Seelen wanderung~とある転生者~ 作:xurons
…この‘‘ソードアートオンライン’’という名のデスゲームが開始されてから、もうすぐ半年の時を迎えようとしている。
いつ来るか解らない‘‘本当の死’’を齎す極限状況の中、それでも人々は希望を捨てず、来る日も来る日も自らの命をかけ、アインクラッド攻略に精を出していた。
やがて、誰が言い出したのか、そんな攻略を行うプレイヤー達はいつしか‘‘攻略組み’’と呼ばれる様になり、今まで攻略された下層には降りて来ず、攻略された層で半ば楽しんで戦う中層プレイヤーとは真逆の…半ば伝説の様な存在と化しつつあった。
そんな風に、この浮遊城にも幾らかではあるが、安らぎと安心が現れ始めていたこの頃…2022年4月6日水曜日。
この何でもない数字の欄列日に、まさか私にあんな転機が訪れるなんて…想像もして無かったんだ–––––
「‘‘影閃の剣士’’…ですか?」
ここは第13層の街『グラージュ』。
あたり一面に季節外れの雪景色が広がる美しい街であり、いつ来ても白銀の世界を見る事が出来ることから、それを目当てに訪れる人々は多い。
そんな冬の街に、とあるギルドが街の中心地に居を構えている。そのギルドの名は…
「うむ。彼には私達にとって、攻略組みとして重要な戦力になり得る」
「それが…私達血盟騎士団にとっても新たな利益となると?」
「私が感じた通りならな。」
血盟騎士団。
現在のアインクラッドにおいて、最強の攻略ギルドと称される組織。
かく言う私…レイナや、第一層で知り合った日本人離れした榛色の長髪を靡かせた美少女…アスナ。
つい2ヶ月前そのメンバー入りとなったにも関わらず、今や副団長の座に就いていたりする。
そしてこの銀髪に均一の取れた整った顔、20台後半を思わせるこの男性こそ、血盟騎士団…通称Kobのリーダーである私とアスナをギルドへ引き入れた張本人でもある人物、ヒースクリフ団長だ。
彼はまだ‘‘攻略’’という意志がプレイヤー達に無い頃から皆の先頭に立ち、ここまで攻略を進めて来た英雄。
…が、反して攻略本番以外の会議などには私とアスナの二人に任せっきりで公の場には滅多に姿を現さない謎の男とも呼ばれている。その透明感を感じる雰囲気に惹かれた節は確かだろうけど。
「ですが…彼は招集命令にも応じませんし、何より攻略の意志が無いのでは?」
「うむ…だがレイナ君。君は確か…彼とは知り合いだったね?」
「…はい。リアルでも知り合ってます」
だが、今の議題は団長よりも‘‘謎の男’’と私達Kobがマークしている人物。
現状アインクラッドにおいて、影閃の剣士と呼ばれる彼の名は…レイ。
千はいる攻略組みの中でも特に強い力を持ちながら、フラフラと様々な階層に現れて困っているプレイヤーの力として動き、アイテムなどを取り引きして颯爽と去って行く…というまるで何処ぞのヒーローの様な存在。
そのせいか、いずれはアインクラッドを攻略してしまう影の功労者…眼では追えない程の高速連撃を繰り出し、更にはSAO初のビーストテイマー(モンスターを相棒として連れているプレイヤーの総称)でもある‘‘影閃の剣士’’という名を冠する彼を、団長は是非とも攻略組みの戦力としたいという。
「では、君達には彼と接触し、我々の同志となり得るかえないか…それを判断して欲しい。」
「はぁ…ですが、彼がそう簡単に指令に応じるでしょうか?」
それを疑問に思うアスナの言い分は正しい。
彼は確かに実力はあるし、団長も一目置いているのは私達も知っている。
が、何を付けても約束には遅刻するし、パーティも私やリアルでも妹のミリア、第一層で‘‘ビーター’’と呼ばれる様になったプレイヤー以外とは組もうとしない。
その一匹狼っぷりから、一部の攻略組みからは軽蔑視されている感は否めない。そんな彼が、私達の…ましてや攻略組みの中心メンバーの意見を今更聞くとは考えにくいのだ。
だが、団長その事実を知っているにも関わらず、依然考えの読みにくい微笑を浮かべ、
「心配には及ばない。彼は決して敵では無く、形は違えど我々の同志だ。その事は君らも解るだろう?」
「…はい。」
その滑らかなテノールに、実質攻略組みのリーダーといっても過言ではないアスナも、彼には素直に首を縦に振るしかない。
ホント、つくづく読めない人だ。
「では団長。決行は明日の朝で宜しいですか?」
「あぁ。宜しく頼むよ」
「はい。では…」
「「失礼します。」」
うむ、と団長帰って来たのを機にビシッとアスナ共々一礼し、ギルドリーダー室を後にした。
この血盟騎士団というギルドが発足し、こうして居を構える様になったのも、実はまだ1ヶ月足らずであったりする。が、それでも団長の解放に対する意志の強さは皆に十分伝わっていると思うし、私の隣を歩く第一層攻略会議で出会った彼女…アスナもそれは重々承知しているのだ。
先程、団長に意見したのだって、一刻も早い解放を望む気持ちが強いから故。だから少々危なげになってしまうのだ。
「…アスナ。」
「なに?」
「…私達、ずっと友達だからね。」
だからこそ。私が…彼女を支えてなければ。そうしなければ、彼女はきっと折れてしまうから。
その意味を理解してくれたかは解らないけど、彼はその榛色の瞳をふっと緩め、
「…えぇ。そうね」
短く。でも精一杯の気持ちを込めた言葉を聞いて、私は改めてあの時‘‘現世’’に来れて良かったと心から思えた。
だって…こんな極限状況でも、‘‘友達’’がいてくれるのだから。
そんな当たり前を、改めて幸せとして噛み締めるのだった…
♢♢♢
「…理不尽だ。」
今、俺はその言葉しか思い浮かばない。
何故こんな事になるのか。何が如何してこうなったのか。その糸口が全く掴めない事態に今、俺は追いやられている。
そんな絶望?する俺を第二層の洞窟で出会った––後にアッシュと名付け、今は相棒としている子狼––こいつはクル?とベッドに腰掛けて小首を傾げている。
そんな呑気な相棒にはぁ…と吐いても吐いてもキリが無い溜息をまた吐き、再び溜息の原因を見やる。そこには…
『頼みたい事があります』
初めまして、血盟騎士団副団長のアスナです。
明日の午前9時、第22層の転移門へ来てください。
コレは指令です。貴方に攻略の意志があるならば、
明日、私と剣を交えると信じています。
Asuna
と、随分な命令形のメッセージが昨日の夜に飛んで来たのだ。もちろん送り主の名前に見覚えはある。いや、知らない筈はない。
「何でKobの副団長が俺なんかに…」
「クルル?」
「え?何でそんなに嫌な顔してるのかって?」
「クル。」
「そりゃあ…堅苦しいんだよあいつ。規則とか理念とか」
「ク〜?」
このアインクラッドで、‘‘最強’’を名乗るならば…それは通称Kob、血盟騎士団と10人中10人が答えるだろう。
それはギルドの名が知られ始め、ゲーム開始から半年の時が過ぎた今も増え続けている名声と言えるだろう。
だが…だからといっていきなり決闘(デュエル)しろとかいうか?それは今、俺の目の前で寝転ぶアッシュがコンピューターに制御されているとは思えないに等しくあり得ない事だ。
「はぁ…」
「クル?」
「あぁ。面倒だが、何せ副団長様だからな…」
が、だからといってこのまま無視してほっぽり出すのは頂けない。仮にも副団長からの依頼なのだし、それにこの件には恐らく同じレイナも絡んでいる。だからこそ、断ってとばっちりを喰らうのはごめんだ。
「ったく…どうして俺の周りはこんな奴らばかりなんだろうかね…」
「クル?」
「ハイハイ。解ってますよっ…と!」
そう愚痴を吐きながらも、俺は2層からのドロップ以来使い続けている片手剣『灰燼』を背中に実体化させ、《リトル・ウルフ》という種族ならではのサイズ調整能力使い小さくなったアッシュを肩に乗せ、俺は最近気に入って永住を決めた22層ホームを後にするのだった。
因みに、今パチパチと手早く打った返信内容は…
『約束しろ』
解った。今からそっちに行く。
ただし、俺が勝ったらギルド加入は諦めて貰うぞ。
Rei