那美ちゃん主人公。
ゲームの流れを追いかけつつ、かなり捏造してるところが多いのでお気をつけください。
那美ちゃんが好きなんです。
※勝手な原作改変やちょう個人的解釈が混じっているのでご注意ください。
――あなたのせいではない。
皆からそう声をかけられた。
それが正しいのかは、私には分からなかった。だけれどもどこか納得できなかったのは
――じゃあ、誰のせいなの?
その問いに、誰も答えることが出来なかったからだ。
***
「こっちも久しぶりだなぁ」
きょろきょろと周囲を見て、記憶と照らし合わせながら歩いていく。
2年ぶりに歩く町は、変わっていないようでやはり変わっているところもあり、懐かしいような寂しいような。そんな複雑な心境になった。
「私も中学生、か」
なんだか不思議な心地だ。もっと幼い頃は中学校の制服を着た人たちを大人だと思って憧れの目で見ていたのに、いざ自分がその立場になってみると全然大人ではない。成長したのは身体だけな気がする。
(その体も……あんまり身長伸びてないし)
変化はあったが、一番欲しい身長に影響がないところに絶望している。
いやでもまだ中学で伸びるかもしれない、と希望は忘れない。
「……で、ここを曲がったら……うん! ここに合流ね。大丈夫そう」
頭の中の地図と、実際の地図が合致していることを確認して安堵する。来月の入学式も迷わずに行けるだろう。
などと安心したのがよくなかったのだろうか?
「ふざけんなよ、お前!」
「あの……その……すいません! よ、汚しちゃって」
荒々しい声と、哀れに震える声が聞こえた。
無視したほうが良いと頭では分かっていたものの、聞こえた以上は無視もできずにそちらを振り返る。
そこには声の通りの若い男性(高校生くらいだろうか?)と、自分と同じ年くらいのおさげ髪の女の子がいた。
高校生の服が汚れているのが見え、そして女の子が空のコップを手にしていることから状況は掴めた。女の子は本当に申し訳無さそうに「ごめんなさい」と謝っていて、小さな体を震わせている。
会話を少し聞いたが、やはりそういうことらしい。
たしかに女の子が悪いのかもしれないけれど、高校生の物言いは少々度が過ぎているし、しまいには女の子の手を掴み始めたので、とっさに体が動いてしまった。
「ちょっと! 止めてください」
女の子の手を掴む手を弾きながら間に入り込むと、相手が本当に大きく見えた。それでも負けじと睨みつける。
「なんだ、お前は! なんか文句あんのかよ?」
「やめてください! 彼女、謝っているじゃないですか」
「なんだとぉ! お前が代わりに弁償すんのかよ」
「ひとまず落ち着いてください。警察呼びますよ」
ポケットからスマホを取り出すと、高校生の顔が怒気で真っ赤になった。一歩前に迫ってくる。
と、
「ぐおっ!」
その時、何かが高校生の顔に当たった。何か――見間違いでなければ、テニスボールに見えた。
「え?」
「な、なんだっ?」
また飛んできたボールは見事に高校生に当たり、どこかへと戻っていく。ボールの方角を見ると、帽子を被った少年が見えた。
「てめぇ、何しやがんだ」
「サーブの練習」
テニスラケットを持った少年は、悪びれる様子なくそう言った。
「サ、サーブだぁっ? ふざけんな!
このガキ、痛い目に……ぐほおっ」
「痛い目にあいたくなかったらさっさと退くんだね……練習、続けるよ?」
少年はきれいなフォームでボールを打ち、高校生に当たったボールは彼の足元へと戻っていく。
(でもテニスを……テニスをこんなことに使うなんて……私は)
彼が自分たちを助けるためにしてくれているとは分かっている。
重いものが倒れる音。一瞬遅れて場に響いた悲鳴。
――あなたのせいよ!
――あなたのせいではない。
周囲からかけられた両極端な声。
それらすべては、今もなお鮮明に思い出せる。
「このくらいの球よけられないなんて、まだまだだね」
「く、くそっ! 覚えてやがれ!」
高校生が逃げていくのを見て、ハッとした。首を横に振る。今はそれどころじゃない。
女の子が長い三つ編みを揺らしながら頭を下げた。
「あの、ありがとうございます」
「別に。
目障りだっただけ」
「でもこの前の大会でも助けてもらったし」
「……そんなことあったっけ?」
「覚えて……ないの?」
二人は知り合い? なのか。そうじゃないのかよく分からない。
首を傾げていると、私の方を見た女の子は「あなたもありがとう」と笑いかけてくくれた。
「私は竜崎桜乃って言うの。あなたは?」
「え、と。私は小鷹那美。来月から青春学園1年」
「あっ! じゃあ一緒だね。私もそうなの。
本当に助けてくれてありがとう」
「私はべつに何もしてないし……」
助ける、というほどのことは出来ていない。助けたのは少年で……と、彼を見ると軽く眉を吊り上げられた。
「なに?」
「助けてくれたことにはお礼をいいます。ありがとう。
でも、せっかくそんなに上手なテニスをあんなふうに使うのはよくないと思います」
「えっ?
だ、だってそれは私達を……」
「うん。分かってる。でも、やっぱり私は」
テニスボールは固いとまでは言わないが、それでも決して柔らかいものではなく、凶器にもなり得るのだと……私はよく知っていた。
(あんなことがなければ、私は今も……)
手に痛みを感じて見れば、いつのまにか爪が刺さるほど握りしめていた。
「テニスやるんだ?」
「えっ?
あ、いえ、私は……」
「ま、余計なことだったみたいだね。
でも……もったいない。
そんなに好きならやった方がいいんじゃない? テニス……」
少年に言われて、一瞬呼吸の仕方を忘れたように「ひゅっ」という妙な吐息がこぼれてしまった。
(……私がテニスを好き? あの出来事が怖くて逃げ出したのに……)
どくんどくんと心臓がうるさく存在を主張した。
まるで――。
――あたり前のことだと、言うかのように。
(そう、だよね。嫌いになれていたならこんなにも、苦しむことはなかった。
私は今も……テニスが好きなんだ)
胸が苦しい。
何かが腹の底から沸き起こる。喜びか、怒りか、寂しさか、虚しさか、愛しさか……分からない何かが渦巻いて息がしにくい。
何か返事をしないといけないとそう思って口を開こうとしたものの、言葉が出てこず、代わりにまた拳を握りしめてしまった。
「また余計なお世話だよね。
じゃ」
「あ、待って! あなたの名前は?」
なんとか絞り出した声に、去ろうとしていた少年は振り返って
「越前リョーマ。青学1年」
淡々と答えた。
だから私はもう一度お礼を述べた。
「ありがとう、越前くん」
それは助けてくれたことだけではない。私に、テニスと向き合うきっかけをくれたのも含まれていた。
もちろん、わざわざそのことを口にはしないけれど、越前くんは何か感じたのか「……どういたしまして」と帽子のつばを掴んでから、今度こそ去っていった。
その後、私は竜崎さんと連絡先を交換してから家に帰った。
「本当に大丈夫なの?」
部屋の外から心配そうな母の声がした。それに「うん。ちょっと食欲がないだけだから」と返しながら、膝の上においたラケットを見つめた。
もう1年ほど触ることもしていなかったラケットを。
戸惑うように彷徨っていた母の気配が遠ざかっていったのを確認してから、深呼吸をする。
「私は……テニスが……」
好き。
声に出そうとして、最後の一言が喉の奥でつっかえて出てこない。
もう心は認めているのに、すぐに言葉には出せなかった。
ラケットを握りしめる。手が震えた。
「っはっ、ぁ」
息が乱れる。全身が情けなく震えている。
でも、ラケットから手を離したいのかと言うと、むしろ逆だった。
――もっと握りしめたい。振りたい。コートに立ちたい。
欲求が溢れてきた。感情が暴走して、今すぐにでもテニスコートに駆け込んでしまいそうな気分になる。
同時に、倒れ込む少女の姿と、救急車のサイレン、自分を睨む目を思い出す。忘れたくても忘れられない光景。
『そんなに好きならやった方がいいんじゃない? テニス』
気づくと涙がこぼれていた。
「うん……うん……私は、テニスが、好き」
一時はもうしたくない、見たくもないと逃げたテニス。それでも嫌いになれなかったテニス。それどころか好きがどんどん降り積もっていったテニス。
「す、き……好き」
一度言葉にしたら、体の震えが引いてきた。そう。たとえどんな事があっても、私はやはりテニスが好きだ。
それを痛感した日だった。
【あとがき】
なぜかふいにS&Tの小鷹那美ちゃんの話が書きたくなって衝動書き……私もよくわからないんですが、不定期(数年おき)でS&Tブーム来るんですよね。
原作ではトラウマについてすごくあっさりしてたので、深く悩んでもらいました。
私は2の巴ちゃんも好きなんですが、那美ちゃんが好きすぎるので……。
ゲームでは次の日が入学式ですがこの話では一週間以上の間があって、その間に気持ちを整理して入学→入部のつもり……いや、続き書くかはわかりませんけど。
→おまけ(リョーマ)
壁にあたったボールが跳ね返ってくるのを、また打ち返す。
いつもの日課。
なのに、なぜか気が焦る。
『ちょっと! 止めてください』
風が吹き、自分の隣を茶色が通り過ぎていく。
「っ!」
つい手の振りが甘くなって、ボールは足元を転がった。
昼間の出来事が頭をよぎる。
別に、深い理由はなかった。ただ眼の前で起きていることが不快だった。それだけなのに。
体を震わせながらも割って入って、毅然と顔を上げていた姿に一瞬動きを止めてしまった。
『助けてくれたことにはお礼をいいます。ありがとう。
でも、せっかくそんなに上手なテニスをあんなふうに使うのはよくないと思います』
丸い目で真っ直ぐにこちらを見ながら、その目の奥にどうしようもないほどの切望さが見えた。本当は欲しくてたまらないのに、必死に我慢しているかのような。
ボールを拾って、また壁に向かって……
『ありがとう、越前くん』
頭の中で響いた声に、フォームが崩れ、壁にあたったボールが明後日の方に飛んでいく。
余計なことをした自覚はあった。
会ったばかりの人間の、胸の内に入り込むようなことは言うべきではなかった。だからすぐに「余計なことだった」となかったことにしようとしたのに
お礼を言ってきた彼女の目には様々な感情が渦巻いて、水気を帯びたそこから涙がこぼれ落ちるのではないかと思った。
結局涙がこぼれることはなかったものの、気になってしまった。脳の中に、その表情が刻まれてしまった。
心が乱れて、このざまだ。
「……まだまだだね」
すっかり日が落ちた空を見上げて呟く。
呟きながら、彼女はどういう結論を出したのかと、やはりそんなことが頭をよぎった。