どう考えても原作あるタイプの世界観に全力で溶け込みに行くヤツ   作:くろうーろんちゃ560

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オイ…なんで…2025が…終わってる…

バカみたいに長くなった割に話は特に進まない。おしまい


6% 物語に必要なのは思い切りとスピード

学園1の色男!視線の先にはまさかの幼馴染!?

 

「説明、してくれますよね?」

 

 木知原さんから突き出された紙切れに書いてある世迷い言とも言えない怪文。改めて僕なりに深く吟味した結果、次の方針は案外すんなりと定まった。

 

「うん、新聞部の部室は別棟の2階だけど、焼きうつ?」

「あれぇ思ってた回答と全然ちがうっ!?」

 

 想定と違ったらしく驚いた声を上げる木知原さん。困った、それじゃ彼女がなにを想定していたのか僕には皆目見当もつかない。

 

「私は!なぜ仲を取り持ちに行った人がスキャンダルを起こしているのかを聞いているんですっ!」

「流石に僕も理解できないことを説明はできないよ」

「渦中の人物ですよね!?」

「本人だからって全部分かると思うなよ!」

 

 僕だって誰かに教えてほしい!確かに、今思い返せば我ながら良くないことを口走った。もっと言いようがあったんじゃないかと思う。だけど、それはそうとしていったい何がどうなってこんなクソみたいな見出しの校内新聞が発行されることになった!?

 

「というか!木知原さんが当たり屋なんてするから!」

「へっ!?か、関係なくないですかそれは!」

「あるよ!ソレがなきゃ仲を取り持つ必要がなかった!」

「責任転嫁ですそれは!私のと羽有くんのボーイズラブは別軸の問題だもん!」

「僕は年上の内気で笑顔が可愛い娘が好みだっ!」

「じゃあどういうことですかこの見出しは!」

「僕が知りたいよ!この学校はどうなってる!?」

 

 二人きりの時にふざけたときに軽くあしらってくれたりしたら尚良しだ。だから僕は決してボーイズラブなんかしない。決してだ!

 

「くそぅ……!かくなるうえは木知原さん当たり屋騒動を垂れ込んで上書きするしか……!」

「ソレやったら全身の関節全部逆向きにしますからね」

「冗談じゃないすかもーっ!あっ自分足とか舐めましょうか?」

 

 これは余談だが、人間の関節は平均して260程度らしい。

 相手は魔法のステッキ相手に折ったり捨てたりした実績のある女。僕には彼女の発言を冗談と捉えることができなかった。

 

「……でも実際よくわかんないんだよね。いやホントに」

「そんなわけないでしょう。何の理由もなくこんな奇怪な記事が発行されることにとでも?」

 

 まるで幼子を諭すような声色。おかしい。僕らは同じ気持ちのハズなのに、なぜ立場がここまで違うのだろうか。なんて、そんな僕の不満が顔に表れていたのだろう。木知原さんはムッとした顔で嗜めるように言葉を続けた。

 

「いいですか羽有くん。羽有くんは自分が思っているよりもおバカです」

「なるほど。確認だけど、手は出してもいいんだっけ?」

 

 発言には気をつけて欲しい。僕は老若男女平等に売られたケンカは買うタイプだ。

 

「そして羽有くんは問題を悪化させることに関しては他の追随を許さないタイプと見ました」

「心外だな人を問題児みたいに!」

「みたいではなくそうだと言っています」

「どの口が!?」

 

 とてもではないが転入初日に警察のお世話になりかけた人のセリフとは思えない!鏡とか見たことないんだろうか!

 

「ですから、何があったのか説明してください。私が判断します」

「くそっダブルチェックは常套手段のはずなのに、判断する側がされる側よりバカな場合を考慮できていないっ!」

「そういえば殴り合いがご所望でしたね。是非やりましょうか」

 

 だ、だけどまあいいっ!木知原さんも話を聞けば僕に非がないことが分かるはず!オラっ拝聴しろっ!

 

 

 

「うそ……!思ってたよりっ意味分かんない……っ!」

 

 説明後、開口一番の木知原さんの台詞である。頭を抱え深刻そうな様子、これで僕らは心身ともに同じ気持ちだな。

 

「分かんない……なんで告白キャンセルされてるの?なんで5回目なの?なんで後輩とのラブコメよりボーイズラブが優先されてるの……っ!」

「あの、さっきからボーイズラブってやめてくれない?地味にずっと吐き気してて」

 

 どうやら自分が思っていたよりもダメージを受けているらしい。何が怖いって、ワンチャン原作キャラとの絡みで修整力が働きかねないところだ。消される理由がカップリングって流石に死んでも死にきれない。まだ見ぬヒロインの名前を叫んで車にひかれた田辺くんよりも間抜けな消え方なんて流石に不名誉にも程がある。決して許されていいことではないハズだ。

 

「ま、まあ!コレで僕に非がないことが判明したよね」

 

 とりあえず依然頭を抱えたままの木知原さんを無理矢理復旧させるべく声をかける。今は今後の方針を話し合うことが先だ。

 

「む、むぅ……確かに、今の話では羽有くんの落ち度はそんなになかったような……。私との仲を取り持つ方向の言及が一切なかったこととか、一番最後の発言のせいでこうなっているのでは等言いたいことはありますが──」

「木知原さん!とりあえず今後の方針についてまとめよう!」

 

 混乱しているらしいが思っていたよりしっかり頭は働いているらしい。これは分が悪い、早急に話題を変えなければ。

 

「そうですね。とりあえず、羽有くん単体で任せると話が拗れるというのは火を見るより明らかですし」

「そうだね。かといって木知原さん一人に任せるなんて犯罪教唆も同然だし」

「……ふふっ」

「そもそも、記事を解決しないと計画も進められないよ。周りが騒がしくってそれどころじゃなくなっちゃう」

「確かに、たとえ羽有くんが見向きもされなくても、樽見くんは違いますからね」

「感謝してね木知原さん。僕まで人気者だったら木知原さんは話す相手もろくにいなくて愛想笑いするだけになってたんだよ」

「あのっちょっとは悔しがって欲しいんですけど!私イヤミ言ってます!!」

 

 あとそんなことないです!友達できますから!なんて必死に声を上げ抗議している木知原さん。残念だったね。僕は自分が注目されないことを悔しくなんて思っていないのだ。だって、そういうのっていかにも消されるフラグだし。確かに僕はネームドキャラにはなりたいけど、それは主要キャラとかじゃない。ネームドキャラはあくまでネームドキャラだ。『こんなヤツいたな』と認識される程度の存在になれれば、例え多少の原作改変を起こしたとしても修整にビクビク怯えず自由に生きることができるはずなんだ。

 

 あとはそうだな、頑張って考えた嫌味よりも木知原さんが会話の中で何気なく選択した言葉のほうが鋭利だという元も子もない事実は伏せておいたほうが彼女のためだろう。

 

「も、もうっいいです!切り替えますよ羽有くんっ」

「僕はわりとずっと切り替わってたりするよ」

「なにか言いましたかっ」

「…………」

「あ、あの、急に天を仰ぐのやめてほしいんですけど……」

 

 ……!危ない。あまりの破壊力に思考が遮断されていた。

 

 オイ、ちょっと待ってくれ。なんだこの人可愛いぞ?とても初手当たり屋をした少女とは思えないんだけど?なに?焦る、というか思い通りにならなさすぎると軽く退行してワガママっぽくなるの?

 くっ、やるじゃないか推定原作キャラ、やるじゃないか原作者っ……!最近はクソみたいな設定とテンプレもどきの駄作だとばかり思ってたが、キャラ設計はそこそこ出来ると認識を改めてやる……!

 

「と、とにかく!まずは記事の対処というのは私も賛成ですっ」

 

 原作評価の上方修正を脳内で行っているところにパンッという破裂音が耳に届く。見れば、手を叩いて空気を切り替えるように声を張り上げる木知原さんの姿が。

 

 どうやら当面の目的は記事への対処で固まったと考えていいらしい。となれば、まだ転入したてで知識に疎い彼女にするべきことは自ずと定まるというもの。つまるところ、情報提供だ。

 

「その紙切れは新聞部が発行してる校内新聞だね。学校のゴシップを面白おかしくまとめて出してるんだ」

「あ、一番最初に言っていた……」

「そ。毎月月末に出してるんだけど、特に今回は4月末。木知原さんはもちろん新入生もはじめて見るし、1年を通して最も注目される時期ってわけ」

「だから渡してくれた人はやたら張り切ってたんですね」

 

 転入したてで学校について知識が浅い木知原さんに必要であろう情報を落としてく作業。これがやっていて結構面白い。

 

 このラブコメとかでいる情報屋みたいな立ち位置、まるで原作キャラをお助けするサブキャラじゃないか。このままうまくアシストして原作に沿わせる、もしかしてコレが僕のやりたかったことなんじゃないか?

 ……いや、まずそのための原作が分かんないんだけど。……というかそもそも発端が僕と基羽のスクープとかいうおおよそ間違いなく原作にない事件だし。だって僕原作にいないからね。やってることほとんど夢女子だからねコレ。

 

「えぇ……?なんで急に泣き出したんですか……」

「現実が……っ!こんなにも厳しい……!!」

「今の会話のどこで何を感じ取って……!?」

 

 せっかく波に乗ってきたようなトコロだったのに、ちょっと深掘りしてみたらこのザマだ。それもこれも全て新聞部とかいう悪徳集団が原因だ。必ず報いを与えなくては。

 

「新入生に向けてインパクトのある内容の記事をまとめる……注目されることになにか利点とかはあるのでしょうか?」

 

 考え込むように思考に耽る木知原さん。注目を集めたい理由なんて、考えればひとつしかないと思うけど。

 

「分かりやすいのは承認欲求だよね。面白い内容で注目を集めて自己肯定感を高めたい、みたいな。自分の実力では人に認められないから他人を使って人気者の雰囲気だけ味わう。ソレで満たされる承認欲求ってどれだけ薄っぺらいんだって話だけどさ」

「信じられないくらい私怨混じってる!流石に思考が露悪的すぎますよ!」

 

 当たり前だ。冷静に考えると他にも理由はいくつか考えられそうだけど、そんなことは知ったことではない。新聞部、奴らは敵だ。

 

「でも、承認欲求ですか……。では、新聞部の方々はみんなTwitterで万バズツイートしているような輩だと考えても?」

「待って木知原さん今どういう要約したの!?誰も言ってないよそんなこと!?」

 

 定期的に木知原さんの敬語というオブラートからはみ出してくる危険区域。僕はいつか彼女からソレが解き放たれる日を思うと今から心配で震えが止まらない。

 

「ま、まあ、この時期なら新入部員の獲得とか、部費の増加とかも理由になりそう」

「新入部員に部費、ですか?」

 

 木知原さんが余計なことを口走る前に急いで別の話題へと移す。どうして僕は自分の敵のフォローなんてさせられているんだろう。僕の中の新聞部嫌いメーターがまた一つ上がった。

 

「うちの高校は部活の選択って5月末になるんだ。で、部費に関しては部員の数とか活動成果とかが考慮されるって感じ」

「5月末ですか。ちょっと遅くないですか?」

「そこはほら、*1T.E.Mの影響だね。うちの高校ってちょっと変わってるから」

「……そういえば、色々あって忘れてましたけど私羽有くんに学校の紹介をしてもらってたんでした」

 

 言われてみればそうだった。僕がこんな事になってるのも、元はと言えば木知原さんに校舎案内をしたことが原因だ。つい先日のことなのに、10ヶ月くらい前の出来事のように感じるな。

 

「……よし!だいたい分かりました」

 

 情報提供すること数分。木知原さんの口からそんな台詞が飛び出した。そこそこな時間情報交換に時間を費やしたからな。もしここが原作シーンだったらいつまでこの展開やってんの?とかクレームが来てもおかしくない。冗長な展開は読者の反感を買うのだ。

 

「まず、新聞部は4月の校内新聞に力を入れたい。羽有くん、何故4月だけ特に力を入れるんでしたっけ?」

「新入生に活動を認知してもらう為だね」

 

 ついさっき僕が教えたんだけど、それを言ったところで探偵気分になっている木知原の耳には届かなそうだ。ここは大人しくワトソンを演じるとしよう。

 

「そうです。この高校は部活動選択が5月末と遅く設定してあります。そのため、4月の校内新聞で興味を持ってもらえれば新入部員の確保に繋がるというわけですね」

「そして、新入部員の確保はそのまま部費の増加に繋がる」

「だから、新聞部はどうにかして面白いネタを見つける必要があったんですね。そして、そういうネタに最適なのがゴシップです」

 

 ……うん。聞くかぎりおかしな点はない。さっきまで話していた事がうまく要約されていたし、ここまでは確定だと考えても良さそうだ。

 

 だけどひとつ、腑に落ちない事がある。

 

「だけどさ、勘違い告白ぶん殴られとかいう意味分かんないけど絶好のネタがあるのにわざわざ捏造記事なんか発行する意味ある?」

「ゴシップは使いたいけど、新入生をターゲットにしているのに当該の新入生の告白なんて記事にするのは外聞が悪いじゃないですか」

「あ、なるほど。それはそうだ」

 

 納得がいったぞ。だから後輩の告白失敗じゃなくてその後の僕が吊るし上げられたのか。許せるかはまた別だけど。

 

「そもそも、まだ入学して1ヶ月の女子の告白なんて取り上げたらその子の今後の生活が……えアイツ入学1ヶ月の女子に告られたの?」

「……あ」

 

 僕の言葉を反芻して、木知原さんの口からも小さく声が漏れた。

 

「え、じゃあなんですか。その子は1ヶ月で4回見ず知らずの男に告白キャンセルをしたと?」

「……週1でお買い物デート。うん!健全!」

「いえ、そもそも新学期は1日からじゃないですよね?」

「そ、そういえば第2週からでした……」

「じゃあ登校日数15日程度じゃないですか!」

「か、回数を重ねるごとに想いも重ねる。王道!」

「15日で5回って3日に1回以上ですよね!?ギュッとしたらもうおっきい1回ですよソレ!」

「僕に言われても……。というか4回の買い物で何したら惚れられるんだよ。なに?全部奢った?」

 

 もしくは全部の回でチンピラに絡まれたか。その場合もう基羽側がチンピラを雇ったとしか考えられない。

 

「……樽見基羽、やはり恐ろしい因果の持ち主ですね」

「3日に1回知らない子の買い出しに行かされるのは因果として正しいの?」

 

 素人目線だが、罰ゲームでしかないと思う。

 

「ま、まあ今は新聞部です。冷静に考えると正気ではない後輩に気を取られている場合ではありません」

 

 ハッと気がついたかのように、少女は頭を振って話題をもとに戻した。それにしても、頭のネジがぶっ飛んでる木知原さんに正気ではないなんて言われるとは。あの後輩も不憫だなぁ。

 

「とりあえず、新聞部の行動理念は予想できました。次の問題は、内容の修整が可能かです」

 

 ピッと人差し指を立てて円を描くようにくるくると回すのは情報をまとめているときの癖だろうか。さっきからずっとグルグル回っている。授業中とかペン回し凄いやってそう。

 

「ベストは内容が誤りであると再発行してもらうことですが」

「無理だと思う。新入生募集のタイミングで誤報なんてイメージダウンでしかないし」

 

 頼んだところで門前払いが関の山だろう。

 

「現実的なラインで言うなら、よりインパクトのある記事に差し替えさせるとかかなぁ?記事をなかったことにできたらそれが一番だけど、流石に難しいか」

 

 もう発行されちゃったものは仕方がない。それこそ記憶を消すとかしか方法がないし。全校生徒をぶん殴って記憶飛ばすのは骨が折れそうだ。

 

「……いえ、そうでもありません!」

 

 叶いもしない妄想を膨らませてるところに、何か思い浮かんだのか興奮した様子で木知原さんがグイッと寄ってきた。

 

「確かに、配布されていれば記事をなかった事にすることは難しいです。でも、まだ今ならチャンスがあります!」

 

 配布されていればって。そんなまるで、まだ配布されてないみたいな言い方じゃないか。だけど、実際今手元にあるその紙切れが真実を雄弁に物語っている。

 

「コレ、渡してくれた人が『今日は先バレみたいな感じだけど、明日から本格的に配布する』と言ってました」

「そうなの!?」

 

 そういうのはもっと早く言ってほしい!てっきりもう取り返しつかないことになってると思ってたよ!というか先バレってなに!?そんなジャンプみたいな感じなの校内新聞って!?じゃあもういよいよTwitterの輩じゃねえか!!

 

「な、ならまだ致命的な拡散はされてないって考えていいのか……?」

「はい。おそらく大量の記事が未だ新聞部に保管されているはずです」

 

 そう言われれば、クソみたいな記事のせいで動揺していたが確かに僕はその記事をもらった記憶がない。それに、その内容が既に配布されていれば今日も教室にもっと人が集まっててもおかしくない。僕はもちろん、基羽だって注目を集める人物なのだから。

 

 でも、そうか。まだ配られてないのか。ふむふむ……それなら、やるべきことはひとつだな?

 

「新聞部は別棟の2階、でしたよね?」

「うん。場所は分かる?」

 

 視線が合い、僕の声に木知原さんが頷くのが見えた。別棟とかの場所が分かっているか不安だったが、愚問だったらしい。自信に満ちたその顔に、考えていることは同じだと確信した。

 

「私は火口を」

「じゃあ僕は鈍器だ」

 

(記事を)燃やして、(部員を)脅す。これが一番早いと思います。

 

 

 ☆

 

 

 新聞部、学園モノにはありがちな謎のテンプレ部活動である。なぜか情報通でクセのつよい美少女または美男子が必ず所属しており、校内新聞は学園にて絶大な影響力と人気を持つ。普通校内新聞って教師陣からのチェックとか入って堅苦しいものになると思うんだけど、そこはやはりサブカルチャー、無法である。

 

 とまあ、おそらく原作キャラたちがいるんだろうと予測していたりしていたわけなんだけど、僕は今までこの部活に関与してこなかった。だけど、それには理由があった。

 

 僕は、彼らの行動から他の原作キャラの動向を探ろうとしたのだ。彼らの記事というネタに登場する大バカども、その奇行が激しければ激しいほどその人物が原作キャラであるという確証に近づく。それに、間抜けな記事の頻度が増えることは原作が始まったことを知らせるベルにもなり得る。そんな理論的な推理に基づいた考察のうえで、敢えて関わってこなかったのだ。

 

 そんなわけで、僕は今まで彼ら新聞部の記事を面白おかしく拝見するだけの聴衆として生きてきていたんだけど、僕に被害を与えるなら話は別である。

 

 有象無象のイナゴどもめ。大人しく原作キャラたちの動向を追いかけていればいいものを。新聞部なんていう原作のなかでもサブのサブの分際でよく僕に楯突いてきたものだ。

 

「ここが新聞部ですか……」

 

 来たるべき敵に想いを馳せていると、背後からそんな声が。ここ最近で聞き馴染んだ声、木知原さんだ。どうやら無事に目的地にたどり着けたらしい。

 

「待ってたよ。準備の方は……バッチリみたいだね」

「はい。科学部の方が快く貸してくれました。そちらも?」

「うん。図書室にちょうどいいのが」

 

 声の方向を振り向くと、木知原さんがこちらに向かって歩いてくる。彼女の手には宣言したとおりライターが握られていた。そんな彼女の視線は僕の手元に集中している。どうやら僕の持ってきたこの【日本産魚類検索】が気になるらしい。

 

「図書委員の子に"一番分厚くて固いやつ"って聞いてみたらコレが渡されて」

「100%読まない人の本の借り方やめてくれます?というかよく見つかりましたねそんな古い本」

 

 正直、僕も聞いたときは結構時間がかかると思っていたんだけどわりとすんなりとコレが渡されて驚いた。渡すときに図書委員の子が"背表紙の角から"みたいなことを言っていたのだけ気になるけど。あれなんだったんだろう。

 

「でもほら、古そうな割にどのページも新品みたいじゃない?」

 

 ペラペラと木知原さんの前でページをめくってみせる。どのページも真っ白。誰かが読んだ形跡もなく、古い本にありがちな黄ばみだとかの跡は見られない。

 

「ホントですね。上下端の損傷が激しいので、てっきり古い本なのかと思っちゃいました」

「古い本ではあると思うよ。ただ、ページがまるで誰も読んでないみたいに新品同然なんだよね。その割になぜか上下端だけやけに丸まってるんだけど。ま、今回は特に関係ないか」

「……それもそうですね」

 

 そう。今回本の状態は関係ない。重要なのは分厚くて硬いこと。そしてこの【日本産魚類検索】はそれをバッチリと満たしていた。

 

「よし、とりあえず作戦の確認だけ」

「ノックしてとりあえず一撃。記事の場所を聞いて、抵抗するようならもう一撃。記事を抹消して内容を差し替えることを確約させた後、退出する前にダメ押しでもう一撃ですね」

「よし、バッチリ」

 

 個人的には記事を書いたやつには別途で用事があるんだけど、そこら辺はアドリブでいいや。

 

「じゃ、そろそろはじめ──」

「あれ、双葉に……木知原?こんなとこでなにしてんの?」

「「っ!?」」

 

 ま、まずい!誰だか分からないけど、こんなところで計画がバレちゃ元も子もない!とりあえず急いで誤魔化さないと!ダメそうなら息の根を止めないと!

 

 そんなことを考えながら慌てて声の方向に体を向ける。すると、そこに立っていたのは予想外の人物だった。

 

「樽見……基羽……っ!」

「え、なにその怨敵を見たみたいな反応」

 

 僕より先に呻くような声を上げる木知原さん。そう、僕らに声をかけてきたのは基羽だった。

 

「あー、気にしないで。この子頭おかしいんだ」

「羽有くん!?」

「いやソレは知ってんだけど」

「貴方も大概失礼ですね!?」

 

 とりあえず人気の少ない場所に移動するべく歩きながら会話をする。新聞部の前で騒ぎを起こすのは得策ではない。計画をすぐに実行できない以上、僕らはその場を離れる必要がある。

 それにしても、推定主人公と推定ヒロインの邂逅とケンカップルみたいなやりとり。まさかこんな形で成されるとは、これは原作に合流する日も近いかもしれない。

 

 ……いや待て?もしかして今のこれって原作展開だったりするのか?新聞部なんていういかにもな部活動に暫定ヒロインと主人公、これって滅茶苦茶ありそうじゃないか!?アニメとかで言えば5話くらい、世界観を出した後、いがみ合う2人は些細な事件からその蟠りを解消して……みたいな!みたいな!!

 

 ということは、だ!僕の使命はたったひとつ!怪異魂魄について共有できる程度まで2人の仲を取り持つこと!

 

「基羽ァ!」

「うわっなんだよ」

「木知原さんは本当は基羽に──もががっ!」

「待って待って待っておバカおバカおバカ!!!」

「ずっとなにしてんの?」

 

 今までの傾向からして、基羽には直球勝負が一番効く。ただでさえストレートを曲げて解釈する男だ。変に婉曲させたりしようものならもう取り返しがつかない。やつの目は常時パンチドランカー状態だと思ったほうがいいまである。

 

 というわけで僕の方から直接誤解なく伝えようとしたわけだけど、何故か僕は木知原さんに口を塞がれていた。

 

「ちょ、ちょっと待ってください!内緒話をしますっ!」

「いいけど、俺予定あるからもう行っていいか?というかなんで俺はついて来ちまったんだ今」

「いいわけあるか!お前がこちもがっ!」

「羽有くんはこっち!」

「……アイツらいつの間にあんな仲良くなったんだ?」

 

 木知原さんに引き摺られながら、基羽から少し離れた位置まで移動する。そしてそのまま、基羽には聞こえないように彼女は声を荒げた。

 

「なに考えてるの!?ホントなに考えてるの!?」

「なにって、仲を取り持つんでしょ?」

「まず新聞部という話だったでしょ!?」

「今がチャンスだと思って」

 

 せっかく2人が揃っているんだ。このチャンスを逃すわけにはいかない。

 

「とにかく!私が主導で話すから、羽有くんは補佐!!」

「僕がやったほうが確実だと思うけど」

「返事!!」

 

 半ば強引に話をつけられて、内緒話は終了した。敬語も取れるほど焦るようなことをするつもりはなかったんだけど、彼女の中の僕は一体どれほどの危険人物なんだろうか。

 

「お、お待たせしました!」

「いやそんな待ってないけど。もう大丈夫なのか?」

「うん。それにしても基羽。木知原さんが悪いね」

「羽有くんのせいですよね!?」

 

 元いた場所に戻ると、基羽はまだ律儀にそこに立っていた。色々と話をしたいところだけど、今は木知原さんから補佐と言われている以上黙っていたほうが賢明だろう。

 

「で、お前らいつからそんな仲良くなったんだ?」

 

 意外にも先に口を開いたのは基羽の方だった。

 だけど、考えてみればそれも当然。基羽からしたら僕らの関係は屋上での一件で止まったままなのだ。あれからそりゃもう濃い秘密を共有したりして打ち解けたわけだけど、今はまだその辺の説明はぼかしつつする必要がある。よし、ここは僕がうまく誤魔化そう。

 

「えっと、ぼ──」

「羽有くんは転入して間もない私のフォローをしてくれているんですよ。ね?」

「──あぁ、うん」

「へぇ、そうなのか。双葉がそういうの珍しいな」

「まあね。だけどこれもこ──」

「それが横倉先生に強制されちゃったんです。特別援助認定者だとかなんとかで。ね?」

「あのさ木知原さん。そこまで僕ってば信用できない?」

「はい」

 

 一切の濁りなく透き通った瞳に、迷いの見えない即答。どうやら友情を感じていたのは僕だけだったらしい。

 

「と、特別援助認定者ぁ!?」

「あーもうこっちはこっちでうるさいな!」

 

 悪意なく人を傷つける木知原さんの横で、いつものようにテンプレじみたリアクションを見せている基羽。こいつの相手をしながら木知原さんにも対応するのってもしかして無理なんじゃないか?ど、どうしよう。さっきまであんなに楽しかったのに、急に現実が見えてきたぞ?

 

「ま、マジか……。双葉、お前ついにそこまで……」

「えっと、私よく分からないんですが、特殊援助認定者っていったい……?」

「触れなくていいよ。僕はなかったことにしたんだソレ」

「コイツ現実認められなくなってる!?」

「あ、なんだか良くないってことだけは分かりました」

 

 あんなのはあの暴力教師のその場のノリの戯言だ。僕は決して認めないぞ。認めなければ現実は今に追いつくことはないんだ。

 

「木知原のために軽く説明すると、特殊援助認定者ってのは馴鹿(なれしか)高校にある特別な役職なんだよ」

「特別……T.E.M関連ですか?」

「大まかには。で、この特殊援助認定者は各教師につき一人指名できるらしいんだ」

 

 僕が自己暗示をかけている間に基羽は木知原さんに特殊援助認定者についての説明を行っていた。くそっ余計な真似を……!こんな説明省いてしまえばそのうち死に設定になるっていうのに……!

 

「でも、それじゃ凄いことなんじゃないですか?普通そういうのって優秀な人が選ばれますよね?」

 

 説明を聞いた木知原さんの素朴な疑問。

 確かに一見するとその通りな意見。だけど、普通じゃないのがこの馴鹿高校。伊達にサブカルチャー時空の学校を名乗っているわけではないのだ。

 

「普通は、な。実態は教師の雑用だとかT.E.Mの先行体験とかでほとんど罰ゲーム。誰も好んでやりたくないし、教師側も実質的な"お気に入り"扱いだ。そんなのキマりも悪いだろ?そんなわけで、実際のところ過去1度も施行されたことないお飾り役職だったりする」

 

 そう。特殊援助認定、それはこの高校が創立されて以降1度も認定のされていない幻の役職。最初は何となくで任命されていなかったのかもしれないけど、長年の時を経てその役職は一種の神格化が行われるまでに格を上げた。

 

「つまり、もしそんな役職が与えられるような事が起きれば。きっとソイツはよっぽどの逸材かよっぽどのカスのみ」

「あぁ、よっぽどのカスだったから……」

「おかしい!その断定はあまりに失礼だよ木知原さん!」

「間違いない。というか逸材とか言ったけど基本的にはこの高校の一番下、キングオブカスの代名詞が通説だ」

「違う!新技術を一番最初に使用することを任されるほど信頼と栄誉ある──」

「人間モルモットだ」

「基本的人権がないんですね……」

「君らの方がよっぽどカスだっ!!!」

 

 無抵抗の人間に対してここまで非人道的な行為、ハッキリ言って正気の沙汰とは思えない。

 

 あーもう!だから嫌だったんだよ特殊援助認定者なんて!なんだよ高校創立以来誰もいないって!こんなトンチキな高校のこんなトンチキな肩書どう考えても主人公の役職だろうがバカがよぉ!

 

 原作を知らない僕にとって、特殊援助認定者とは基羽が主人公じゃなかった場合この役職を押し付けられた人間こそ真の主人公だと分かる数少ない手がかりだった。それをあの脳筋教師、一時のノリでとんでもないことしてくれたものだ。

 それ以前に、そもそも僕はそこまで問題児ではないし。品行方正とまではいかずとも、素行不良ではないごく普通の一般生徒である。

 

「というか、僕の話はもういいだろ!もっと話すことあるよね!?」

 

 主に木知原さん!わざわざ人を補佐役に回させたんだから、しっかりとして欲しい!

 

「す、すみません。知らないことについ夢中になってしまって……」

「まったく、しっかりしてよねホント」

「俺も、双葉をコケにするのが楽しかったからつい……」

「そんな悪意に満ち溢れた"つい"があるか!」

「散々振り回されてるんだからたまにはいいだろ!」

「あ、私もそれで言うと同じなので謝罪取り消しとか可能ですか?」

「可能なわけないよね!?なに今のどういう理屈!?」

 

 仮に僕が彼らを振り回していたとしても同じくらい彼らは僕を振り回していると思うんだけど。あのくらい厚顔無恥になるとそういうことは脳をよぎったりもしないんだろうか。

 

「つーかずっと思ってたけど基羽ソレなに!?なんでずっとサラダ油持ってんの!?鉢合わせたときからずっと当たり前みたいにしてるけどどっから持ってきたのソレ!?」

 

 いつ切り込もうかとずっと迷っていたがこの勢いのついでもう触れておく。最初に声をかけられたときからずっと基羽の右手にはサラダ油が握られていた。

 あんまりにも自然体で会話しているものから屋上のラビーよろしく触れたら死ぬ案件かとも思ったけど、冷静に考えてサラダ油だ。そんなわけなかった。

 

「あーコレ?調理部から借りてきたんだよ。ちょっと次の予定に必要で」

「この別棟2階のどこでサラダ油が必要な予定が!?」

「えっと、調理室って確か新校舎側ですよね?こことは真逆では?」

 

 校舎案内の記憶が残っていたのか、確認するようにそう尋ねる木知原さん。

 彼女の記憶のとおり、調理室はこことは真逆の位置にある。ここから調理室に戻るならまだしも、調理室からここに来るのはハッキリ言って意味が分からない。

 

「そういうお前らも人のこと言えないだろ。なんだよその分厚い本は」

「言えるけど?分厚い本とサラダ油は同列にしてる?」

「双葉は本とか読まないだろ」

「アレ僕もしかして活字読めないと思われてる?」

「これは心底バカにされてますね……」

 

 正直こういうときの弁明でテストの点とかを挙げるやつはしっかりバカだと思ってるからあんまり言いたくないんだけど、僕は別にテストはそこそこ取れるタイプだ。カスだのクズだのの愚弄は万歩譲って許したとしても、真性のバカ扱いはまた別だろ。

 

 にしても、僕らの所持物に違和感を持たれないようにという咄嗟の返答だったけど、どうやらうまいこと誤魔化せたらしい。ついでに木知原さんに目線で合図を送る。視線が合い、意図が伝わったのか木知原さんは神妙な面持ちで頷く。なんとか上手に誤魔化してほしい。

 

「それに、木知原もなんかライター持ってるし。なんなら一番危険だろ」

 

 きた。想定通りだ。さあ、木知原さんの返答やいかに!

 

「いや、私は……うん。私は普通にタバコとか吸うので」

「「えっ」」

 

 心底思う。この人は本当はとんでも無いバカなんじゃないだろうか。

 

「あ、いや……そ、そうか!なら普通……普通だな!」

 

 見てほしい基羽のこの動揺っぷり。最終的に自分を無理矢理納得させてるじゃないか。どう考えても普通じゃなかったろ。

 

「えっと……なにか間違えちゃったかな……?」

「文字に起こしたら全部に赤修整入れられるくらいには」

「そんなに!?」

 

 少なくともコレで基羽との関係を修復しようと思っているなら正気ではないと言わざるを得ない。

 

 なんて言ってる場合ではない。ともかく、こうなったら作戦変更だ。とりあえず今すぐ誤解をとかなければ。

 

「基羽。実は僕らは新聞部を燃やしに来たんだ。この本とライターはそのために使うんだ」

「は……?」

「ちょおっ!?」

 

 木知原さんの動揺が聞こえてきたが放っておく。今の惨状を考えると、この際やろうとしてたことがバレてしまったほうがマシまである。

 

「なななななにいってるんですか羽有くんっ!?」

「いっそ全部バラしたほうが早いよ。それにもし騒ぎ立てるようならここで仕留めれば隠蔽できるし」

「オイ待てあんまり理解できてないけどまず当人の目の前で危害を加える意思を見せるな!?」

「ま、待って待ってっ待ってください!」

 

 少々手荒でも事を収めようと尽力している僕を止めるかの如く木知原さんが声を上げ、その顔をグイッと近くに寄せてきた。

 

「私、あんまり悪いイメージは持たれたくないんですけど!」

「凄いや。もしかして今までの記憶全部消えた?」

 

 いったいどの面下げてどの口が人にモノを言ってるんだろう。今からではどう転んでも無理だと思う。

 まあいい。さっさと話を進めるとしよう。

 

「木知原さんの印象はもう下がらないから大丈夫だよ」

「ひどい!?そ、そんなことないですっ!」

「はいはい。あとで聞くから、とりあえず基羽〆るよ」

 

 適当に流しつつ、基羽の意識を奪う方法を模索する。手っ取り早いのは撲殺か?幸い僕の手元にはちょうどいい鈍器(本)があるし、試しぶりにはちょうどいいか。

 

「ちょ、ちょちょちょ待てって!話聞けっ!!一緒!俺たち多分目的一緒だから!」

「はぁ?一緒って……」

 

 僕らの目的はいくつからあるけど、一緒となると基羽と木知原さんの交友関係の設立ではないだろうし。そうなると、残ってるのは──

 

「だから新聞部!俺の行く予定の場所も新聞部だって!」

「……えっと?」

 

 そう、新聞部だ。木知原さんの困惑した声をバックに情報をまとめる。確かにさっき軽く新聞部を燃やしに行くと伝えたけど、基羽の方はいったい新聞部になんの用があるというのか。

 

「いやだから、新聞部燃やすんだろ?俺も同じ。ホラこれ、サラダ油」

 

 そう言って基羽はその手に持つサラダ油を振った。

 サラダ油、確かに何かを燃やす時の燃料としては十分な代物だ。真逆の調理室からわざわざここまで持ってきたことも、目的地が新聞部であれば納得ができる。なるほど、だから目的が一緒……って──

 

「「えぇっ!?」」

「うわっ!?揃ってうるせえな!」

 

 思わず木知原と声が重なる。

 驚くのも無理はない。だって基羽の方も新聞部を焼き打つだなんて、ええ!?

 

「な、なぜっ……?」

「何故って、逆にお前はなんで燃やしに来たんだよ?」

「いや、僕はクソみたいな記事の報復で……」

「ソレ、お前の相手は誰だよ」

「は?そりゃ基羽……あ」

「そういうことだ」

 

 言われてようやく気がついた。僕がこの記事の存在を知っているように、同じ境遇の基羽も別ルートでコレに辿り着いていてもなんらおかしくはない。であれば当然、記事の抹消を図るのは当然のことだった。

 

「というか、俺からしたら木知原がいる方がよっぽど何故だけど」

「へぁっ!?」

 

 急に話題を振られたからか素っ頓狂な声を上げる木知原さん。

 た、確かに。僕ら当事者は別として、木知原さんは完全な部外者だ。ソレも転入早々の。基羽からしたら意味が分からないだろう。

 

「わ、私はほら、アレです!羽有くんにお世話になったので、恩返しといいますか……!」

 

 慌てながらも、なんとかそれっぽい話をでっち上げる木知原さん。いいぞ、さっきタバコがどうのとか言ってた人の嘘とは思えない。よし、僕もここで援護射撃だ!

 

「その記事について教えてくれたのが木知原さんなんだ。それで、僕が報復に出ようとしたら協力するって」

「い、いえ!協力といっても野蛮な方向ではなく!どちらかというと止めようとしていて!!」

 

 流れるような大法螺だった。さっきまで言い訳も辿々しかったクセに、いざ自己保身となると流暢に舌が回るものだ。僕の持っている本よりも厚い彼女の面の皮にはいっそ感心すら覚えてしまう。

 

 ただ、これなら説明としては申し分ないだろう。さて、基羽の反応はいかに。俯いてしまって表情は見えないが……?

 

「……木知原!」

「は、はいっ!?」

 

 バッと顔をあげ、木知原さんを呼ぶ基羽。そして、そんな基羽の声に驚いたかのように返事をする木知原さん。

 

「俺、誤解してたよ!出会って間もない友達の為にそこまでするなんて、木知原は凄いヤツだな!」

「えっ。あ、いや、その……えーと、はいっ!」

 

 実態は全力で自己保身に走っていた女だ。僕には先ほどの台詞から『恩返ししたいという理由で協力はするけど、責任は全部羽有くんに押し付ける』という意思のみがヒシヒシと伝わってきた。

 

「木知原はヤバい奴ではあるけど、俺仲良くできそうだな」

「あ、あはは……ありがとうございます……」

 

 ほら、今もよく見てほしい。『よく分からないけど、なんか好感触だから肯定しておこう』みたいな返事のしかただ。

 おそらく彼女は今、どの部分で好感触を得ているのかすら把握できていないだろう。

 

 友情大好き樽見基羽、多分だけど短い時間の中で得た友情を大切にしている(ようにみえた)のがお気に召したのだろう。図らずも木知原さんはジャックポットを引き当てたという──って、あれ?

 

「じゃあ──2人の仲を取り持つ……達成?」

 

よく分からないが……よし!完璧!作戦通り!!!

*1
4%参照。新技術試運転体制。現状死に設定。活躍の目処はない




サブタイトルは戒めか?
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