Re:ゼロカラアラガウ異形郷生活   作:カノンだよ

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第二章9『決裂と開戦』

「これは妹様がやった、ということです」

 

「……は?」

 

――信じられない言葉が、スバルの耳を打った。

 

「な、何、言って……」

 

一瞬、自分の五感全てを疑う。だけど、現実は揺るがない。

事実として彼の目に移っているのは、内側から爆破された妖精の躯に、それをフランの痕跡として見る二人の少女。

――小悪魔の言葉を肯定するものばかりだ。

 

「紅美鈴、魔力の痕跡を辿ります。特に色濃く痕跡の残った死体を探してください」

 

「……はい、分かりました」

 

「いや……いや待て……おか、しいだろ」

 

スバルのかすれた声に、二人が応えることはない。ひたすら、さらなる痕跡を求めて手を動かし、死体の懐を探っていた。

 

「……っ、ふざけるな!」

 

頭を振り、腕を払って、ひときわ大きな声で、叫ぶ。そうしなければ、平静を保っていられそうになかったから。そうしてを自分を保とうと努力し続けない限り、彼女達に対する見解が根本から変わってしまうという確信があるのだ。

それはあまりにも、おぞましい想像だった。

 

「……ナツキスバル」

 

スバルの声を聞いて、小悪魔の手が止まる。

こちらを振り返った瞳は酷く覚めていて、冷静で、普段と変わらない。そして、

 

「――何が、おかしいというんですか?」

 

――今度は、はっきりと。耳に届いたその言葉に、スバルは絶句した。

 

「……は? 何が、だと?」

 

誤魔化し。取り繕い。もし、そんな意図で発せられた言葉だったなら、まだ納得できただろうか。だが小悪魔から――この女からは。そういった感情の色は微塵も読み取れない。

しいて言うならそれは、「何故わからないのか」と心底疑問に思っている者の顔だった。

 

「何がって……全部、おかしいだろうがっ!? フランが妖精達を殺したことも、それを理解した上で平然としてるお前らも、全部だ!!」

 

歯止めの利かなくなった激情が、絶叫となって外に出る。声を潜める余裕など、とうになくなっていた。

 

妖精は、スバルにとって、そして博麗神社にいた者たちにとって、命がけで守ろうとした存在の一つだ。それがまさか、異形郷ですらない、味方だと思っていた者に踏みにじられたなんて。

賢くも万能でもない自分には、もう処理しきれない。勇気を無理やり奮い立たせてここに立つのが精いっぱいの今、これ以上背負えるものなどないというのに。

 

「私だって、この惨状をなんとも思ってないわけではありません。ですが、物事には優先順位というものがある。……第一は妹様の奪還。それ以外に関する議論は、全て時間の無駄です」

 

スバルとは裏腹に、小悪魔はあくまで冷静に、こちらを諭すように響く。

少しでも早く話を打ち切り、捜索を再開したい。そんな意図を込めての対応だったのだろうが、

 

「それに、死んでいる妖精と生きている妹様。比べるまでもないでしょう。前者のことをいくら考えても、仕方がないんですから」

 

「――――」

 

それは話どころか、もっと大切な何かを切り捨てる言葉だった。

 

脳裏に浮かぶのは、二度目のループで無残に殺されていた妖精の死体。紅魔館で目を覚ましたスバルに礼を言いに来た三匹の野兎たち。そして、その内の一人が――スバルを庇って、車輪に押しつぶされた瞬間。

 

『あの……私たち、あの時……でっかい二匹の兎に追いかけられてて……でも、お兄さんたちが戦ってくれたから……逃げられました。だから――本当に、ありがとうございました』

 

彼女たちの全てと、自分の痛み。その両方をまとめて踏みにじられた気がした。

いや、気がしたではない。間違いなく、踏みにじられたのだ。

 

「妖精とは神龍が作り出した創造物です。今は自然が弱っているようですが、そのうち――」

 

口にするうち苛立ちが溜まっていくのか、小悪魔の語調が少し強くなる。彼女はスバルが絶句した後も何かを言っていた。その最中で目を微かに細めるのも見えた。

 

だが、今のスバルには彼女の感情の揺らぎなど、どうでもいい。

 

「比べるまでもない……仕方がない……?」

 

「……え」

 

彼女の言葉を捉えて、下を向いたスバルの肩が小さく震える。震えはやがて大きくなり、そして顔を上げたとき――スバルは笑っていた。

あまりに馬鹿馬鹿しすぎて、笑わずにはいれなくなったのだ。

 

「そう、だよな。よく考えりゃお前ら妖怪だもんな。しかも吸血鬼なんて大妖怪の側近様。……そりゃあ、烏合の命なんて、軽く見えても仕方がねぇだろうよ」

 

「――スバルさん」

 

「美鈴さん、あんたもだよ。さっきはよくもフランのことを優しい子ですなんて言えたもんだな。反応からして、こんな惨状も一度や二度じゃないんだろ? だったらどうして、あんな風に笑っていられた」

 

「……っ、それは」

 

言葉が口についてあふれ出す。

不思議だ。先ほどまであれほど心を許していた二人が、今では自分と根本から違う、何かおぞましいものにしか見えない。目の前に広がる血の海が、これ以上何も言い返してこない二人が、それだけの狂気をはらんでいたから。

 

そしてふと、紅魔館の出発前、レミリアが言っていた言葉を思い出す。

 

『――だって私はあの子を、館の地下に五百年近く幽閉したんですもの』

 

「……そうか、あれはこういうことだったのか」

 

点と点が繋がり、謎が解けていく。

結局あの後、レミリアはそれ以上何も喋ってはくれなかった。幽閉した理由を、意図的に隠したのだ。おそらく、スバルがフランに忌避間を抱く、この展開を恐れて。

 

「フランドールを外に出せば、大勢死人が出る。だからレミリアは地下に幽閉するしかなかった。違うか?」

 

「っ、どこでそれを!」

 

「……図星、なんだな」

 

「――――ぁ」

 

スバルの返答に、美鈴は「しまった」と言わんばかりに両手で自分の口を塞ぐ。

だが、その反応だけで充分だ。スバルは今、フランドールという存在を、それをとりまく紅魔館を、おおよそ理解することが出来た。

人食い妖怪がそこらをはびこる世界。こういう連中がいることにも、もっと早く気づけたはずだ。どいつもこいつも、可愛い少女の姿をしてるから騙されてしまった。むしろ、人を油断させるためにそう進化したのかもしれない。

 

人の形をした、おぞましい何か。何に見えるか、もし例えるなら――そうだ。

 

「分かってないなら、俺が代わりに言ってやる。フランドールと異形郷、こいつらは、なにも!」

 

何も、変わらない。ある種の決別を意味するその言葉を、スバルが二人へ叩きつけようとした。

 

――その時だった。

 

「ギャハハハハハハハハハッ!!」

 

「!?」

 

スバルの言葉は、僅かに早く響いた金切り声にかき消された。同時に、むせ返るほど濃い獣臭が鼻を刺す。

 

「――――あ」

 

姿を現したのは、先ほどの絶叫の主。斧を持った人形を筆頭に、悪趣味な形状をした異形の量産兵たちが次々と姿を現す。

数は、以前スバルが魔理沙と鉢合わせた時以上。周囲を一瞥するだけで、既に逃げ場がないことが理解できた。

 

――まあ、あれだけ騒げば、見つかりもするか。

 

異形の量産兵を始めてみた小悪魔と美鈴は、恐怖に顔をこわばらせつつ構えを取る。だが、ナツキ・スバルは唯一人、そんな危機の中でも思考を絞り切れずにいた。

 

今、彼の頭を占めるのはたった一つの疑念。

 

フランドール・スカーレット。

お前は今、どこにいる。一体どんな顔で、何を思っているんだ。

 

「来ますよ!!」

 

直後、美鈴の声を引き金として、異形の群れが一斉に飛びかかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

木々を子が宇黒煙が空気を汚し、火花が子気味良く弾ける。

飛び散る鮮血も、地面に穿たれた大穴も――それらは全て、つい先ほどまで繰り広げられていた血みどろの激戦、その残滓にほかならない。

しかし、今やすっかり静まり返った戦場に響くのは、魔法使いの呻き声だけだ。

 

「ごほっ……ぐぼっ……痛ェえ……」

 

異形の魔法使い。その左腕は根元から折れ、全身に無数の裂傷を負い、下腹部には千切れた吸血鬼の尻尾が突き刺さったまま、木に磔にされている。

挑発の果てに暴走した少女と相対し、相応の代償を払ったことは明白だった。

 

「まさか、こんなに攻撃を許しちまうとは……俺も老いたな」

 

蓋を失った傷口から夥しい量の血が噴き出すが、それも一瞬だけ。全身の傷も、腹に穿たれた大穴さえも、瞬く間にふさがっていき、激戦の痕跡は幻のように掻き消えた。

その理不尽な光景を前に、フランドールの瞳が弱弱しく揺れる。

 

「う、そ……」

 

「この程度じゃ死なんなぁ。俺を倒すには数百万、数億……いや、無限に近いダメージを与えないと」

 

余裕綽々の笑みで笑う敵を、フランドールは地に伏したまま見上げる事しかできない。

なんせ吸血鬼の再生力はとうに底を尽き、首から上を僅かに動かすのが背一杯。まさに、消えかけの蝋燭だ。

それでも、フランドールは戦い抜いた。

魔力が尽きれば牙で、牙を失えば骨で、骨すら砕ければ命そのもので――ただ敵を壊す事だけに、全霊を注ぎ続けたのだ。

 

――それ、なのに。

 

「お前ぁよくやったよ。ここまで体を動かしたのは、本当に久しぶりだった」

 

敵は、立っている。

 

何度壊しても当然のように起き上がり、その度に手痛い反撃を叩きこまれる。

妖怪ともまた違う、底の見えない無尽蔵の再生。戦いが終わってみれば、羽虫をあしらうかのように一方的に蹂躙されたという事実だけが残っていた。

 

魔法使いはフランドールの眼前まで歩み寄り、腰を下ろす。

顎に手を添えて彼女の顔を持ち上げ、正面から視線をぶつけた。

その双眸は、過去一度たりとも見たことのない深い闇で塗りつぶされていて――生者のそれではない。

 

「遊びはもうお開きにしましょう。死に方は、俺が選んであげる」

 

「ひっ」

 

「太陽に沈むか、台風のど真ん中に行くか。どれがオススメか?」

 

大袈裟な口上に、軽薄な調子。だというのに、その言葉に冗談や虚勢は一切感じられない。

きっと、全て本当に実行できてしまうのだ。先刻の戦いで、こいつの馬鹿げた力は嫌と言うほど理解できた。

 

「……や、だ」

 

「……あ?」

 

「い、やだ……フラン、まだ……死にたく」

 

「バカッ! お前は死ぬんだよ! 今まで壊してきた肉ゴミみたいにな!」

 

「――ッ、あ!」

 

命乞いを遮るように、額を弾かれる。

ただの軽いデコピン。それだけで、フランドールの体は地面を転がった。もはや状況を打破してやろうという気概は消え失せ、痛みと諦めが胸中を支配している。

 

終わる、のだろうか。久しぶりに外に出た。その、たった一度目で。

けど、それも仕方のないことかもしれない。今まで壊してきた肉ゴミみたいに――ぐうの音も出ない正論だ。

500年前のあの日。私は多くの命を奪った。あの時に、私も一緒に死んでおけばよかったのだ。そうすれば、今日また外に出て、過ちを繰り返すこともなかったのに。

 

家族の皆を、お姉さまを――今日まで困らせることもなかったのに。

 

『……フラン、どうして笑っているの?』

 

あの日の情景が、今もなお脳裏にこべりついている。

恐怖に満ちた声を聞いた。近づかないで、と。呪詛にまみれた悲鳴を叩きつけられた。

気が遠くなるほどの長い年月が経っても、あの顔だけは、一瞬たりとも忘れることが出来なかった。

 

そうだ。きっと、最初から間違いだったのだ。

私がここでいなくなれば、全部解決する。お姉さまはあとくされなく、今後を幸せに生きていけるだろう。

――私のいない、幸せな人生を。

 

「……あ、れ?」

 

ふと、フランは自身の身に起こったあり得ない現象に目を瞬かせる。

前が、よく見えない。視界が何か半透明な液体に覆われ、フランの世界を曖昧なものにしていた。

――それは、涙だった。

 

「……ほほお、冷酷無比なフランドォルには似合わんね」

 

魔法使いが悪趣味にフランの顔を凝視する。

涙――それは目の表面を保護するための液体であり、感情の高ぶりによっても分泌される、人類の代謝活動の一つ。

死に瀕した今の状況で流れるのは、不思議なことではないだろう。だけど、涙に特別な意味を見出してるフランに関しては、その限りではなかった。なんせ、

 

「こいしちゃんが死んでも、流さなかったがな」

 

「――――」

 

――500年前のあの日、フランは涙を流さなかった。

――妖精を虐殺しても、フランは涙を流さなかった。

――親友の訃報を聞いても、フランは涙を流さなかった。

 

そこまでして流れなかった唯の代謝活動が、わが身の危機的状況になれば、あっさりとあふれ出る。なれば、フランドールにその機能がないわけではない。

単に他人への情が薄く、殺した者の気持ちなど微塵も分からず、それでいてわが身可愛さはある。

 

自分がどこまでも歪で、間違いであると。そう、最期の瞬間まで叩きつけられて――。

 

「……なん、で、こんなの。あんま、りだ」

 

「死ぬのが怖いか? なら助けを呼べ」

 

ふざけるな。最期の瞬間くらい、誰にも迷惑はかけたくない。

そう、分かっている。頭では痛い程、理解しているのに――。

 

「ほら呼べッ!!」

 

ブチリ。強靭な腕力で、翼を一本もぎ取られる。

それだけで。それだけのことで。口が自分のものではなくなったかのように、勝手に動く。

 

「……けて、助けて!」

 

「来るわけないだろヴァァアアアアアカッ!!」

 

来るわけが、ない。

だって――この森で戦っていた妖精達を殺したのは、自分なのだから。

 

「――フランドール・スカーレット、ご退場願おう」

 

魔法使いの指先に、再び魔力が集中する。周囲の温度が上昇し、肌がチリチリと焼け始める。今度こそ決着を悟り、静かに目を瞑る、その寸前。

 

――もう一度だけ、お姉さまと話をしたかった。フランドールが願ったのは、それだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――華符『破山砲』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

直後、視界を横切ったのは身の丈ほどの巨大な火の玉。それが魔法使いに正面からぶつかり、大きな爆発と共に砂煙を巻き上げる。

フランが半分虚ろな意識で目にしたのは、――燃えるような赤髪を靡かせる、チャイナ服の少女。

 

「……めー、りん?」

 

「逃げろ逃げろ逃げろおおおおおおおおっ!?」

 

直後、情けない声と共に、自分の体がふわりと浮いた。

お姫様抱っこの要領で自身を持ち上げるのは――紅魔館を脱走する直前に目にした、見知らぬ少年。

その顔が、フランドールが意識を失う直前に見た、最後の景色だった。

 

 

 

「ううむ、今度は何が」

 

一方で、突然の奇襲を受けた魔法使いは、状況を把握すべく前を見る。

そこにいたのは、紅美鈴と小悪魔。それと、瀕死のフランドールを抱きかかえる、見知らぬ男。

三人はフランドールを回収すると、既にこちらに背を向け、逃走を開始していた。

 

すぐさま全身を再生させ、追撃に移ろうとしたが――その進路をふさぐように、別の影が現れる。

 

「……どういうこった?」

 

それは紅魔館の誰かでも、まして幻想郷の生物でもない。

 

「ギギッ!!」

「きゃははは」

「しずかにね」

「☆☆☆☆☆」

 

「……なんだお前ら、いつから友達になったんだ?」

 

先刻、フランが助けた――異形の妖精。それが、魔法使いの前に、確かに立ちはだかっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「妹様、しっかりしてください! 妹様!!」

 

「妹様がここまでやられるなんて……! 早くパチュリー様に見せないと!」

 

美鈴と小悪魔が意識を失ったフランに必死に呼びかけるが、その体はピクリとも動かない。

全身が傷だらけで、体は驚くほど冷たく、軽い。スバルの目から見ても、生きているのかすら判然としない状態だった。

あと一瞬でも到着が遅れていたのなら、間違いなく、殺されたいただろう。

 

「……でも、なんとか間に合った。よく分からんけど、あの異形どものおかげだ」

 

あの後、三人を囲っていた異形郷の妖精達は、何故か襲って来なかった。

ギギッと鳴く小さな目玉の異形を筆頭に、まるで自分達についてこいと言わんばかりに道を開け、スバルたちを誘導したのだ。そしてその先で、フランドールの悲鳴を聞いた。容赦なくこちらを殺してきていた異形が何故、こんなことをしたのかは分からない。

 

「とにかく、これで任務完了だ。紅魔館に帰るぞ!」

 

それらの結論を二の次にして、そう次の行動を決定する。

だが、横たえられていたフランドールを再び抱き上げようとしたとき、何故か小悪魔がそれを止めた。

 

「……ナツキスバル、あなたは信用できません。妹様から離れてください」

 

「は?」

 

その言葉にスバルは再び耳を疑う。こんな状況で、何を言い出すんだこいつは。

 

「安心しろよ、レミリアには借りがある。どんなにこいつが嫌いでも、館まではきっちり仕事してやる」

 

「そういう態度が、信用できないと言っているのです!」

 

「態度がどうとか、悪魔の癖にガキみたいなこと言ってんじゃねえ!」

 

「ふ、二人とも……!」

 

激化する二人の口論をなんとか鎮めようと、美鈴が割って入る。

だがその試みは、とっくに手遅れのものだった。先刻の対立で、両者の溝は既に決定的になっている。

 

「止めてください! 今は喧嘩している場合じゃありません、一刻も早くこの場を離れないと!」

 

そして、その一瞬の遅れが――取り返しのつかないミスへと繋がった。

 

「分かっています。でも今は彼らが足止めをしてくれている最中。落ち着いて行動すれば――」

 

「――そんな保証がどこにある?」

 

「……あ? なん」

 

で、とスバルの最後の一文字は続かなかった。

 

「――――」

 

光が空を切り、狙いたがわずスバルの頭を直撃する。

瞬間、ナツキ・スバルの首から上が蒸発し、意識は刹那の思考も許されず消えた。――その一瞬の惨状に、声を挙げるものはない。

何故なら、それを目にする者も、悲鳴を上げる者も、例外なく蒸発したからだ。

音を立てて、頭を無くした三人が地に倒れ、フランも地面に落ちる。流れ出る血が森の湿った地面をさらに濡らし、赤く染め上げる。

 

――一行はここに、全滅した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

判然としない意識の淵からゆっくりと舞い戻り、跳ねるように顔を上げた。

視界に映ったのは、紅美鈴と小悪魔。二人は何かに向かって必死に声を荒げている。そのあまりに切迫した様子に、スバルの視線も自然とその“何か”へと向かった。

それは金色の髪で、人形のような可憐な服で、全身に傷を負っている。

 

――瀕死の、フランドールが、そこにいる。

 

「妹様、しっかりしてください! 妹様!!」

 

「妹様がここまでやられるなんて……! 早くパチュリー様に見せないと!」

 

「あ……?」

 

喉から、間の抜けた声が漏れる。

ほんの数秒。目の前の光景を理解するのに、それだけの時間が必要だった。

 

紅魔館でタイヤの異形と戦った時、スバルはかなり運が悪かったと言える。

なんせ咲夜と別れて一人になった直後、しかも襲撃のおよそ数十分前に戻されたのだから。だけど、これはあの時とも比べ物にならない。――最悪。いや、最悪の、そのさらに底だ。

 

「……うそ、だろ?」

 

考えなかった訳じゃない。自分の能力の性質上、こうなる可能性は確かにあった。

 

「小悪魔さん、早くこの場を離れましょう! あれがいつ追いついてくるか分かりません!」

 

「分かっています、ですがひとまずは大丈夫でしょう。彼らの足止めがあれば――」

 

「――そんな保証がどこにある?」

 

先ほどは顔を見る事さえできなかった存在。その全身が、確かに視界に映った。

 

こいつは恐らく、紅魔館までの道のりで戦った異形の霊夢と同じ類だ。

なんせその体は見覚えのある白黒の装束で覆われていて、頭には特徴的なとんがり帽子があって。

 

異形の、まりさ――。

 

「ゲームオーバーだ」

 

その一言で、理解した。自分達は、逃げ場のない蟻地獄に踏み入ってしまったのだと。

ゲームオーバー。それは意味と裏腹に開始の合図となった。ゴールの見えない、悪夢の始まりだ。

 

寸分の狂いもなく、頭部を狙って放たれた光が、視界を白に塗り潰し、

 

 

 

――一行はここに、全滅した。

 




長かったですが、ここからVS異形魔理沙、開幕です。
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