Seelen wanderung~とある転生者~ 作:xurons
「そろそろ…来るか…?」
俺が送り主…ユウキを自宅で待ってから数十分の時が経った。今も一心不乱に上げていたお陰か、最近900代に到達した《索敵》スキルを自宅含む全面20mまでの距離を視覚・聴覚をフルに発動して探知しているが…依然プレイヤーの反応は無い。
俺レベルの《索敵》を看破するなら、同じく900代…もしくは完全習得(コンプリート)した《隠蔽》を使わない限り気付かれないのな不可能。
それはつまり、もしいきなり襲撃して来ても対応出来る確率は高いという裏付けも取れているに等しい。まぁそんな大反れた事をするのはレッドギルド––プレイヤーを殺す事を目的とした犯罪者プレイヤー(以下:オレンジ)の集団––以外にはそうそういるものじゃないが…万が一の可能性を否定する材料が現状には無いのも事実。
何せ、そもそもこの世界自体があり得ない‘‘器’’を持って動き続ける、無限に砂が流れ落ちる砂時計の様な存在であるのだ。通常ならあり得ない事・行為があっても何ら不思議は無い。
(…ったく、つくづく心臓に悪い世界だなここは…)
「クー?」
「ん?あぁ。けどまぁ…悪くもないさ。」
「クー…」
ホント、この世界を創り出した茅場 晶彦はつくづく悪趣味の持ち主だ。1万人ものゲーマーやその他諸々の人物らを閉じ込め、自らの世界で奮闘する様をきっと今も何処かで観賞している。その神にでもなった気でいる行動は常人ならば当然許す事は出来ないだろう。だが…
『茅場は…何故こんな世界を創ったんだろうな…?』
『…解らない』
それを‘‘常識’’として受け止められ無かったのが俺…レイと、‘‘黒の剣士’’––全身黒一色の装備の為––の異名を持ち、同時に全プレイヤーの闇を引き受ける薄汚れた‘‘ビーター’’としての一面も持つ少年…キリトだった。
そして前記の会話は、第15層攻略会議で久しく顔を合わせた結果、この世界を創り出した茅場 晶彦を疑問に思った俺の言葉が始まりだ。
お互いに人付き合いが苦手なタチ故か、キリトとは気が合うし割とスムーズに話せるからついつい聞いてしまったのだろうと記憶している。
『…そうか。なぁキリト』
『ん?』
『お前は…向こうに心残りは無いか?』
『……』
そして質問を変え、こうも聞いた。
俺はもう前世を含めれば今年で30年の時を生きているが…見た目は精神年齢の半分…15歳の瞳が紅いタダのガキに過ぎない。
その事は理解しているつもりだし、変えようの無い事実なんだととうの昔に受け入れた。
だから天才だなんだ周りから言われようとも、その全てが自分を己のモノとしようとする薄汚い怨念に聴こえ…正直怖かったし嫌だった。
しかし、キリトは…桐ヶ谷家の面々は違っていた。今まで出会った他人とは明らかに違う‘‘優しさ’’を感じたし、ただ純粋に信頼しているという事実を…人の優しさを感じたから。
もちろん直ぐに受け入れる事は出来なかった。俺は‘‘人’’という存在自体に疑惑を感じていたし、美弥も俺程ではないが人間を内心良くは思っていなかったからだ。…が、それも含め、彼らから色々と教わったのも事実であり、俺達もまだまだと思い知った要因でもある。
だからこそ俺は…この時キリトが…初めて出来た友が放った言葉を忘れる事は無いだろう。
『…無いと言ったら嘘になるけど、今はまだ…帰りたいとは思えないな…なんというか、実感が無いんだ。』
『…そうか』
帰りたい。誰だって、一度はこの死と隣り合わせの世界に対してそう願った筈だ。
が、その祈りはこの電子世界では余りに無意味で…途轍もなく無価値なモノになってしまう。人情など何の役にも立たない…嫌でも実感した事実だ。
だが、それでも人々は夢を捨てずに解放を目指してKobを始め、死を覚悟した命がけの攻略を依然続けている。そのペースは、普通なら1週間で1つの所を3つ行くというハイペースなモノ。
そのお陰か、今の最前線は27層…僅か3日で二つも突破しており、この調子でいけば後1年…いや2年でこのゲームを極められると攻略組み達は意気込んでいる。
もちろん、それはキリトの様に嫌われ者や俺の様に自由人も含まれていて、形は違えど皆この世界から脱出する覚悟を決めているのは確か。
『レイは…この世界から帰りたいか?』
そして、こうキリトから質問が返って来た時には、思わず得意なポーカーフェイスを崩して…ニヤリと笑ったってしまった。何故?そんなもの…
『…いや、俺は茅場をこの手で殺すまで、このゲームから退場する気は無い。…俺の命一つで成せるなら軽いもんだ』
『…そうか』
これは現実。夢などではない、正真正銘真実の物語だ。この世界へやって来た瞬間から、俺は迷いなどとうに消し去った。いや、消え去ったというべきか。
ならば…奴をこの手で消す事こそが、俺がこの世界へやって来た最初にして最大の目的。それを成してこそ、俺は新たな‘‘俺’’となれる。善悪など綺麗事の論で片を付けられはしない、白と黒の…光と闇が交錯した‘‘魂’’に。
その歪み正された俺の感情を、キリトが組み取れたかは定かではないが、少なくとも論を唱える気は無い様だった。その後奴とは会っていないが、今もちゃんと生きているだろうか…
「まぁ心配ばかりしてても…か。…で、あんたは何だ?」
「っ!」
さて、現在に話を戻そう。
今、俺が視線を向ける出入り口にはプレイヤー一人の反応がある。一つは大体2mの扉の前で色々と先程から動いている。多分どうしたら中に入れるかを見ているのだろうが…システムにより中には声も聞こえなければ届かせる事も不可能。
「…入れよ。あんただろ?俺に用があるのは」
「あはは…バレちゃってたか…」
そうして入って来たのは、背丈の低い一人の幼さを残した少女。歳は…12歳程だろうか?限りなく黒に近い日本人とは思えない紫の長髪を靡かせ、大体150㎝弱のまだまだ幼さが残る白い肌の体を暗めの紫色のレザー系統の装備に身を包み、背中には片手剣と思われる鞘を一つ吊っている。
「警戒して悪かったな。コレはもう癖になってるからなさ」
「コレ?コレってなに?」
「…いや、なんでもない」
…そして少し抜けているらしい。まぁこの年代なら見た目相応に幼さが残っていても不思議でもないか…
演技か素か…それは見れば分かるだろう。
「で、早速だが…「うわぁ可愛い〜!」っておい?」
無論、後者だ。
《索敵》スキルを持っているかいないかは知らないが惚けた様な反応からして、間違い無く馬鹿の方のな。
こういうタイプは逆に考えが読めない事が多々だが…こいつもその部類らしく、眼をキラキラさせてアッシュに飛びつく無邪気な様は一見ストレートに感情表現しているが、意外と奥底に何かを抱えている様に視える。
「ク、クル⁉︎」
「可っ愛い〜!ねぇねぇ!これ君のペット⁉︎」
「まぁな。それとペットじゃない。そいつにはアッシュってちゃんと名前がある」
「へー…アッシュっていうんだ!可愛いなぁ〜」
が、今はこの馬鹿さ加減に免じて目を瞑ろう。
こういう奴が意外に頼れなくもない事だってあるのだし、何事も可能性が大事だと言うしな。
「まぁその辺にしてくれ。あんたとは約束があるだろ?」
「あっ!そーだった!じゃあ早速行こう!」
「ってお、おい!」
「クル〜!」
こうして奴と交わした約束は、俺がユウキに引っ張られる形で家を開始する事となった。
…それがあんな悪夢を目撃する事になるなど、今は知る由も無く…