Seelen wanderung~とある転生者~   作:xurons

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今回から数話はレイナ視点です。


恋する副団長

 

2024年5月15日。

このゲームが始まってから、もう一年と半年過ぎもの長い時が過ぎ、依然行われ続けている‘‘攻略’’も、先日遂に60層台に突入した。依然、未知に対する皆の恐怖心を隠しはきれないのは事実だけど、それでも私達Kobを先頭に、確実に一歩一歩前へ進めていると思う。

そうして攻略に明け暮れる毎日の中、私…玲奈にとってある転機となる出来事が起きる事となるコトになるなど、知るよしも無かった–––

 

 

 

 

 

♦︎♦︎♦︎

 

 

 

 

 

「…インゴット?」

 

そう、たった今放たれた言葉を復唱するKobのW副団長の片割れこと私、レイナ。そんな私は今、久々に取れた休みを利用し、昔ながらのロシアチックな風情が特徴の第48層リンダースへ来ていた。で、その街の中心地に建っている知り合いが運営する鍛冶屋に、もう片割れのアスナ共々来店していた。

で、今は贔屓にさせて貰ってる女主人から、とある魔石––武器等を生成する専用の石––の話を聞かされている真っ最中である。

 

「そ。それが最近55層で見つかったらしいのよ」

 

そんな鍛冶屋の女主人こと、エプロン姿でピンク色の髪とそばかすが印象的な少女…リズベット––愛称はリズ––は、隣に座るアスナ共々第4層の街で知り合って以来、事ある毎に仲良くさせて貰ってるメイス使いの女の子。活発的な性格をしていて、所謂姉御系キャラの彼女は、私とアスナとは旧知の間柄。

で、そんな彼女に何を聞かされていたかというと、第55層にある山岳地帯で、強力な武器を生成出来る魔石…通称インゴットの上位種が見つかったらしいという情報。そこら辺は流石鍛冶屋というべきか、武器関連の情報収集には昔から余念が無い。

 

「ま、まだ確かな情報は入って無いから、挑戦した人も少ないんだろうけどね」

 

「そっか。でもインゴットかぁ…ちょっと憧れるなぁ…」

 

通常、プレイヤーの持つ武器は製作武器(鍛冶屋が生成した武器)とドロップ品(戦闘による景品などで入手した武器)の二種類に分類され、基本ドロップ品はプレイヤーメイドに比べて優秀な物が多い。…が、

 

「…何よ、あたしの剣は不服って言いたいの?」

 

「ち、違うよ⁉︎そういう意味じゃなくて!」

 

「あはは…」

 

この様に、ドロップ品に対して鍛冶屋はあまり良い印象を持って無いのが通例だ。

プレイヤーが創り出す剣より、戦闘で手に入る方が運に頼る分ステータスが高い事が殆どであるから。

しかし、世の中例外というモノもある。事実、私とアスナが今腰と背中にそれぞれ吊っている片手剣と細剣はリズが丹精込めて創り上げた力作。使い心地は勿論、ドロップ品にも決して引けはとっていないと断言出来る。まぁその話はさて置き…

 

「「ジーーッ……」」

 

「な、何?どうしたの二人共?」

 

ジーーッと文字通りアスナを見つめる私とリズ。その理由は実に単純。いや、賢い読者の皆様なら勘付いてる事だと思う。

 

「…アスナ、最近恋してるよね?」

 

「…え?」

 

「そうね。もう発せられるオーラが違うもの。あんた…何かあった?」

 

そう。アスナから感じられる雰囲気が、この僅か2〜3ヶ月で劇的に軟化しているのだ。以前までは何人も油断を許さず、それこそ剣の如き鋭さを持つ少女…だったけど、最近の彼女はそれがやたらフワフワした優しげなモノになっている気がしてならない。

その根源が何かとなれば…女性ならば‘‘誰かに恋をしている’’という可能性に辿り着くのは最早必然じゃないだろうか?それを聞いてアスナはボーッとたっぷり10秒間位放心して…

 

「えぇぇぇぇぇっ⁉︎///」

 

ボンッと頭からこの世界特有の少々オーバーな感情表現による湯気を、同じくらいオーバーな声量の絶叫と共に沸騰させた。

…まぁ実を言えば、私はアスナが誰に恋をしてるのか知っていたりするのだけれど、それを今言えば更に暴走するのは眼に見えているので止めておこう。

 

「だ、だだだっ誰がそんな事⁉︎」

 

「お?やっぱり図星ですかい?」

 

「う…///」

 

で、更にはアスナ自身がこの慌てっぷりなのもある意味一因といえばそう。頬を染めてモジモジしてるのも、耳に普段は付けもしないイヤリングを付けている事も。全く…恋する女とは同性ながら恐ろしい行動力だと彼女を見ているとしみじみ思う。

ま、アスナを恋の話題て弄るのはさておき、第55層のインゴットの件は今日偶々予定の空いていた私、言い出しっぺのリズ。そして…

 

「送信…っと」

 

今手が空いている知り合いで、真っ先に思い浮かんだプレイヤーにメッセージを送り、返信が来るのを待つ為ふぅっと木製の丸椅子に腰掛ける。が、

 

「ねぇ、ホントに良かったの?」

 

直後、リズが同じく丸椅子に座りポツリと言った。疑惑の色を強めて。

 

「ん?何が?」

 

「そのレイって人。信用出来るの?」

 

今メッセージ送ったプレイヤー…レイ君と会った事の無いリズは、少々警戒心を抱いている様だった。

当然といえば当然。幾らリアルの素顔がそのままアバターとなっているこの世界とはいえ、元はMMOという各自がバラバラの場所からネットの世界に集うという‘‘ゲーム’’なのだ。疑いや警戒の心構えもイザという時役にたつかもしれないのだから、あって困る事はない。

現に、私達三人はリアルでは一度も会った事の無い他人そのものだけど、今はこうして仲良く出来ているのだって‘‘情報’’を持っているからこそ。

 

「大丈夫だよ。彼とは付き合い長いし、少し変わってるけど良い人だから」

 

「ふーん…まぁレイナが言うんだから大丈夫か…ごめん」

 

「気にしないで。多分…」

 

「?」

 

また直ぐ疑いたくなると思う…と喉まで出かかった言葉を飲み込む。アスナやシリカちゃんとかなら笑って流してくれそうだけど、彼女にはちょっと…もしかしたらキツイキャラかもしれないから。すると、

 

「あっ、メッセージ来たよ」

 

ポン!という響きのある効果音と共に、メッセージが届いた事を知らせるNew!のマークが出現した。送り主はもちろん《Rei》。

 

「お?何て何て?」

 

「えーっとね…」

 

で、早速New!の文字がついた封筒をタップし、内容を読んでみると…

 

 

『解った』

 

今55層の転移門辺りにいるから、

そこで合流しよう。

アッシュは今日いないから

そのつもりで。

あと、これはいつかのお礼だ。

 

Rei

 

 

…と、書かれていた。

更には回復アイテムである《ハイポーション》がお礼という名目で2個添付されていて、このたった3分弱でどんな早打ちをしたのかなぁと、つい想像してしまう。

 

「何て?」

 

「大丈夫だって。アスナはどうする?」

 

「う〜ん…行きたいのは山々なんだけど…この後会議が入っちゃってて」

 

まぁひとまずは彼の合意に安心し、さりげなくアスナに問う。実を言えば、今彼女がこうしてのんびりしている事自体がかなりレアな瞬間だったりする。普段から副団長として皆を引っ張り、規模を増してきたKobを纏める総監督の様な位置であるから。

参加の賛否は発言の通りだけど。

 

「そっか…じゃ、研磨頼める?」

 

「よしきた!アスナもやっとく?」

 

「そうね、お願い」

 

さて、イザフィールドに行くとなれば、相応に準備を整えなければいけないのは必定。

そして‘‘研磨’’とは、その工程の中でも重要事項ベスト5に入るプレイヤーにとって大切な作業であり、具体的には『剣を磨き、耐久値をフル回復させる』というもの。

この世界に存在するありとあらゆる物・武器は耐久値(破損する迄の数値)があり、今私達が身に纏う服にだって勿論設定されている。その為、プレイヤー達は攻略へ行く前に鍛冶屋へ立ち寄り‘‘研磨’’をして貰うのが常識なのだ。

と、その間もリズは私の片手剣《エトワール・クランテ》とアスナの細剣《ランベントライト》をそれぞれ砥石に当て磨きあげていく。彼女曰く研磨の作業自体特に操作性は無く、剣を回転する砥石に当て続ければ良いらしいけど、黙々と作業を行う辺り、お座なりに使う気にはなれないみたい。と、

 

「よし!出来た!」

 

「ありがとリズ!」

 

「毎度あり!」

 

まず急ぎのアスナに細剣を手渡し、代わりに代金1000kを受け取るリズ。研磨は武器の質によって値段が変わり、中でも千kは上位に位置する。が、そこら辺の金策は予めギルドでキチンと振り分けてあるので問題は無い。

 

「じゃ、あまたねレイナ、リズ!」

 

「うん!アスナも頑張ってね!」

 

「えぇ!」

 

そうしてアスナは新品の如くピッカピカに磨き上げられた愛剣を腰の鞘に収め、‘‘閃光’’の名に恥じない速度で店を後にした。で、

 

「じゃ、私のもお願い」

 

「ほいきた!」

 

アスナの後ろ姿を見届け、私も鞘から愛剣を引き抜きリズに手渡す。実を言えば、まだあと3つ武器が私の手元にはあるのだけど、最近は前衛をやる事が多かったので片手剣以外は耐久値に余裕がある。余程の事が無い限り、武器は一発で消し飛んだりはしないし、そもそも私の戦法は《クイックチェンジ》により武器を使い回しするスタイルなので消費が少ないという利点がある。そうして待つ事5分弱…

 

「出来た!他の武器はどうする?やっとく?」

 

「いや、今は良いよ。また今度にする」

 

煌めきを取り戻した愛剣を受け取り、質問を返しながら念の為、腰に短剣も装備しておく。一撃の威力なら最下級の武器である短剣だけど、その分隙が小さく連撃に繋げやすいから。

 

「そっか。じゃ、行きますか!」

 

「うん!」

 

リズが運良く客がいないのを見計らい、休店の立て札をドアに吊るしたのを待って、私達は転移門へ歩き始めたのだった。…まさかあんな珍事になるとも知らずに。

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