Re:ゼロカラアラガウ異形郷生活   作:カノンだよ

1 / 25
第一章『異形郷襲来』
プロローグ『始まりの予熱』


 ――これは本気でやばい。

 

 後頭部に感じる冷たい壁の感触。全身を支配する極限の痛みと熱。そして、宙に浮いたまま動かせない体。

 これらの情報から、自分は壁に貼り付けにされているのだと気づいた。

 

 全身の感覚は既にない。ただ、喉を掻きむしりたくなるほどの熱が体の真ん中を支配している。

 

 ――熱い、熱い、熱い、熱い、熱い、熱い、熱い。

 

 魔理沙がこちらを見て何かを叫び、咲夜とレミリアが必死に『それ』と戦っているのが見える。

 だが、頭から伝う赤い液体が目に入り込み、視界を阻まれた。途端にそれを手で拭い、ようやく自分の窮地を悟る。

 

 ――ああ、これ全部、俺の血かよ。

 

 自分の足元に血だまりが出来るほどの出血。人間の血の量は体全体の約8%。そのうちの三分の一が流れ出すと命に係わるという話だが――これはもう、全部出ているんじゃなかろうか。

 叫びをあげようとした瞬間、声より先に漏れたのはぬるりとした液体だ。鮮血ともまた異なる、無色透明で粘性のある液体。それが血と同様、自分の視界の上から伝ってきているという共通点に気づき、スバルは自身の脳天を触り、理解した。

 

 ――なんだ、頭に穴が開いてんのかよ。

 

 はりつけになっておきながら手も足も自由。ならどこを起点に固定されているのか謎だったが、頭の頂点に刺さった針が体をぶら下げているのなら納得だ。

 無色透明な液体は脳内を満たす、脊髄液だった訳である。

 

 理解した瞬間に急速に意識が遠のいていく。

 さっきまで無駄な抵抗を強要していた「熱」すらどこかへ消え去り、不快な血の感触も生きている実感も、全ては遠ざかる意識の付き添いとして連れていかれる。

 

 不思議と、恐怖心はわいてこなかった。

 ただ願ったのは――彼女が無事でありますように、ということだけ。

 

 そして、薄れゆく意識の中で、手をまっすぐ伸ばす。

 その先にいるのは、咲夜、レミリアと今なお戦い続けている敵対者。たとえそれが彼女じゃないのだとしても、これから死にゆくスバルにできるのは、彼女の幻影にすがる事だけだ。

 

 全ては偶然だったのだろう。

 

 最期の言葉を放つ直前、『異形』であるはずのそれが、こちらを見た気がした。『カチカチ』と、無機質な音を立てながら。

 

「……っていろ」

 

 遠ざかる意識の首根っこを引っ掴み、無理やりに振り向かせて時間を稼ぐ。

 『痛み』も『熱』もすべては遠く、無駄な足掻きの負け犬の遠吠えだ。

 

 

 だが、それでも――、

 

 

「俺が、必ず――」

 

 

 ――お前を、救って見せる。

 

 

 

 次の瞬間に彼――ナツキ・スバルは命を落とした。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。