明日への扉   作:忘れ去られた夜明け

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最近寒くなったり熱くなったりめんどい


忘れられた片鱗

扉がゆっくりと開く音が、静寂の中でやけに大きく響く。中からは、ひんやりとした空気が流れ出し、私は思わず背を震わせた。

 

「こんなに冷たい空気、今まで感じたことがない…」

 

心の中で呟きながら、扉を少しだけ押し開ける。暗闇の中、先が見えづらい。しかし、ふと目を凝らすと、奥にかすかな光が見える。あの遺跡にしては珍しい、優しい光だった。

 

「何かが…違う。」

 

心の中で警鐘が鳴る。けれど、足はその光に引き寄せられるように動いていた。

 

一歩、また一歩と踏み出すたびに、足元に広がる不安が強くなる。暗闇の中に足を踏み入れた瞬間、まるで自分が見られているような感覚が走り、背筋がぞっとした。

 

でも、振り返っても、誰もいない。ただの静寂が広がっているだけだ。風も、鳥のさえずりも、何も聞こえない。ただ、耳に残るのは、私の息づかいと、足音だけ。

 

一度立ち止まり、深呼吸をする。冷たい空気を胸いっぱいに吸い込むが、その冷たさはどこか心まで凍らせるようで、すぐに吐き出した。

 

「気のせい、きっと。」

 

もう一度、そう自分に言い聞かせて、前へ進むことに決める。しかし、歩くたびに周囲の空気が重くなるような感覚がして、足元にひとしきり不安が募った。

 

目を凝らすと、目の前の床に、細かな砂粒が舞い上がるのが見えた。まるで誰かが通ったように、音もなく。思わず立ち止まり、胸が急に重くなる。

 

「これは…」

 

息を呑んで振り返る。暗闇の中で何も見えないはずなのに、なぜか視線が向かう先に、何かがいるような気がした。

 

その時、足音が鳴る。今度は、すぐ近くから、別の場所から響いてきた。

 

急に、心臓が跳ねる。動けない。冷や汗が背中を伝っていく。

 

目の前が一瞬真っ暗になり、心臓の鼓動だけがやけに耳に響いた。

 

その瞬間、再び目の前に光が現れる。ほんの少し、遺跡の奥の方から、淡い光が漏れている。その光に吸い寄せられるように、足が動いていく。

 

「……待って。」

 

本能的に感じる不安を無視して、私はその光に近づいていく。やがてその光の源にたどり着くと、驚くべきことが待っていた。

 

目の前には、古びた石の壁が一面に広がっている。そしてその壁の中に、何かが刻まれているのがわかる。

 

それは、ただの文字ではなく、奇妙な模様だった。どこかで見たことがあるような、古代の文字に似ている。

 

「あれ…?」

 

手が自然とその文字に向かって伸びる。

 

指が触れると、冷たい石の感触と共に、ふと振動を感じた。

 

その瞬間、足元が崩れ落ち、私は無意識にその場所から離れることもできなかった。足元が崩れる音が、あまりに静かな空間で耳に響き渡る。

 

そして、暗闇が私を包み込んでいった。

 

暗闇の中で何も見えない。ただ、自分の息遣いが響くのが異常に大きく感じられる。足元は不安定で、どこかへ転げ落ちそうな感覚が続く。

 

「ちょっと、何が起きてるの…?」

 

その声も、空気に飲み込まれたように静かだ。目を開けても、何も見えない。まるで、自分が完全に消えてしまったかのように、世界と切り離されたような感覚が広がる。

 

「大丈夫、何も起きてない。」

 

声に出してみることで、少しでも安心しようとした。しかし、そんな自分に呆れる気持ちが湧く。

 

「それにしても、どうしてここに…?」

 

手を伸ばし、何かを掴もうとするが、触れるものは何もない。足元が崩れる感覚が続き、深く息を吸ってみるが、やはり冷たく、息が詰まるようだった。

 

突然、足元のあたりで音がした。微かで、不確かだが、それがなぜか恐ろしいほど近く感じた。

 

「誰か…」

 

今度こそ、声を出してみたが、また静寂に飲み込まれた。恐怖が心に広がり、どうしても体が動かない。

 

ふと、微かな光を感じた。

 

それは、薄く、青白い光だった。目を凝らしても、その源は見えない。ただ、その光が存在することを確信できた。

 

ゆっくりと、その光に向かって足を踏み出す。

 

進むたびに、少しずつその光は強くなり、やがて自分の目の前に現れる。それは、今まで見たことがないような光景だった。

 

暗闇の中に浮かぶ、まるで幻想のような光の球体が浮かんでいた。その周りには、光が細かく散り、まるで生きているかのように、動き続けている。

 

「こんなの…」

 

言葉が出ない。恐怖と好奇心が交錯する中、私はその光の球体に近づいた。

 

それに触れようと手を伸ばした瞬間、光は一瞬で膨れ上がり、周囲の空間がゆらめいた。体が一瞬、引き寄せられる感覚がして、全身が震える。

 

その瞬間、視界が一気に広がると、目の前に広がるのは、見覚えのある風景だった。

 

遺跡の入り口。

 

「……どうして?」

 

目を凝らすと、遺跡の中にあるはずの、長い間忘れられていた空間が広がっている。今まで見たことのない部分が、まるでここに存在していたかのように現れていた。

 

その空間の中で、何かが動いている気配を感じる。すぐに動き出すことはできなかった。

 

だが、目の前に現れたのは、一人の少女だった。

 

その姿に、心臓が高鳴る。顔をよく見ると、見覚えがあるような気がした。

 

少女は私に向かって微笑んでいた。

 

その微笑みが、どこか懐かしく、そして怖いような気がした。

 

「――あなたも、来たのね。」

 

その言葉が、私の心の中で響くと同時に、少女の存在がますます鮮明に感じられるようになった。彼女の姿は、ただの幻影ではないような、確かな存在感を持っていた。

 

「だ、誰…?」

 

私は声を震わせながら、少女に問いかける。けれど彼女は微笑んだまま、無言で歩み寄ってきた。その歩みは、まるで時間が止まっているかのように、異常に静かだった。

 

「私を覚えている?」少女が突然、そんな質問をしてきた。その言葉に、私の胸が締めつけられるような感覚を覚えた。

 

覚えている…?

 

頭の中で、その言葉が何度も反響する。だが、思い出せない。記憶のどこにも、彼女に関するものは存在しない。なのに、なぜか懐かしさを感じてしまう。

 

「わからない…」私は小さく呟いた。

 

その言葉を聞いた少女は、少しだけ目を細め、悲しそうな表情を浮かべた。

 

「……そう。忘れてしまったのね。」

 

その瞬間、少女の周りの光が一層強くなり、私を包み込むような感覚が広がった。息をするのが辛くなるほど、空気が重く、緊張感が増していく。

 

「あなたが忘れたのは、私のせいじゃないわ。」

 

その言葉が、まるで私を試すように響いた。少女はその後、ゆっくりと振り返り、遺跡の奥へと足を進める。

 

「来て。私が教えてあげる。」

 

その一言が、私の足を動かさせた。無意識に彼女の後を追っていた。遺跡の中へ進むたび、周囲の光が次第に暗くなり、代わりに不穏な空気が漂っていく。ここは、確かに何か異常がある場所だと感じ始めていた。

 

「あの場所は、決して踏み込んではいけなかった場所だった。」

 

少女は振り返り、どこか遠くを見つめるように言った。その言葉には、何か深い意味が込められているようだったが、私はそれを聞き逃さなかった。

 

「それが、私がここに来た理由だ。」

 

私はその言葉の意味を理解しようとしたが、頭が混乱してきた。目の前の少女は、確かに見覚えがあるような気がするが、その記憶はどうしても思い出せない。

 

「どうして…私を呼んだの?」

 

自分でも気づかないうちに、その質問が口をついて出ていた。少女はしばらく黙っていたが、やがてその小さな声で答えた。

 

「あなたは、選ばれたのよ。」

 

その言葉に、胸が高鳴る。

 

選ばれた…?

 

その意味がよくわからないけれど、何かが胸の中で引っかかっている。ここで出会ったこの少女は、何かしらの運命に関わる存在なのだろうか?

 

「選ばれた…って、どういうこと?」

 

質問を重ねるが、少女は答えなかった。代わりに、さらに奥へと歩みを進める。私はそれを追うように歩きながら、心の中で何かを確かめるような感覚に囚われていた。

 

遺跡の奥深くに進むたび、空気はどんどん冷たく、重くなっていった。そこには、明らかに異質な力が満ちている。それが何なのか、私はまだ理解していない。

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