その後、アハウと話したキィニチはパン2個と水筒に水を入れて布でくるみ、キィニチが寝る場所にある枕の下に隠し、棚の下に潜ませた。その後、キィニチは昼寝をした。
キィニチは普段、なかなか寝つけないのだ。寝ている間に父親に殴られることもあるため、警戒して父親が寝静まってからようやく寝るのだ。だが、キィニチに話しかけてきたアハウは父親が来たら起こしてくれると約束したための安堵なのか、はたまた疲れているのか、どちらにせよ、キィニチは普段より早く寝ることができたのだ。
~12時間後~
【おい……起きろ!父親がこっちに向かってきてるぞ!】
「……え?ッ!どうしよう!?電気を早く点け……?」
アハウの声に目覚め、慌てて起き上がったキィニチはすぐに電気を点けようとした。しかし……
「電気が点いてる?」
リビングにはとっくに電気が点いていたのだ。
【暗くなってきてから何も電気を点けていないと怪しまれるだろう?我輩が燃素で押してやったぜ!】
どうやらアハウがキィニチの代わりに電気を点けてくれたようだ。
【後、ついでに簡単だが、ベイクドポテトや、ステーキを焼いて盛りつけておいたぞ。】
料理も作ってくれたアハウに対してキィニチは目を見開いていた。
「……」
【ど、どうした?まさかクz…父親に怒られるようなメニューをオレは作っちまったのか?急いで作り直……】
「ううん!そんなことないよ!ありがとう!」
キィニチはアハウにお礼を言った。
【……ふふん!まぁ、オ…我輩は何でもできるスーパー聖龍だからな!ほら、自分が作ったって言うんだ。あ、後ステーキについては知らないおじさんからジャガイモを食べたいから、余った肉4個とジャガイモ10個と物々交換されたとでも言え。】
「分かった。」
キィニチとアハウが話していると、
ドンドンドン!
「帰ったぞ~!開けろ!」
父親がドアをノックしてきた。
「今開けるよ!」
キィニチがドアを開けると父親は今日は賭けに勝ったのか上機嫌で酒瓶とキャンディの箱を右腕で持ちながら家に帰ってきた。
そして、父親はキィニチに言った。
「ふふふ、今日はぼろ儲けだ!お祝いにキィニチの好きなキャンディを買ってきてやったぞ!ほら。」
「あ、うん……ありがとう。」
「あ”?何だ?俺がせっかく買ったのに気にくわなかったのか?」
「う、ううん!僕嬉しいよ!ありがとう!」
「そうだ。俺はお前のためにやっているからな。これを機にもっと家の手伝いをしろよ?」
「……うん……」
【(とんだクズ人間だな。自分のやっていることを棚に上げてキィニチに仕事を強要するなんて……)】
アハウは一連のやり取りを見て胸糞悪く感じた。
「今日はお祝いだ。おお、ステーキもあるのか。」
「う、うん。今日はお肉もあったから焼こうと思って……」
「ん?だけど、何で肉なんかあるんだ?」
「……実は僕が知らないおじさんが家の前にやってきて、ジャガイモを食べたいからお肉4個をジャガイモ10個と交換しようって言われて……「おい。」!」
キィニチがアハウに言われた通りの嘘をついていると父親の口から地獄にいる鬼のうめき声のような重低音でキィニチを脅した。
「おい……お前まさかあることないこと吹き込んでんじゃないだろうなぁ?」
「してない!してないよ!ただ、知らないおじさんがやってきてジャガイモとお肉を物々交換しただけ……」
「……ふん。それならいい。」
【(お前が事実を言われるほど酷いことしてんだろうが!?この【ナタスラング】が!)】
アハウは地上波で放送すると規制音が入る程の罵声を心の中で父親に思った。
「まぁいい。いただくぞ。」
「あ、うん。いただきます。」
【(今日はこのまま……キィニチに殴るんじゃねぇぞ。)】
アハウは心の中で思って、父親が寝静まるのを待った……
………………………………………
「どうやら寝たみたい……」
キィニチの父親はいびきをかきながら寝ている。
キィニチは父親が寝ているのを確認した。すると、アハウがキィニチに直接小声でかけてきた。
【キィニチ……作戦の時が来た。準備できてっか?】ヒソヒソ
「うん。ちゃんと水筒とパン2個を布でくるんで持ってるよ。」ヒソヒソ
【上出来だ。まずは窓から脱出するんだ。後で指示する。】
「うん。分かった。」
キィニチの家は1階建ての小さな家だ。そしてキィニチの部屋に窓があるので、ここから脱出するとアハウはキィニチに指示した。
キィニチは窓からよじ登り飛び降りた。
「できたよ。」
【よし、後は森の中へ走って……】
キィニチが森の中へ入ったその時だった。
「キィニチぃ……?どこにいる?」
「【!!?】」
何と、運悪く父親はトイレから目覚めて、トイレに行った後、父親はキィニチの部屋へ覗き込んでしまったのだ。
「おい……どこにいる?キィニチ……キィニチぃ!」
【まずい!今すぐ隠れろキィニチ!】
アハウは父親から見つからないように隠れろとキィニチに言った。しかし……
「ぁ……あぁ……」
キィニチは呼吸が乱れ、汗をかき、体が小刻みに震えている――心的外傷後ストレス障害(PTSD)*1に陥っていたのだ。
【(まずい……!キィニチはトラウマによって苦しんでいる!ここは落ち着かせなきゃな。)キィニチ、お前は強い男だ。こんなのはピンチって言うほどでもねぇよ。一旦落ち着け。深呼吸しろ。】
「無理だよ…もう…僕はおしまい……【終わってねぇ!】ッ!」
アハウはキィニチを落ち着かせて鼓舞するために小さく、だが勇気づける声でキィニチに言った。
【もう一度言う。お前は強いやつだ。こんなところで終わりたくないんだろ?だからオレの誘いに乗ったんだ。違うか?】
「……僕だってここから逃げ出したいよ……でも、あの人が……」
【……確かにアイツの暴力によって苦しんでいることは分かってる。でもな、キィニチ。アイツにいいようにされて悔しくないのか?】
「……悔しい?」
【そうだ。この先、アイツに捕まってただ憂さ晴らしに殴られて、飯を作らせて、稼いだ金を奪われて自分だけ飲む飲み物に変えられる……悔しく思わないか?】
「……しいよ。」
【ん?】
「……悔しいよ!ここに住んでいたら痛いし、冷たいし、苦しい……でも、僕は
【そうだ。キィニチ……その悔しさをバネにしろ。そして、バネにした悔しさを思いっきり蹴っ飛ばすように抗うんだ。キィニチが逃げるのは全然恥ずかしくない。寧ろ生き残るために最高のことをお前はしてるんだぜ?】
「僕が……生き残るために?」
【そうだ。お前は幸せになってもいいんだ。アイツの言いなりにならなくていいんだ。お前はここから「自由」になる一歩を踏み出してんだ!だからキィニチ……最後まで諦めんな。】
「うん……ありがとう……アハウ。」
キィニチはようやく落ち着くことができた。しかし、不安に思ったのかキィニチはアハウに言った。
「でも、アハウ……これからどうしよう?アイツはもう僕が抜け出したってバレちゃったし……」
【心配すんな。キィニチ――――寧ろ想定内だ。】
「……?」
…………………………………………
「クソ!クソクソ!あのクソキィニチ……黙って俺に従っていればいいものを!」
父親――のふりをしたクズは家中をキィニチを探していたが、見つからないのか徐々に焦燥感が積もっていった。
そして、外へ出てきたその時だった。
カラン……
「そこか……!」
裏口の方から物音が聞こえたクズはキィニチがたてた音だと思い、すぐに向かった。そこには……
「……は?」
そこにはホウキが床に転がっていただけだった。クズはすぐに騙されたと気づいた。
「クソがぁぁぁぁぁ!」
クズは大声をあげて、周りの草をかきあげながらキィニチを探した。だが、もう二度とキィニチを見つけることはできなかったのだ。
…………………………………………
~アハウ side~
その頃、キィニチはテペトル竜の背中に乗せてもらい、今『流泉の衆』の元へ向かっている。
キィニチはテペトル竜を見た時は驚いていたけど、自分を助けてくれると分かり、背中に乗ってくれたのだ。
オレが話す。
【よし、後はこのまま行けば、温泉が大好きな人たちの集落にたどり着く。そこで何があったのか大人に話してこい。】
「う、うん……でもどうして、アイツは追ってこなかったんだろう?」
【それは我輩が物音を立たせて意識をそらさせたからだな。】
「物音?」
【我輩は燃素を少しなら操ることができる。お前が寝ている間に裏口にホウキを置いて、アイツが外に出た瞬間にホウキを動かして、キィニチが裏口から逃げたと勘違いさせたんだよ。】
そう、オレはキィニチが寝ている間に仕込んだのは、裏口がある壁にホウキを立たせて、ホウキを動かし地面とぶつかった音を出して、クズが気をそらせるために仕込んだのだ。
他にも、クズが賭けに勝てるようにわざと有利に運ばせて、キィニチに虐待されないようにして、その稼いだモラ*2の数枚を床に置いて、気をそらせたり、草を縛って足を引っかけさせる罠をキィニチが逃げた後に作ったりした。
最終手段として、大声をだして怒った竜をクズに襲わせたりしようと考えたが、使わなくて正直ホッとしている。キィニチがクズとはいえ父親を死なせてしまったと思い込み、罪悪感を植え付けられることになっちまうからな……
そんなことを思っていると、キィニチが言い始めた。
「アハウ……」
【…どうした?】
「アハウがいなければ、僕はアイツから逃げ出せなかったと思う……だから、本当にありがとう。」
【……フン!お前は我輩が認めた相棒なんだ!勝手にくたばったら我輩が損するからと思って手を貸したんだ、気にすんな。】
「……そっか。あのさ、アハウ。」
【何だ?】
「もしさ……アハウがよかったらさ。僕の元にいてほしいんだ。」
【……】
「最初、アハウの声を聞いた時は怖かったけど、僕のことを思ってやってくれたんだと思ってる。だから、友達に……」
【それは無理だ。】
「……何で?」
キィニチが泣きそうな声で言ってるな……本当にごめん。でも、キィニチが生きていくためには必要なことなんだ。
【別にキィニチに意地悪したくて断ったんじゃない。だが、我輩は姿が見えないからこのままキィニチがオレの声に反応し続けたら、気持ち悪がられて孤立…なじめなくなっちまって、キィニチがまたイジメられちまったら元も子もねぇ…だから、ここでお別れだ。】
「……やだ。」
【キィニチ……】
「やだよ……このままお別れなんてやだよ!やだよぉ……」
それはキィニチが生まれて初めて言った「わがまま」だった。子どもらしくなったじゃないかと少し嬉しく思った。
でも、確かにこのまま別れるのはイヤだよな。
だから、オレはキィニチに「契約」を結ぶことにした。
【じゃあ、契約だ。キィニチ。】
「……グスン、けいやく?」
【契約というのは……あー……簡単に言えば約束することだ。】
「約束って何?」
【そうだな……明日のその明日の、ずーっと明日にはとても大きな地震が来るはずだ。そして我輩がいる……遺跡っていうとても危険な場所が地震で現れたと発表……伝えられるはずだ。そこに我輩がいる。】
「分かった!今から行けばいいんだね!」
【違う!そこには危険な罠がたくさんある!壁が動いて潰されたり、床が爆発する罠とかがめっっちゃあるんだぞ!お前が今行っても死ぬだけだ!】
「……じゃあ、どうすればいいの?」
【今からそれを言う。『汝がこの国で一番の竜狩り人と認められたら、我に会いに来い。』……それが契約だ。】
「……うん分かったよ。僕は一番強い竜狩り人になるよ!そしてアハウに会いに行くよ!」
【……そうか。楽しみにしている。】
「うん!約束!」
そうキィニチと言っていると、『流泉の衆人』が見えてきた。
【ここでお別れだ、キィニチ。】
「……うん。」
【じゃあな、キィニチ。元気でな。】
「……アハウ!」
【?】
「僕は絶対に、ぜっっったいに強くなってアハウに会いにいくからね!約束だよ!」
【ああ!約束だ!テペトル竜たちもありがとな!】
「がう!」
「きゅい!」
そして、キィニチを乗せたテペトル竜親子が『流泉の衆』に近づくと、気づいた『流泉の衆』の人が声をあげた。
「お、おい!テペトル竜の親子がこっちに来るぞ!」
「何でこんなところに……って!背中に乗せてるの子ども!?」
「しかもあざだらけじゃないか!?一体何があったんだ!?」
【キィニチ…良かったな。】
キィニチが『流泉の衆』の人たちに迎え入れられたことを見届けたオレはこの場から去った。
後日、散歩している時に偶然、部族の人の会話から聞いたが、どうやらキィニチの父親は『流泉の衆』の人が『懸木の民』の人たちにキィニチが話した虐待のことを話して、キィニチに虐待したことや、職場の金を横領したことがバレてナタから追放されたらしい。
ざまぁみろ。
キィニチの父親ざまぁです。