どう考えても原作あるタイプの世界観に全力で溶け込みに行くヤツ 作:くろうーろんちゃ560
「こちら弥衣、聞こえますかドーゾ」
『──オーバー』
「では確認です。羽有くんの役割ドーゾ」
『対象への接近及び目的地への誘導ですオーバー』
「はい、そして対象の印象改善です。して、その対象の動向はどうですかドーゾ」
『それが一瞬目を離した隙に見失ってしまいました。申し訳ありませんオーバー』
「なるほど……尾行がばれた疑いは?あとオーバーやめてくれます?私のドーゾに対し欧米かぶれが鼻につくので」
『ラージャ、尾行がバレた線は薄いと思われますOVER』
「やめてくださいって言ったんです。ネイティブ風なら許されると思いました?」
『あ、袋いらないです……了解Over』
「コンビニ行ってます?まさかとは思いますがコンビニ行ってて見失いましたドーゾ?」
『会計クレジットでオーバー……あ、間違ったクレジットでお願いします』
「分かりました以後オーバーで統一します。コロッケ1つ買って一度戻ってくるようにオーバー」
『すいません。コロッケ1つ追加でお願いしますオーバー』
☆
「あの」
「……」
無線機を渡されて基羽の尾行をさせられていた僕は、急遽オーナーから戻ってくるように仰せつかった。
「すみまぶへっ悪かったとぶっ思ってぐへっ無言で叩くのイタっ止めてほしへぶっ」
そして戻ってくるやいなやこのザマである。買ってきたコロッケを片手に丸めたノートでずっと頭をハタかれている。それはもう一心不乱に無言で。正直に言えばかなり恐怖を感じている。だってたまにコロッケ齧ってるから。機械的に叩いてるわけじゃなさそうだもの。
「…………」
大人しくサンドバッグになっていると、しばらくして様々な方向から飛んできていた攻撃が止み、その代わりに頭を等間隔で叩かれ続けるようになった。これほぼ木魚だが、今がチャンス。言い訳するなら今しかない。
「──心中お察ししまへぶぅっ!?」
一言目を言い切る前に頭上からフルスイングが飛んできた。どうやら選択肢を間違えたらしい。
「何ですかそれ?怒りますよ?」
「お、女の子との会話は共感が大事って……」
「バカですよね。怒らせた張本人なら煽り以外なにものでもないですよね冷静に考えて」
「すんません……」
くそ、昔新聞かなんかで見ただけのあやふやな記憶なんて信じるんじゃなかった。なにが共感だ、アホじゃねぇの普通に。
木知原さんはどうしようもないものを見るような目で僕を見つめ、大きくため息をついた。
「何してるんですか?」
「イヤあの……」
「言いましたよね。互いに早く解放されるため頑張ろうって」
「ッス」
「もう一度聞きますね。何してるんですか?」
「あ、足が勝手に~みたいな」
「分かりました。歯を食いしばってください」
「本当に反省しています」
笑顔で物騒なこと言うのがデフォルトになりつつある木知原さんに戦々恐々としている今日この頃だ。巷では暴力系ヒロインの人気は低迷しているというのにこの時代の逆行っぷり、原作時空の彼女の人気が心配でならない。人気投票とかあったらギリTOP10外れてそうだ。ちなみに僕は暴力系は嫌いではない。だいたいそういうのって男側がソレ相応の失礼をしているものだ。本当に面白い作品というのはキャラクターのヘイト管理がしっかりしている。暴力系と言われるヒロインも読者に文句言われない程度には相応の仕打ちを受けていたり、喧嘩両成敗じゃないけどそういうの。そういう作者の絶妙なバランス感覚によって良作というのは生まれるのだ。
あとは世界観のキャラと読者の印象に大きくずれないこと、コレも大事だ。登場人物達にそういうことやりかねないと思われていることって意外と重要なのだ。
「──ということで、例のイメージを払拭してほしいんですっ分かってますっ?」
「うん。木知原さんはヨゴレだってしっかり吹聴していくからね」
「なんでっ!?ホントに話聞いてました真逆も真逆の大暴投きたんですけど!」
あっしまった。考え事の夢中になりすぎたあまり木知原さんの話を聞いてなかった。なんて言ってたか分からないけど、ここは一旦穏便に受け流しておこう。
「うんうん。わかるよ」
「何が!?雑共感マッチポンプいい加減にして貰えません!?終いにはホントひっ叩きますよ!?」
「いやホント、分かるってばよ」
「最終的に一番カウンセリング必要そうな人にだけマジレスした人が出てきた!?」
「……意外とジャンプとか読むんだ」
「なっ!?わ、私だって漫画くらい──!」
ボッと顔を赤らめ言い訳をしようとする木知原さん。別に恥ずかしがることでもないと思うけど。今もただ思ったより読み込んでそうなツッコミで面食らってしまっただけだし。
「と、というか!共感の球数なくなるの早すぎじゃないですか!?雑共感するにしてはレパートリーが少なすぎですよ!」
「ぐっ……!」
誤魔化すように吐き出されたセリフのクセに痛いところをつくじゃないか。確かに、言われた通り全然いい感じの受け流し文句が思い浮かばなかった。いくつか定型文は用意していたんだがそれも早々に尽きたし。
「もう少しインプットを増やすべきか……」
「今その話どうでもいいんですけど!?なに深刻な表情してるんですか!」
「でもなぁ、新作とか腰重いんだよなぁ……」
「そうですか。ではその足腰切り落とすのでそのまま一生座っててください」
「ねね木知原さん。断定はやめようか」
せめて脅しであってほしい。これって一番怖い文法の使い方じゃないか?
というか人ってあんなに澄んだ目と声で危害を加える宣言ができるんだな。
「まったく、とりあえず一発入れたから話を元に戻しますよ?」
「……ふぁい」
前言撤回だ。過去形が一番怖い。
☆
正直な話、全然気が進まない。誰が好き好んで野郎の後をつけたいっていうんだ。当然僕にそんな趣味はないし、木知原さんのイメージ払拭と言っても、おそらく僕の中の彼女の方が基羽の中の彼女よりも汚れている。これで一体何を拭えばいいっていうんだ。汚れた手拭いで花瓶を拭いても汚れるだけなのだ。
まあ、だからといって逃げ出すことはできないんだけどさ。
『次は簀巻きにして怪異魂魄の前に投げ捨てちゃいますよっ』
僕を送り出すとき、当然のようにそう告げた木知原さん。その弾んだ声とは裏腹に、彼女の目にはマジにやる凄味が滲んでいた。
ああ、神よ。僕がいったい何をしたと言うんですか。僕はただ、困っていた木知原さんに手を差し伸べ、思ったより危なそうだったから握り返された手を振り払おうとしただけなのに。
まったく、自身の不幸加減に涙が出る。
「せ、先輩っ付き合ってください!」
「え?今日?なんか特売とかあるのか?」
「え!?ち、ちがっ──先輩のバカー!!」
「ぶっふぁ!?」
そして、ヤツの存在には反吐が出る。
目の前を走り去る少女、殴られて壁にめり込んだボケナス。どの作品が初出が分からないのに既視感しかない光景を目の前で延々見させられる、これって拷問に使えたりしないだろうか。
「いてて……な、なんだったんだいったい──って、双葉?」
と、しまった。あまりの苦痛に身を隠すことを忘れてしまった。しかたない。ここはさりげなく、偶然通りかかった感じで話を進めるとしよう。
「
「どういうこと!?なんでいきなり罵倒されたの!?」
しまった、体が勝手に。
「ごめん間違えた。とりあえず死んでほしかったからつい」
「謝罪したうえで死んで欲しいは否定しないのかよ!?」
「で、何やってんのこんなとこで」
「で、で済ませた!俺の大事な生死!」
ちょっと前までコイツに待ち構える未来に同情を覚えてた自分に教えてあげたい。そんなの毛ほども、微塵も必要ないってことを。
「まったく、本当に見る目がないな僕ってやつは……」
「……よく分からんがすごくバカにしてないか?」
「違うよ。僕はただ、純粋になんでこんなのと友人やれてるんだろうって」
「俺の台詞だろソレ。後輩からの物理攻撃の直後に友人の精神攻撃ってどんな罰当たりなことしたの俺?」
「据え膳食わない、というか据え膳の前でピザデリバリーしたような感じかな」
「サイコパスじゃねえか!」
自己分析が正確にできているようで何よりだ。
「てか、なんでソレが俺に──って、据え膳?あ、そういう事!?」
「えっ」
急に自分の中で話が繋がったかのように表情が明るくなる基羽。次いでその表情はニヤニヤと僕をバカにしたような風に変化する。
困った。今度はそのスピードに僕がついていけてない。まさか今の一言でこの男が恋愛とかその次元に辿り着ける筈がないし、コイツいったいどこ行きの列車に乗車したんだろうか。
「何だよ双葉〜!さっきのあれ見て告白だと思っちゃった感じ〜?初心だねもう!」
「同じ列車だ!?」
「え、なに、列車?どゆこと?」
ば、バカな!この17年間、圧倒的鈍感という呪いをかけられていた男があんな比喩表現ごときでトゥルーエンド行きの列車に乗れるというのか!?じゃあ今までの何だったのってなるよ!わざと?わざとやってたってこと!?どうしよう田辺くん!その場合コイツぶっ殺しても罪に問われないよね流石に!
お、落ちつけ僕。取り乱すな。まずは確認を取ろう。きっと僕が勘違いしているだけだ。そうだよ。早合点は僕の悪い癖だ。それで木知原さんという大きな負債を抱えたのを忘れたか。
「いや〜、にしても双葉。お前って意外と純情なんだな!」
「……え?」
「なんでもすぐ色恋に発展させようとして……もしかして思春期?」
「ははは、確か体育倉庫に太めの縄があったはずだよね?」
「照れんなって!俺もその時代あったし!」
どうしよう。もう確認とかそういうの抜きにしてコイツの息の根を止めてやりたい気分だ。
「だけど双葉、冷静になってくれよ。普通こんな廊下の真ん中で告白されるわけないだろ」
「……?」
……。…………。………………。
「……確認なんだけど、彼女にはつきあってって言われたんだよね?」
「え?あーまあ、そうだな」
「その時の表情ってどんなだった?」
「えぇ?えっと……息はあがってたろ?顔もちょっと赤らんでたか?」
「そうなんだ。つまりどういう意味なんだろうね?」
「多分時間ギリギリのセールのために走って人材確保だな。家計が厳しいらしくて、毎日頑張ってるんだあの子」
「なるほどね……基羽。最後に忠告なんだけど」
「なんだ?」
「──クスリとかは、やめたほうがいい」
「やってないが!?というかせめてソコも確認しろ!」
おかしい。どうやら視覚に異常はないし認知力にもおかしくない。今話している限り悪いところはなさそうだけど、それじゃあどうしてこんな無残な姿をさらしているんだろう。そういう物騒なモノをキメているわけでもないとなると、いよいよ以て迷宮入りだ。
「いったい、何が悪いって言うんだ……?」
「な、なんでどこかに異常がある前提で進んでるんだ……」
「いや、だって冷静に考えたらもっと結論は単純に……あ、そうか頭が悪いのか!」
「失礼だぞ!!!!!!」
「うわビックリした。怒りすぎでしょ」
「お前はゲロに汚いって言われて怒らないのか!!」
その発言は僕に対して失礼だとは感じないんだろうか。
「というか!この際言うけど俺だって最初は告白かと思ってたよ!」
「今それよりも話し合いたいことあるんだけど。主に僕の評価とかその辺」
内容によってはこの男をゲロより汚い存在に変える必要がでてくる。
「でも違うから!前にあの子に付き合ってって言われてOK出したらスーパー着いたからな!」
「だからもういいって基羽の恋愛事情なんて……???」
そろそろ強制的に口をふさいでやろうかと動き出そうとした瞬間、なんだか違和感の残るフレーズが飛び込んできた。最近こんなのばっかだな。
基羽といい木知原さんといい、ここぞのタイミングで変なこと言うのはなんなんだ。主要キャラの嗜みか?
正直な話、僕は最近彼らのどちらかが主人公で確定してもいいんじゃないかと思っている。だって変なこと起きるし、因果がどうとか言われてるし。
制服の汚れを手でパッパと払いながらそんな愚痴を吐く基羽。長らく僕が主人公第1候補として捕捉してきたまるで運命に愛されたかのような男。
その鈍感さ、正義感、明るい性格からはじまり、幼稚園での出来事のような特別な出会い。主人公の候補として申し分ないほどの逸材。
だけど、僕はどこかコイツを信じられないままここまで来てしまっていた。もちろんそれにはいくつか理由はあるけど、ここで一つ挙げるとするなら……
「今回で5回目だぜ?いつもと同じ対応したのになんでこんな目に遭ったんだ俺……」
こういうとこだ。
「……一応聞くよ。彼女と関わりはあったの?」
「いいや。ホントに人手が足りない時に偶然通りかかったから声をかけたらしい」
「4回とも?」
「3回目からはもう呼びに来た。ホントさ、木知原もだけど俺の知り合う女みんなヤバいんだけど」
…………。……クソ編集!!
もうさ、なんで素直に信じさせてくれないの?なんでいつもちょっとだけズレてるの?なんで告白じゃなかったパターン経験してんだよコイツ!意味わかんねーよじゃあ納得だよさっきのも!至って普通の結論だよ主人公力落ちてんだよお前!!
木知原さんとの件もそうだよ、なに当たり屋って普通にぶつかっとけよおとなしく!明らかに主人公案件じゃんそんなの。王道ラブコメじゃん。なのになんでチャリ乗ってんの?なんで警察呼ばれてんの?なんで学校案内しないの?なんでバトルモノの余地があるの!?
もうわっかんねえよ!コイツホントに主人公なの?コイツから能力の片鱗感じたことないんだけど僕。つーかそもそも因果ってなんなんだよ。原作キャラは強いとかそんなのでホントにあってるのアレ。
それに加えて、田辺くんのせいでコイツが原作に登場したことだけは確定してるのもたちが悪い。流石にないとは思うがもしかしたらその回限りのモブの可能性もゼロじゃない。なんてったって過去編らしいし。
「くそぅ原作キャラめ……!」
「なんかまたいつものはじまったし。時々あるけど話してる相手そっちのけでトリップすんのやめてくんねぇかな……」
そ、そっちのけだって!?言うに事欠いてこの野郎!誰のせいでこうなってると思ってるんだ!自分の業を理解していないゴミクソ野郎に、ここはガツンと一発言ってやらなければ!
「僕はお前で頭がいっぱいだよ!」
(((ざわざわざわっ……!)))
そう発するや否や途端に僕らに集中する視線。ヒソヒソとした話し声が重なり合ってもはや喧騒に近いレベルで周囲がざわつく。
あったまっていた脳が一瞬にして冷却されていくのを感じる。それと同時に脳が危険を知らせる警鐘をガンガンと鳴らしだす。
コレはいけない。もしかしたら僕は今とんでもない地雷を踏み抜いてしまったのかもしれない。
「なぁ、双葉」
「な、なにかな基羽……」
そんな空気の中、先ほどまでと打って変わって重苦しい雰囲気でそう口を開いた基羽。俯いていて顔は見えないが、なぜだろう。背筋を嫌な汗がつたっている。
「右と左、どっちの奥歯か選べ」
「この場合僕に怒るのは違うだろ!!」
「お前以外誰にキレるんだバカっ何してくれてんだマジで!!」
「なにが!?つーか何でこんな時だけ察するの!?」
いつもの鈍感クソ野郎はどこに行ったんだ!そもそもおかしいだろ!!さっきの女の子の告白モドキはまるで関心を持たれていなかったのに、どうなってんだこの学校の奴らの脳!!!
「この鈍感!こうなるの分かるだろ!なんのためのアニメ脳だよ!」
「少なくともこういうときの為じゃねぇよ!!!」
とりあえず脱兎のごとく逃げ出した。
☆
ところかわって翌日。
「何してるんですか?」
「いや、あの……」
眼前にはどこか既視感のある光景。それもそうだ。つい昨日見た景色そのままだもん。
目の前にいるのは木知原さん。その手にはやはり丸まった紙切れが収められている。昨日と違うのはその紙切れの内容くらいだろうか。
「確認ですけど、私ってなんて言いましたっけ?」
「えっと、木知原さんと基羽の仲を取り持てと」
「そうです。よかった、まさか違うこと言ってたのかと自分の記憶が不安になってました」
「そ、そっか」
「はい、そうなんです」
アハハ、ハハハ……
互いの笑い声が空間に響く。そして少しして訪れる沈黙。僕はおとなしく正座した。
「じゃ、説明してくれますよね?」
姿勢を正した僕を見下ろしにっこりと微笑んだまま、その手に持った紙を僕に向ける木知原さん。突き出された紙切れにはデカデカとこう書かれている。
学園1の色男!視線の先にはまさかの幼馴染!?
世も末だろう。
ストーリーまだ思いつかない
感想、評価、ここすきが燃料です。本当です