Seelen wanderung~とある転生者~ 作:xurons
砂漠。それは膨大な量の砂が成す、枯れ果ての都。
これはかつて、現実世界に居た頃…何かの機会に眼を通した文書にそう記述されていた説明文だ。
読んだ時はふーん程度にしか思わなかったが、その都にこのゲームの中とはいえ行く事になるとは想像していなかった。この…枯れ切った大地に。
「アッシュ、レイナの指示を良く聞け!レイナは離れてサポートを頼む!」
「了解!/グル!」
「さ…行くぞユウキ!」
「うん!」
二人の掛け声を合図に、俺とユウキの前衛組みが『サンドウェイバー』目掛けて左右から走り込んでいく。しかし、
『キシャアアーー!』
「っうわ⁉︎」
「チッ!」
それを許す程奴が甘い筈もなく、蛇特有の奇声をあげ濃い紫色の毒霧を吐き出した。が、ゆらゆらと地を這って来るそれをスピード型剣士の俺とユウキがおいそれと喰らう訳も無い。
ユウキは素早くバックステップで後退、俺は上に飛び上がって毒霧を回避し、
「喰ら…えっ!」
『ギシャアーッ!』
飛び上がった勢いで短剣投技《スローイングダガー》を使い、投剣を奴の急所である目玉目掛けて投げつける。
それは真っ直ぐ奴に向かい、やがて刺さった瞬間奴の悲鳴と共に2段あるHPバーがククッと明らかな減少を見せた。
「(目が弱点か…!)レイナ!」
「うん!…はっ!」
その瞬間を俺はもちろん、遠距離戦慣れしたレイナが見逃す筈などない。
直ぐさま左で弓を構え…バッと一気に3本の矢を再び目元に放つ。
それは動き回りながら放たれたとは思えないほどに正確無比に綺麗な放物線を描いていき、全弾が目元に目玉に突き刺さった。
『ギシャアァッ⁉︎』
「今だ!」
「うん!」
その光景は中々にグロテスクだが今は敢えて無視し、奴が怯んだのを見逃さずにユウキ共々特攻して…
「はぁぁっ!」
「せやぁぁっ!」
俺は片手剣4連撃技…正方形を描く様に切り上げ薙ぎ払う技《ホリゾンタル・スクエア》を。
ユウキは逆三角形を描く様に切り裂く片手剣3連撃技《トライブ・クロス》でザクザクッと赤いエフェクトを刻み付ける…が、
「な…⁉︎」
キラキラと派手に飛び散るエフェクトとは対照に、2段あるHPバーは全く減りを見せない。いや、正確には数ドット減ってはいる。が、それはとても‘‘ダメージ’’と呼べる代物ではない。
『キジャアァー!』
「っ…うわっ⁉︎」
「ユウキ⁉︎」
そんな俺達の動揺を好機と見たか、奴はガラ空きとなっていた尻尾でユウキをピンボールの如くバンッと弾き飛ばした。が、
「つつ…大丈夫!」
「…!」
只では吹っ飛ばず、不意打ちにもしっかり敏捷型らしく素早い反応で剣を構え、攻撃をガードしていたのだ。
と、いっても流石にフルアーマーの騎士の高ダメージカットのソレには遠く及ばないが…この受け身により直撃は免れている。だが…
(俺はまだ平気だが…ユウキは残り7割、レイナとアッシュはいつタゲが向くか解らないリスクがある。あまり余裕面は出来ないな…)
何かと奴の一撃一撃のダメージが大きいのが難点だ。
恐らく今ユウキに喰らわせた一撃も、直撃すれば全損まで持ってイカれていたかも知れない破壊力を持っていた。それは仮にも防御したにも関わらず、全体3割も削られている事実が物語っている。
そしてレイナとアッシュの二人も同様だ。今二人は俺達二人から5mばかり後方にいるが、奴の巨体を持ってすれば攻撃を届かせる事も容易い筈。そこらは流石クォーターポイント層のボスと言ったところか…当然手を抜いて倒せる様な甘ちゃんとは訳が違う。
「(つまり決着は短期じゃなきゃ俺達に勝ち目は…無い!)」
『シャアァー!』
そう思考を凝らす最中も、奴は許さんとばかりに巨体を揺らして突っ込んで来る。それを必死に後退して距離を取るが、蟻と人間に等しく必然的な体格差がそれを許してはくれない。…余裕振るのはもう辞めだ。
「ユウキ!レイナ!5秒だけ、奴を引きつけてくれ!」
「解った!」
「了解!」
俺が叫んで大きく後ろに飛ぶ、と同時にユウキと片手槍に持ち直したレイナが左右から走り込んで行く。もちろん効果的なダメージは入らない事を承知で、だ。
そうして二人が奴を引きつけている間、俺は一気に5mレベルの巨大化状態となったアッシュに筋力パラメータ全開で背中に飛び乗り、
「突っ込めアッシュ!」
「グルオォ!」
『キシャアアー!』
そのまま真正面からサンドウェイバーへ突っ込んで行き、巨大狼が大蛇に体当たりするという映画さながらの見応えのある構図が繰り広げられる。が、今は呑気に視ている余裕などない。直ぐさまアッシュから飛び降り…
「良いぞ二人共!下がれ!」
「うん!」
「頼んだよ!」
「あぁ!」
再び二人の間を通り抜け、アッシュが押さえつけている奴の体を駆け上がっていき、直ぐに奴の頭付近に到着する。そして…
「…!」
『ギシャアァッ⁉︎』
「「⁉︎」」
奴の瞳をギロリと睨みつける。すると一瞬、奴の巨体が停止した…と思った瞬間ドス黒い炎がゴオォッと音を立て燃え上がった。
これこそ数多あるスキルでただ一人、俺だけが持つエクストラスキル…《写輪眼》だ。この名を聞き、色々突っ込みたい読者の気持ちは解る…が、今は後にさせて貰う。
奴のHPバーを一本と半分一気に消し飛ばした事とか、俺のHPバーがきっちり半分になっている事とか。
「今だ!」
「う、うん!」
「うぉぉっ!」
「はぁあっ!」
まず、俺が六芒星を描く様に切り裂く片手剣上位技《アストラム・リベイン》で奴の顔を斬りつけ、続けてレイナがすれ違い様にズンッと一発突く片手槍突進技《レイニアス・ブラスト》で追撃。
この二撃を弱点の眼元に喰らい、奴のHPバーは残り1割弱まで減少。そして…
「はぁぁっ!」
『キジャアァ⁉︎』
硬直が襲う俺とレイナを追い越し、ユウキがズパン!と空気を打ち鳴らし飛び上がる。
「いっ…けぇぇ!」
そうして放たれた片手剣上位突進技《ストーム・マジェンティ》は奴の目玉にグサリと食い込み…奴は、第25層FB《サンドウェイバー》は断末魔を上げながらその身を青いポリゴン片へと変えた。
それは俺達が…攻略組み3人と一匹のたった4の数でしかない俺達が初めてFBを倒した歴史的瞬間だった。 その証拠に、技を撃って奥にスタッと着地したユウキが満面の笑顔を浮かべているのだから。
「ぃーやった!」
「クル〜!」
イェーイ!とハイタッチして勝利の余韻に浸る二人に微笑みつつ、ドッと湧き出して来た疲労に任せどすっと地面に座り込む。
ふと視界左上に眼をやれば、俺は文字通り半分、レイナは無傷、ユウキは前述と変わらず残り7割。アッシュも先程取っ組み合った際に若干削られたのか、俺のHPバーの下に細長く表示されたそれは残り8割。…全くトンデモな20分間だったな…
「はぁ…こりゃ後が大変だな…」
「はは…けど大丈夫だと思うよ?本来ならレイドで挑むパーティなんだし、最前線の手間なんだし。ね?」
「だと、良いけどな…」
確かにレイナの言う通り、ここは仮にも最前線からたった2下に位置し、強力なモンスターが登場するアインクラッドにおけるクォーターポイントの一つ。当然それに見合ったレベル…俺とユウキのレベル52や2つ下のレイナ程あって丁度良いラインなのだ。
もちろんそれが余裕に繋がる理由は無い。例え層の倍数値を持っていても、それが‘‘絶対安全’’ではなく‘‘二度と戻れない死’’に繋がるのがこのゲーム…理不尽極まりないデスゲームの法(ルール)だ。
「(ま、ひとまずはこの達成を喜ぶべきか…)「あーっ!」ん?」
「そういえばレイのアレ!HPすっごい減らしたよね⁉︎」
と、そんな改めてを思い返している最中ズイッと一気に20cm近くまで整ったユウキの端正な顔が寄せられ、
「あー…「そうだよレイ君!」って話遮るなよ」
何か取り繕う暇も無く、続けてレイナのこれまた整った顔も至近距離まで寄せられる。お前ら仮にも男に対してダメージ与え過ぎだろ…と、‘‘男”という性を切実に思ったが、実際こうなる事もある程度は予想していた。
ねぇねぇと言い寄る二人にはぁっと呆れ半分やっぱりなの半分の念を込め、
「…エクストラスキルだ。《写輪眼》っていうな」
「エクストラスキル⁉︎しゅ、出現方法は?」
「解ればとっくに公開してる。ある日突然パッと出た以外は謎なんだよ」
事実だ。エクストラスキル…直訳すると特殊能力と呼ぶそれは、何らかの条件を満たして初めて入手出来る所謂レアスキルであり、全体の本当に数割程度しか解明されていないのが現状。
そして、その中でも特に入手経路が不明とされているのが《ユニークスキル》と呼ばれ、たった10しか存在しない超激レアスキル。
俺の記憶が正しければ、かつてとある事情で拝見したスキル欄には《写輪眼》などというスキルは無かった。つまり、これはユニークスキルの可能性が限り無く高い。
が、同時に公表すれば大半が嫉妬深いネットゲーマーであるプレイヤー達に袋叩きにあう可能性がある。それを俺の言葉から理解したのか、?を浮かべるユウキに対しレイナは神妙な表情だ。
「…ま。いずれ知られる事になるんだ、そう重く考えるな」
しかし考え過ぎはかえって良くない。もし問題が起きたならば、それこそこの眼で必ず視つけてみせる。この覚悟は決して薄っぺらいものではないし、元より覚悟はこの世界に入ったその時より固めている。
「うん…困ったら言ってよ?いつでも力になるから」
「あぁ。ありがとな」
「よーし!じゃあ帰ろう〜!」
「ク〜♪」
俺達の第25層フィールドボス攻略は、こうして‘‘歴代最速攻略’’という快挙と共に終わりを告げ、俺達は無事エクストラスキル《戦闘治癒》を習得する事が出来た。
もちろん《写輪眼》の事が後々に広まった事は言うまでも無いが、
「えへへ〜ゴメンねLA(ラストアタックボーナス)貰っちゃって。」
「気にするな。
ユウキがLAでドロップした藍色の片手直剣『時雨』は純粋に良い剣だと思った。が、それだけじゃない。
「それより、気になってたんだが…」
「ん?なぁに?」
「…お前、どうやってこの世界に来た?」
彼女の…ユウキという‘‘プレイヤーの存在’’が気にかかったのだ。今の戦いを見て、彼女は攻略組みと頸損無い…もしくはそれ以上の実力の持ち主。なのに、今まで表舞台に一切姿を現さ無かった。ユウキという名を聞く事すら無かったのだ。
「…今は…知らない方が良いよ」
しかし、疑問に対して返って来たのは歳下とは思えない苦笑の表情と疑惑を深める発言。そして直ぐ、また眩しいまでの笑顔を見せていたので、それ以上は聞く事は無かった。いや、聞いてはいけない気がした。
(…お前は、一体…)
「レイ君?どうしたの?」
「…いや、なんでもない。」
この時、俺は聞いていれば良かったのかもしれない。そうしてたなら、‘‘真実’’を知れたかもしれない…そう後悔した事を、あの時の俺は知らない。