Seelen wanderung~とある転生者~   作:xurons

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木陰の洞窟

 

 

 

「せやぁぁっ!」

 

『キキィッ!』

 

 

鋭い雄叫びを洞窟全体に轟かせながら、シリカは左上へ切り上げて、振り向きざまに右上から斬り下ろす短剣2連撃技《セイント・クロス》をもう何体目か数えるのも嫌な程見たコウモリ型Mob『シャドー・フライ』のHPを一発で全損させ、その身を爆散させた。

 

 

「やった!」

 

「凄いよシリカ!コウモリMobは攻撃を回避され易いのに、一発で決めるなんて!」

 

「えへへ…」

 

 

確かにその通りだ。もう潜ってから2時間は経つこの洞窟にポップするMobは、大体レベル5〜8のコウモリMobが大多数を占める。

つまり、先程レベル6になったシリカが自分より上のMobを一発で倒せるというのは、それだけの技量を彼女自身が身につけた証なのだ。

もちろん潜りたての時は俺とミリアでちまちまとサポートし、止めはシリカがといったやり方を主としていたが(そのお陰か俺はLv.15、ミリアは14となっていたりする)。

 

 

「二人共、そろそろボスが来るはずだ。準備は良いな?」

 

「っはい!」

 

「うん…!」

 

 

俺の真剣味を帯びたと俺自身解る声に、二人共改めて自分らの相棒を持ち直す。

今何故警戒を呼びかけたのかというと、俺が最早癖となっている戦闘後の‘‘索敵’’を発動したところ、丁度俺達の正面にモンスターの反応があったからだ。

β時代と何も変化が無ければこの先は行き止まりで、爺さんNPCの言った通り財宝と血肉がある筈。

…が、ソレをすんなり持ち帰らせて貰える程、この世界甘くは無い。

因みに通常…言うまでも無いが、この世界のモンスターは俺達プレイヤーがある程度接近して初めて場にジェネレート(出現)する。

だがそれはあくまで‘‘常識の範疇’’での話であり、フィールドボス(以外:FBoos)と呼ばれるMobは‘‘初めから一定の場所を住処・縄張りとしている’’という違いがある。

つまり何が言いたいのかというと、とどのつまりこの洞窟には今言った後者のボスタイプが該当するという訳で…

 

 

『グルルル…』

 

「フッ、また会ったな…」

 

 

ここのFBoosであり、170cm近い俺の少なくとも2倍はある巨大な白い毛を靡かせた白銀の狼…『シルバー・ウルフ』。それがそいつの名だ。

そいつは待ちくたびれたと言いたげに俺達を見下ろし、ギョロリと暗いここでも解る敵意の眼差しを向けている。

そんな奴の警戒心をヒシヒシと感じる度、戦う楽しみを感じる俺も大概戦闘狂だな…ま、やるからには負けるつもりは更々無いが。

 

 

「来るぞ!攻撃は爪の切り裂き攻撃と咆哮の連発だ!二人共、合図したら回避を頼む!」

 

「「了解/解りました!」」

 

『グルル…ガァァ!』

 

「散れ!」

 

 

すると早速奴は右手の爪を巨大化させ、三角の点の位置で並んでいた俺達めがけ振り下ろす。

それを俺とシリカは敏捷値を全開にして左右に回避、ミリアは爪が振り下ろされるよりも速く前足付近に転がり込み、

 

 

「はぁぁっ!」

 

『グルル…!』

 

 

細剣突技《アクセル・ミュラー》をドスドスと5連撃奴の右前足根元に見舞う。

その攻撃にモンスターいえども、奴とてやはり痛みは感じるのか少々呻き声を漏らすが、

 

 

「シリカ!」

 

「はい!」

 

 

そのミリアが奴のターゲット(以下:タゲ)となっている隙に、俺は右側。シリカは左側の横腹付近へ駆け、

 

 

「おおぁぁっ!」

 

「やぁぁっ!」

 

『グガッ…!』

 

 

俺は片手剣初期技《ホリゾンタル》を、シリカは短剣初期技《フィル・クレセント》をそれぞれ脇腹へブチ込む。

その攻撃に堪らず奴は明確な呻きを上げ、横腹には切り裂いた証の赤いエフェクトが刻まれる。

 

この攻撃こそ、俺達プレイヤーにシステムから与えられた必殺剣技…‘‘ソードスキル’’だ。

今はもう当たり前の様に使用されているが、発動するには初定のモーションが必要であり、発動後には代償として一定時間動きを強制固定される‘‘硬直’’が架せられる。

それには当然慣れが必要である事は言わずもがな、ハイリスクハイリターンな攻撃法に間違いはなく、一瞬の隙が命取りとなるこの世界では、正に諸刃の剣と言える。

現に今、数秒前奴にソードスキルでダメージを与えたミリアは代償として1.5秒程だが動きが止まっていた。

もちろん今、ミリア同様に発動した俺とシリカにも硬直は架せられているが、発動したのが硬直が1秒程度と短い初期技であった為、直ぐさま足を動かして後ろへと飛ぶ。

 

 

『グルル…!』

 

「チッ、まだ足りないか…!」

 

 

そして着地様に奴のHPバーを確認する。が、それ一本のみにも関わらず、まだ色は7割以上残っている事を示すグリーンのままだった。

流石はβテスト時代俺が無謀にも一人で挑戦し何度も死にかけただけはある。あの時はポーションを用い何とか撃破したが、今はあの時とはレベルも技の威力も違う。

手練れの細剣使いのミリアが持ち前の豪快な突きでHPをジワジワと削り、シリカはダメージ量こそ少ないものの、短剣の機動性の高さを生かした通常攻撃を見舞っている。俺自身も、『灰燼』を存分に振り回してダメージを与えているしな。

すると、攻撃を受け続けHPがイエローに突入した瞬間、突然爪を仕舞い、大きく息を吸い込む動作に入った。アレは…

 

 

「咆哮(ブレス)来るぞ!奴が叫んだら上に飛べ!」

 

「了解/はい!」

 

『ガァァァ!』

 

 

やがて奴は充填を終え、バカっと開かれた口から衝撃波…もとい音波が地面へ放たれ、360度全面を這う。

しかし、俺達はその衝撃波が到達するより速く上へ飛んでいたお陰で全くダメージを喰らわずに済んだ。そして音波という性質の所為か、開始も速ければ終了も速い。更に今使ったのは硬直が架せられる技。それはつまり…

 

 

「今だ!」

 

「うん!はぁぁっ!」

 

「せぁぁっ!」

 

「喰らいなさい!はぁっ!」

 

 

Yes・フルボッコタイムの到来である。

まず、ミリアが細剣初期技《リニアー》をドドドッと撃ちまくり、スキルが終わった瞬間後ろからシリカが飛び出して短剣突進技《レイジング・クロウ》をジャンプして奴の顔面に放ち、硬直が解けたミリアが再び前に出て細剣4連撃技《エクセル・ダンス》を首めがけ撃ちまくる。

その見事な技の連携攻撃に、奴のHPはぐんぐん減ってイエローゾーンを通り過ぎ2割以下…レッドに染まる。が、まだ倒しきれてはいない。

 

 

「お兄ちゃん!」

 

「あぁ!」

 

「スイッチ!」

 

 

スイッチ。それは2人以上で戦うパーティでのみ有効な戦闘法であり、一方が攻撃し合図でもう一方に交代し攻撃するというもの。それがまるでスイッチを押す様に見える事から、βテスト時代この名が付けられた。

最も、今回はそんなカチカチとやる必要は無いが。

 

 

『グルオォ!』

 

「ぜぁぁぁ!」

 

 

兎に角、俺はミリアの合図で奴の正面に飛び出すと、切り下げ上げの片手剣単発技《ビクトリー・ウィル》を放つ。その一撃でHPはググッと減り…僅かに数ドット残る。

 

 

「っ嘘…⁉︎」

 

「お兄ちゃん!」

 

『グルガァァ!』

 

 

それは確実に奴から一発貰う事を意味しており、好機と見たらしいまだ数ドット残っている奴はその鋭利な爪を俺めがけて振り下ろす…事は無かった。

 

 

「喰ら…えっ!」

 

「「っ⁉︎」」

 

『グッ⁉︎…ガ…ァァ…!』

 

 

叫びと共に俺の‘‘左手’’が黄色の光を帯び、奴の喉仏付近に強烈なストレートをかました。

その一撃は、今度こそHPバーを削り切り…FBoosである『シルバー・ウルフ』は断末魔を上げその巨体を膨大なポリゴン片へと変えた。

やがて頭上にはBOSSを倒した証のcongratulations!の文字が浮かび、同時にドッと疲れを感じて地面に座り込む。

 

 

「…倒した…か。」

 

「や、やった!やったよシリカ!」

 

「は、はい!」

 

 

そう手を取り合いキャッキャと喜び合う二人は、とても今しがたまで真剣に戦っていた剣士と同一人物には見えない。まぁ14歳の俺が言うのもなんなんだが。

 

 

「ってあ!それよりお兄ちゃん!今の何⁉︎」

 

「そうですよ!ソードスキルの後にまたスキルを撃ってましたよね⁉︎」

 

「…言わなきゃダメか?」

 

「「当然!」」

 

 

仲良いなお前ら…そう姉妹の如くシンクロした動きでグッと俺に顔を近づける二人に、はぁ…と半ば予想していた反応に溜息を吐き、

 

 

「…エクストラスキル。『体術』って奴だ。」

 

「エクストラスキル…?」

 

「簡単に言うと、剣技以外のスキルだ。クエストとかで手に入れる以外無い。」

 

「へぇー…ってえぇ⁉︎」

 

 

大体は今簡略化して言った通りだが、実はこれを手に入れるには同じ第二層のこことは真逆の方角にある‘‘破壊不能オブジェクト一歩手前の岩を素手で割れ’’というなんとも鬼畜なクエストをクリアしなければならない。

俺は敏捷に7、筋力に3振ったスピードタイプの剣士なので、それはそれは手先の感覚が無くなる程岩を殴ったものだ。

そして戦利品である『体術』のスキルは、そんな鬼の様な試練を乗り越えた証であり、戦闘でも軽い初手から止めまで様々な面で役立っている。

そんな俺の体術スキル習得秘話を聞いた二人は、真っ青に…いや実際顔を限りなく青ざめて、

 

 

「「お、お疲れ様です…」」

 

 

とだけ震えながら口にした。そのSAO特有の少々オーバーな感情表現には、

このSAO始まって以来一番の鬼畜クエストを達成したのを労っているのと、理論上は三人の中で一番筋力の低い俺がやり遂げたクソ根性に呆れているの二つ込められている。

 

 

「ま、とりあえず…ん?」

 

「お兄ちゃん?」

 

 

まぁ何はともあれクエストの難関を突破し、爺さんに頼まれた『銀狼の血肉』も無事大量ドロップする事が出来た。そこまでは良かったのだ。

 

 

「なんだこれ…?」

 

「どうかしましたか?」

 

「いや…なんか知らないアイテムがあるんだ。ホラ」

 

 

アイテムストレージは、文字通り入手したアイテムを保管するスペース。その中に俺が今装備している武器と防具&今しがた10もドロップした『銀狼の血肉』が入っている、それは当然だ。

だが問題はその下…そこに見知らぬアイテムの名があったのだ。それを可視モードにして二人にも見せると、

 

 

「…『銀の卵』?」

 

「なんでしょうこれ…何かの食材?」

 

「さぁ…だが食材なら調理に困るな…」

 

 

このSAO世界では、食欲と睡眠欲を除き、あらゆる欲求・が切り離されている。

何時間どんな体勢でいようと疲れは感じるが、動かそうと思えば無理矢理動かせるし、眠気を我慢すれば何日でも寝ずに過ごせる。

食欲も同じで、排泄が無いこの世界で俺は今まで質素な牛乳(みたいな白い飲み物)以外、食事らしい食事は一切とっていない。

それは俺の数少ない友人キリトも同じであり、彼とは‘‘The・バトルマニア’’という阿保染みた自称コンビであったりもする程、とことん食には縁が無いのだが…

 

 

「ま…とりあえず見てみるか。」

 

 

とりあえず食うか売るかは見てから。そう決め、銀の卵と名付けられたそいつを実体化させる。

すると卵はオブジェクトとして出現し、ぼすっと俺の腕に収まる。

 

 

「っわ⁉︎お、大きい…!」

 

「だな…よっこらせっと…!」

 

 

が、予想以上にデカくて重いそいつを、システムとはいえ刺激しない様にゆっくり地面に降ろす。

そして改めてその全貌を見てみると、身長170cmの俺の腰近くまであるデカさに、全体がキラキラと煌めく銀色をした超Bigサイズの卵だった。

 

 

「なぁミリア。流石にこいつは…」

 

「無理!」

 

「だよな」

 

「あはは…」

 

 

その規格外の大きさに、料理をスキルを上げているミリアが全力で首を横に振る程、この卵は高難易度なのは目に見えて解る。

それを理解した上で、これをどうしようか悩んでいた…その時!

 

 

「…⁉︎な、何…⁉︎」

 

「卵が…!」

 

 

突如、何の脈絡も無くいきなり卵に鋭く亀裂が走ったのだ。

その突然過ぎる光景に驚愕する俺達を無視する様に、卵はバキバキと亀裂音を轟かせてヒビを広げていき…カッと眼を開けてられない位の眩い光を放った。

…やがてそれは数秒後に収まり、俺は卵に眼をやると…!

 

 

「な…!」

 

「…クル?」

 

 

先程俺達が倒したシルバーウルフ。その全くのミニチュアver.が、クリクリの瞳で俺を見ているではないか。

しかも、そいつに敵意はこれっぽっちも感じられない、全くの純真無垢な赤ん坊だ。

 

 

「し、シルバーウルフ…よね…?」

 

「あぁ…けどどういう事だ?ドロップした卵からモンスターが生まれるなんて…」

 

「でもあの子…全然警戒してませんよ…?プレイヤーのあたし達がいるのに…」

 

 

シリカの言う通り、目の前に佇む…もとい座り込む赤ちゃんシルバーウルフは、生まれてから数秒が経っているにも関わらず、俺達を敵と認識していない。

それどころか俺の足元に覚束ない足取りで歩いて来て『クル♪』と癒される表情を浮かべている。

その爆弾クラスの可愛さは、俺の両サイドの女子をキュンとさせるには十分過ぎた。

 

 

「か、可愛いぃーー!!」

 

「上目遣いにニコッて…あぁん可愛過ぎぃー!」

 

「ク、クル⁉︎」

 

「コラコラ二人共。ビビッてるからやめてやれ」

 

 

そうして二人を引き剥がすと、若干ビクビクしながらもまた俺の元へやって来て、敵意が無いのを示す様にお座りした。

その真っ直ぐ俺を射抜く黒眼は、ミリアやレイナ達が向ける友好的なものと何ら変わりない。

 

 

「…お前、もしかして一緒に行きたいのか?」

 

「クル!」

 

「…それに後悔は無いな?」

 

「クル!」

 

 

俺の質問に、目の前のミニシルバーウルフはクル!としか言わないが、その態度は明らかに俺の質問に自分の意志で反応しており、それは並のモンスターよりも高度な知能を持っている証に他ならない。

 

 

「…よし、じゃあ付いて来い。俺の名はレイ。お前の…」

 

 

友達だ。そう告げた俺の言葉にももれなくクル!と返したそいつ。

この現象が、後に‘‘アインクラッドで初のモンスターテイミング’’の成功例となった事は言うまでもない…

 

 

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