どう考えても原作あるタイプの世界観に全力で溶け込みに行くヤツ 作:くろうーろんちゃ560
タイトルは主人公と書いてる途中で展開が明後日の方向に走り去った僕、その他諸々の気持ち
放課後に1人だけ帰宅を許してもらえない、すごく原作キャラクターっぽい。問題があるとすれば、僕がそういう振る舞いをしたつもりが一切ないことだ。
そもそも僕はできるだけ早く学校から出たいタイプだ。いくら原作に溶け込もうと努力してるとはいえ、放課後はなるべく早く帰宅したい。おそらく僕は将来、残業とかはやらずに定時に退社することになるだろう。
まあ今日は2人とうどん食べに行こうとしてたんだけどね。別にそういうのまで嫌なわけじゃないし。
さて、とりあえず目の前の事態に向き合おう。目の前の人物もようやく朗読を終えそうだし。
足を組んで僕を見上げる横倉先生に意識を向ける。机には少し乱雑に書類が置かれており、隅に自販機で買ったであろうココアの缶が2本ほど追いやられている。
「私は反省文と言ったよな?流石に驚いたぞ」
「僕も職員室で朗読されて驚いてます」
まさか横倉先生がこんな暴挙にでるとは。他の先生達の視線が痛い。なんだそのあり得ないモノを見る目、それが生徒に対する視線か?
「あれか?お前の反省とは最終的に松尾芭蕉になることなのか?」
「いやー、ははは……」
「というかなぜ芭蕉なんだ。最も憧れとも蔑みとも遠い人間の名前だろう」
「いや、多分そこまで路傍の石じゃないですよ芭蕉」
「芭蕉……。まだ修造の方が納得できるが」
「……え、もしかして松岡と比べてます?苗字ちょっと似てるだけですよソレ」
「だが、日捲りカレンダーは有名だろう?」
「アレほぼ現代版おくのほそ道でしょ!」
31個思ったことが書いてあるだけだろうに。何が違うんだ松尾芭蕉と。
「と、そんなことはいいんだ。話を逸らすな馬鹿者」
「…………」
危ない。どの口が言ってんだコノヤロウ、と喉元まで出かかったがなんとか抑えることができた。僕は学べるタイプの人間、ここで口をはさめば拳が飛んでくることは読めている。
「とにかく、こんなもの反省文と認められん」
「えぇっ!」
「いや当然だろう。むしろ何故これで提出しようと思えたのか問いたいぞ私は」
「いや、前回まで何も言われなかったので……」
今更そんなこと言われても、というのが正直なところだ。そりゃ僕だって最初からこんな反省文を提出していたわけじゃない。このレベルまで至るのには地道な積み重ねがあったのだ。
「咎めるならもっと早く咎めてほしかったです」
「凄いなお前。この状況で私の非を責めるのか、いや私に非なんてないが」
「まったく、それ考えるの結構大変なんですからね?」
「だったら普通の反省文を出せ愚か者」
「先生も飽きると思って」
毎回同じような反省文を出していたら読む側も退屈だろうという僕の気遣いだ。ついでにキャラ作りの練習も兼ねての一石二鳥作戦でもあった。
「いらん気を遣うくらいならそもそも遅刻をするな」
「ハハ、そんなタラレバ語ってもしかたがぬあぁッ!?」
「偉そうにするな」
「こんな往来の場で、生徒暴行……!!」
「教育的指導だ。お前も美人教師に触れられて嬉しいな」
お、横暴すぎる……!声のトーン的に嬉しいな?じゃなくて嬉しいな。なのも相まってかなりの恐怖を感じている。触れられてって拳のことか?それ胸とか当てて言うことじゃない?ラッキースケベとか手繋いで『女の子の手って柔らかいんだな……』とかそういう甘いやつ。少なくとも、ゴツゴツした質量の塊に対して言うセリフではないはずだ。
「後な、こんな思春期のイタい作文読む側としては見てられん。まだゴミ箱を眺めてた方がマシだ」
「嘘だろ掌に塩でも塗りたくってました!?人の作文なんてもんと比べてるんです!?」
「というかこれ自体が男子高生の部屋のゴミ箱のテッシュみたいなものだろう」
「傷口に塩どころか岩塩で殴ってきてる!より具体的に低俗なもんに変わっちゃったじゃん!そこまで酷くないやい!」
「なんだと?無駄な引用と捻た言い回しにあからさまに何かの影響を受けたような文体、そのくせ自身は他とは違うんだという薄っぺらい自己顕示欲の見え隠れするこれがゴミと言わず何と言う!」
「どこに食い下がってきてるんだアンタ!?ち、違うから!別になんも考えずに適当に書いたらあーなっただけだから!なんの影響も受けてないしぃ!」
というか曲がりなりにも教師が生徒の作文をティッシュ扱いしないで欲しい!それもかなり低俗な!
「ん、んん!……要するに、書き直せと?」
これ以上話を続けても僕が泣くことになるのは目に見えているし、おとなしく話を進めることにする。今までの会話から察するに反省文の書き直しだろう。今日中だろうか。面倒だなぁ。明日までにできないかな?
「いや、それは別にいい」
「へーい。じゃ、明日の反省文と一緒に提出ってことで──はい?」
「反省文の再提出はしなくていいと言った」
「了解です!」
どうやら書き直す必要はないらしい。コレはラッキーだ。今日は機嫌がいいんだろうか?それはいい、このまま機嫌を維持した状態で解散させてもらうとしよう。
「そもそも書き直させたとてお前は反省しないだろう」
「いえそんな。自身の浅慮な行為に深く反省してます」
「反省する人間は明日の反省文と共に提出するなど思いつかんだろう。明日の遅刻と私の仕事量を増やす予約をするな殺すぞ」
おかしいな。一言発しただけでシンプルな殺意が飛んできた。最底辺まで機嫌が下落したぞ?
不機嫌そうに睨みつける視線から慌てて目を逸らす。彼女は軽く舌を打つと机の隅にあったココアを乱雑に掴むとグイッと飲み干す。ついで大きなため息。すごいコンボだ。異常なまでのストレスを抱えているであろうことが一連の行動からこれでもかと見て取れた。
その光景を横目で恐る恐る眺めていれば、視線に気がついたのだろう。僕と目が合った。そして、それが合図だったかのように彼女はニヤリと口角を吊り上げた。
「だから、だ」
瞬間、猛烈に嫌な予感が背筋を走った。そして、これまであった違和感がほどけていく。
「お前には、別の罰を与えようと思ってな。──すまない、待たせたな。もう入っていいぞ」
先生が奥に向かって声をかけると、おずおずといった風にある人物が物影から姿を現す。
どうして今日に限って今まで何も言われなかった反省文の内容で呼び出されたのか。いつもなら早々に拳で黙らせるのに会話を続けていたのか。
いつもと違う行動の裏側には、いつもと違う非日常的な要素が潜んでいる。今までもお約束だったじゃないか。
そして今日、いつもと違う非日常的な事が起きなかったか?
「どうやらお前、転入生と同じクラスらしいな?」
「──あ、あはは……えと、さっきぶりですね?」
意地悪そうに笑う先生と、気まずそうに話しかけてくる転入生、木知原弥衣。
「我が高校は少し特殊だ。そこは彼女も承知とはいえ、なれない生活で不安も多いだろう。それを解消するのは本来なら私たち教師の務めだが、我々もあいにくと忙しくてな。そんな折、喜んで代わりたいという生徒が現れた」
流れるように言の葉を紡ぐ女教師。さっきまでの不機嫌さが嘘のようだ。
「ま、待っ……!一旦!落ち着いて話し合うべきだ!」
「待たんな。おとなしく受け入れろ」
ふ、ふざけんな……!認められるかこんな事!どう考えてもこれ主人公の仕事だろ!?アイツも今日遅刻してたしその罰とかそういう強引な展開でさぁ!?
「2-A出席番号32番羽有双葉。今日よりお前を私の特殊援助認定者とする」
「ち、畜生……!」
「では、最初の任務だ。彼女に校舎を案内してやれ」
しゅ、修正力仕事しろーッ!!!!!
確かに、確かにキャラ付けが必要とは言った!だけど、誰もここまでしろとは言ってない!!
「た、助けて田辺くん……!!」
「誰だソレは。いいから働け」
☆
「──ここが別棟だね。文化系の部活の部室とかが多いかな。木知原さんが部活とか入らないなら基本的に行くことは無いかも」
「ひ、広いですね……」
「そう?本校舎と違いないと思うけど」
「いえ別棟の話ではなく!敷地の話です!」
「そっち?まあ色々やってるらしいからね」
必死の抵抗も虚しく、教師の横暴も覆ることはなく。ということで僕は現在、木知原さんと校内を歩き回っていた。
「T.E.M……でしたよね?」
「うん。
「その略し方で合ってます?システムからしか取ってないですよね?最終的にただのシステムですよねソレ!」
「W.Y.G.Mと最後まで争ってたけど結局呼び方が分からないからってT.E.Mに落ち着いたらしい」
「だからなんで単語の後ろから取りたがるんですか!いいでしょう頭文字のN.T.C.Sで!」
「僕に言われても……」
名付けたのは僕じゃないんだから困ってしまう。そういうものと受け入れて欲しい。
「ま、まあでもホラ!呼びやすいからさ!」
「そんなに変わります?ティー、イー、エム。アルファベットが1文字減っただけじゃないですか」
「アハハ。いつもはそんな堅苦しい呼び方しないよ。基本TとEとMで──テムだね」
「もうほとんど原型ない!?」
「なんかもう理事会では技術導入のこと『テムる』とか言うらしいから覚えとくといいよ」
「ほぼギャルじゃないですか!?」
ふーっ!ふーっ!
そう荒い息を吐く木知原さんに思わず一歩後ずさる。すごい勢いだ。このまま僕の方に飛び火するかと思うと気が気でない。この話は早々に切り上げるのが賢明だろう。
「それはさておき!これでだいたい設備は回れたと思うよ」
「あっはい。すみません放課後に付き合わせちゃって。もう人もこんなに少なく……」
「いやいや全然。悪いのはあの教師だよ」
「ア、ハハ。あんな反省文出す方も相当だと思いますけど……」
「ぐっ!いやそういう側面がないことも……というか聞いてたんだ。あの朗読」
「す、すみません!5分で性格が分かるから待ってろって言われて……」
なんて教師だ。全部計画通り、というか僕のことは彼女に説明済みだったらしい。つまりあのやり取りは全部見られていたと思ってよさそうだ。どうりで手を出す回数が少ないと思った。自分だけ良い面しやがって、まったくとんでもない女だ。
「あんな少しの時間で人となりが分かるわけないのに……」
「いえおおよそ、というかほぼほぼ分かりましたけど」
「よく話したらまた印象も変わるだろうし」
「いえ寸分違わずそのままでしたけど」
「結構ハッキリ言うよね君も……」
もう人もいない校舎の外へ向かいながら話している中思う。僕はいったい彼女にどんな印象を持たれているんだろう?
「で、でも!話しやすくてよかったです!」
僕の頰が引き攣っていることに気がついたのか慌ててフォローを試みてくる木知原さん。その優しさが身に染みる。
「はは、そう思ってくれてるなら良かったよ」
「本当ですからね?知り合いもいなくて不安だったので」
「あー、クラス同じだし、僕でよければこれからも色々答えるよ。答えられるか分かんないけど」
「あ、ありがとうございます!」
「うん。木知原さん的には基羽の方がいいかもだけどね」
「はっ!?いえいえ!羽有くんの方が断然嬉しいですっ」
軽く基羽の名前を出してみると、ブンブンと首を振って勢いよく拒絶する木知原さん。なるほど、いい傾向だ。ここまで露骨な否定、照れ隠しと見ていいだろう。そうじゃなくとも一定の感情は持ち合わせていそう。ヒロインはこうでなくっちゃ。
「僕はこの学校案内も基羽がやるべきだと思うけどね」
「えぇっ!私にストレスで死ねと!?」
「一言も言ってないんだけど?もしかしてアイツのことゴキブリか何かだと思ってる?」
「確かに横倉先生は羽有くんと樽見くんで迷ってたらしいですけど、私は羽有くんで良かったです!」
「なにそれ聞いてないんだけど。どんな2択?セガサターンとツインファミコンくらい違うよねソレ」
「えと、対象が古くてよく分かんないんですけど……というかそんなに違いますソレ?」
「いやいやセガサターンは10年も後に発売されてるんだよ?もうツインファミコンなんてアンティークさ。仮に友だちが持っててもふ~んで終わりだよ」
「知らないしどうでもいいんですけど!?そもそも私プレステ派なので!綺麗なグラフィックとストーリー派なので!」
かく言う僕もセガサターンとか触ったことない。全然DS世代だ。携帯ゲーム全盛期の人間である。というか木知原さんって意外とゲームやるタイプなんだな。思わぬところで情報ゲットだ。
「というか、ホントにどういう選択肢なのソレ……」
そう、ゲームのことなんてどうだっていいんだ。こっちのほうがよっぽど重要である。別に木知原さんの世話をすることがイヤなわけじゃないけどさ。
「えっと、教師の代わりという雑用になるので罰にするのは決めていたらしいんですけど。今日は羽有くんと樽見くんの2人は遅刻してきたので、どちらを罰対象にするか悩んでたみたいです」
僕の呟きに自分の知ってる内容を話してくれる木知原さん。なるほど、理にかなった意見だ。
……って、あれ?だけどそれなら……。
「それならなおさら僕じゃなくて基羽の方がよくない?だって2人は朝知り合ってるし、なんなら一緒に登校してきたんでしょ?」
「うっ……!」
うん。僕と基羽の2択ならば、一応は既に知り合いになってる基羽の方が適任のはず。基羽は言い合ってる最中に警察を呼ばれかけて慌てて逃げてきたと言ってたし、そこからわざわざバラけたりはしないだろう。となると一緒に登校したと考えていい。
僕のセリフに何故かダメージを負っている木知原さんを眺めつつ思考を回す。なんだ?昼休みといい、当たり屋事件は彼女の中で触れられたくない恥部にでもなっているのだろうか。
「ちなみに、その辺あの教師なんか言ってた?」
「え?……っと、そうだ。確か、今日1日遅刻した樽見くんよりずっと人を舐めてる問題児の方が罰を受けるべきなのは自然、みたいなことを」
「酷いな……いったい僕のどこが人を舐めてるって言うんだ」
「一挙手一投足ですかね。作文とかモロに」
「そんなバカな!この通り僕は直毛だよ?」
「人を舐めてる人は全員テンパだとでも?殺されますよテンパの団体に」
「だけどまぁ、流石に遅刻の罰なら文句はつけられないか」
「後はアレですね。羽有くんはすぐ軽口で失言するから拳で解決しやすいし毎日仕事増やされてイライラするとも言ってました」
「多分そっちが大部分占めてたよねあの女教師!」
畜生、なんて適当な決め方で選出してくれたんだあのアマ。ちょっと顔が整って腕っ節が強いからって調子に乗りやがって。だいたいなんだあんな堅物キャラのクセしてココアって。ちょっとキャラ付けしにきてるんじゃねーよくそぅ!
だけど、今の話でだいたいの話は掴めた。基羽じゃなくて僕が選ばれたのも今までの遅刻とかのツケが回ったと考えればまぁ自然だ。
まとめると、だ。原作であれば、当り屋事件によって遅刻した基羽が罰として木知原さんに校舎案内をして……みたいな展開だったと考えるのが妥当だろう。だけど、僕がいることによって懲罰対象が2人になった。それで、2択の内で選ばれたのが僕、と。
…………。
「や、ヤバいっ……!死ぬッ……!?」
「なんで!今の内容のどこにそんな要素が!?」
自然、確かに自然な流れだよ?今日だけ遅刻したヤツと常習犯、どっちに罰与えるかってそりゃ普通に考えて常習犯だ。
だけどそれは、平常である場合だ。こんなあからさまなメイン展開の場合においては、いつ修正くらってもおかしくない地雷原に他ならない。
く、くそぅ!そんなつもりじゃなかったのに!ちょっとしたキャラ付けのつもりだったのに!
まずいぞ、どうにかリカバリーを……いや待て、落ち着け羽有双葉。まだこれが原作と決まったわけじゃない。そもそも基羽が主人公だと確定してるわけでもないし、現状は今までとなんら変わらない。
物語が進んだ、みたいな展開が続いてるからって焦りすぎていた。何も分からないくせに確定みたいな思い込みは最もやってはいけないこと。そんなのとっくの昔に学んだ初歩じゃないか。
僕がやるべきはかもしれない行動。
「あ、あの……羽有くん?大丈夫ですか?」
木知原さんが心配げに声をかけてくる。恐る恐る、というべきか。これはいけない、とりあえず何か声を出して安心させねば。
「木知原さん。ハインリッヒの法則って知ってる?」
「唐突だなぁ……ハインリッヒ、ですか?」
「うん。ヒヤリハット、聞いたことある?」
「あ、聞いたことあります!重大な事故の前には300のヒヤリと29の小さな事故があるっていう」
「そう。とてもいい教えだと思わない?」
「確かに色々なことがそうですし、知ってて損はないですね」
「だよね。だって──」
ヒヤリハット。まさに至言のような法則だ。コレを考えた人には是非ノーベル賞をあげてほしい。
「──だって、329回はミスっていいってことだから」
「違いますよ!?」
ハインリッヒの法則。いつも僕を安心させてくれる万能の法則だ。330回まで大事に至らないなんてなんて良心的なんだ。
「ということで木知原さん。樽見基羽の情報なら僕に任せてよ」
「どういうことですか!?何も繋がってませんよ!?」
「隠さなくていいよ。僕は分かってるから」
「な、なにをっ!?」
とりあえず、ホントに原作の場合のカバーとして僕が二人の中継ぎ的な事を適当にやっておけばセーフだろう。帳尻はどうにか合わせられるはず。今朝の出来事を聞く限り、基羽に何かしら用があるのは間違いない。ならばこの程度やっておいて損はないだろう。
キッ!と警戒したような視線を僕に向ける木知原さん。分かりやすく慌てているのが見て取れる。
「無理に話せとは言わない。ただ、1人で抱え込むのは不安だと思う」
「なっなな……」
「だから、僕がある程度把握しているって事は伝えておくよ」
君が基羽と近い将来ラブアンドピースになるかもしれないことを。そうじゃなくてもボーイミーツガール的なサムシングなことを。
「どうして知ってるんですか!?」
「僕は少し特別でね。ちょっと勘が利くんだ」
まあ転生体験とかしてるし、原作あり世界という前提でモノ考えてるからそこらのモブと比べると鋭い方だろう。お約束の伏線とか気付けるし。
「なっ、なんでっ」
「ん?」
「どうして、出会ったばかりなのに私に──」
「君の為じゃない。これは僕の為だ」
そりゃ人の恋路?をいきなり手伝おうとしてくる男とか戸惑うし怪しいに決まってる。彼女の対応は尤もだ。
だけどね、こっちとしてもへし折ったかもしれないフラグの対応はしておきたいんだよ。安心したいんだよ僕は!
「抱えちゃったものはしかたないよね。置いてけたらいいけど、そう簡単にはいかないし」
「っ、まさか、あなたも──?」
「冗談やめてよ」
あなたも──?じゃないよビックリした、なんで急に恋敵展開突入したんだ他所でやってくれ。僕は普通に女の子が好きなんだ。まったく、ここは断固否定だ!
「僕はそんなもん一切抱えてないからね!」
「え、えぇ……。なら、なおさら言えないですよ」
「どうして?」
「だって、たくさん背負わせちゃいますから」
「押しつぶされそうな程抱えた重荷は誰かに預けた方がいいと思わない?幸いここに事情がバレて、かつ多少背負わせたところで変わりない身軽さの男がいるけど」
「……っ!」
「全部背負ったまま歩いていくには、ソレはちょっと重すぎるんじゃない?」
知らないけど、恋慕がそこまで重いかどうか。まあヒロインの恋慕は重いだろ障害とか多そうだし。家庭の事情とかで一悶着ありそうじゃない?転校のタイミング的に。
というか気分がアガって言い過ぎちゃった。これ大丈夫だろうか。僕はただ僕が潰したかもしれないフラグを修正したかっただけなんだけど。なんかペラペラ喋っちゃったけどだいぶ恥ずかしいこと口走ったんじゃないの?
だ、だけどまぁ、ここまで言えば大丈夫だろう。よしんば今話さなかったとて、本当にどうしようもなくなったら僕の存在を彼女は思い出すはず。その時にどうにかすれば今回のヒヤリハットも乗り切れる!
「……いっぱい、頼っちゃいますよ?」
「お、任せてよ。グッドエンドは約束するよ」
返答は承認だった。セーフ、まずは彼女が何かしら持ってるのはほぼ確定と見ていいだろう。うんうん、任せてくれ。これで原作だった場合のカバーは問題なく遂行できそうだ。
「泣きそうなほど重たいんです。たくさん、たっくさん背負わせちゃいますよ?」
「えっ、そんなに重いの?三分の一くらいがいいな、ほら僕非力だし」
「ダメです。乙女の秘密を暴いた罪です」
「や、安請け合いしすぎたかも……」
「もう遅いです。自分のお口が軽いことを恨んでください」
……なんか、思ったよりガッツリ背負わされそうなんですけど。これ大丈夫?もう実は〜とかできなさそうな雰囲気がヒシヒシと伝わってくるけど、藪つついたら蛇出てきたとかそう言う感じ?
「あと、危険かもしれないです」
「危険?あぁ、当たり屋するから警察沙汰になり得るとか?」
「そ、それはもういいです!忘れてくださいっ」
顔を赤くして手をブンブン振る姿は何とも可愛らしい。だが当たり屋である。クセの強い暫定ヒロインである。
さて、話もまとまってきたし、そろそろ解散にしよう。クソ広い校舎を回ってたせいで辺りは薄暗くなりつつあるし、既に他の生徒もいない。これ以上暗くなる前に彼女も帰路についた方がいい。
「危険ねぇ……まあ大丈夫だよ。それこそハインリッヒさ。危険なんて、330回は大事には──」
いつものように叩いた軽口を最後まで言い切ることはできなかった。
僕の台詞が掻き消えるのと同時、目の前を巨大な質量の塊が通る。数瞬遅れてゴッ!という音が耳に届く。瞬間、身体全体に突き刺すように吹き抜ける突風と耳を刺すような衝撃音。
「だ、大事には……なることも、あるよねぇ」
「羽有くん!下がって!くっ……既に
切羽詰まったような木知原さんの叫び声に反応して大きく後ろに飛ぶ。直後、先ほどまで立っていた場所に大きな塊が振り下ろされた。ヒビ割れたアスファルト的に、そのままあそこにいたら僕はペシャンコだったろう。
今、僕を殺そうとしたナニカを見やる。靄がかかってよく見えないが、3メートルほどの物体のよう。
さ、ささ、330回目引いた──!?!?
終わりだよ畜生!全然許されなかったよ!修正力が腕ブンブン振ってるよ!僕のこと消す気満々だよ!助けて田辺くーん!
「ラビー!残量は!?」
『ステッキはむりむりです』
「じゃあ限定で!腕だけやって!!」
『りゃう!左腕だけ10秒ね!』
「せめて利き腕にしてよぅ!?」
な、なんか木知原さんがやってる!?なんか全然慣れた感じだし、既知ってことか?てかラビーって、昼に口走ってたアレじゃない?
そうこうしているうちにデカブツに向けて駆け出す木知原さん。途中で左腕が光り輝き、白色の装甲に覆われる。
「あ、えと、最初なんて言うんだっけ!?」
『あたしの感度4千倍、です』
「うそつきぃ!もういいよ!う、うおおお悪霊退散──!」
ヤケクソな掛け声と共に木知原さんがデカブツをぶん殴る。少しして、空間が歪む。これも昼見たやつだ。それを確認すると木知原さんはすかさず追撃の構えを取る。
「き、効いたぁー!?最初の文言いらないのぉ!?あっと、とりあえずう、
叫び声とともに空間のねじれが大きくなり、吸い込まれるようにねじれに食い込むデカブツ。やがてその空間はデカブツごと捩じ切れるようにかき消えた。
そうして、トンデモ展開は一瞬で幕を下ろした。他ならぬ木知原さんの手によって。
さっきまでの衝撃音なんかが嘘だったみたいに静寂が僕らを包む。そんな中、いつの間にか色々始末を終えた木知原さんがこちらに近づいてくる。彼女は僕と目が合うと、ニコリと笑って口を開いた。
「えと、だいたいこんな感じなんですけど……いけそう?」
「え?お、あ……あ~はいはい。こ、こういう感じね。なるほどなるほど……TypeCだ」
お、思ってたのとだいぶ違うの来たー!?
え、ナニコレ、ヤダコレ、嘘コレ、えっだってお前、えぇ!?
「あの、信じられないくらい声上擦ってるんですけど……」
「な、何がっ?なに上擦ってるって。全然問題ないけど?TypeCだよねコレ。TypeCならイケる、TypeBは今ちょっと手元になかったけど、TypeCなら最近多いし!?」
「どういう事!?そんなケーブルみたいな括り方してるんですか!?」
や、やべぇ……!想定してたより100倍トンデモねぇもん出てきた!?藪つついたら蛇どころかヤマタノオロチでてきた気分なんだけど!
「ラビー、あ、さっき喋ってたこの子なんだけど、一般人に知られたら消すなんて言うから心細くて……でも、羽有くんは知ってる側だから平気ですよね!」
『野良の此方側、めずらしです』
「あ、あーうん。知ってる知ってる。結構バトルとか勃発しがちだよね。うん、家の前とかでさ」
い、言えない!言えないよもう正直に!消されそうだもの!修正力より先に人為的に僕消されそうだもの!
基本的に週1の定期更新の目安ですけど書けたらすぐみんなに見せたくなっちゃうので分かりません。書けない場合は伸びることもあるし、それはもう不定期だという異議は先に却下しておきます。だからまだ離れないでよしよししてください。