どう考えても原作あるタイプの世界観に全力で溶け込みに行くヤツ 作:くろうーろんちゃ560
暫定メインヒロインの当たり屋事件、前代未聞すぎる。そんな恵まれたポジションで胡座かいて中指突き立てるような蛮行許されていいのか?よくないと思うね。
「も、基羽とその子がもともと知り合いとか」
「知り合いの当たり屋ってなんだよ」
「最近流行りだよね。当たり屋から始まる恋」
「どこら辺で?100年の恋も冷めるが?」
じゃあなんだ。あんなに人生うまくいってそうな可愛い顔の娘が初対面の男の金毟り取りにきたってわけ?おいおい、妄想もいい加減にしてくれよ。
「そんな珍妙な話が現実にあるわけないじゃないか」
「本当にさっきまで交差点でパンツがどうとか言ってた人間と同一人物か?」
「いーや僕は認めないぞ。木知原さんは彼氏いないしトイレも行かないツンデレなんだ」
「既にアイドル視してる!?出会って3時間なのに!!」
ええいうるさい!正直いちいち設定把握するの面倒なんだよ!僕はもともとアニメとかは考察せずにふわっと享受してたんだ!作者の裏の意図とか知らないよ!どうせそんなこと考えてねえよ!
「というかさ。なにそんな意地になってんだよ?もういいじゃん不思議ちゃんってことで」
「別にいいけど、そうだとしてあの娘と付き合える?」
「いや流石に無理だけど」
「じゃあダメだ。あの娘とイチャイチャしろ」
「なんで!?」
そっちのほうが都合がいいからだ。直接伝えたら修正力に消されるかもしれないから言わないけど。
なんて、今後について考えていると、会話の中に新たな人物が乱入した。
「──いや〜。今日の購買は混んでたねぇ!」
顔を見なくても人柄がわかるようなほんわかとした声が通る。
「あ、遅かったな佑」
「まぁそういう運勢って朝の占いで言ってたし……って、今日は双葉もいるのか〜!」
「どもども。友だち借りてるよ」
「いいよいいよ!いつでもあげるよ!」
「純粋な言葉が俺を傷つける……!」
「はは、月イチでいいかな」
「双葉は完全に悪意!!」
彼は鍋原佑希。明るく、ふわふわとした印象を与えるような人物。漫画とかに当てはめるなら友人枠だ。知らない、本当はこっちが主人公かもしれない。
「で、なんの話してたの〜?」
「なんか基羽が転校生に運命感じてるらしい」
「うわぁ!身の程知らず!!」
「してないし辛辣!?お、俺だって頑張れば……!」
「そうだよ。厚顔無恥こそ基羽の真骨頂じゃないか」
「フォローするようにトドメ刺すなぁ!?」
「というか当たり屋されたんでしょ?マゾってこと?」
「佑お前絶好調だな!?」
なんだ。佑希くんも聞いたのか当たり屋の件。よく考えれば彼らと昼休みまで話してない僕が聞いてるのに仲のいい2人が話していないわけないか。
「だいたい双葉が勝手に言ってるだけだっての!あんな女、俺の方がゴメンだね!」
「あ、あんな女とは随分な言い草ですね!」
「当然だろ急に当たり屋ふっかけてきたんだから!」
「分かった!病気のお母さんの手術代が必要なんだ!」
「なわけあるか!てかそんな汚れた金でお母さんは喜ばねえよ!」
「それで、実際木知原さん的にどうなの〜?」
「母は健在です!そもそもお金なんて求め──というか他人に話したんですか!?」
「ほらみろ本人もこう言って──は?」
僕の予想に烈火のごとく反論していた基羽の声がピタリと止む。それも当然だ。なぜって、僕らだけだと思って赤裸々に語っていたのに突然本人が目の前に現れたから。
「まったく!事実確認もなしに悪評を垂れ流すなんて、それでも男ですか!」
僕らの目の前でプンスカと憤りを見せる少女改め木知原弥衣。唐突な彼女の乱入に僕と基羽はフリーズしてしまっている。
「じゃあさ〜、どういう意図があったの〜?」
「それは勿論!山よりも高く海よりも深い理由がですね!」
僕らの困惑とは対照に自然体で話を進める佑希くん。この落ち着きよう、やっぱり彼こそが本物の主人公なのなもしれない。
とはいえ、僕もようやく落ち着いてきた。聞かせてもらおうじゃないか。彼女の言い分というヤツを。
「うんうん。その理由って〜?」
「それがですね!私、ある日突然ラビーって言う──!?」
「……??どしたの?」
「ちょ、ちょっとだけ待ってくださいっ」
いざ話そうとしたところで急に方向転換したかのように口をつぐむ木知原さん。彼女は時間を要求すると慌てたように僕らから距離を離し、屋上の隅で小さくなって背を向けてしまった。せっかくこちらも話を聞く準備を整えたというのに、ちょっぴり肩透かしをくらった気分だ。
まあいいや。彼女の中で整理がつくまで、僕は佑希くんと話でもして時間を潰すとしよう。
「どうしたんだろうね木知原さん」
「ね〜。なんだか様子が変だったけど」
「うん。急遽軌道修正したみたいだったね」
「──ハッ!?なんでここに木知原が!?」
「あっ復活した。モトはいつもトロいね〜」
とりとめもない話をしていると、ようやく基羽が意識を取り戻した。いちいち王道を進む男だ。時折見ていて背筋がむず痒くなる。
「いや、逆に何でお前らは落ち着いてるんだよ!?」
「僕は驚いたよ。人って転入初日で屋上使うんだね」
「知らねーよ人によるだろっつーかそこじゃねーよ!」
「ぼくはモトが屋上にいること自分で教えたからね〜」
「元凶は佑かよ!何で言うんだよ!?」
「聞かれたから〜」
「しまった真っ当な理由すぎて文句言えねぇ!?」
なんだか基羽が起きてから急に騒がしくなったな。多分基羽の台詞の全部にビックリマークがついてるからなんだけど。だがコレは新発見だ。いるだけで賑やかになるなんていかにもな主人公要素じゃないか。これで基羽主人公説はさらに強固になったぞ。
それはそれとして、純粋な疑問だけどこういうキャラって嫌われたりしないんだろうか。もし田辺くんの世界で『基羽 ハイテンション ウザい』みたいな検索でヒットしてたら……普通に笑うかもしれないな。
「で、アイツ何してるんだ?ずっと虚空に話しかけてるけど」
「木知原さん?あれは精神統一だよ」
「は?どゆこと?」
「双葉適当言い過ぎ〜。アレはね〜……精神統一だよ〜」
「情報が一切更新されない!?」
いざ答えようとして答えられるほど彼女の行動を理解していなかった。あれ実際何してるんだろう?
「なあもう怖いんだけど俺。だって当たり屋に虚空でもう2アウトだぜ?早いよまだ1日目なんだけど」
「逆に考えなよ。まだ打席残ってるよ」
「野球に例えた俺が悪かったよねそうだよね!!」
「じゃあさ、あと1打席で巻き返せるの〜?」
おっと、佑希くん鋭い指摘だ。そしてここは僕の口八丁が光るところだろう。華麗な弁舌で彼女の株をストップ高にしてやるぜ。
「巻き返す可能性、大いにあるよ」
「ほうほう、その方法とは〜?」
「やっぱりね、最初の悪印象はフラグ管理の定番だと思うんだよ」
「はじまったよアニメ脳……」
失礼な。これは僕が前世を含めて学んだ立派な理論だ。そしてここは創作世界。この理論の的中率は200%といったところか。
「推理の基本は結果と動機。僕らは今彼女が起こした結果のみで物事を話している。コレはナンセンスと言わざるを得ないね?」
「異議あり!当たり屋は結果のみで判断していいほどの罪に値すると思います!」
「異議を認めま〜す」
ふむ、そう来たか。だが、問題ない。
「──異議を却下します!!」
「「!?」」
僕に都合の悪い意見は却下すればいいのだ。
「で、でも裁判長は異議を認めたよ〜?」
「そっそうだ双葉!佑希裁判長が異議を認めている!」
「裁判長。今日うどん屋寄ろう。トッピング奢るよ」
「異議却下〜!」
「露骨な賄賂!?な、なら俺は1杯丸々奢る!」
「えっ!?じゃあ「待った!今月の基羽はカツカツだ!」このままどうぞ〜」
「畜生なんで俺の財布状況知ってんだよ!?」
4月の学生はだいたい金欠。僕も例に漏れない。さてさて、来月どうしようかな。
「話を戻そう。重要なのは動機、彼女が犯行に及んだ理由だ」
「……異議なし」
「当たり屋と言えばお金目的だ。だけど考えて欲しい。今月、というか基本金欠の基羽に当たり屋をする意味はない!!」
「お〜!確かに〜!」
「い、異議アリ!転校生はその情報を知らないはず!」
「異議を却下します!」
「します〜!」
「無茶苦茶だっ!?」
「つまり彼女は、金銭以外の目的があって犯行に及んだ!」
決まった!完璧な推理!金銭以外の目的なら、多少のアウトはオチャメで押し通せる。そうなれば最初の論、悪印象はフラグが適応されるって寸法だ。結論に結びつけるために多少強引になったけど、世の中の探偵も大体こんなモノだろう。
てかさっきラビーが〜とか言ってたし、お約束的な伏線だったから触れなかったけど絶対なんかあるよね。みんな触れないってことは多分今触ると消えるよね僕。
「というかモト〜。実際お金揺すられたの〜?」
「は?そりゃあ…………直接は言われてないな」
「え、マジで!?」
「双葉だけは驚いちゃダメじゃない〜?」
じゃあ僕の推理当たってたってこと?うわ、凄いな僕。この世界で頭脳キャラとしてやっていけるんじゃないか?
「いや待て、だがどう考えてもそういう流れだったぞ!?」
「でも言われてないんでしょ〜?」
「ぐっ……!」
「ちゃんと思い出してみなよ。『はい当たった!腕折れた!』の後、どうしたのさ」
「お、おう」
自分で言ってて意味分かんないけどな。はい当たった!腕折れた!の後って。
「確かその後『痛いな〜これは話聞いて貰わないと!』とか言ってて」
「ふむふむ」
「俺ヤバいと思ってチャリ漕いで逃げ出したんだ」
「逃げたんだ……」
「判断がはやいねぇ」
主人公にあるまじき行動ではあるが、その危機管理能力の高さには脱帽の一言だ。
「そしたら転校生追っかけてきて、『ちょっ逃げないでください!話だけ、話だけでも!!』って」
「珍しいね。対話を望む当たり屋」
「セリフだけならナンパだね〜」
「足めっちゃ速くてさ、振りほどけないの。そんで口論になって、騒ぎで警察呼ばれかけて逃げ出したの」
最後怒涛すぎだろ。どういうこと?一瞬で分かんなくなったけど?
「えーと、今の話を聞く限りお金目的では無さそう?」
「聞く限り話したがってることしか分かんないね〜」
「あの状況の会話なんて金目的しかないと思うじゃん!」
基羽の言い分もその通りである。まあ、金目的でないとするとなにが目的なのか全く分からなくなったわけだが、それは本人に聞けばいいだろう。
「まあ、その辺は本人に聞こうよ。木知原さ〜ん!」
ビクッ!
僕と同じ意見だったのか、率先して佑希くんが木知原さんに声をかける。そして直後、木知原さんの肩が大きく震えた。
「はぁ……遂に終わっちゃったかぁ。このまま一生話していて欲しかったなぁ。仲良しの会話聞いて微笑ましく思ったまま終わりたかったなぁ……やだなぁあっち行くのやだなぁ……」
どうやら僕らの会話は聞こえていたらしい。ということは結構前に話はまとまっていたのだろうか?
信じられないくらいどんよりとした空気と悲壮感を漂わせてこちらに近づいてくる木知原さん。心なしか周囲が青色、見ているこちらが悲しくなってくる。
「え、えと……大丈夫?」
「あ、優しい……こんな2アウト女にも……好き……」
「ちょっと待っててね木知原さん!基羽集合!」
これはマズい。急いで基羽を招集する。
「あれなに!?ホントにあの人なの例の人物!?」
「わからん!ぶっちゃけ自信ないよ見てらんねえよ俺!」
絶対なんかあったよね!?意気揚揚と理由話そうとしてたもん最初!口止めされたよね誰かに!
「木知原さんはなんで当たり屋したの〜?」
「「!?」」
僕らが今後の作戦を練っていた背後で、佑希くんが爆弾を投下した。
そう、伝え忘れていた。鍋原佑希。明るく、ふわふわとした印象を与えるような人物。漫画とかに当てはめるなら友人枠だ。そして、彼は致命的にデリカシーがない。
「あの、えっと……」
話を振られた木知原さんが何か喋ろうとして口をつぐむを繰り返す。
「じっ実は……っ!?」
遂に意を決して口を開いた彼女だったが、その直後、不自然に挙動がブレた。まるで、見えない何かに引っ叩かれたかのように。
「……」
「……」
「……」
そして今度の異常、気がついたのは僕だけではなかったらしい。もともとどこか違和感を覚えていたところに今の光景だっただろう。他の2人も唖然としている。
そんな僕らを置いて、木知原さんは観念したかのように口を開いた。
「……えと、お金目的でした」
「「!?」」
ぜ、絶対に言わされた──!?
「……殺してください」
「えと……高校生ってお金足りないよね〜?」
「グフゥッ!!」
佑希くんのフォローのようなボディブローに、遂に木知原さんは崩れ落ちた。
僕は無言で基羽に目配せをする。基羽は無念の顔つきで体の前で腕を振った。
3アウトチェンジ、攻守交代。妥当な判断だ。
☆
見るに堪えない光景があった昼休み。一旦無かったことにして解散した僕らは、普通に午後の授業を受けた。
そして放課後、約束通り佑希くんと結局なけなしの貯金を使って付いてくることにしたらしい基羽とうどんを食べに行こうとしていた僕は、とある人物に声をかけられその計画をストップさせられた。
「心当たりは?」
「……反省文なら、昼休み前に提出したと思います」
「それだ馬鹿者」
その人物とは、横倉なずな。本日2度目の登場である。
人の気と書いて『人気』。つまり人気とは人間味のこと。では、人間味とはいったいどういったものなのか。
『おくのほそ道』は知っているだろうか。その中には、こんな句が記されている。
『閑さや岩にしみ入る蝉の聲』
これは、松尾芭蕉が尾花沢の人々の強い勧めにより、予定にはなかった山寺に立ち寄ったことで生まれた句らしい。句に知見の深くない僕から言わせてもらえば、これが人間味だ。この風流、この雅こそが『人』であり、この人間味を感じられるためにおくのほそ道は人気なのだ。
僕はこの句から雅というものは決められた行動をしている間には生まれず、寄り道に耳を傾け、人との縁を重んじる心のユトリにこそ生まれるのだと学んだ。
誰かも言っていた。『道草を楽しめ。大いに』と。僕はこの言葉とおくのほそ道に感銘を受け、寄り道を楽しむ心の余裕を持つよう心がけていく。
色々物議を醸すことの増えた現代において、必要なのは松尾芭蕉だ。そんなわけで、僕は松尾芭蕉になりたい。
2-A 32 羽有双葉『遅刻の反省文』