プロローグ『始まりの予熱』
――これは本気でやばい。
後頭部に感じる冷たい壁の感触。全身を支配する極限の痛みと熱。そして、宙に浮いたまま動かせない体。
これらの情報から、自分は壁に貼り付けにされているのだと気づいた。
全身の感覚は既にない。ただ、喉を掻きむしりたくなるほどの熱が体の真ん中を支配している。
――熱い、熱い、熱い、熱い、熱い、熱い、熱い。
魔理沙がこちらを見て何かを叫び、咲夜とレミリアが必死に“それ”と戦っているのが見える。
だが、頭から伝う赤い液体が目に入り込み、視界を阻まれた。途端にそれを手で拭い、ようやく自分の窮地を悟る。
――ああ、これ全部、俺の血かよ。
自分の足元に血だまりが出来るほどの出血。人間の血の量は体全体の約8%。そのうちの三分の一が流れ出すと命に係わるという話だが――これはもう、全部出ているんじゃなかろうか。
叫びをあげようとした瞬間、声より先に漏れたのはぬるりとした液体だ。鮮血ともまた異なる、無色透明で粘性のある液体。それが血と同様、自分の視界の上から伝ってきているという共通点に気づき、スバルは自身の脳天を触り、理解した。
――なんだ、頭に穴が開いてんのかよ。
はりつけになっておきながら手も足も自由。ならどこを起点に固定されているのか謎だったが、頭の頂点に刺さった針が体をぶら下げているのなら納得だ。
無色透明な液体は脳内を満たす、脊髄液だった訳である。
理解した瞬間に急速に意識が遠のいていく。
さっきまで無駄な抵抗を強要していた「熱」すらどこかへ消え去り、不快な血の感触も生きている実感も、全ては遠ざかる意識の付き添いとして連れていかれる。
不思議と、恐怖心はわいてこなかった。
ただ願ったのは――彼女が無事でありますように、ということだけ。
そして、薄れゆく意識の中で、手をまっすぐ伸ばす。
その先にいるのは、咲夜、レミリアと今なお戦い続けている敵対者。たとえそれが彼女じゃないのだとしても、これから死にゆくスバルにできるのは、彼女の幻影にすがる事だけだ。
全ては偶然だったのだろう。
最期の言葉を放つ直前、“異形”であるはずのそれが、こちらを見た気がした。「カチカチ」と、無機質な音を立てながら。
「……っていろ」
遠ざかる意識の首根っこを引っ掴み、無理やりに振り向かせて時間を稼ぐ。
『痛み』も『熱』もすべては遠く、無駄な足掻きの負け犬の遠吠えだ。
だが、それでも――、
「俺が、必ず――」
――お前を、救って見せる。
次の瞬間に彼――ナツキ・スバルは命を落とした。
本作は『寿司勇者トロ』さん作の東方projectの二次創作、『東方異形郷』の世界に、リゼロの主人公、ナツキ・スバルがいたら?をテーマにしたクロスオーバー作品です。
もし、この作品を通じて興味を持っていただけましたら、『東方異形郷』及び『Re:ゼロから始める異世界生活』本編も見ていただけたらと思います。両方滅茶苦茶面白いので!!