういいって、ウンザリだよ。どうせ交差点でぶつかってんだろ?パンツ見えてんだろ?胸揉んでんだろ!
気づけねえよ!ここまでありきたりだとは思わないよ!?そんなわけないと思うじゃん普通!ド三流原作だろコレ田辺くんいったいどんな原作ハマってたの!?これホントに売れた!?
クソッ!マジでバカ!原作者のアホ!編集担当のマヌケ!もっと展開に個性出せよ!誰がこの作品続き読むんだよボケ!これで万が一にも主人公が立ち上がろうモノなら「あー!!お前っ今朝の!!」──。
編集全部僕にやらせろ!!!
なんとか冷静さを取り戻した頃には、転校生の自己紹介とHRは終わっていた。どうやら転入生は『お前は今朝の』の隣になったらしい。今は人集りに囲まれて姿が見えない。おそらく質問攻めにあっているのだろう。
とりあえず、状況を整理しよう。
もともと僕はこの世界の原作をギャグ多めラブコメだと思っていた。が、どうやらバトルモノらしいと判明したのが先日のことだった。
そういえば、あの戦いのあとというか翌日。いつものように家を出ると何事もなかったかのような風景だった。戦いなんてなかったかのように全てが元通り。結構な騒音にも拘わらずなんの噂にもなっていなかったし、そういう設定なんだろう。僕が気づけたのは、転生者視点だからってことでいっか。
話を戻して。バトルモノかもしれない、と判明したのが先日。そして今日、テンプレな展開を携えてメインヒロインのような美少女が転校してきた。
なるほど……これは原作始まったっぽいな。
思えば僕が最初に原作を認知した時も田辺くんにより怒涛の展開を迎えた。バトルシーンの確認なんてデカいイベントの後になにもないわけがなかったのだ。
次、ストーリーについて。僕はあのときの田辺くんの反応から、原作は結構なビッグタイトルなんだと思っていた。だけど、僕が観測したのはテンプレ殿堂入りの展開。モンハンで言えば太刀、クラウドで言えば興味ないね、遊戯王で言えばシルバーだ。
流石に言いすぎかもしれないけど、にしたって個性が無さすぎだ。このままの展開で人気になるようには到底思えない。だとすると田辺くんはなんなんだという話になる。こんな箸にも棒にもかからないような物語であそこまでテンション上がるだろうか。
ということで僕が考えた説は3つ。
1つ、この物語がテンプレをテンプレ足らしめた王道作品である説。僕が知らないのは僕が知らない平行世界での話だからってことにしておこう。
2つ、ここから急激に個性が爆発する説。初動の引きが終わってる作品に魅力があるとは思えないけどソレを補うギャグなんかで無理矢理押し通した可能性もある。
そして3つ、田辺くんが駄作マニア説。この場合お手上げ、そうなったら僕が正式に田辺くんを2度殺す。
ひとまず、3つ目は捨てで行動するしかない。なんにせよ、とりあえず動かなくては。ここでうだうだひとりで悩んだとして、ソレこそ読者に飽きられる。世界観の説明が一番つまらないのだ。
今、僕がやるべきはひとつ。
「──よぉ大将!転校前にお手つきとは過去最短かぁ?」
「ん?あ、双葉!なんだよその口調、というか別にそんなんじゃ「ぺッ」って唾液で目がァあ!?」
「あ、ごめん。本気で無意識だ」
「故意より酷い!?というか何故!?」
「まぁ、あえて言うなら世界への漠然とした不満かな」
「せめて俺への憤りであれよ!!」
主人公(仮)へのダル絡みだ。
☆
「へぇ……じゃあやっぱ……登校中に……」
「……食うか喋るかどっちかにしろよ」
「…………」
「食うのかよ。そんなド直球真正面のボケするなよ」
「誰がテンプレだ!?」
「沸点どうなってんの??」
ところかわって昼休み。転校生騒動のあった午前中を乗り越え、僕はとある少年とお昼ご飯に勤しんでいた。
「今日俺双葉より教室入るの遅かったろ?だからわかると思うけど朝アイツと色々あってさ」
「僕よりも遅い事とだからがどう繋がるのか分からないけど確かに遅かったね」
「おかげで横倉先生にも怒られたよ。『あの羽有より遅いぞ貴様』って。久々に効いたぜ」
「僕のことナメてるよね。僕ってば全然手とか足出すけど大丈夫?まぁいいや。で、なにがあったのさ」
「ソレが聞いてくれよ!交差点を曲がったらさ──」
ちょっと怒り気味に朝の出来事を話す少し跳ねっ気のある髪が特徴の顔立ち整った少年。この少年こそ、今朝の『あの時の!』であり、暫定主人公である
田辺くんとの別れの後、僕は当時過去編のワンシーンに登場した少年しか原作への手掛かりがなかった。そんなわけで藤野先生協力のもと、僕は全力をもって彼に近づいたってわけ。その甲斐あってこうして今はお昼を共にすることもできるのだ。ありがとう藤野先生、今アナタは何をしていますか?僕はアナタが女児に恋敵認定を受け威嚇され半泣きになっていた姿を忘れられません。
っと、いけない。思い出に耽ってしまって途中から全然話を聞いてなかった。とはいえ、どうせテンプレ的な交差点でぶつかって〜ってヤツだろう。適当に合わせておけば大丈夫か。
「──それで、警察呼ばれかけたから慌てて逃げたってわけ」
「へー。まあいかにもありがちな……ん?」
……警察?
「ホント、今どきあんな当たり屋いるんだな」
「え、なに?当たり屋?交差点でぶつかってパンツ見たんじゃないの?」
僕が聞いていない間に何があったんだ。交差点を曲がってから何がどうなって警察沙汰になったんだろう。
「パンツ?なにそれ」
「いや、転校生と朝ぶつかってパンツ見ちゃって変態!みたいな……」
「ナニソレ。頭大丈夫か?ここ現実だぞ?」
「──ッ!!は、ははは、ボーッとしてたよ……」
一瞬で脳から湧き出たありったけの罵詈雑言を必死の思いで留める。落ち着け、奴の言う通りここは現実。ここで仕留めれば足がつく。もっと入念な準備が必要だ。
「最初から話すけど、まず交差点から転校生が走って飛び出して来たんだよ」
「うん」
どうやらもう一度話してくれるらしいので、今度こそしっかりと聞く。今のところ王道だが、ここからどうなると言うんだろう。
「驚いてさ、俺止まったわけ。チャリだしスピード落としてたから」
「交差点だもんね」
普通に徒歩同士だと思ってた。自転車乗ってたんだコイツ。
「そしたら転校生さ、急に俺のチャリにタックルして倒れたんだよ」
「……は?」
「で、『ハイぶつかった!腕折れた!』って」
「???」
ちょっとテンプレ外して来てんじゃねえよ編集者ァ!!
テンプレに天ぷらを重音テト。
気持ちよくなるのでので評価ここすきと感想お願いします