Seelen wanderung~とある転生者~ 作:xurons
「転移《グランザム》!」
転移門の淡い青色の光に包まれ、第55層の名を叫ぶ。
すると瞬間、転移時特有の浮遊感が身体を駆け抜け、やがて終わった…と同時に眼を開ける。そこは先程のリンダースの街とは一転、無骨な黒鉄が全体に張り巡らされた別名鉄の街と称される第55層の街《グランザム》に私達はいた。
因みに、ここは1月前我らが血盟騎士団の団長ヒースクリフが新たな拠点地と定めた街でもあり、現に転移門から見た視界右手には赤を基調に白の十字架が描かれたKobの旗が風に靡いている。
が、今はギルドに立ち寄る用は無い。
「よしっと。で、レイって奴はどこにいるの?」
「確か転移門の辺りにって…あ!」
早速《索敵》効果の一つである遠近補正をかけ辺りを見渡すと、その人物は直ぐに見つかった。
肩甲骨付近まで伸ばした黒の長髪に、背中に赤白の団扇の模様が描かれた灰色のコートを着用した少々背伸びした感がある小年の姿が。
「ん?おぉお前らか」
すると彼も私達の気配を感じ取ったらしく、仰け反りながらまだ幼さが残る逆さ見るレイ君。
「お待たせ!待った?」
「まぁ…10分位か?」
いつ見ても奇怪さを感じさせる紅眼を細め、私達に向き直った。本人曰く、彼の両眼に浮かんだ模様は、私達が産まれたての位の時代に白熱していた作品に登場した‘‘能力’’の表れらしく、茅場 晶彦はこの作品のファンか何かだったのかもしれないと彼は言っていた。
で、更に言えば発現以来、黒目を中心に浮かんだ3つの勾玉模様はそのまま残っているようで、本人は結構気に入ってるとの事。
「…で、あんたが噂の鍛冶屋か?」
「えぇそうよ。リズベット、リズで良いわ」
「そうか。俺はレイ」
そしてリズに眼をやり、友好的な雰囲気を漂わせている事に速くも気づいたのだろう。握手を交わす彼の眼は警戒心を緩めている様な気がした。気のせいかもしれないけど。
「…行くぞ」
と、思ってる間にレイ君はクルリと反転してスタスタと西の山へ歩き始めたので、
「あ、ちょ、ちょっと!」
「待ってよレイ君!」
彼に続き、数歩分後ろから私とリズも続く。何か話すでもなく、只…黙々と西の山へ歩いて行く彼の後ろ姿は、やはり実年齢には明確に不釣り合いに備わった肝の据わり様がある様に見える気がする。それは転生してから長年一緒にいる私には分かるし、何より彼自身が歴史上の偉人達の様な気質、覇気を持ち合わせている。つまり…
「(貴方は…やっぱり‘‘あの人’’の?)「レイナ!」っ何?」
「どうしたのよ?さっきからアイツの事ジッと見て?」
「…!な、なんでもない!」
…いや、決めつけるのはまだ早い。
確かに私と彼、それからミリアは‘‘転生’’という奇怪な事象を経験した。それは享楽的とも言えるし、ある種の大馬鹿とも言えるだろう。
もしあの時、シュルトが話を持ちかけて来なかったのなら…私は今までと変わりなく有宮 玲奈として生を全うしていただろう。
それを打ち崩した元凶が目の前の彼であり、生まれて初めて自分から抱いた芽の様に小さな‘‘興味’’だった。やがてそれは光を浴びて大樹に成長していく様に、私の中でどんどん大きくなっていった。それはこの死の世界に来ても変わらない。だから…
(この気持ちの答えを見つけるまで…貴方の背中を追い続けてみせるよ。例え、貴方が‘‘あの人’’の生まれ変わりであったとしても…)
「ちょっと?本当に聞いてる?」
「…うん。行こう、リズ」
へ?と抜けた声を漏らすリズの手を握り、少し速度を上げて彼を追いかけたのだった。その一方〜
(…お前には視えるのか?俺の…自身でも解らぬ闇が…)
彼もまた…一時の思考に耽っていた事など、私は知る由も無かった。
♦︎♦︎♦︎
「…ねぇ、レイナ」
「何?リズ…」
雪山に着いてから大体30分弱。私達一行は主街区《グランザム》から5キロ程西、季節外れの吹雪が激しく舞い散る山岳地帯にいた。
あまり知られてはいないが、中々にレベルが高い強力なモンスターが出現し、経験値がワンランク迷宮区より上に設定されているのが特徴である。事実私達のパーティの経験値振りを【均等】にしている為か、先程から攻め入っている内に私とリズはレベルが一つ上がった。
が、それだけならまだ良い。問題は…
「…何でアイツは一人で20体も相手にしてるのかしら…?」
何故、数m先の彼がまるで原始人の様に毛深い猿型Mob…マウンテッドエイプ×20に囲まれ、それで尚圧倒しているのかという事だ。
理由を挙げるとすれば、『動きが単調で読み易い』『彼の実力が圧倒的』の二つに絞られ、超高確率で後者が当てはまる以外は思いつかない。
具体的に言えば、恐らく《写輪眼》によるスキルなんだろうけど…だからって一瞬で猿達と立ち位置を入れ替えたり、いきなり黒い炎を発生させるのは流石にチート極まりないと思う。
「…多分、何かのスキル…じゃないかな?」
だから、こう口にする他無い。リズは彼がユニークスキル使いである事を知らないし、彼女を信頼してない訳ではないけど、言いふらす可能性も無きにしもあらずなのもマズイので黙っておいた。私を含む数人が知る発現条件含め、色々とチートが過ぎる技だから…
「どうした?」
「ひゃわっ⁉︎」
こうして隣に瞬時に転移して来る事含め、彼は色々他のプレイヤーとは違う。そう嫌でも実感してしまうのが彼と共にしていると常に感じる。
「…俺を幽霊か何かと勘違いしてないか?」
「ふぇっ⁉︎え、えーと、これは…その…」
今の様にテンパってしどろもどろになってしまうのだって、彼の前だけだ。本当にそう…であって欲しい。
そんな私を、血のように鈍い紅の眼を細め見ると、
「….まぁ良い。で、ドラゴンってのは何処にいるんだ?」
「あ、えーと…確かこの辺に…」
そこまで今まで黙っていたリズが言った時だった。
「…ん?」
突然、10m程前方の上空にバスケットボール程の大きさの透明なオブジェクトが出現したのだ。ゴツゴツと岩の様なそれはどんどん連結して規模を増していき…やがてソレは私達の十倍はある巨大な龍の姿となった。
『グオォォー‼︎』
「でっ出たー⁉︎」
で、ガンガンに殺気を感じる龍の咆哮に、戦闘経験が少ないリズは悲鳴を上げ、レイ君は背中の鞘から無言で愛剣を引き放ち自然体で構え、私も右手に片手剣、左手に投擲用のクナイを握りドラゴンを見上げる。
「リズ!後ろの岩に隠れて!戦闘は私とレイ君でやる!」
「わ、解った!」
「レイ君。序盤はブレスと踏みつけ攻撃だけだから、君はドラゴンを引きつけて。私は弱点を探るから」
そして説明の間、リズが運よく近くにあった岩…元い巨大な水晶に身を隠した事を横目で確認する。
普段なら戦う前に言うのが通例だが、今はKobの小隊を引き連れている時とは違い3人だけ。この人数なら隙あれば撤退も可能。もちろん相応のリスクも伴うが、それを瞬時に理解したらしく彼は無言で頷き、
『グルル…』
「…お前に恨みは無いが…許せ」
「(速い!)」
目にも留まらぬ助走からドラゴンめがけ斜め右…首の付け根辺りに雪を撒き散らしながら跳び、すれ違い様にズパンッ!と効果音を響かせながら切り裂く。が、
「チッ、手答えが無いか」
『グルル…ガァッ!』
「おっと!」
激しく飛び散った赤いエフェクトとは裏腹に、ドラゴンの1段のみのHPバーはあまり目に見えた減りは無い。が、それは想定内。
何せ彼は敏捷値に7、筋力に3振ったスピード型のプレイヤーであり、一発の威力というよりは手数の多さで攻めるタイプだからだ。今のは攻撃箇所が弱点では無かったのも含め、単にダメージが入らなかっただけの事。
でも、それは裏返せば比較的隙が少ないブレス攻撃をアッサリ避けられる反射速度の現れでもある。
「褒美だ。受け取れ!」
『ガァァッ!』
そうしてブレスをジャンプで回避したかと思えば、そのままドラゴンの体に飛び移りキュキューン!と空を裂く音を立てて顔→首→胸→膝→足と降下しながら次々に赤いエフェクトを刻んでいき、その度HPがガクンガクンと減少する。しかも…
「(見たところ胸が弱点みたいね…)レイ君!」
「おう!」
胸に攻撃を入れた時が特に減少が大きかった。つまり、弱点である胸に強力な攻撃を叩き込めば早期決着が出来るという事を表している。
「はっ!」
『グッ⁉︎グォォ…!』
ならばやる事は一つ。間隔6m強位置にある胸を集中攻撃する他ない。それを確かめる為私は左手のクナイ、レイ君は短剣を投擲したが、全弾とも見事命中しドラゴンは呻き声を漏らす。
しかも私のは只のクナイじゃない。アレは刺さっている限り、対象に《貫通ダメージ》を与える特殊品であり、現に視界右側のドラゴンの顔付近に浮かぶ一段のHPバーは、ジワジワとだが減少し始め、イエローゾーンに突入する。
「離れろ!」
「うん!」
そして彼の合図で、私と彼は一緒に素早く後ろに飛んだ…次の瞬間、
「…《天照》!」
『グルオォッ⁉︎』
凄まじい黒炎がドラゴンを包み込んだ。HPバーはその威力に比例して一瞬で消し飛び、ドラゴンの巨大は膨大な青いポリゴン片となって爆散した。それは戦闘開始から、体感で僅か5分前後といった時の事。
もちろんこの結果はレイ君のHP半分を犠牲にして放つ対Mob専用技《天照》の威力あってのモノであり、そうでなければ苦戦は必至であろう相手だった。
「…終わったか。さっきのクナイは流石だな」
「そう?殆どレイ君が倒した様なものじゃない」
まぁ実際はチョチョイとたったの数分で倒してしまった訳だけども。
「…すまん、つい戦闘狂の血が騒いでだな…」
「はぁ…まぁ今に始まった話じゃないけど、今度は私にやらせてよね?」
「ハイハイ…ん?どうした?」
「あ…あんた達半端無さ過ぎ…」
お陰かリズは本日何度目とも知れない驚きの表情を浮かべていたりして。まぁ気持ちは解らなくもないけど、やっぱりこうしたシビアな戦闘経験が少ないのが一番の要因なのかな?と、思わず苦笑を浮かべていた時だった。
「…なぁ、お前はインゴットとやらをドロップしたか?」
戦闘が終わったにも関わらず、感情が読みにくいが浮かない顔つきで私に問いかけて来たのだ。他人からは不可視となっていて解らないが、恐らくはアイテムストレージに当てた人差し指を何度も上へ下へ往復させながら。
が、質問の内容に私は小首を傾げる。
「え?でもLAはレイ君じゃ…?」
LAとは、その名のまま『最後に攻撃した者に与えられるボーナス』の事であり、《写輪眼》による反則級の攻撃で仕留めたとはいえ、彼が最後に攻撃をした事に変わりは無い…筈なのだが。
「それがな…ホレ」
すると私が疑問を持った事を察したらしく、不可視となっていたメニュー欄を可視状態にして私達に提示させ、私とリズに見せて来た。
よくRPG系ゲームで見かけるきっちりとした長方形のカテゴリには、皮系の素材や食材など特に変哲が見受けられない物、彼が今装備しているであろうアイテム名などが所狭しに横文字表示されている。
他人のアイテム欄をこうして覗くのは初めてなので、同じ仕様なのに少し新鮮味を覚えたが、それ以外見た所彼が疑問を抱きそうな物は無い。
「…特に変な所は無いみたいだけど?」
が、そう思った事は直ぐ掻き消される事になる。
「いや、LAが見当たらないんだよ」
「…!」
LAが無い。このたった5文字の言葉で、ようやく彼が言わんとしている事が解った気がする。『LAを取った筈の自分のアイテムストレージに何故それが無いのか』と。それはつまり、
「…あのドラゴンがボスって訳じゃないって事?」
「えぇ⁉︎あ、あんなデッカいのを倒したのに⁉︎」
「それなら辻褄が合う。という訳だ、今回は戻るぞ」
そう淡々と述べると、彼はまるで目的を達成したかの様にスタスタ歩いて行った。その後ろ姿を見たリズが、
「ねぇレイナ。あんた、あの人の何処が良いのよ?」
何の脈絡も無しにそう問いかけて来たのだ。心辺りは無くも無いが…
「な、何の事?」
認めるのが嫌なのが本音なので平静を装うに留めた。リズはふーん?と意味ありげな視線を送って来たが、それ以上追求はして来なかった。
それも納得出来る。だって…
–––レイ君を異性として見ているなんて。
(…ううん、そんな筈ない)
心の奥深く…確かに蠢く感情を、私はこの時僅かに感じた。が、それがどういったものかは解らなかった。
…否、解っていない‘‘フリ’をしたんだ。
「おーいレイナー?帰るわよー?」
「あ、はーい!」
ともあれ、こうして私達3人の雪山捜索はあっさりと終わりを告げた。一カ月後、この雪山でとある二人組が遭難する羽目になるのだが…それはまたのお話。