Seelen wanderung~とある転生者~   作:xurons

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閃烈の剣

 

 

 

 

第22層の街『コラル』。

見渡す限り雄大な自然風景が広がっており、最前線から僅か3層下というにも関わらず多くのプレイヤーの癒しの場となっている自然風景の宝庫。

そして、そんな自然溢れる田舎町の中心部に…

 

 

「…遅い」

 

「あはは…」

 

 

只今絶賛不機嫌気味なアスナと、苦笑いで隣に立つ私…レイナの女子二人が転移門前で並んで佇んでいた。

もちろん待っているのは‘‘影閃の剣士’’ことレイ君なのだが、どういう訳か約束の午前9時に時刻が近づいても現れる気配が無いのだ。

私達が調べた––というよりミリアに聞いたのだが––情報によると、彼は今正にこの第22層をプレイヤーホームとしているらしく、情報源のミリアや、シリカという彼に続きビーストテイマーとなった少女も通い詰めているとの事である。

だからこそ、それを聞いたアスナはこの転移門前で落ち合う約束をしたのだが…やはり少々彼にはストレート過ぎたのだろうか?

 

 

(まぁ…確かにいきなり‘‘決闘して負けたららギルドへ加入して貰う’’って言われたら、そりゃ警戒するよね…)

 

「何で来ないのよ…!しっかりメッセージまで飛ばしたのに…!」

 

「あ、あはは…」

 

 

が、それは仕方ないのだ。何せ隣の彼女…目にも留まらぬ高速連撃を放つ事から、‘‘閃光’’の名を冠するアスナは、何より化により時間を重要視する。

約束には必ず10分前行動を心がけ、戦闘中も時間を気にした効率重視している事が殆ど。

その徹底的かつ時間厳守の精神はギルド内はもちろん、攻略会議を通してあらゆるプレイヤーにもよく知られており、裏ではその無謀過ぎる程攻略にのめり込むスタイルから‘‘狂戦士’’の二つ名を受け持つ程、それほど時間にはかなり手厳しい。

だからこそ。彼女の持論はおろか、意見すら聞き入れて無いようなレイ君の行動は少々…いやかなり苛立つのは最早当然なのだろう。

そして、再び苛立ちMaxの表情で、

 

 

「はぁ…全く速く来なさいよレ「呼んだか?」ひゃわっ⁉︎」

 

 

彼の名前を呼ぼうとした瞬間、いきなり音も無くその彼がアスナの真後ろに出現した。

その幽霊もびっくりな行動に、アスナは普段からは想像出来ない素っ頓狂な声を上げ、私も声こそ出さ無かったものの、心臓が跳ね上がる位驚きを感じたのは確か。

しかし、当の本人は髪をガシガシ掻きながらまるで平然とした表情をしていて、その少々整い過ぎな線の細い顔立ちには寝起きの後すら見られる。

 

 

「れ、レイ君⁉︎」

 

「悪い。ここに来る間にコイツの食い物探しててさ。でも時間は守ったろ?」

 

「クル!」

 

 

そう彼が言うコイツこと彼の右肩に乗っかる灰色の毛を靡かせた子供の狼…アッシュは、《リトル・ウルフ》という珍しいカテゴリの狼モンスターであり、鋭い爪をや牙を使った攻撃寄りの戦闘向き性能・ステータスを持つ彼の自慢の相棒。

しかも名前とは裏腹にもう立派な大人(システムなので歳を取らない)にも関わらず、今はレイ君の右肩に乗れている程小さい。更に鳴き声はクルと高めの声でしか鳴かない為、少々子供っぽい印象も受ける憎めない存在。

そんな何かの肉を貪るアッシュを乗せた彼もまた、同じ様に読めないキャラクターではあるけれど。本当、『飼い主に似る』とはよく言ったものだだと今しみじみ思った。

…が。

 

 

「レイ君…」

 

「逃げた方が…良いよ…?」

 

「は?……は⁉︎」

 

 

それは怒り(と羞恥)を強烈に含んだアスナにはそれ以前に時間を守らなかったレイ君が気に入らないみたいで…

 

 

「…レイ君。」

 

「は、はい…?」

 

「…覚悟は出来てるかしら?」

 

「…は、はい…ん?」

 

 

索敵スキルを持って無い私にもはっきりと見えるドス黒いオーラを漂わせたアスナが、今にも抜剣しそうな体勢で愛棒の細剣『アンフォルス』に左手をかけ、右手は右手で何かの操作––不可視の為推測だけど––をしていて、アスナが顰めっ面のまま目配せをレイ君に送ったかと思うと、彼は彼で斜め下辺りの位置を見て何か操作をし始めた。あれは…

 

 

(決闘の申請…だよね?全く、アスナったら気が早いんだから…)

 

 

決闘(デュエル)。それはこのSAO世界において、プレイヤー同士の対決を意味する用語。

PvPとも称されるこのシステムは、モンスターを倒すのとは違うプレイヤー同士の剣のやり取りが最大の売りであり、パターンは三つ存在する。

一つ目は、HPを一割減らすか急所にダメージを与えるかで決着する『初撃モード』。一番手っ取り早く、大きな危険も無く戦える一番ポピュラーな方法として人気がある。

二つ目は、HPを半分以上減らす事で決着の『半減損モード』。初撃に比べ、かなり真剣に剣のやり取りをする玄人向けのシステムであり、今アスナが申請したのもこのモードだろう。

三つ目は、文字通りHPを片方がゼロにするまで戦う『全損モード』。このSAOが、元より平和なRPGだったらあり得たが…それをタブーとする現在は最早禁止事項であり、一部を除きプレイヤー達の暗黙の了解となっている。

それを思考しているのか、レイ君は僅かに動きを止めたが…やがて潔く○に触れ、丁度10mの距離まで後退する。

そして二人の間には60秒のカウントダウンの数字が点滅し始め、カッ…カッ…と不気味にも思える静けさの中どんどんカウントされていく。すると、

 

 

「あ!いたいた!レイナー!」

 

「え?あ!ミリア!」

 

 

突然聞き覚えのある甲高い声が左後ろから聞こえ、反射的に振り返ると、そこには暗色寄り服装の兄とは対象的な明るい青色のレザーコートに身を包んだ女性…ミリアがいた。と、彼女の後ろからパタパタとツインテールを揺らしながら走って来た幼さの残る少女と、その隣を飛ぶふわふわの水色の体毛をした龍もいる。

 

 

「ひっさしぶりー!元気にしてた⁉︎」

 

「うん。ミリアこそ相変わらずだね。」

 

「えへへ〜そうでしょ?あ、紹介するね。この前知り合ったシリカだよ!」

 

「は、初めましてシリカって言います!」

 

 

相変わらずテンションアゲアゲなミリアはさておき、まんま歳下の彼女はシリカというらしく、隣の龍はピナといい《フェザーリドラ》と呼ばれるレアモンスターであり、彼女の相棒。

そんな彼女はアッシュをテイムする事になるクエストを通してレイ君と出会い、以来度ある毎に彼とミリアの自宅にお邪魔している仲らしい。更に、アッシュとピナは主人のレイ君とシリカの様に先輩後輩の間柄であるようで、現にいつの間に彼の肩から離れたらしいアッシュが、同じくシリカの隣から離れたピナと『クル?』『キュル!』とモンスター語で仲睦まじく会話している。

 

 

「宜しくね、シリカちゃん。私はレイナ。アスナとは、同じKob副団長なの。」

 

「ふ、副団長…」

 

 

で、私も礼儀と名乗ったはものの…やっぱり‘‘副団長’’という肩書きは言葉には言い表せられない威圧感というものがあるのかもしれない。

事実、私やアスナ、ミリアやレイ君の四人は攻略組みの中でも抜きん出た強さがあるのは紛れもない。その決定的な溝は彼女に重圧を感じさせるには充分だろう。

 

 

「あ、けど堅苦しくなくて全然良いよ。それより…今は二人を見届けましょう?」

 

「あ、は、はい…」

 

「そうそう!ここはアスナとお兄ちゃんを応援しよっ!ね?」

 

「…はい!」

 

 

が、今言った様に堅苦しいのは苦手だ。

それに、もうすぐアスナとレイ君…二つの閃光がぶつかるのだから、細かい事を気にする必要は無い。

だから…私達に今出来る事は…

 

 

(精一杯…戦い抜いて、二人共!)

 

 

只…応援する事。

只それだけしか、私には出来ないんだから…

 

 

 

 

 

 

♢♢♢

 

 

 

 

 

 

カッ…カッ…と、只…時が過ぎる。

お互いがお互いに愛剣を抜剣し、私は剣尖を彼へ向け構え、彼は私に剣尖を向け構える。

その姿はゲームの中とはいえ、昔教育の一環として見たフェンシングのモノと酷似している。最も、今私達持っているものはあんなチンケなモノじゃないけれど。

 

 

「……」

 

「……」

 

 

私と彼…お互い10mの距離を取り、その間に表示されたカウントが、予想不可な決闘へと誘って行く。

辺りの音という音が遠ざかり、視界には彼以外の姿は無くなる。

恐らく、今彼も似た様なものだろう。集中し…全身の気を研ぎ澄ましている筈。

その証拠に、彼の特徴的な紅い瞳が僅かにだが、真剣味を帯び、私を見据えている。無機質な…戦士の眼と化している。

 

 

「…手加減しないわ」

 

「…俺もだ」

 

 

やがて、永遠にも思えた60の時はついに5秒前となり……4……3……2……1……!

 

 

「…はぁっ!」

 

「……」

 

 

DUEL!と文字が表記した瞬間、私はその瞬間に飛び出していた。力強く勇ましい声を上げて、愛剣を真っ直ぐ彼の顔へ突き出し…

 

 

「…遅い…」

 

(っ…⁉︎)

 

 

ギィン!という鈍い音と共に剣が弾かれたかと思うと、彼の姿一瞬の内に視界から消え、いつの間に背後から斬りかかろうとしていた。その高速移動に何とか対応し鍔迫り合いに持ち込み、再び数歩距離を取るまでの間…僅か5秒前後。

そして再び持ち前のスピードを生かして突きを仕掛けるが…

 

「はぁっ!」

 

「……」

 

「(感情が読めな…)「はっ!」っあ⁉︎」

 

 

何物も写していない様な無機質極まりない紅眼に気を取られ、鍔迫り合いの末右腕に返り討ちを喰らい、ジリッと遂にHPが1割程減損する。

しかし追撃は喰らうものかとバク転して下がったお陰か、そのまま追加ダメージを受ける事は無かった。…が。

 

 

「はぁ…はぁ…」

 

「……」

 

 

たったの数秒の斬り合いにも関わらず、既に私と彼の消耗度は歴然としていた。HPは私が1割程削られ、彼は全体の1割に届くか怪しいレベル。

これがもし、彼が筋力寄りのステータスだったなら…もしかしたら既にイエロー迄追い詰められ、勝敗は決していたかもしれない。

それほどまでに彼の剣技には隙が無く、頭・腕・膝・脇腹とあらゆる点を狙っても直ぐさま躱すか弾かれ、有効打が与えられ無い。何より…

 

 

(感情が読めない…今までこんなに人の眼を気にしたりはしなかったのに…何で?)

 

 

つい、意識無く彼の眼を見てしまうのだ。

そのせいで今も隙を創られ、一割とはいえダメージを負わされた。…血をそのまま写した様な、真っ赤な真紅色の瞳は、只…私だけを見据えている。只『戦え』と、そう告げている気がする。

 

 

「…どうした。もう終わりか?」

 

「っ…はぁっ!」

 

 

一撃、二撃、三撃。剣と剣が衝突し合い、火花を散らしてゆく。この衝突も、れっきとしたダメージ判定がある。

正確には、私と彼がそれぞれの隙を突き、衣服を傷つけた場合にだ。

その判定のお陰で、これと言ってかダメージが入らなくてもジリジリと…僅かだが私より高い彼のHPを減らせている。斬っては防ぎ、斬っては防ぎの繰り返しで、いよいよ勝利条件である残りHP6割間近まで両者後僅かとなった瞬間、

 

 

「チッ!」

 

「くっ…!」

 

 

ギンッと剣を打ち鳴らし、お互い開始時同様距離を取る。もう、お互いの剣技は見切れた。だから次に出すなら今以上のモノじゃないと届かない。

ソードスキルならば…と一瞬思ったが、ソードスキルはあくまで‘‘強力なスキル’’であり、万能じゃない。発動時の初手を潰されたら中断するし、どんな技か知っていれば先読みして回避する事も可能な諸刃の剣。

でも、だからこそ…

 

 

「…次が最後だな」

 

「えぇ…そのつもりよ」

 

「…なら…解るな?」

 

「…えぇ。」

 

 

ソードスキルで…私達が今持てる力全てを込め放つ。

それが…私が剣士として出した答えであり、アスナの決断。それは今、剣を構えた彼も同じ…だからこそ!

 

 

「はぁぁぁっ!」

 

「うぉぉぉっ!」

 

 

お互いにソードスキルの光を煌めかせ、私は細剣重突技《ブラッドランス》、彼は片手剣突進技《ソニックリープ》がそれぞれ衝突した…

 

 

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