Re:ゼロカラアラガウ異形郷生活   作:カノンだよ

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第一章6『メイドと吸血鬼と引きこもりと』

博麗神社の飲みサー五名による、幻想郷防衛作戦。

 

その作戦に際し、スバルたちは進路を二手に分けた。

霧雨魔理沙と伊吹萃香の二名は「魔法の森」を真っすぐ突っ切り、レミリア・スカーレット、十六夜咲夜、菜月昴の三人は「迷いの竹林」を迂回して、それぞれ紅魔館を目指す。

 

目的はただ一つ。道中、異形郷による幻想郷侵略を少しでも多くの住人に伝え、紅魔館への避難を促す事。出来れば他の場所も回りたいが、敵が現れるまでの時間は限られている。

まずは一度、紅魔館に向かうことが先決で、その道中に限定して一人でも多くを救おうという算段だ。

 

可能な限り接敵は避け、戦闘は最小限に。

別に逃げ回ろうって訳じゃない。数も強さも未知数。それに、二度目のループで出くわした化け物は何度倒しても起き上がってきた。

そんな連中と正面からやり合うのは愚策だ。無駄に消耗させられて、救える命を減らすだけ。

 

逃げ腰上等。勝つためなら、汚い手でもなんでも使ってやる。そう、これはずばり、

 

「――恥を恥と思わない。漢、菜月昴にしか取れない最適解と言ってもいい!」

 

「恥と思わない、ね。……だから、こんな態勢も甘んじて受け入れているのかしら?」

 

「…………」

 

スバルの意気込みに水を差すのは、頭上からの冷ややかな声。

息遣いが耳にかかる程の至近距離、体に回された腕の感触、走るたびに揺れる視界――スバルをお姫様抱っこで運搬している、十六夜咲夜その人から。

 

「……ま、まあ。俺に足並み合わせてたら日が暮れちまうだろ? だからこれは、猶予のない現状において、ほら……合理的判断って奴よ」

 

「……チッ」

 

「無視と舌打ちは止めて!? 思春期の少年はそれだけで大ダメージだから!?」

 

しくしくと涙を浮かべながら、腕の中で小さく縮こまる。

 

こんな醜態、スバルとて晒したくはなかった。だが、悲しいかな。外来人の凡庸な脚力では、咲夜やレミリアのスピードについていけないという、どうしようもない現実がそこにはあったのだ。

だが、尊厳と引き換えに得た時間には確かな効力を感じる。今回は全員の集合を待った分二週目のループよりも遅く出発したはずなのに、未だに異形郷の影は見えないのだから。

 

「二人とも、仲が良いわね」

 

空中を高速で滑りながら、レミリアが微笑ましそうに笑う。

 

「ご冗談を。誰がこんな外来人となど」

 

「分かってるわよ。でも、これから一緒に戦うかもしれないんだから、あまりいがみ合うものでもないわ」

 

「仲良くします!!!」

 

「お前、どういう情緒してんの?」

 

秒で手のひらを反す咲夜に、スバルは横目でじとっとした視線を送る。

ナイフで切られかけたときからなんとなく察していたが、このメイドはお嬢様に相当ご執心らしい。

 

「というか、ずっと外来人だの貴方だの……俺にはちゃんと「菜月昴(なつきすばる)」って名前があるんだけど?」

 

文句を垂れるように零してみたが、誰にも拾ってもらえない。

咲夜には相変わらずツンとした表情でスルーされたし、レミリアはそもそも自分に向けられた言葉だと認識していない。

 

「……はあ、もういいよ」

 

好感度がたりない、ということだろう。まあいい。今は目的を同じくして最低限協力し合えれば、それで。

 

そこから先は、特にこれといった会話もなく、ひたすらに足を進めていった。

 

まばらに差し込む陽光。地面は薄暗く、景色に変化も少ない。竹の並びはどれも似たように見えて、方向感覚すら怪しくなってくる。

迷いの竹林とは、よく言ったものだ。

だがそれでも、道は確実にゴールへと繋がっている。道中では何匹も竹林の住人――通称「野兎」たちと出会い、その度に三人は立ち止まって「紅魔館に避難しろ」と繰り返した。

 

「そこのお三方。そんなに慌ててどうしたうさ?」

 

「あっ、どうも兎さん。突然で悪いんだけど、聞いてほしい話があるんだ」

 

茂みから現れた小柄な兎に、スバルはこれまでと同じように声をかける。ちなみに、

 

「……お兄さん、なんでその人に担がれてるうさ?」

 

「そうだった。ちょっと待っててくれ、降りるから」

 

突然現れたため、咲夜に担がれてるのを忘れたまま話しかけてしまったのが恥ずかしい。スバルはゆっくりと地面に降り立ち、まずは誤解を解くところから始めようとする。

だが、それよりも早く。二人の間に割って入ったレミリアが、兎に向かって口を開いた。

 

「あなた、因幡てゐね。ちょうど良かったわ」

 

「もしかして、紅魔館の主様うさか? なんでこんなところに」

 

因幡てゐ。レミリアがそう呼んだ兎は、どうやら顔見知りらしい。話が早そうなので、ここは任せてスバルは口を閉じることにする。

 

「幻想郷崩壊規模の異変、その予兆が現れたことを伝えに来たの。あなたの主にもこれを伝えて、すぐに紅魔館に来るよう伝えてくれる?」

 

「隙間妖怪が言ってた……本当だったうさね」

 

「分かったならいきなさい。あまり時間はないわよ」

 

てゐはレミリアの言葉に頷いた後、踵を返して竹林の奥へと消えていった。そして、彼女の姿が見えなくなったタイミングでスバルもレミリアの傍へと寄る。

 

「今の奴って知り合い? これまでの野兎とは雰囲気が違った気がするけど」

 

「因幡てゐ。野兎なことに違いはないけど、永遠亭(えいえんてい)に関りがある奴よ」

 

「その永遠亭ってのは……」

 

「近くにある診療所ね。あそこは結界が貼ってあって近づくのに手間取るから、声をかけるのは諦める気だったけど……あれに会えたのは幸運だったわ。彼女は永遠亭の連中と仲が良いから」

 

「なるほど。まあ、それなら良かったのか」

 

事情を理解した後で、スバルはほっと一息をつく。

 

ここまでノンストップで移動してきたが、今は神社を出て三十分が経過したあたりだろうか。異形郷の影は未だに見えない。

迷いの竹林も、もう少しで抜けられる。竹の壁に囲まれたこの薄暗い世界も、少しづつ光の指す量が増えてきた。今のところ、計画は順調に進んでいると言えるだろう。だが、

 

「結局、ここにも霊夢はいなかったな……」

 

期待はしていなかったが、彼女を見つけることはできなかった。魔理沙と萃香、二人の進んでいる魔法の森ルートにいてくれたらいいが。

だが、この結果は落胆よりも覚悟を奮い立たせる。探し人の巫女は、今もどこか別の場所で問題に向き合っているのかもしれない。ならば、スバルは自分たちの戦いをするまで。

 

そう自分に言い聞かせた――その時だった。

 

 

 

「――きゃああああああああああっ!!」

 

 

 

「!!」

 

突如、竹林の奥から響き渡った甲高い悲鳴。耳を刺すようなその叫びに、三人の意識は硬直する。

 

「……今の声は」

 

咲夜が警戒するように目を細め、竹の間を睨みつける。レミリアは空中で静止したまま、緊張を隠さず唇を噛んだ。続くように、大地を揺るがすような轟音が響き、遠くの空から、黒煙と炎の柱が立ち上る。

 

間違いない。先ほどの只事でない悲鳴、遠くから鳴り響く爆音、そして空気が濁るような邪気、スバルは直感的に理解した。

 

「っ、始まった……!」

 

――奴らだ。

 

今し方侵攻が始まったのか、時間をかけてここまで魔の手が伸びてきたのかは分からない。だが、どちらにせよ異形郷の脅威が、すぐそこまで迫っている。

 

「いやああああああっ!!」

 

「たすけてええええええっ!!」

 

竹林の奥から、響く悲鳴。子供のような甲高い声が、風に乗って耳を打つ。次の瞬間、スバルの脳裏に、魔法の森で見たあの光景がよみがえる。

枝に吊された妖精たち。裂けた胴体、ちぎれた翼。あの惨劇と同じことが、今目の前で起きているかもしれないのだ。しかし――

 

「……時間切れ、ね。これ以上は助けられない。紅魔館に向かうわよ」

 

「なっ!」

 

咲夜の放った言葉。その意味するところは、目の前の者たちを見捨てる事だった。思わず声を漏らしたスバルに、彼女は眉を顰める。

 

「なに? 戦闘は最小限に、そう言ったのはあなたでしょ?」

 

「それは無駄な消耗を避けようって話だろ! 近くで襲われてる奴らがいるのに、黙って逃げられるかよ!」

 

スバルも声を荒げながら食ってかかるが、彼女もまた、意思を変える気はないと言わんばかりにこちらを睨みつける。

両者の間に流れる不毛な時間。やがて痺れを切らした咲夜がスバルの手を跳ね除け踵を返すが、

 

「……話にならない。いいから、早くこの場を」

 

「――無駄よ」

 

頭上の澄んだ声が、スバルたちの動きを止めた。

 

空中を漂うレミリア・スカーレット。

彼女は腕を組み、前方の竹林へと静かに視線を向けている。そして、わずかに間を置き、ためらいのない口調で――

 

 

 

「――もう、見つかったわ」

 

 

 

その言葉と同時だった。

 

ドォン、と空を割るような轟音。

次の瞬間、頭上から巨大な岩塊が降り注いだ。

避ける暇などない。地面に激突する寸前、岩の影がスバルたちを覆い尽くし、

 

――視界は、土煙と衝撃で真っ白に塗りつぶされた。

 

 

 

 

 

2

 

 

 

 

 

「おい、お前は走った方が早いんだから降りろよ」

 

「いーだろー、近くにいた方が守りやすいしー!」

 

魔理沙は後ろを向いて、自身の箒にまたがる萃香に文句を垂れる。守ってやる、という割には終始酔っ払っていて頼もしさは感じられない。それに、

 

「異変、だなんて言われても……まだ実感ねぇんだよなぁ……」

 

幻想郷崩壊規模の異変。

スバル曰く、一刻の猶予もなく訪れるらしいそれは、今のところ微塵も気配を感じない。妖精たちは普段通りに森を飛び回り、天候も気温はいっそ清々しい程に晴天であると言える。

でも、だからと言ってスバルの言葉が冗談であったとも思えない。彼の震える声に、真剣な眼差し。漂う雰囲気は数日前までとは別人のようになっていた。

 

「おーい! そこの妖精ども。異変だ、今すぐ紅魔館に逃げろ!!」

 

こうして、通り様に見かけた妖精達に声をかけてはいるが、その反応はイマイチだ。異変が起きると言われても、基本的に死ぬことのない妖精達は危機感が欠けている。

こっちからしてもその認識は同じで、神龍より生まれた自然の創造物「一回休み」になるだけの彼女達は、避難を促す優先順位は低かった。それでも、魔理沙がこっちに来たのは、

 

「――よし、見えた。あそこだ」

 

森の中、視界の先に広がったのは、ぽっかりと空いた開けた土地。

そこにポツンと建っている一軒家は、所々に古びた箇所がありながらも、丁寧に手入れされた庭や繊細な装飾が目を引く――魔理沙の目的地だ。

 

だが、わざわざ正門から入るつもりなど毛頭ない。というかめんどくさい。ので、

 

「おらあああああああっ!!」

 

「きゃあっ!」

 

勢いよく、箒にまたがったまま窓を突き破り、ダイナミックに入室。

当然ながら部屋にいた少女は、突然の来訪に可愛らしい悲鳴を上げて尻餅をつく。

床に軽やかに着地した魔理沙と、その背に乗っていた萃香は、ほっと一息つくと、呆然とした少女に歩み寄り、顔を覗き込んだ。

 

「よう、邪魔するぜ」

 

「そ、そういうのは入る前に言いなさいって、いっつも言ってるでしょ!」

 

慌てて身を起こしながら抗議する少女に、魔理沙は顔の前で軽く手を合わせて謝る。

 

「わりぃわりぃ。今回は割と急用でな」

 

深いため息と共に「もういいわ」と呆れた様子で許してくれる少女。魔理沙自身、結構なことをしている自覚があるのだが、こうしてすぐ許してくれる辺り、やはりチョロい。……まあ、諦められているだけかもしれないが。

 

「……魔理沙、今日は神社で宴会じゃなかったの?」

 

赤いカチューシャに、白と青を基調とした衣服に身を纏う。綺麗な金髪と人形のように整った顔立ちが特徴の少女――アリス・マーガトロイド。彼女の懐疑的な視線が、二人を突き刺していた。

 

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