Re:ゼロカラアラガウ異形郷生活   作:カノンだよ

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第二章8『U.N.オーエンは彼女なのか』

「魔理沙、咲夜……何、やってんの?」

 

「楽しいお茶会だよフランドール! お前も参加するかあっ!?」

 

両者の視線がぶつかり、甲高い嘲笑が森に木霊する。同時に一歩前へ出るのは、十六夜咲夜――否、彼女を象った異形だ。

 

「霧雨魔理沙様」

 

「またか……? また俺はあいつと戦わなきゃならぬのか?」

 

「申し訳ありません。ですが彼女は“地雷”になりうる存在。ここで確実にしとめる必要が」

 

「あいあい分かった。別にいいぞ負ける気しないし。さっさと帰ら」

 

簡潔なやり取りの後、異形の咲夜は無表情のまま頭を下げる。そして、

 

「――分かりました。それではご武運を」

 

カチリ――。

 

そういったのを最後に、音もなく姿を消した。

 

フランはその光景を眼前に、数度目を瞬かせる。

消えた。近くに気配も感じられない。移動の痕跡すら掴めないこの感じ、恐らく咲夜と同じ――『時間を操る程度の能力』。

やっぱりこいつらは唯の偽物じゃない。それを、理解した上で、

 

「まりさっ! さくやぁっ!!」

 

フランは躊躇なく、正面の魔理沙へと飛びかかった。

 

無警告に腹を貫かれた。その時点で既に、殺し合いは始まっている。

血管が浮き出すほどに力を込めた指先から、空気を裂く鋭い爪が閃く。一撃で魔理沙を屠って、そのまま逃げた咲夜を追い詰める。

頭の中で描いたプランと言えないプランをなぞるように、少女は疾駆した。

 

「ほい!」

 

「――っぐぅ!?」

 

直後、そんな掛け声とともに、フランの視界が予想外に揺れる。

 

吸血鬼の顔に真っすぐ投じられたのは、魔法使いの左腕だ。

そのまま腕を振り抜かれ、フランの体は勢いよく宙を舞う。地面に叩きつけられ、転がりながらも、地を抉るように腕を突き立て、勢いを殺した。

 

「ウウウウウウウウッ!!」

 

流れるように敵に向き直り、獣のような四つん這いの態勢で唸り声をあげる。

こちらの想定よりも数秒早く、届くはずのない間合いから飛んできた拳。その理由は、笑みを浮かべる魔理沙の腕を見れば明らかだった。

 

「教えてやろう。殺し合いってのはシビアなもので、一度油断すればあっさりと死んでしまうんだ」

 

その左腕は、身の丈ほどまでに肥大化している。かと思えば今度はみるみるうちに収縮し、あっという間に元のサイズまで戻った。まるで呼吸でもするかのように、自在に変わる腕の大きさ。もしどの部位も同様に変えられるのなら厄介だが――関係ない。

それなら変形しきるよりも速く、壊すだけだ。

 

「……ふぅ」

 

フランは大きく息を吐き、敵の存在しか認識できぬほど意識を集中する。

相手の一挙手一投足全てに目を凝らし、やがて周囲の音までもを完全に遮断した、

 

――その、一拍後、

 

「やあああああぁッ!!」

 

全身の力を込め、大地を蹴った。

音すら置き去りにする吶喊が一直線に走り、今度は魔理沙の反射神経を凌駕する。

 

「ぬおっ!?」

 

驚愕の色が浮かぶと同時、フランの頭が魔理沙の胸部に直撃。それでも最高速を緩めることなく突進を続け、進行方向にある木々をなぎ倒していく。

 

「きさま――」

 

「えりゃああッ!!」

 

続けて、反撃のために繰り出された手を潰すべく体を捻り、魔理沙を地面に叩きつけた。轟音と共に大地が砕け、大量の砂埃が視界を覆う。上から覆いかぶさる形で何度も、何度も、地面を引きずり回す。

 

その体が壊れるまで、手は緩めない。

 

「壊れろッ! 壊れろッ! 壊れろぉおッ!!」

 

策も糞もない、吸血鬼の膂力を最大限使った、力任せのごり押し。それでも並大抵の敵なら、なすすべなく敗北する理不尽さに満ちていたが、

 

「……いい加減にしとこう、な!」

 

「――うぁ、っ!?」

 

ほんの僅かな隙を突かれ、体の間に足がねじ込まれる。そして、あり得ない態勢から繰り出された蹴りは小さな体を呆気なく吹き飛ばし、肺から空気が漏れる感覚にフランは苦い表情を浮かべた。

魔理沙は蹴りを繰り出した反動を利用して起き上がり、鋭い眼光でフランを睨みつける。

 

「ああ、痛いなぁ。俺でなければ俺は死んでいた」

 

同時に彼女が懐から取り出したのは、二振りの日本刀だ。一方は長く、一方は短く輝く刀身――『桜観剣(ろうかんけん)』、そして『白桜剣(はくろうけん)』。

本来は冥界に存在するはずの魂魄家の宝刀。それが今、フランの眼前で切っ先を交差させ、

 

「――その肉、最後まで一片までも残さず絶滅だ」

 

次の瞬間、魔理沙の体が視界を横切る。

 

途端に力が抜けてしまって、フランは力なく前に倒れた。

痛みはない。ただ手足の末端から腹の中身まで、ぐずぐずと痺れる不快感が広がる。血流が止まって痺れる感覚。あれと似た倦怠感が体を支配していた。

 

「……なに?」

 

掠れ声で呟きながら、うつぶせの体を持ち上げようとする。

だが、一向に起き上がることが出来ない。力が入らない、というよりは、力を込める対象そのものが存在しない感じだ。

違和感を確かめるように自分の腕をつけ根から順に目で追い、

 

二の腕、肘、手首――そこで、終わる。

 

「……え」

 

フランの腕は、手首から先が既になかった。

 

接近から切断、背後に回るまでの一連の流れが全て、まるで見えなかった。

だが、遅れてやってくる激痛に顔を歪めながらも、フランの思考は別の一点に縛られる。

 

――能力の起点を狙われた。

 

『ありとあらゆるものを破壊する程度の能力』。その発動条件に不可欠な両手を、的確に切り落とされた。しかも、ちょうど使おうとした瞬間にだ。

そんなこちらの動揺を見透かしたように、魔理沙は鋭く口角を吊り上げた。

 

「フランドォォルゥ……俺は覚えてるぞ。何度も、何度も戦って、殺してきたからなぁ。お前の能力も、行動パタぁンも、読み切っているんだ」

 

痛い――。

 

なんで、こんなことになってるんだっけ。

なんで今私は、こいつと殺し合っているのか。確か、紅魔館を抜け出して、日光が痛くてこの森に降りた。それから、なんだかいい匂いがして、

 

「――お前は今まで壊した肉の数を覚えているか?」

 

「――――」

 

こいつの言葉は、一つ一つが無性に癪に障る。

両腕の痛みは、依然として全身を支配する程強烈であるはずなのに。

本来なら、滅多にお目にかかれない好敵手を前に、高ぶるべきはずなのに。

 

「ん、どうした? フランドールさぁん?」

 

――なのに、

 

「……そっか、私、また、いっぱい壊したんだ」

 

熱は冷め、理性が戻り、正常な自分が帰ってきてしまう。

アルコールが切れてシラフに戻るように。夢から覚めてしまえば、自分に残るのは血にまみれた手と、どうしようもない後悔と、出来損ないの良心だけだ。

でも、同時に取り戻した思考力だけは、フラン本来の目的を思い出させてくれた。

 

「……そうだ。こんなことしてる場合じゃない。こいしちゃんに、会いに行かなきゃ」

 

こいしちゃんといれば、全部忘れられる。

こいしちゃんなら、こんな私でも受け入れてくれる。

こいしちゃんは、絶対に私のことを怖がったりしない。

 

取れた両手をそのままに、なんとかその場で体を起こす。

明らかに戦意を失ったその背中に、魔法使いは心底つまらなそうにため息を吐き、持っていた二本の剣を放り捨てた。

 

「……つまらんね」

 

好都合だ。

こっちだって、あなたに微塵も興味はない。私は唯、約束をすっぽかしたおっちょこちょいな友達の家へ行く。そのためにここまで来たんだ。だから――

 

「こいしちゃ――」

 

「こいしならもう死んでるぞ」

 

だから、少女がその一言を聞き逃すことは、絶対になかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――。――――。――――――――聞き取った上で、よく、分からない。

 

「……あ、ぇ?」

 

ゆっくりと振り返れば、魔法使いの黒い眼差しと目が合ってしまった。

 

「今頃、地底はうちの怪獣共が大暴れしているところだ。そんな中で生き残れるな?」

 

聞き間違いを許さないかのように、今度は懇切丁寧に筋書きを語られる。

その声が耳を打つたびに、思考は止まり、心がそがれ、心臓が脈打った。

 

「……適当言わないでよ」

 

「適当? それはおかしいなぁ、フランドール。お前こそとっくに気づいていた筈だ、古明地こいしが自分との約束を破ったことなど、一度もなかった、なら、何かが起きたに決まってる、てな」

 

「…………ちが」

 

「違わないッ! お前はいつもそうだ! 都合の悪いものには全部蓋をして、見ないふりをする!」

 

否定を上書きするように声を荒げられ、言葉を詰まらせる。

フラン自身も、自分の「違う」という言葉が響いてこない。出鱈目だと、そんなはったりには騙されないと、言い切ればそれで終わりのはずなのに。

 

「違和感も、家族の静止も、お前は知らんぷりで飛び出した。だからいつも、ここで私と出会う。だからお前は狩りやすく、どの幻想破壊でも早々に離脱してきたんだ。何言ってるか分かりますかぁ?」

 

「……こ、し……ちゃ……?」

 

彼女の言葉はもう、何も入ってこなかった。手首を失った時よりもはるかに強烈な痛みが、体の奥から全身をかき混ぜる。

 

こいしちゃん、こいしちゃん、こいしちゃん、こいしちゃん、こいしちゃんこいしちゃんこいしちゃんこいしちゃ――

 

「安心しようっ! お姉さんが代わりに遊んであげる。きっと石ころ遊びよりも楽しいぞっ!!」

 

「――――ぁ」

 

命の零れる、音がした。

 

瞬間、理性が焼き切れ、胸の奥で何かが破裂し、血がぐつぐつと沸き立つ。

決まっている。大人に、どうしようもない現実に押しつぶされた子供の、事の顛末は。

 

「……う、うぅ」

 

 

 

「うぅうぅううああああああがあああああああああああッッ!!」

 

言葉にならない絶叫が大気を引き裂く。思考の介入がない破壊衝動だけが、全身を支配していく。

翼が大きく広がり、ちぎれた両腕が即座に再生し、足元の地面が陥没。周囲には亀裂が広がった。

 

「ふふっ」

 

その光景を前に、異形の魔理沙は再び、楽し気に笑みを浮かべる。

帽子の先が一人でピコピコと揺れ、高揚感を全身で受け止めながら視線を吸血鬼へと集中し、

 

「そう来なくては面白いっ!!」

 

――その下手くそな日本語を引き金に、殺し合いの第二ラウンドが始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なあ、フランドールってどんな子なんだ」

 

「急になんですか」

 

突拍子の無いスバルの問いに、小悪魔は困惑気味に首を傾ける。

 

それも無理はない。何故なら場面は既に『魔法の森』の只中だ。

フランを連れ戻すためにスバル、小悪魔、美鈴の三人が足を踏み入れたこの場は、今やいつ異形郷に襲われてもおかしくない危険地帯。

そんな状況で雑談を持ち出すスバルの態度は、どうしても楽観的に映る。けど実のところは真逆で、スバルは緊張しすぎていた。

 

「もちろんそれなりに理由があってのことだよ? 何か話してないと気持ちが持たないってのが半分……それと、これから命がけで迎えに行く相手のこと、顔しかしらないのはどうなんだって思ってさ」

 

「前者については、どうにか堪えてほしいんですけど……」

 

何度目かというあきれ顔を小悪魔は見せるが、これがスバルの正直な気持ちなのだから仕方ない。

魔法の森がどれだけ危険な場所か。それは実際に異形郷と戦い、『死に戻り』を経験した自分が、誰よりもよく理解している。情けない話だが、先ほどから無言で周囲を警戒し続けているだけで、既に性根尽き果ててしまいそうなのだ。

 

加えて言えば、ナツキ・スバルは三人の中で唯一、フランドールと接点がない。ならばこの機に少しでも彼女を知って、気持ちを奮い立たせたい。そう思ってしまうのは、身勝手なことだろうか。

 

すると小悪魔は、暫し考えた後で自身の後方を指さした。

 

「まあいいです。ただそういう話は私じゃなくて、あっちの門番としてください」

 

視線の先にいたのは、数歩遅れて後方を警戒していた少女――紅美鈴。塩対応ながらも、スバルの心境を組んでくれたようだ。会話を聞いていたらしい美鈴も笑顔で手招きをしてくれる。

二人の優しさに甘え、スバルは遠慮なく美鈴の隣へと移動した。

 

「……悪い、俺一人気後れしちゃって」

 

「いえいえ! 関係ないスバルさんを巻き込んでしまってるのは私たちですから。どうかお気になさらず!」

 

幻想郷の住民は、基本的に気のいい連中ばかり。けど、如何せんツンデレ気質な奴が多すぎて、優しさが伝わりにくいというのが、スバルの経験則だ。

だが、そんな中で美鈴は、初対面からずっとストレートな優しさと笑顔を向けてくれた。

加えてスバル好みの美人お姉さんということもあり、ここまでの短期間だけでも、かなり気を許してしまっている。

 

「それで、妹様のことを話せばいいんですね?」

 

「ああ、頼む」

 

顎に手を置き、数秒の沈黙。その後でゆっくりと口を開き、

 

「一言でいうなら……破天荒、でしょうか」

 

静かに、訥々と。押し黙るスバルに向け、美鈴は少し照れくさそう話し始めた。

 

「何をするにも全力で、気持ちが行動に先行してしまうような方です。一度好奇心を持ったら、こちらの言うことなんてまるで聞いてくれません。紅魔館の皆が振り回されてばかりですね」

 

話し始めたのは、どこか愚痴に近い内容。だが苦笑しつつも、その表情に嫌悪はない。

 

「レミリア様のプリンを勝手に食べたり、パチュリー様の書庫で飛び回ったり……あ、あと庭に生えているマンドラゴラを引き抜かれた時は、普通に全滅しかけました。壁もよく壊されますしね。ギュッとしてドカンと」

 

「えぇ……なんとなく想像ついてたけど、無茶苦茶だな。こんな言葉で片づけていいのか分かんねぇけど」

 

「まあそうですね。……でも、それと同じくらい、純粋で真っすぐで、優しい方なんですよ」

 

異世界規模のいたずらっ子が繰り広げる日常に困惑していると、美鈴はどこか照れくさそうに頭を掻いた。

 

ナツキ・スバルはフランドール・スカーレットを知らない。

ここで軽く人物像を聞いた程度で、命を懸けられるほどの思い入れが芽生えるわけでもない。

 

それでも――。

 

この短いやり取りだけで、スバルにはひとつ、はっきりと分かったことがあった。

 

「……大好きなんだな。あの子のこと」

 

「それは勿論! 妹様は私にとっても、紅魔館の皆にとっても……大切な家族ですから!」

 

――家族。

 

スバルにとって数少ない耳に馴染んだ言葉が、不意に胸の奥を揺らした。

社会も、経済の情勢も、家事のやり方すらまともに知らない。そんなものを全部投げ捨てて殻にこもっていた、日本在住の引きこもり――ナツキ・スバル。

そんな彼でも、唯一知っていたものだから。

 

「……そうか、家族か。道理で」

 

「スバルさん?」

 

「あ、悪い。ちょっとおセンチなってたかも」

 

明後日の方向へと視線を逸らすスバルを、美鈴が不思議そうに覗き込む。いつの間にか自分だけ感傷に浸っていたことに気づき、慌てて首を振った。

 

そして、誤魔化すように次の言葉を探していた――そんな時だ。

 

「――紅美鈴」

 

前方から、低い小悪魔の声が響く。

 

「どうしました小悪魔さん?」

 

「吉兆ですよ。私たちは早くも――妹様の足取りを掴んだかもしれません」

 

直後に飛び込んできたのは、予想外の朗報だ。

紅魔館を出てから、まだそれほど時間は経っていない。フランドールの最終目的地がここでない以上、魔法の森はただ素通りするだけの場所だと思っていたのだ。

 

小悪魔がしゃがみ込み、一歩一歩慎重に足を進めていく。スバルも息を殺し、彼女に続いてすり足で移動した。やがて視界を覆っていた茂みを抜け、森の中の開けた場所に出たところで――三人は“それ”を目撃する。

 

 

 

「……え?」

 

スバルの喉から、潜伏を忘れた間抜けな声が漏れる。

 

だが、それも無理はない。目の前にあったのは、フランドール本人でも、痕跡を示す何かでもなかったから。

それは覚えのある空気の重さで、鼻孔を指す錆びた鉄の匂いで――何より、何度見ても慣れることのない鮮やかな赤に染められていた。

 

――無残に形を変えられた、妖精達の骸が。

 

「うっ……!?」

 

込み上げる吐き気を、唾をのむ要領で無理やり押し返す。

 

分かっていた。全ての妖精が紅魔館に逃げ込めた訳ではないことくらい。

ここに倒れている者達は言うなれば――異形郷の襲撃に対して、スバルが切り捨てざるを得なかった“犠牲”の証明そのものだ。

 

しかも、遺体の惨状だけで言えば、あの時の何倍も酷い。

 

「……いや、待て」

 

揺らぎかけた思考を強引に立て直し、スバルは前を向く。この惨状を前にしてなお、胸を支配する別の疑問があったからだ。

 

「小悪魔」

 

「なんですか」

 

「お前、さっき言ったよな。妹様の足取りを見つけたって……これのどこが、足取りなんだよ?」

 

異形郷に殺されたであろう妖精達と、フランドールの行方。これら二つが、どうしても繋がらなかった。

 

「分かりませんか?」

 

無残な死骸を前にしても、微塵も動揺を見せない小悪魔。

彼女はその中の一つ、特に原形のない肉塊へと近づき、滴る血を指先ですくった。

鼻先を近づけて目を細めると、静かに、だが確信めいた声音で告げる。

 

「やはり、妹様の匂いが混じっている」

 

「……妹様の、匂い?」

 

彼女の言葉を反芻し、スバルの思考が悪い方向へと揺らぐ。

つまり、ここでフランドールも妖精達と同じように異形に襲われたのではないか。

 

「……じゃあ、フランも襲われて」

 

「いいえ」

 

しかし、即座の否定に続いて彼女が放った言葉は、

 

「これは妹様はやった、ということです」

 

「……は?」

 

――スバルの予想の何倍、何十倍も、最悪なものだった。

 

「内側から爆破したように飛び散っています。こんなこと出来るのは、あの方だけですから」

 

小悪魔は赤黒く染まった手を軽く振り、指先についた血を振り払う。

そしてそれ以上死骸に言及することなく、手がかりの捜索を再開した。美鈴もまた、黙ってそれに倣う。

 

その光景を前に立ち尽くすのは、ナツキスバル唯一人。

 

「な、何……言って……」

 

分からない。何故、あの少女がそんなことをしたのか。

分からない。何故、その事実を知って二人は平然と作業を続けられるのか。

 

優し気に見えていた筈の二人の顔が、今は恐ろしく歪んだものに見える。

思わず顔をそむけるスバル。その視線が、骸の一つと合った。

もはや顔と呼べぬ肉塊の中心に、二つの眼球だけが残っている。虚ろに覗き込むその目と重なるように、スバルの脳裏には――フランドール・スカーレットの顔が浮かぶ。

 

頭の中を埋め尽くすのは、ただ一つの言葉。あのとき、フランがタイヤの異形を壊す寸前に放ったものだ。

 

――ギュッとして、ドカン。

 

分からない。何故自分が、あの少女を理解したつもりになっていたのか。

ナツキ・スバルは紅魔館を、フランドール・スカーレットを、まだ何も知らないというのに。

 

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