ゔっ。シュヴァルは背中に感じた衝撃に低い呻き声が漏れた。
痛みはないが思わず立ち止まってしまう程度の驚きがあり、しかしどこか力が抜けるような感覚もある。体は強張っているのに、反射的に溢れた声のおかげか呼吸だけは安定していた。
すまんなぁと、あまりすまなさそうな声が聞こえてくる。テツコだった。ミッションに同行すると、必ずといってもいいほどこういうことが起きる。
誤射である。
初めてそれを体験した時は、全く意味がわからなくて恐怖心さえ覚えた。なんというか、何かが体を通り抜けていく感覚だけがあったのだ。
しかし、痛みもなければ当然体に穴が空いているわけでもない。血すら出ていないし、エイミーからもバイタルは安定しているというお墨付きだった。心臓は恐ろしく早鐘を打っていたが。
フィムに本当に僕の体貫通してない? と泣きつく姿は面白さすらあった。
人ごとのように笑っていたテツコに、なに笑ってんのぉ! とシュヴァルは冗談抜きでちょっぴり泣き、フィムはおとうさんいいこいいこと頭を撫でた。
その時のことが毎回頭をよぎるので、シュヴァルはテツコとミッションに行く時は少し動きがぎこちない。シュヴァルだけの話でもないが。
平気な顔をしているのは、アインとフィムくらいのものである。フィムにいたっては吹っ飛ばされる時なんかは「うわ〜」とほんのり楽しそうだ。
ちなみに、アインはシンプルに慣れているから気にしていない。極東では日常茶飯事なのである。
「話を聞けば聞くほど、極東行くの怖くなってくるんだよね」
討伐したアラガミのコアを回収しながら、シュヴァルの脳内ですっかり魔境と変貌してしまった極東に遠い目を向ける。
アインが言った「灰域の終息には極東の力が必要不可欠」という話を疑っているわけではない。シュヴァルにはその辺の技術的な話は概要以外はさっぱりだからだ。
なんなら、日に日にテツコのヤバさを垣間見て、ついでにアインの意識できていなかったヤバさも理解して、必要だろうな、極東パワー。と以前より思うようになっている。
それはそれとして、怖いので行きたくないなというだけなのだ。四方八方から撃たれる想像に、ハウンドの鬼神の心はめげていた。
「俺は一日でも早く行きたいな! ペイラーさんと直接話してみたいし、コアエンゲージの時みたいにヒントになる論文山ほどありそう!」
テツコが来てから目に見えてハイテンションな日が増えたキースが、意気揚々と答える。技術フリークすぎて、誤射に対して感動すら覚えてしまうのでシュヴァルは参考にしていない。
なんなら今日もシュヴァルの誤射被害を見に来ているのだ。もはや敵である。
「何回見ても極東仕様の銃身パーツは殺意高いよね! 俺たちも扱えたらいいのにな〜」
「ぜったいやめて!」
叫ぶように拒否したシュヴァルに、キースは満面の笑みで真似したらAGEは死んじゃうよ〜と答えた。
シュヴァルは数拍考えて、青ざめた顔でほんとに僕の体に穴が開くってこと……? と言い、キースは全然違う! とこれまた楽しそうに返事をする。
識別機構ってのはいわば安全装置なんだと、自らの神機を銃形態に変えてキースは言った。
「俺たちAGEに投与されてる偏食因子はさ、正規のゴッドイーターに使用されるものより原始的なんだよね」
「そうなんだ」
「うん。だからAGEは、ゴッドイーターよりさらにアラガミに近い。そのおかげで灰域への耐性があったり、バーストアーツが使えたりと戦闘面で有利な点は多いんだけど、当然アラガミ化のリスクも高い。そこで安全装置が必要になってくるってわけ」
「話飛んだ?」
「要するに、銃身パーツみたいにオラクル細胞を貯蔵する機能には一定の制限つけないと溜め込んだオラクル細胞のせいでそのまま内側から喰われちゃうよってこと」
キース曰く、だから識別機構をつけておくということらしい。万が一にもゴッドイーターの──特にAGEの体に過剰なオラクル細胞を与えることのないように。
「じゃあ誤射されるほどに僕は死ぬ可能性が上がるってこと?!」
「そこは絶妙な調節が入ってて大丈夫なんだよね。いつもバイタルダメージは出てないでしょ?」
「ダメージないけど当たってるよ!」
「当たっててもダメージないのが重要なの!」
むしろ、現在欧州で主流となっているタイプは安全性に割きすぎておりコスパが悪いとまでキースは言った。
「リザーブ可能量の大幅な制限! デフォルトで識別機構搭載による威力減退! カスタムバレットの過剰使用によるオーバーヒート回避のためのコスト制限! 数え上げたらキリがない!」
「そんなに違うの?」
背中に穴が開く不安を我慢するほどの価値があるのか。と、嫌そうな顔を隠しもしないシュヴァルに天と地ほどの差があるよ! とキースは断言した。
そこにピピっとエイミーから通信が入る。どうやら大型種が接近しているらしく、余裕があれば討伐をとのことだった。
『ハンニバルが一体、十分ほどでエリア侵入する見込みです』
「ハンニバルか、ちょうどいいな」
今までシュヴァルとキースのやり取りを眺めていただけのテツコが、エイミーに了承の返事をする。
「相性がいいからな、二人はあの辺から見ててくれ」
極東の銃の真髄を見せてやろうと言って、テツコは侵入予想地点を見下ろせる高台へ移動した。シュヴァルとキースは、また別地点からそれを見守るように言われた。
ハンニバルが射程圏内に入った瞬間、パン、という射撃音と共に逆鱗が砕け、アラガミが地に伏せた。
パン、パン、と。リズミカルに発砲音だけが響き、その度に視認できるほどのオラクルが本体から分離していく。着弾点を中心に、波紋が広がるように細胞が散る。
ダウンから復帰してなお、正確に逆鱗だけを射抜く狙撃弾は、あっけないほど簡単にハンニバルの活動を停止させた。
『あ、アラガミの活動停止を確認……え、ええ……?』
『とまあ、上手くいけばこんなものだ。参考になったか?』
「いつも全然バレット使わないようにしてくれてたんだなってことはよくわかりました」
『いつもすまんな』
「ごめんなさい」
以降、シュヴァルはますますテツコとミッションに行きたがらなくなり、テツコもこれはダメだなと判断したため同時に出撃することは無くなった。
しばらくのちそれに気付いたアインは、ブラスト使われたらどうなるんだろうなと思うだけにして口に出すことはしなかった。謝るだけマシである、とは誰かと比べて言うことではないのである。
マジで最悪な感想なんですけど、3で誤射という概念が死んだのは銃身ナーフに対するヘイト調整だと思ってます。誤射が許されたのは銃が強かったから(暴言)。
スナイパーの弱点当たった時の丸エフェクトとか、特攻入ってる時の白エフェクトとかわかりやすくて大好きだったので復活してほしいですね。
ハンニバルにはアルバレスト、ピターにはシュヴァリエ。異論は認めます。