どう考えても原作あるタイプの世界観に全力で溶け込みに行くヤツ 作:くろうーろんちゃ560
どうしよ。マジでどうしよ。切実にどうしよ。
「それでですね。さっき襲ってきたのは怪異魂魄って言って、いわゆる化生とか物の怪の類らしいんですけど」
やべーよ、木知原さんなんか言ってるけど全然入ってこねーよ、それどころじゃねーよホント。どうすんだよこれ。もう意味わかんねーよ、完全にキャパオーバーだよ。
「これが古くは弥生時代からなるほどの深い歴史が……あっ、とは言っても名称そのものは様々あるらしくですね!えっと、あの古い書物、万葉集じゃなくて……」
『日本書紀』
「そう!日本書紀にもその存在が記されてて……あ、記されてるとは言っても詳細があるわけではなく、存在が示唆される程度ですけど」
逃げ出さなければ……!隙をついて、なんとかこの場を脱せねば……!
ラブコメからまったく知らない世界観への突入を果たした後、僕らは既に校舎を離れ、薄暗くなりつつある道を歩いていた。といっても、僕は後ろをついていってるだけだけど。
僕の前を歩きつつ先ほどの事象について説明してくれる木知原さん。幸い後ろを振り向くことはなさそう。どうする?このままフェードアウトするべきか?逃げるなら今しかない……?いや、ここで逃げたら後でトンデモない事になりうるか……?
「……というかさ、これどこ向かってるの?」
「とりあえず一息つける場所です。いろいろ説明するにしても校門で立ち話はアレでしたから」
「な、なるほど。まあ、いろいろ急だったからね」
「確かに、タイムリーな襲撃でしたね。まさかジャックインしているなんて。ラビーももっと早く教えてくれたらよかったのに」
『常中警戒、とうぜんです。やよいはつめあまです』
「そんなのできるほど私歴戦じゃないよっ!」
僕を置いて仲良く言い合いを始める2人、というか1匹と1人。やっぱり、彼女らの話を聞く限りああいうのも初めてではなさそう。こういうことは慣れてるっぽいな。というか……
「ジャックイン?」
思い返せば、襲撃の時もそんなようなことを言っていたはずだ。ジャックインとは、いったいどういう意味だろうか。
「『異界送り』、怪異魂魄を鎮めるときの舞台に入ることですね。彼らの世界と常世の狭間にあるらしいです」
『現世の神隠し、すなわちジャックインです』
「怪異魂魄とか弥生時代とか節々が古代日本っぽいのにここだけ凄く欧風だ……」
「文明開化とともにそこら辺も変わったそうですよ。ラビーだって今は洋名ですけど元はもっと難しかったそうです」
な、なるほど。にしてもなかなか凝った展開だなコレは……。基本的に日本神話とかそのへんを題材にしてると捉えていいのかな一旦。魂とか異界どうとかよく分からないけど、ラスボスは神様とかありそうだ。荒魂とかその辺でぐわーっと。
ほうほう……ふむふむ……。
………………。
「……あっ!?ちょ、どこ行くんですか羽有くん!?」
じょ、冗談じゃない!付き合ってられっかバッキャロー!こんなの命がいくつあったって足りないじゃないか!僕は逃げさせてもらうぞっ!
☆
劇的な逃亡を図って帰宅後、今日の出来事について振り返ることにした。本当に色々なことが起きた。一度整理しておくべきだろう。
前提として、僕は昼休みのラビーとかそういうお約束の伏線をズカズカ踏み倒すと消されると考えている。
例えば僕が来週宇宙人に拉致されて右手がサイコガンになるとしよう。だけどそれは僕が来週それに直面するまで誰にも分かるはずがない。もしその前にサイコガン案件に追求されたとしたら、その人物にはその為の設定が付与されるはずだ。未来視できるとか、未来人とか、それこそ転生者とか。
だけど、もしそんな設定のない一般人がそれに追求してきたら?ただの田辺くんがその事に触れだしたら?それはもはや設定崩壊どころの話じゃない。なぜならストーリーとして成り立たなくなるから。
物事にはそういう順序がある。過程が積み重なって結果が明らかになる事はあれど、超飛躍的に結果だけを導き出すのはバグだ。となればそれは、明確に修正対象となる。
だってあからさまな原作無視だから。隠されている設定に物語の人物が超常的な視点で以て気がついてしまう。それは最もありがちな転生者バレ案件だろう。
だから僕は、何故かみんなが触れない伏線は見て見ぬふりをするべきだと考えていた。
で、だ。今回僕は基羽と木知原さんの仲を取り持とうと少しだけ踏み込んでみたわけだけど。フタを開けたらさぁビックリ。出てきたのは特大の伏線だった。ラブコメの壁ノックしてたらラビーどころか非日常の扉蹴り破っちゃった感じ。
危ないどころの話じゃない。知らなかったとはいえ信じられねえ速さで地雷原走ってたようなものだ。なんで生きてるの僕?
もしかしてお約束の伏線とか全然無視して追求してもいいのか?ギャグならセーフなのか?いやでもあの時どっちかというとシリアスじゃなかった?
難しすぎる、難しすぎるぞ修正力。お前の匙加減どうなってんだ?
あーあ、田辺くんもっかい生き返って完全マニュアル作ってくれないかなー。そんでもっかい記憶なくなってくれ。
「てか、一時の気の迷いで逃げたけど明日も木知原さんと学校で会うよな……」
現状の僕って、あの手この手で木知原さんの弱味を引き出した上で逃亡したヤツ、ということになるんだろうか。
「よし、一旦寝るか!」
翌日。いつもより少し早く目が覚めた僕は珍しく少し早く登校した。そして、校門の前に笑顔で佇む木知原さんを見て死を覚悟した。
☆
「田辺くん。マニュアルなんていらない、今助けて」
「羽有くん、何か言いました?」
「いえ何も」
登校時、嘘みたいな速さで僕を拘束した木知原さんは当たり前のように放課後の予定を埋めてきた。
『おはようございます羽有くん。昨日はありがとうございました。少し気になることがあるので今日の放課後もお時間よろしいですか?』
『お、おはよう木知原さん。きょっ今日はちょっと用事があるから他の子誘ったほうがイイカモ……なんて』
『ごめんなさい。まだ転校して日が浅くて、気軽に誘える人がいないんです……』
『じゃ、じゃあ友達づくり手伝うよ!それにみんな優しいから心配いらないって!ほら、基羽とかどう?』
『ホントですかっ?それなら今日は羽有くんにお願いしますけど、また今度お友達づくり手伝ってください!』
『い、いや……だから今日は予定が……』
『聞こえませんっ……この学校で生活できなくなりたいですか?』
『イダダダダ!!ちょ、二の腕潰れる!精神攻撃の恐怖をかき消すくらい物理ダメージ入っちゃってるっ!分かった、付き合うから!全然予定とかないからとりあえず腕離してっ!』
恐ろしい出来事だった。本気で二の腕から先なくなったかと思った。まさか主人公の役回りを身を以て体感することになるとは。僕は今日から少しだけ基羽に優しくできそうだ。
「──聞いてますか羽有くん?」
「はい。一言一句聞き逃さない所存です」
時はすでに放課後、何故か気がつくと1日の授業が終わっていた。僕は今、木知原さんに連行されて僕ら以外人のいない空間に幽閉されていた。*1どこでこんな便利な場所見つけてきたんだろう。人っ子1人、というか人の気配すらない。助けは来ない。
と、逃避もそろそろ限界だ。彼女からも確認という名の宣告を受けたところだし、ここから先は辛い現実と向き合っていく時間。
『もしや騙したか?けしけしするか?』
「いやいや騙したなんて!ただちょっと夜遅かったから詳しい話は後日のほうがいいと思って!!」
それに先んじてまずはこのマスコット。開幕から心のない発言をするモンスターではあるが、今はコイツは適当でいい。恐らくコレの行動指針は一貫して『一般人に知られたら消す』、そこに感情的問題が介入する余地はないと考えていいはず。であれば理論的に説明さえできればどうとでもなる。
問題は彼女。今も正座する僕を笑顔で見下ろす木知原さんだ。今朝の雰囲気から察するに相当荒れ狂ってると考えてよさそうだ。最悪腕の1本程度は覚悟しておいたほうがいいだろう。
「──良かった〜。あんな事言っておいて逃げたときは殺してやろうかと思ったんですけど、勘違いだったんですね!」
ニッコリと微笑んだまま明るくそう言う木知原さん。これは……思っていたよりも穏やかだ。
よかった。台詞自体は物騒極まりないけど、これなら今後の発言次第だが多分指一本くらいでなんとかなりそうだ。
「うん。にげ──!?」
そんな事を思いつつ口を開いた瞬間、僕の右肩にとんでもない圧力。咄嗟に肩に目を向ければ、そこには木知原さんの手が置かれていた。
僕の肩に信じられない力を加えている木知原さんは、依然として綺麗な微笑みを浮かべたままだ。その笑みは先ほどから1mmたりとも口角が下がっていない。
「こ、木知原……さん?」
「勘違い、ってことでイイんですよねぇ?そうですよね、まさか私のなけなしの防御壁ぶち破って土足で心中踏み荒らしといて今更やっぱ無理なんて言いませんよねぇ?」
誰だろう、これならなんとかなるなんて言ったバカ野郎は。この状況から助かる方法があるなら是非教えて欲しい。
「も、ももももちろん!木知原さんの心が晴れるまで離れるなんてそんなねぇ!?ただ、ちょ〜っと雨をふせぐ為の傘を買ってこようと思って──」
「大丈夫です傘ならありますから。あなたという、ね?」
いけない。既に人として見られていないみたいだ。
「や、やだな〜木知原さんったら……僕は人間だし、よしんば傘にしても雨を防ぎきれないよ。ははは、はは……」
「ふふ、変な羽有くん。羽有くんは人間以外何者でもないに決まってるじゃないですか」
想像以上に危険信号だ。どうやら人として見られていないわけではなく、人として見たうえで傘にしようとしているらしい。
「それに、2人で荷物を分け合えるなら雨の中でも笑って歩けますよ。ね?」
「は、はは……風邪引いちゃうぜ……」
お、おーい!?どうなってんのコレ!?男子三日会わざれば刮目して見よ、とは言うけど比じゃないよ!3日、いや1日見ないうちにとんでもねぇヤンデレに成り下がってんだけど!?僕のこと何が何でも道連れにしようとしてるんだけど!?
「逃がしませんよマイホワイトステッキ……!貴方は私の大切な石橋たたじゃなかった大切な荷物持ち!既にこの身は一蓮托生です……!」
「おい今トンデモねぇ台詞聞こえたんだけど!誰が白杖だ自慢の魔法ステッキで我慢しやがれっ!というか言い直しても大して待遇変わってないし!」
「言ったじゃないですかたくさん背負わせるって……!もう背負わせてるんだから逃がすわけないでしょう……!」
最悪だよ!途中下車させるつもりサラサラないよこの女!多分代わり見つかるまで引き摺ってでもついて来させるつもりだ、なんなら僕に自分より前走らせて防波堤にするつもりだ……!!
「ふ、ふざけんなこの不良債権……!即刻クーリングオフしてやる、戻ってきた金使ってその足でカラオケ行ってやる……!」
「な、なにをぅ!?私の方こそそのお金で再契約してその後カラオケで死ぬほど歌いますオク上で歌いますよ!」
「いや僕のほうが上で歌う上ハモで歌うね!」
「いえ私の上ハモの方が点数高い!」
「いいや僕の方がビブラートが多い!」
『にんげんはおろかです』
「「畜生は黙ってろ(て)!!」」
『……ぎゃうッ!!』
「ふぎゃっ!?ちょ、ちょっとラビー!やめてよゴメン冗談、冗談だから噛まないで!」
「ブァッハハハ自分のペットに噛まれてやんの!アレアレぇ?もしかして躾もロクにできないポン骨髄にまで食い込んでてもおかしくないほどの激痛がァーっ!?」
「ふふふ……さあ行きなさいラビー、あの愚か者を噛み殺しなさい……!!」
ゆるふわ小動物みたいなナリして、ラビーの牙はあまりにも鋭かった。
『ぐしゃども、はなしすすめるです』
「「はい……」」
一頻り暴れて満足したのか、そう言いつつふわふわと浮かび上がり地上を見下ろす小動物。その視線の先にはボロ雑巾のように地面に転がる2人の人物。つまり僕ら。
「……なんなのあれ、マスコットじゃないの?なんであんなに殺傷能力高いの?」
「使い魔らしいです。一応」
「どこの使い魔が飼い主諸共デストロイするのさ。あれ完全に人類見下してるよ。僕らが使われるよ」
「なんなら呪いとか使えますよ。タンスの角に小指ぶつける呪いとか家の鍵閉めたか不安になる呪い、唐突に腹痛に苛まれる呪いにトイレットペーパーが切れる呪い」
「どんだけ地味な呪いしてんの?みみっちすぎだろそしてソレにしては的確に嫌すぎるだろ!」
「私このせいで逃げられなくて……」
「全部食らってた!?華の女子高生なのに!」
「ふふ、もうやだぁ……」
震える声でそう呟く木知原さん。あまりにも不憫だ。うつ伏せで見えないが、おそらく彼女の目には溢れんばかりの涙が浮かんでいることだろう。それはそうともうやだは切実に僕の台詞だ。
「……はぁ、しかたない。聞くよ。説明」
「え……?い、いいんですか?」
「あんな見栄切った手前ね。背を預けられる誰かができるまでは代役を務めるよ。次こそ本気で消されかねないし」
「……ふふ、ありがとうございます」
「あくまで代役だからね。さっさと親友なり恋人なり肩を借りられる存在を作ってね。全力でサポートするから」
「いえそっちのサポートはそんなにいらないんですけど……」
「あ、基羽とかどう?アイツモテるし一旦恋人にしない?」
「いやですよそんな損得で作る彼氏!?というか彼氏なんて今はいりません!」
「え、じゃあ彼女?困ったなぁ。知り合いは基本的に基羽ラブだし……」
「彼女もいらないです!というかどんだけモテるんですかあのスケコマシ!?」
『樽見基羽、でかでかの因果もつです』
「
「……あっ、横倉先生とかどうだろう?あの人は基羽ラブじゃないし、なにより拳が硬い」
「ほら!!こんなのほぼゴミじゃん!」
こっちは真剣に考えてるのというに、なんて酷い言い草なんだろう。
「もう!恋人とかは一旦いいですから、色々説明しますよ!とりあえずその薄汚れた小さい脳に叩き込んでください!」
「ねね、木知原さん。さっきから敬語で隠しきれないほどトゲ出てるんだけど、気づいてる?」
これは仲良くなったと捉えていいんだろうか。おかしいな、なんだか嬉しくないぞ?
なお、僕の声は華麗に無視されて虚空へと消えていった。
「まずですね。古来より万物には御霊と呼ばれる魂が宿るとされるそうで」
と、どうやらここからは世界観とか設定の説明パートらしい。昨日はあの化け物、怪異魂魄だったか?のことと
「清い魂には生命を浄化する効果が、悪しき魂はその逆の効果があるらしく。ここでいう浄化とは大雑把に言えば因果の巡りをよくするみたいなことらしくて」
あーあ、ここに他のやつがいれば原作のどの辺かとかだいたい予測できるのに。ちなみに、もしここに主人公っぽいやつがいた場合。今の状況はアニメで言えば2話3話あたり、漫画で言えば最初の長編の1/3あたりだ。ある程度読者を自分の世界に引き込んだからそろそろ冗長な説明パート入っても大丈夫だよね……?そんな感じだ。知らないけど。
と、いうか……。
「対して悪しき魂はその逆、齎すのは因果の停滞。巡るべきが巡らず常世に留まった結果、因果や自然の摂理は災いへと転ずる。それこそが怪異魂魄……って、聞いてますか羽有くん」
「うん、きいてるけど……なんか難しくない?」
「お恥ずかしながら私もよく分かってなくて……」
「じゃあ今のなに!?半分以上わかんなかったんだけど!」
「あ、あれはラビーの又聞きです」
「途中から露骨に語りが固くなったと思ったら!絶対そこから解読できなくなったよね!?音として認識して垂れ流したよね僕に!」
いくら説明パートだからって小難しすぎないか?これ、もしかしてそれっぽい単語羅列しただけでちゃんとした設定できてないんじゃないの?大丈夫、ホントに大丈夫なの田辺くんこの物語。
ここ最近、僕はこの原作に対する信頼が著しく損なわれていっている。
だが、とりあえず今の話をまとめると、だ。木知原さん当人もよく分かってないヤバそうなことに僕は巻き込まれた……ってことでいいのだろうか?いや、あの状況を思い返せば自分で巻き込まれに行ったようなもんだけど。
「えーと、じゃあ木知原さんは人知れずその悪しき魂から生まれた怪異魂魄と戦ってるわけだ」
「はい、多分。つい先日から、半強制的に……」
『やよいが触ったこと。あきらめるです』
「前日までただの物干し竿だったのに!ほとんど詐欺だよ!」
「なんて??」
情報を整理するために僕なりにまとめていると、いつの間にか言い合いをはじめた木知原さんとラビーの口から耳を疑うようなセリフが聞こえてきた。
思わず聞き返した僕に、息巻いた木知原さんが食いつく。
「それがですね!うちで洗濯を干していた棒が急にステッキになってまして!」
「う、うん?」
「そしたらラビーが現れて気づいたら今の状況です……」
「どういうこと???」
「私が聞きたいですよぅ!!」
すごい、しっかり声が耳に届いたのに処理できないや。
『やよいの因果ぜつだいです。ステッキ目覚めるのやむなし』
「ほらぁ!ずっとこんな感じなんです!呪いですよコレ!」
「捨てたりとかは……できない感じか」
「そうなんです!なにしても次の日手元にあるんです!県外のゴミ処理場に捨てても!燃やしても!折っても!」
「思ってたよりも鬱憤ぶつけてない?」
少なくともそこまで苛烈に破壊活動するヒロインを僕は見たことがない。あと、そこまでして役目から降りようとするヒロインも見たことがない。
「挙げ句の果てに使い魔にも呪われるし!」
「そのタイミングで呪われたんだ……」
『ステッキはしんせい、やよいは罰当たりです』
どうやら先ほど言っていたラビーの呪いもその時に味わったらしい。残念ながら彼女の行った行為を考えれば多少の呪いもやむなしという意見も分からなくはなかった。
「あー……ところで、ステッキっていうのは?」
「あっ、ステッキっていうのは私が戦うときの装備です!昨日は充填率が足りなくて出せなかったんですけど」
「左腕だけ──ってヤツ?」
「そうですそうです。ラビー、今行ける?」
『完全装衣問題なしです』
「じゃあ見せちゃいましょう!」
『りゃう。10秒でいいね』
言うやいなや、彼女の全身が光り輝く。その眩しさに思わず腕で目を覆っていると、次第に光は弱まっていく。
光が収まったところで腕を下げ目を開ければ、そこには白色の衣装に身を包み、自分の背丈より大きな棒を携えた木知原さんの姿が。
「ジャジャん!これが完全体です!」
「ま、マジか……カッケー……」
「神聖な感じしますよね、巫女みたいで魔を払う違和感無しです」
なんて話をしていると、再度彼女の身体が光り輝く。今度は先ほどと違い目を覆うほどの強い光ではなく、程なくして彼女は元の姿に戻った。
「と、こんな感じです。さっき持ってたのがステッキですね」
「いやステッキというか杖だよねアレ。ステッキなんて魔法少女が使いそうなヤツじゃなかったよね。バリバリ神聖な儀礼とかで使えそうだったよね。なに?あんなの物干し竿にしてたの?凄いや怖いものなしじゃん」
ステッキなんていうから僕は魔法少女的なノリなのかと思ってたんだけど、あの姿はどうみてもその系統ではなかった。全然護符とか使って戦いそうなタイプだった。
そしてあんなに厳かな雰囲気を放つ杖を捨てたり燃やしたりしたファンキーすぎる木知原さんに軽く畏怖した。正直、いつ祟られてもおかしくないと思う。
「この力は平安に確立された技術みたいなんです。襲撃時私が声に出していた『
「なんだか難しいね」
「そうなんです。それこそどうせなら魔法少女みたいな簡単な力が良かったです」
「魔法とか使えないの?空飛んだり」
「それが、古来から言葉には意思が宿るらしくて……」
「言霊とかそう言う感じ?魔の法、つまり化生の術ってことで人の身が操ることは禁忌だーみたいな?」
「そ、そうですっ!すごい、よく分かりましたね!」
呪法と魔法っていったいなにが違うんだろう、と思ってることは黙っていたほうがいいだろう。呪術だとか魔術だとか奇術だとか忍術だとか、違うって設定なら違うんだ。世界ってそういうものだ。
「なるほどね。よし、だいたい掴めた」
「本当ですか?よかった、複雑なので私も説明が難しくて……」
「いや、分かりやすかったよ」
おかけでだいたい設定が掴めた。とりあえず、だ。
「と、とりあえず……今日のところは解散で──」
「ちなみにですけど──逃げたらどうなるかわかってますよね?」
「にににげるなんて人聞きの悪い!腹括るって言ったじゃないか!」
「あ、そうでしたね!よかった。好きな四肢を聞く必要がなくって」
ソレを聞いてどうするつもりかを聞く勇気は僕になかった。
「でも、それならコレで本題に入れますね」
「ほ、本題……?」
「そうです。言ったじゃないですか。いっぱい背負ってもらいますって」
断言できる。僕はこれまで2度の人生において、今日ほど自分の発言を呪った日はない。
「ま、まさか僕に怪異魂魄の退治をさせようなんて……してないよね?」
「もちろんです!」
よ、よかった!そんな事させられたら命がいくつあっても──
「当然、それもお願いしますよ?」
「…………(ボロボロボロ)」
「ふふ、泣くほど嬉しいですか?羽有くんも男の子ですねっ」
僕の目の前にいる少女は本当に同じ種族なのだろうか。涙で視界が滲んだ今の僕には悪魔にしか見えない。
「大丈夫ですよっ!ちゃんと戦う力も教えますから!」
「わ、わーい……がんばるぞ〜……」
「それに、そっちはついででして。メインは別なんです」
「…………(ダバダバダバ)」
「安心してください!こっちが早く済んだら、私も羽有くんも戦わなくて済みますっ」
「……!!」
それは暗闇に差した一筋の光にほかならなかった。ちなみに、暗闇に叩き落としたのも光を差し込んだのも木知原さん。ド汚いマッチポンプには違いないが、僕は自身の安全のためならばいつだってピエロにでもなれる。足だって舐められる。
「先ほどの話から察してるかもしれないですけど、この力って『因果』というものがとても大事らしくて。多分運命力とか因縁とかそういうことなんだと思うんですけど」
ほうほう。言われてみれば、さっきからやたら因果がどうこう……みたいな説明が多かった気がする。因果、普通に考えたら結果と
原因とかそんな話だけど、どうやらソレだけじゃなさそう。
「それで、私って結構大きな因果を持つらしくて。それが原因でこのステッキを手に入れちゃったらしいんです」
確かにさっきラビーがちらっとそんなことを言っていた。木知原さんの因果が絶大だからステッキが覚醒したとかどうとか。
「ということは、です!もし他に大きな因果を持つ人がいれば、その人にもステッキを持つ資格があるってことじゃないですか!」
なるほど、確かに道理だ。ははーん、読めてきたぞ?
要は自分のほかに因果の大きな人間を見つけて身代わりにしようってわけだ。
つまり、僕にはその人物を一緒に探し出してほしいってとこだろうか。
確かに、大きな因果とやらを持つ人物を探しだすのは骨が折れるだろう。第一大きな因果を持つ人物の特徴とこ思いつかないし。それこそ主人公だとかそういう話に……。
あ、あれ?そういえばさっき、木知原さんの他にもう1人因果がどうのって言われてるヤツいなかった?
「それで先日の事に繋がってくるんですけど……」
そういえば木知原さんって、転校初日にとあるヤツに原因不明の当たり屋ふっかけてなかった?しかも金銭ではなくしきりに対話を求めてた……とか聞いたような。
じゃあ。ということは、だ。彼女が僕に求めていることって。
「も、もしかして…………」
「はい!私、樽見くんにコレ押し付けたいんです!!」
断言できる。僕はこれまで2度の人生において、今日ほど他人の幸福を神に祈った日はない。
週いち投稿(誤差アリ)